バグパイプが鳴り響く、聖地ハムデン・パーク。後半33分、交代を告げるボードに背番号「22」が灯ったとき、塩貝健人は自分に言い聞かせた。
「楽しもう。特別な日だし、デビュー戦をしっかり楽しんで結果を残そう、点を取ろうという思いで入りました」
3月26日に21歳になったばかりのストライカーにとって、今回の英国遠征は単なるステップアップの場ではない。6月のW杯メンバーに選ばれるための「ファーストチャンスがラストチャンス」。生き残りをかけた最終試験だ。そのピッチへ足を踏み入れた瞬間、21歳の若武者が放った殺気は、停滞していた空気を一変させた。
交代枠11人という特殊なレギュレーションが敷かれ、ともすれば実力を測りきれぬまま終わるリスクをはらんだテストマッチである。だが、初招集の塩貝からすれば、生き残るためにどんな状況であれ明確なインパクトを残さなければいけなかった。
その時はピッチに立ってわずか6分後に訪れる。値千金の決勝点をもたらしたのは、序列を根底から破壊しようとする、一人の男の執念が生み出したアシストだった。
84分、左サイドへ展開されると、三笘薫からインナーラップした鈴木淳之介へとボールが送られる。その動きに乗じてニアのポジションへスピードアップ。「マークの外し方は完璧だったんじゃないかなと思っている」と自画自賛する動きで相手の前に入ると、「ボールが前に来たら触るだけだったけど、それが後ろに来たので
チームメイトに頭をポンと叩かれる雰囲気はまだまだ初々しいが、結果にこだわり、とにかくゴールを目指したからこそ生まれたアシストだった。
もちろん、塩貝の評価を高めたのはアシストだけではない。自慢の走力を生かして素早い切り替えからのプレスバックを見せれば、ポジションを飛び出してフィジカル力を生かしたボール奪取を披露。大きく感情を見せるタイプではないが、その背中からは闘志溢れるプレーが伝わってきた。
ここで何も成果を得られなければ、W杯のメンバー入りが遠のく可能性が高かったことは間違いない。そういった状況下で、短い時間ではあるが、十分なインパクトを残したと言っていいだろう。自身の出来については「僕の中で得点が一番の評価なので、それで言うと良くはなかった
「イレギュラーな形というか、普段やらないようなツートップという形で、自分の守備のタスクも結構多かったんですけど、あそこでしっかり戻って守備ができるのは僕の特徴。そこでしっかり貢献できることを見せれたし、いい形で奪って前につなげたシーンもあった。もちろん初招集なので与えられるチャンスが短いのは当たり前。その中でも結果を残せるのが僕。それを期待して僕のことを呼んでくれたと思うので、今日はその役割を果たせたと思います」
■まだ通過点に過ぎない
NECナイメヘンで磨いたゴール前の嗅覚、今冬移籍したヴォルフスブルクで身につけた高強度への順応。その欧州経験が代表でも通用することをしっかり証明してみせた。
ただ、まだ序列を完全に覆したわけではない。最前線の上田綺世は当確として、その後ろに控える小川航基、後藤啓介、町野修斗といった選手たちを超えていくためには、さらなるインパクトを残すことがイングランド戦で必要になる。序列の一番下からどこまで上がっていくか。今回の12分間はまだまだ通過点に過ぎない。
「絶対に次、チャンスは来ると思う。イングランド戦は今日の試合よりはるかにクオリティのある選手たちがいっぱいいる。そういうところで結果を残せればいい」
今回の遠征が始まる前、塩貝は「このチャンスを逃すわけにはいかない。最後、いいところをかっさらって、ワールドカップに滑り込んで、僕が点を取ってワールドカップ史上一番いい成績を残せるように貢献できたらなと思います
その言葉を実現させるために――。最後方からの大逆転。そのシナリオの完結へ向け、ストライカーはイングランド戦を見据えて再び牙を研ぐ。

