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「10回に1回」から、その先へ――森保ジャパンは勝率をどこまで高められたのか

「10回戦えば1回勝てるかどうか」。2022年のカタール・ワールドカップ後、森保一監督が掲げたテーマは、強豪国に勝つ「確率」を高めることだった。組織力を磨き、ボールを握る時間を増やし、全員が攻守で主導権を握るサッカーへ。その積み上げは確かな成果となって表れた一方、ラウンド16のブラジル戦では世界との差も改めて浮き彫りになった。

すべては目標達成への確率論

強豪国相手に勝利する可能性を高める──。“最高の景色”を目指した森保ジャパンがテーマに掲げて継続してきた取り組みだ。

果たして今大会、その可能性はどこまで高めることができていたのか。

“戦術カタール”とも称される堅守からのカウンターでドイツ、スペインを撃破した2022年大会。ボール保持率はドイツ戦が26.2%、スペイン戦に至っては17.7%というW杯史上最も低い数字ながら勝利を手にした。

耐えて勝つ──。まさに日本人の美徳と言えるかもしれない。しかし、森保一監督や選手たちが口にしていたように、これでは「10回に1回勝てるかどうか」。カタール大会を経て、第2次森保ジャパンはその可能性を高めていくことが“新しい景色”、そして“最高の景色”への分水嶺になると見定めた。

すべては目標達成への確率論だ。優勝を視野に入れたときに、10%の勝率を7試合、8試合と掛け算していくよりも、40%、50%を乗算していくほうが頂点に近いのは言うまでもない。そのためにはポゼッション率を数%でも高め、チーム一丸となったサッカーで守備から相手を上回り、攻守に主導権を握ることが必要になる。そう考えた森保監督は全員で戦う“日本人らしさ”を発揮しながら、勝ち筋を見つけて優勝へのルートを切り拓こうとしていった。

アジア最終予選では5トップとも言える攻撃的な布陣を試し、ボランチが最終ラインに落ちて変則的な4バックでのビルドアップを用いるなど、新しい形を模索しながら進化。予選突破後のアメリカ遠征こそ苦戦を強いられたが、昨年10月には国際親善試合ながら史上初めてブラジルから勝利を収め、今年3月の欧州遠征ではスコットランド、イングランドにアウェイで連勝。誰もサボらず、全員のハードワークをベースに“いい守備からいい攻撃”を仕掛けるスタイルで、3年半の積み上げを自信に変えて本大会に臨むことになった。

森保監督が感じていた"3〜4勝できる"手応え

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時計の針を少し戻そう。昨年末、森保監督に話を聞く機会を得た。長期的な視野で考えたときに、チームはどの段階にあるのかをどうしても聞きたかった。カタール大会からレベルアップを図ってきて、現時点で強豪国に10回戦ったとして、何回勝てる感触があるのか──。抽象的な質問だと分かっていながら、その答えこそが積み上げの成果と手応えだと考えて質問を投げてみた。

そこで森保監督から「逆に何回勝てると思いますか?」と逆質問を受け、「3〜4回、もう少し積み上げれば5回に近づけるのではないかと考えています」と答えると、指揮官から「同じです」と回答があった。さらにブラッシュアップしていくことで、半年後のワールドカップで前回を上回る内容と結果を出せるという手応えを確実に感じていたのだろう。その後、3月の欧州遠征では相手の良さを出させることなく、堅守からの鋭い攻撃を見せて連勝。世界に挑む戦い方は明確に定まっていった。

迎えた本大会、前回大会のような秘策はなく、3年半の成果をピッチで表現しようと試みる。グループステージでは、“サムライスプリントバック”と銘打たれた前線からの激しいプレスバックを見せ、組織力と団結力で各国に対抗。毎試合メンバーを入れ替えながら誰が出ても遜色ないサッカーを披露していく。ピッチの一人ひとりが絶対にサボらず、チームのためにやるべきことをしっかりとやる──。ベンチメンバーも自分の出場機会にかかわらずチームをサポートする。献身性と一体感の醸成は日本人ならではの特長。ピッチ内外で組織力を前面に押し出してグループFを2位で通過した。

ブラジル戦で突きつけられた現実

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いきなりブラジルと激突することになった決勝トーナメント1回戦は、森保ジャパンの“光と影”が同時に出てしまう結果となる。前半は相手にボールを持たせながら中央を締めてブラジルから自由を奪い、佐野海舟の一撃でリードを奪う。まさに守備で主導権を握る理想どおりの展開に持ち込んだ。

しかし、後半はブラジルがプライドを捨ててロングボールとクロス攻撃を徹底。これで森保ジャパンは前線からのプレスも“サムライスプリントバック”も機能させることができずに押し込まれる状態が続き、前回大会で「10回に1回」と言っていたよりも難しい状況に追い込まれてしまう。全くと言っていいほど状況を挽回できず、終了間際の失点でショッキングな逆転負けを喫してしまった。

オランダ戦で37.4%、チュニジア戦では55.1%、スウェーデン戦で44.7%を記録していたポゼッション率は30.3%まで落ち、後半はゴール前に張りつかされたブラジル戦。この試合のxG(ゴール期待値)はブラジルの2.12に対して0.26。理想的な前半から一転、試合を通じた数値で圧倒的な差が出た。延長戦からPK戦までを視野に入れて時間を進めていた日本に対して、苦しみながらも最後に一気に圧を掛けて決勝ゴールをもぎとったブラジル。勝負どころの見極めが運命を分けた試合でもあった。

ブラジル戦後、選手たちは口を揃えたように「日常のレベルを高くして、“個”を伸ばしていかなければ」というフレーズを漏らした。誰が出てもレベルの変わらないサッカーを目指し、ラージグループを拡充したのも第2次森保ジャパンを象徴するもの。これだけ離脱者が出ても何とか良さを発揮して世界と戦うことができたのは、森保監督の慧眼と選手たちの成長があったからだろう。

しかし、カタール大会後、時間をかけて少しずつ強豪国相手の勝率を高めてきた森保ジャパンが最後の最後でパワーダウンしてしまった感は否めない。 “たられば”ではあるが、やはり南野拓実、三笘薫、そして久保建英と2列目の大量離脱が響いたのは間違いない。トップレベルの“日常”を知る彼らのうち一人でもピッチに立つことができれば、試合展開に応じて前田大然や伊東純也を途中から起用することで流れを変えることができた。押し込まれた状態から巻き返し、勝利する可能性を再び高めることができたのではないかとも思ってしまう。

組織力の次に必要なもの

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選手層は確実に分厚くなったが、かねてから5大リーグでのプレーを求めてきた中で森保監督のイメージしていたところには至っていない。ワールドカップが日常の延長線上になるような環境に身を置くことで、何事にも臆さずに戦うことができる──。そんなイメージがあったからこそ、指揮官は選手たちに“日常”を求め続けてきたのではないかと感じる結果でもあった。たとえブラジル相手に圧力を受けても勇気を持ってボールをつなぎ、ボールを受け、しっかりと受けて前進する。カーボヴェルデ、ノルウェーのように、今大会で躍進したチームを見ていても、前進していく力をしっかりと出しているのは明白だ。

日本代表がワールドカップでベースにする部分を確立することはできた。目線を揃えて全員で一丸となってハードワークしていく組織力は、これから選手が入れ替わっても日本代表が戦い方の軸として大切にしていくべきものだ。ここからは世界を相手に勝ち方を知るフェーズに入っていくことになる。個での打開、試合運びのうまさ、そして勝負の機微を見極める力を手にして、強豪国に勝利する確率を少しずつ高めていくために。

文=青山知雄

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