Greece Underdog GFXGetty/Goal

弱者の奇跡:EURO史上最大の番狂わせ。C・ロナウドの夢が打ち砕かれるまで/ギリシャ編

【特別企画:弱者の奇跡】

第1回: レスター・シティ編
第2回: ギリシャ編
第3回: モンペリエ編

第4回: ウィガン編
第5回: ナポリ編
第6回: アバディーン編

「最初の目標は試合に勝つことだけだった。1勝しただけでも成功として数えられていただろうね」

そう語ったのは、2004年当時チームを率いていたオットー・レーハーゲル監督だ。

Otto Rehhagel 2014

EURO2004を迎えるまで、ギリシャはあらゆる点でサッカー界の底辺だった。EUROに出場したのは1986年大会のみで、1勝もできずに開催地イタリアを去った。1994年にはワールドカップに初出場したものの、無得点での3連敗、加えて10失点を喫している。その10年後、レーハーゲルのチームがタイトルを獲得することは誰も予想していなかっただろう。『ブックメーカー』でのオッズさえ、80倍に設定されていた。

だが、彼らはEURO2004決勝で開催国ポルトガルを1-0と破り、世界を驚かせた。指揮官のレーハーゲルはトロフィーを持ち上げた後、「ギリシャ人がフットボールの歴史を作った。それはセンセーションだ」と誇り、自分たちが主役となったことを認めている。

「常にサプライズはある。1966年のワールドカップでは、北朝鮮がイタリアを破ったことを覚えているか?今回は我々がその番だったんだ」

ギリシャはEURO予選ではスペインとウクライナに敗れ、2連敗でスタートした。しかし、以降の6試合をすべて勝利で飾り、ポルトガルへの切符を手にする。結果的にスペインを上回り、1位で通過したことで、単なる記念出場にはならないのではないかという見方も強まり始めた。

■「僕らに与えられた武器は…」

Cristiano Ronaldo taking on Russian defenders in Euro 2004Getty

当時のギリシャの強みは、予選8試合で4失点に抑えていたからわかる通り、堅守である。一方で、得点も「8」であり、攻撃力のなさというウィークポイントを強固な守備で隠していた。

CBのトライアノス・デラスとミカリス・カプシスは、空中戦で強く、フィジカルも強靭だった。ラインを低くし、ひたすらボックス内へのクロスを弾き返し、ゴールへとボールが向かえば、アントニオス・ニコポリディスが対応する。

中盤では主将のテオ・ザゴラキスを筆頭に3人の守備的MFたちが、4バックの盾になる。そして、最前線にはアンゲロス・ハリステアスを置いた。彼はターゲットマンでもありながら、ストライカーとしても機能する、強靭なフィジカルを備えていた。

当時、左サイドバックを努めていたタキス・フィサス(※現在はギリシャ代表のスポーツディレクター)は、2004年のチームについて『ESPN』でこのように振り返った。

「我々は与えられた武器はひとつだけだった。ジダンやシモン、クリスティアーノ・ロナウドのような選手はないなかった。僕らにあるのはハードワーク、犠牲心、決断力、家族のようなスピリットだけだった。今のアトレティコ・マドリーのようにね」

■強豪国を1点差で下していく

Thierry Henry France Greece Euro 2004

EURO2004の開幕戦、ギリシャの相手は若かりしC・ロナウドを擁するポルトガルだった。

ロナウドにゴールを許したが、2-1と逃げ切り、ポルトに詰めかけた5万人の観衆を黙らせる。そして、当初目標としていた1勝をつかみ取ったのだった。

2戦目はスペインと引き分け、第3節ではロシアに敗北。しかし、最終節でポルトガルがスペインを破ったため、ギリシャは決勝トーナメントへの出場権を手にしたのだった。

ラウンド8ではフランスと対戦。当時の相手はジネディーヌ・ジダン、ティエリ・アンリ、パトリック・ヴィエラ、ロベール・ピレスを擁していた。だが、後半にハリステアスが唯一のゴールを決め、チェコとの準決勝へと臨むこととなる。

当時のチェコはタレントの宝庫。パヴェル・ネドヴェドやミラン・バロシュ、ヤン・コラーなどが前線に君臨し、3大会ぶり2度目の決勝進出を目論んでいた。

しかし延長戦の末、デラスがコーナーキックに合わせ、値千金のゴールでギリシャが決勝進出を果たすことになる。

■ポルトガルとの再戦

Greece winning Euro 2004Getty

決勝で実現したカードは、開幕戦と同じ「ポルトガルvsギリシャ」。

ギリシャ国内は沸き立ち、アテネのオモニア広場には10万人以上が大挙として押し寄せていた。だが、会場はリスボンのエスタディオ・ダ・ルス。開催国の優勝を祝おうという人々が6万3000人集まっており、ギリシャにとって圧倒的アウェーであることに変わりはなかった。当然、ポルトガルが開幕戦と同じ過ちを犯すことはないだろうとみられていた。

試合内容もポルトガルの一方的なペースで進む。シュート17本、コーナーキック10本を記録したが、ポルトガルはネットを揺らせず。逆に、ギリシャにとって唯一のコーナーキックが与えられた57分、ハリステアスが頭でチャンスを生かしたのだった。

ギリシャはノックアウトラウンドに入ってからの3試合は、いずれも1-0。デザインやコンセプトが似ているヘディングでのゴールで上へと駒を進めていった。

努力、忍耐、規律、そして決定力が、テクニックやタレントを上回ることがあることを、レーハーゲルは世界に示したのだった。

サッカー界の底辺とみられていたギリシャが欧州の頂点に立ち、スポットライトを一身に浴びた。ギリシャ史上最大の成功であり、サッカー界でも最高の番狂わせのひとつとして刻まれ続けている。

【特別企画:弱者の奇跡】

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