Courtois Belgium injuries GFXGetty/ GOAL

地獄から始まったクルトワの1年。レアル・マドリーのスターがベルギー代表守護神の座を奪われるかもしれない理由

ベルギー代表は、26日のウェンブリーでのイングランド代表との試合に、最高の選手2名を起用することができなかった。キャプテンのケヴィン・デ・ブライネが出られなかったのは単にコンディションの問題だったが、ティボー・クルトワが出られなかったのは、はるかに複雑な理由による。公式には、レアル・マドリー所属のGKは右ひざの半月板損傷の手術を受けたばかりという「ケガ」での不出場となっており、事実上、EURO2024に出場する望みはないのだが、それですべてが説明できるわけではない。

地球で最も優秀なGKであることは間違いないクルトワだが、昨年の夏以降、ピッチに立つことができず、地獄のシーズンを耐え続けている。ケガのことで彼を責めることはできないが、いくつか自業自得の問題もある。

いつも率直な31歳のクルトワは、自分はサッカー界で最高の選手のひとりにも関わらずそれに見合う扱いを受けていないと信じているかのように、どんなことにも恐れず歯向かってきた。それは、もう何年も、個人の賞を受賞できないことに対して不満を言い続けていることでも明らかだ。しかし、クルトワの直近の言葉による攻撃や、大っぴらに喧嘩をやりすぎたことは彼自身に大きな損害を与える可能性がある。代表選手としてのキャリアが早々と終わってしまう危機に直面しているのだ。

  • 冷遇に腹を立てる

    本人は認めないかもしれないが、クルトワのトラブルが始まったのは2023年3月だと思われる。当時ベルギー代表監督に就任したばかりのテデスコ監督は、クルトワをキャプテンにせず、マンチェスター・Cのスター、デ・ブライネにキャプテンマークを渡したのだ。GKクルトワとローマのFWロメル・ルカクは共同の副キャプテンに指名された。

    一見大したことではないように思えた、この6月の監督の決定で、レアル・マドリーのGKは追い詰められた。EURO2024の予選のオーストリア戦にデ・ブライネはケガで出場できず、クルトワは、代表100試合出場を達成して以来初めてのホームでの試合で、キャプテンになれると期待していた。ところがその役割はルカクに与えられ、クルトワがキャプテンとなるのは次のエストニア戦だと言われたのだった。

    クルトワは激怒したようで、オーストリア戦の翌日の練習に参加しなかった。記者会見でテデスコ監督はこう言った。「我々は一緒に、オーストリア戦ではロメルをキャプテンに、明日のエストニア戦ではティボーをキャプテンにすると決めた。全員がそれでOKだった。ところが試合後、彼(クルトワ)が突然私と話をしたいと言いだし、自分はがっかりして気分が悪いから家に帰ると言ったのだ」

    クルトワは反論した。テデスコ監督が意見の相違を公にしたことに「ひどくがっかり」したと言い、癇癪を起こしたのではない、キャンプ地を離れたのは膝のケガのせいだと主張した。さらに「監督の評価は現実と一致しない」とも言った。だがテデスコ監督は、さらに反論し、「ケガのせいだと言えたらよかったが、私には嘘はつけなかった」と言ったのだった。

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  • Courtois-Tedesco-BelgiumGetty

    「私の中で何かが弾けた」

    2023年の終盤、この大っぴらにやりすぎた喧嘩を振り返ったクルトワは、キャプテンになれなかったことで「爆発した」ことを告白し、テデスコ監督が記者会見であけすけに話したことを「背任行為」だと批判した。

    「僕の離脱が本当にキャプテンになれなかったせいだったら、3月に(テデスコ監督がデ・ブライネをキャプテンに選んだ段階で)代表を辞めていただろう」と、クルトワは言った。「ケヴィンがキャプテンで何の問題もない。だけど、その後、ロメル(ルカク)と私は、どちらが上ということはなく、副キャプテンに選ばれた」

    「火曜に監督から、オーストリア戦のキャプテンはロメルで、私はエストニア戦でキャプテンだと言われた時、僕の中で何かが弾けた。僕にはもはやそれを抑えることができなかった。連盟からも監督からも評価されていないと感じ、僕の中で何かが爆発したのだ。監督は解決策を探そうとしなかった。ただ、報道陣にすべてを話しただけだった。監督は僕にチームを離れないようにとプレッシャーをかけ、脅したかったのだ」

    「まったくありえないことだ。あれはプライベートな会話だったのだから。選手と監督の間の信頼関係を傷つけるものだ。テデスコ監督は僕への攻撃を始めようとした。前日に監督が話したことがそのひとつだ。やればいい、と僕は思った。そんなことは何の役にも立たないし、背任行為だ。ところがさらに、翌日、このことが報道陣へリークされた。監督からだとわかっている」

  • 始まる前に終わったシーズン

    クルトワがレアル・マドリーでの試合に集中し、代表でのイライラは和らぐだろうという希望は長く続かなかった。8月、ロス・ブランコスのラ・リーガ開幕戦となるビルバオでのアスレティック・ビルバオ戦のわずか2日前、クルトワは練習中に前十字靭帯(ACL)損傷という重傷を負って涙ながらにピッチを去り、数日後左ひざの手術を受けることとなった。

    通常全治9カ月というケガをしたのが新シーズン開幕前夜だったため、クルトワはシーズン中に復帰できるかどうも危うく、翌年のEURO2024への参加も疑問視された。

  • Thibaut Courtois BelgiumGetty

    「サッカーに永遠に続くものはない」

    12月のリハビリ中に語ったことによると、クルトワは、時間的には不可能ではないとは言え、事実上EURO2024のことは無理だと考えていた。しかし、テデスコ監督との関係については解決することが可能で、いずれは国際舞台に戻れるだろうと言っていた。

    「ケガだから、いずれにしろEUROは無理だ」と、彼は言った。「まずは100%の状態に戻さなければならない。具体的な日付のことは考えない方がいいだろう。運が良ければ3月には試合に出られるようになるかもしれない。だけど、大きな大会のためには100%の準備ができていなければならない」

    「代表チームに対しては、早くはっきりと知らせておくほうがいいと思う。他にもいいゴールキーパーはいるから、80%の状態ではゴールに立たないほうがいいだろう。6月にはサポーターとして応援するよ。ヨーロッパのタイトルが獲れるように」

    クルトワはこうも言った。「扉は完全に閉まっている。だけど、今シーズンはレアル・マドリーの試合に集中しなければならないと思う。私の完全復活の計画にEUROは含まれていない。仕方ない。結局のところ、サッカーに永遠に続くものはない。私にとって、大人2人が事態を解決するのに何の問題もない。だが、あんな背任行為があった後で、妥協点を見出だすのは難しい」

  • Courtois Real MadridGetty

    偽りの希望

    本人も悲観的であったにも関わらず、3月初旬までに事態は好転し、クルトワの復帰が見えるようになってきた。レアル・マドリーのカルロ・アンチェロッティ監督は、GKクルトワの復帰を4月中旬と見ていた。

    3月中旬までにクルトワは練習に復帰し、EURO2024までに「80%」しか戻らないのではダメだといった本人の予想がますます現実味を帯びてきた。実のところ、100%の状態でドイツに行くことすら可能だったかもしれない。

    クルトワと、同じくACLを負傷したエデル・ミリトンの回復具合について、アンチェロッティ監督は次のように報道陣に語った。「2人は今週、チーム練習を開始した。ブレイクを利用してユースチームとの練習試合を行う予定だ。(3月)31日の試合(アスレティック・ビルバオ戦)には2人とも出られる状態になると思う。リスクを冒す気はない。2人はとてもいい状態だ」

  • 復帰不可能?

    復帰間近のクルトワだが、代表チームのテデスコ監督との間に新たな確執が起こってしまった。クルトワの代表選手としてのキャリアが終わってしまうかもしれない、扇動的なものだった。

    テデスコ監督は、3月のインターナショナル・ブレイクに先立って、GKクルトワがベルギー代表に戻ってくるにはどういう態度を取るべきかを当然ながら尋ねられ、報道陣にこう言ったのだ。「クルトワがチームにまたフィットしてくれればうれしい。だけど、彼の気持ちは明確にわかっている。我々はここにいる選手たちに集中する」

    「彼の発言に基づいて準備する。この夏、彼をEUROに連れていくべく、あらゆることをしようとした。だが、最後に聞いた話では、彼はEUROに行く準備はできていないと感じているということだった。彼の態度は明確で正直だった」

    これに対するクルトワの反応は、最高レベルでの経験豊富な31歳の選手であることを考慮すると、良く言って「怒って」いた。レアル・マドリーのGKは、『X』でテデスコ監督の発言を引用した報道機関のツイートに、「ピノキオ」の絵文字を3つつけて返信したのだ。つまり、監督は嘘つきだというのである。この解釈をクルトワが支持していることは明らかで、このツイートは現時点でもまだ削除されていない。

  • Thibaut Courtois injured Real MadridGetty

    わずかな希望も完全に消えた

    EURO2024のことでいうなら、このごく最近の爆発は最終的にほとんど重要ではなかった。テデスコ監督へのツイートの5日後、クルトワはまたしても練習中に膝を負傷した。今回は2015年に損傷したのと同じ、右足の半月板損傷である。

    クルトワは、ここ数カ月で2度目だが、レアル・マドリーのバルデベバスを涙ながらに去った。翌週、シーズン2度目の膝の手術を受け、5月上旬まで試合に出られなくなってしまった。彼自身がコンディションについて設定した条件を鑑みれば、EURO2024への出場というわずかにあった望みは今度こそほとんど完全に消え去った――テデスコ監督との対立は関係なく。

  • Domenico Tedesco contract BelgiumGetty

    代表キャリアは終わったのか

    傷ついたクルトワにとって最悪なことに、ケガをする数日前、クルトワの明らかなベルギーのサッカー連盟への軽蔑が激化した。テデスコ監督が、就任以来10試合負けなし、EURO2024の予選を楽々と突破したという手腕を評価され、契約を2年延長することになったのだ。

    つまりテデスコ監督は、予選を突破すれば2026年ワールドカップまで赤い悪魔を率いることになったわけだが、この契約延長は、クルトワの代表としてのキャリアに終わりを告げることになる可能性がある。

    クルトワは5月に32歳になる。テデスコ監督が退任する頃には34歳だ(その間、監督が別の新しい契約を交わしたり解雇されたりしないかぎり)。現状では、副キャプテンと監督との確執が即座に解決する可能性はほとんどない。地球で最高のゴールキーパーのひとりであるクルトワは、大きな悲しみに打ちひしがれ、早すぎる代表としてのキャリアの終わりを見つめている。