Luis Diaz Harry Kane Bayern Munich GFXGetty/GOAL

ケインの完璧なパートナー?バイエルンが巨額の移籍金を支払うルイス・ディアスはぴったりのウイングか

バイエルン・ミュンヘンは、チーム全体のポテンシャルを引き上げるため、長年、新たな左ウイングの獲得を模索してきた。セルジュ・ニャブリとキングスレイ・コマンという電光石火のワイドのコンピがチャンピオンズリーグ制覇に貢献してから5年。両選手は今でもクラブに残っているが、かつてほど攻撃の武器としての役割を果たせていない。

バイエルン・ミュンヘンが昨夏クリスタル・パレスのマイケル・オリーセのために5,100万ポンド(約101億円)を投じると、懐疑的な声も上がったが、オリーセはアリアンツ・アレーナでのデビューシーズンに素晴らしいパフォーマンスを披露し、批判を黙らせた。だが、2024-25シーズンを通じて明らかになったのは、バイエルン・ミュンヘンにはさらに攻撃的な選手が必要だということだった。

理想を言えば、ニコ・ウィリアムズを獲得したかったことだろう。彼がA・ビルバオと新たに10年間の契約を結んだことに、バルセロナ同様バイエルンも大いに失望し、おそらく少しショックを受けたことだろう。バイエルンはフロリアン・ヴィルツも獲得しようとしていたが、レヴァークーゼンが提示した1億ユーロ(約172億円)を超える要求額を支払えず、また、ブラッドリー・バルコラの獲得は、パリ・サンジェルマンに売却する意思がなかったため、かなわなかった。

その結果、彼らはルイス・ディアスに目を向け、リヴァプールから約6,500万ポンド(約128億円)で獲得しようとしている。この取引についても疑問を呈する人々はいるが、そういう人々はこの取引の最も重要な側面を見逃している――ディアスの獲得で、チームのエース・ストライカー、ハリー・ケインの能力を最大限に引き出すことができるようになるのだ。

  • FBL-ENG-PR-LIVERPOOL-TOTTENHAMAFP

    ニアミス

    ディアスとケインを組ませる計画を立てたチームはバイエルンが初めてではない。2022年の冬の移籍市場において、当時トッテナムの監督だったアントニオ・コンテとフットボール・ディレクターだったファビオ・パラティチは、コロンビア代表ディアスを、最終的にゴールデンブーツ賞を受賞したソン・フンミンを含む理想的な3トップのひとりと見ていたトッテナムは5,000万ポンド(約99億円)で契約を交わすところだったが、ディアスを夏のターゲットとしてマークしていたリヴァプールが急遽動き、獲得してしまったのだった。

    「彼については、ほぼすべてが気に入っている」と、移籍完了後に当時リヴァプールの監督だったユルゲン・クロップは言った。「ずっと前から彼を見てきた。特別な才能のある選手だ。様々なスキルを持っているし、性格もいい。今回獲得できたことは本当に嬉しい。彼のこれまでのキャリアは特別なものだ。それが気に入っている。今や彼は私たちの仲間だ。ここへ迎えるのを楽しみにしている」。

    北部ロンドンのチームはディアスの代わりにユヴェントスからデヤン・クルゼフスキを獲得して満足していたようだったが、ディアスとケインがともに絶頂期に一緒にプレーすることになっていたら、それぞれフィジカル的に下り坂に入っている今よりも興味深いものになっていたことだろう。

  • 広告
  • FBL-ENG-PR-LIVERPOOL-TOTTENHAMAFP

    大活躍

    ディアスはリヴァプールの監督たちに高く評価されており、到着直後からスタメンに起用されることとなる。マンチェスター・シティとの優勝争いが佳境に入っていたプレミアリーグの残り16試合中12試合に先発し、レアル・マドリーに敗れたチャンピオンズリーグ決勝のスタメンにも名を連ねた。

    「私が見てきた新加入選手の中で最も素晴らしいデビュー戦のひとつだった」と、ディアスのデビュー戦についてクロップは語っている。「昨夜はサディオ(マネ)が不在で、モー(サラー)が過酷な大会から戻ってきたばかりだったから、彼を起用する良い機会だった。ルイスは存在感を示した」。

    それこそ、ディアスがリヴァプールの加入を決断する際に躊躇した要因のひとつだった。彼はクラブのレジェンドやプレミアリーグのベテラン選手たちとスタメンの座を争わなければならなかったのである。サラーの右サイドのポジションは不動で、マネとディオゴ・ジョタは2021-22シーズンを通じて左ウイングとセンターフォワードのポジションを交代で務めていた。実際、ディアスはマネが中央で自由にプレーできる余地を提供したとして広く評価された。ディアスは運動量が多く、進んで2人の選手の汚れ役を効果的にこなしていた。

  • FC Bayern München v SC Freiburg - DFB Cup: QuarterfinalGetty Images Sport

    マネを脅かす

    しかし、ディアスがアンフィールドに来た瞬間から、マネの立場は危うくなっていった。ディアスの加入から6カ月後、セネガル代表のスターは新たな挑戦を求めてリヴァプールでのキャリアに終止符を打ち、バイエルン・ミュンヘンが3,500万ポンド(約69億円)の移籍金を支払って獲得した。

    マネが急激に衰えている兆候は特に見られず、とりわけバロンドール投票で2位に入った年だったにもかかわらず、南ドイツでのキャリアは短く、悪夢のようなものとなった。ブンデスリーガでは得点とアシストともに2桁に届かず(25試合で7得点5アシスト)、2022-23シーズンの後半戦で最も目立ったことと言えば、チャンピオンズリーグでマンチェスター・シティに負けた後、チームメイトのレロイ・サネと衝突してトラブルを起こしたことだった。

    「あんなことはよくあることだ」と、マネはその件について語っている。「起きてしまったことは仕方がない。ささいなことで、解決済みだ。問題を放っておかず解決することが良いこともある。ただ、方法がよくなかったかもしれない。いずれにせよ、もう過去のことだ」。

    しかし、マネはバイエルンで自身の立場を回復することができなかった。「彼は多くの励ましが必要な選手だ」と、当時クラブのCEOだったオリバー・カーンは、マネの退団直前に述べている。「彼はここでのポジション争いに慣れることができなかった。リヴァプールではそうではなかった」。2023年8月1日、マネはサウジアラビアのアル・ナスルに移籍し、そのことを悲しむ者はバイエルンにはいなかった。

  • FC Bayern München v 1. FSV Mainz 05 - BundesligaGetty Images Sport

    進化するケインのプレースタイル

    マネを先例として、ディアスがバイエルンに加入したらパフォーマンスが低下するのではないかと懸念するならば、過度に心配する必要のないことをケインが証明している。このイングランド代表キャプテンは、セネガル代表FWがチームを去ったわずか2週間後にアリアンツ・アレーナにやってきた。プレミアリーグからドイツにやって来たベテランFWたちの評判が最も低かった時期に、トッテナムから8,500万ポンド(約168億円)で移籍したにもかかわらず、成功を収めているのだ。

    ケインはバイエルンでの96試合で85得点26アシストを記録し、1試合平均1点以上の貢献度を誇っている。また、ブンデスリーガ史上初めて、加入して最初の2シーズン連続で得点王に輝いた選手でもある。

    ケインはキャリア後半にありながらテクニックを多様化させている。トッテナム時代に3つの重大なケガ(2度の足首の捻挫と1度のハムストリング断裂)を経験し、「ケガさなければ」の選手になる恐れもあった。ジョゼ・モウリーニョとコンテは、トッテナムのサポーターからは好かれていないものの、ケインにあまりプレスをさせず、代わりに深く下がってチームメイトの攻撃陣とコンビネーションを組み立て、彼らのためにスペースを作らせるという戦術を採用した。これにより、ケインは世界最高のオーソドックスな背番号9と偽の背番号9の両方の才能を兼ね備えた選手となった。

    ケインはすでにオリーセやジャマル・ムシアラと良好な関係を築いているが、後者は骨折と足首のケガで少なくともシーズン前半は欠場となる見込みである。ヴァンサン・コンパニ監督はヨーロッパ中で恐れられる攻撃陣を構築しており、今や、全員がフィットしている中で、ディアスという最後のピースを手に入れることになるのだ。

  • FC Bayern München v Borussia Mönchengladbach - BundesligaGetty Images Sport

    プレーし続けることを望む

    バイエルン加入から数カ月後、30歳になったばかりのケインは、リオネル・メッシ、クリスティアーノ・ロナウド、ロベルト・レヴァンドフスキに刺激を受け、40歳近くまでプレーすることを目標に掲げた。

    「スポーツやサッカーの世界では、30歳になると、そろそろ終わりだと思い始める。僕は自分のキャリアの後半に差し掛かったと捉えている」と、彼は『ガーディアン』紙で語った。「僕は20、21歳の頃からトッテナムでトップチームでプレーしてきたから、最高レベルで9、10年プレーしてきたことになる。そして、もう8、9年、プレーしたいと思っている。リカバリーの方法やスポーツ科学、サッカーが進化し、適応してきたことで、選手たちはより長くプレーできるようになった。過去の選手たちよりは多少なりとも多くの情報を持っていると言えるだろう」。

    彼ら(メッシ、ロナウド、レヴァンドフスキ)の存在が、そのことを信じさせてくれる。彼らは30代後半までプレーすることは可能だと示してくれている。ここ1、2年ですべてが調和する段階に差し掛かってきた。プレッシャーの高い試合でプレーしながら、経験を積み重ね、自分の体のことやどんなプレーをしたいのかが、わかってきた。ロナウド、メッシ、レヴァンドフスキ、(ズラタン・)イブラヒモヴィッチなど、多くのトップレベルの選手たちを見ると、30歳になってさらに良くなっているほどだ。私生活、家族、子供たち、すべてが安定しているんだろう。自分の体とうまくやり、精神的にも安定して、自分のいる場所に満足しているから、サッカーに集中できる」。

    ケインは現在、若い家族とともにドイツで安定した生活を送っているが、今後数年間は自分の水準を維持し続けるために努力を続けなければならないことも、よくわかっている。エリートの背番号9としてプレーし続けるのであれば、オリーセ、ムシアラ、ディアスといったサポート陣の助けが必要だろう。

  • Harry Kane Luis DiazGetty Images

    ケインとディアスがフィットするには

    ソンは「ケインの代わりに走る」パートナーだったが、この韓国のトップ選手のプロフィールはディアスと大差ない。かのコロンビア代表選手は、プレミアリーグを去る際にはリーグで最も技巧派のドリブラーのひとりとして知られており、タッチライン沿いやインフィールド、ゴール前でも脅威となる選手だった。昨シーズンのリーグ戦では13得点5アシストを記録し、レッズのユニフォームを着てから最高の成績だった。

    結局、リヴァプールがディアスを手放すのをためらったのは、数字で表される成績だけでなく、プロ意識の高さと執拗なプレスという目に見えない貢献のためだった。彼は試合のテンポを定められる選手であり、チームとしてのバイエルンにとっても、ケイン個人にとっても、このことはプラスになるだろう。

    ケインは世界有数の自己犠牲の精神に富んだセンターフォワードとして、チームメイトをプレーしやすくもする選手だ。ディアスは、このイングランド代表キャプテンから様々な角度でパスを受けることになるだろう。スピードは以前ほどではないものの、ブンデスリーガの高い守備ラインを混乱させる能力は健在だ。リヴァプール時代、ディアスはサラーのファーポストへの浮き球のクロスを何度も得点に結びつけてきた。バイエルンのオリーセも同じようなスキルを磨き上げてきている。

    ドイツ王者のバイエルンはムシアラを数カ月間欠くこととなっており、これはアタッキングサードでの柔軟性に一時的に影響することだろう。それでも、この補強はチームに新たな次元を加え、特にディアスの、ボールのないところやポゼッションが出来てできていない時のエネルギーは、相手を崩す方法を多様化させるだろう。移籍金はかなり高額で、過大評価だという見方が支配的だが、ディアスとケインがバイエルンで完璧なコンビを見せることになれば、実質的に何の問題もない。