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ジョージズ・ミカウタゼとは何者?ジョージア代表を歴史的快挙に導くEURO2024得点王の物語

主要大会初出場、今大会で“最弱”と評されていたジョージア代表がEURO2024決勝トーナメントに進出するなんて、誰が予想しただろうか。そして、そのジョージアの選手がグループステージ終了後に得点ラキングトップにいるなんて、予想できた人間はいるのだろうか。『GOAL』は開幕前にジョージズ・ミカウタゼのブレイク候補タレントとして紹介していたが、3試合で3得点というのは予想以上の成績であり、本人も夢にも思っていなかったことだろう。

このストライカーはフランス代表に選ばれる権利も持っていたが、2021年にジョージアを選んだ。主要大会の初戦となったトルコ戦で貴重な得点を奪い同国の歴史に名を刻むと、次のチェコ戦はPKを冷静に決め、クリスティアーノ・ロナウド擁するポルトガル戦もネットを揺らし、2-0の歴史的勝利の立役者に。ゴール以外でも彼のスピードとボールタッチは大きな注目を集めている。

そんな23歳FWのキャリアは波乱に満ち溢れており、今季もメスでリーグ・ドゥ降格の憂き目にあった。それでも、今こうして偉業を成し遂げるチャンスを得た。彼のストーリーを振り返っていく。

  • すべての始まり

    2000年にフランスのリヨンで生まれたミカウタゼ。両親は1990年代後半の戦争で荒廃したジョージアから逃れてきた移住者で、故郷には夏に帰るだけだったが、息子には母国語を教えていたという。

    サッカー選手としてのキャリアは、2007年に加入したFCジェルランからスタート。リヨン南部の田舎町であり、かつてオリンピック・リヨンのホームだった同名のスタジアムのほうが有名だろう。おそらくは必然的に、当時リーグ・アンを連覇しつづけていたリヨンにスカウトされ、故郷リヨンで7年間成長を続けてきた。

    そして2015年にリヨンを去り、郊外のサン=プリーストに短期間在籍した後、2017年に460キロ離れたメスに移籍。アカデミーで2年間過ごした後、フランスの3部リーグに所属するBチームへ早々と昇格し、注目されるようになった。

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  • Georges Mikautadze Georgia Metz SeraingGetty

    大躍進

    2019-20シーズン、Bチームで活躍したミカウタゼは12月に3試合連続でメスのトップチームに招集され、ニース戦に7分間だけだが途中出場。プロデビューを果たした。だが、その試合では目立った活躍ができず、しばらくの間トップチームでのチャンスはお預けとなった。

    そして20歳でベルギーへとレンタルされると、それがキャリアの転機に。リエージュの郊外にあるスランというチームで2シーズンを過ごし、ゴールを量産する才能を発揮したのである。デビュー戦となったロンメルとの試合で4得点をあげ、その後も活躍し続けた。わずか9試合で2度のハットトリックを含む15得点を挙げたのである。最初のシーズンで2部リーグ昇格の立役者となったのだ。

    2シーズン目は得点率は下がったものの、レギュラーシーズン22試合で19得点。最も大事な時での活躍ということで言うならば、ベフェレンとの昇降格プレーオフでの2試合で2得点1アシストを記録し、2戦合計6-3の勝利をもたらした。

  • Georges Mikautadze Ajax 2023-24Getty

    その後

    昇格したスランに再びレンタルで戻ったミカウタゼは、ベルギー・プロリーグで9得点を奪い、ヨーロッパのトップリーグで得点できることを証明した。最初の10試合で7得点、再び好スタートを切ったのである。それでもチームは降格プレーオフを戦うこととなってしまったが、再びモレンベークとの2試合で1得点。チームのピンチを救い、スランは降格をまぬがれた。

    2022-23シーズンにはメスに戻り、最終的に先発メンバーの座を獲得した。前のシーズンにメスがリーグ・アンから降格していたのは不運だったが、彼個人としてはリーグ・ドゥで大活躍し、37試合で31得点。またしても昇格プレーオフで重大な役割を果たし、フランスの2部リーグで得点王とシーズンベスト11の2冠に輝いた。

    フランスでの活躍によりヨーロッパの強豪から注目されるようになると、2023年の夏、アヤックスが1600万ユーロ(約27億円)を支払って獲得した。ミカウタゼはオランダ強豪への移籍に「1秒も迷わなかった」と言っていたが、大混乱のアヤックスでは苦戦が続くことに。前半は9試合の出場のみ。11月に就任したヨン・ファント・シップ監督は、「アヤックスで求められるプレーに適応しなければならない」と語っている。「ボールを失ったらどうするのか。プレッシャーをかけられたらどうするのか。彼にはもう少し時間が必要かもしれない。だが、彼が良い選手であることは間違いない」

    そうした評価にも関わらず、2024年1月、ミカウタゼはレンタルの形で古巣メスへ放出される。だが、この復帰がEUROでの大活躍の道を切り開いたのであろう。たった1人でメスを自動降格から救ったと言っても過言ではない。慣れ親しんだ環境で11ゴール、リーグ最終盤の7試合で8ゴールも決めたのである。

    4月、メスのラースロー・ベレニ監督は「ミカウタゼはアヤックスで少し自信を失った。今は好調を取り戻している。ゴールを量産してくれる選手がいることは、チームに全体にとって素晴らしく嬉しいことだ。ミカウタゼはキリアン・エンバペではない。だが、FCメスにとってはエンバペに匹敵するよ!」と絶賛している。結果的には昇降格プレーオフに敗れてチームは降格したものの、彼の活躍は本物だった。

  • 最大の強み

    EURO2024での3ゴールのうち2ゴールがPKではあるが、トルコ戦での初ゴールは彼の才能を表すものだ。そのスピードや巧みなボールタッチはもちろんだが、ペナルティエリア内にうまく侵入し、チャンスを決めきれる選手であるかを示している。

    「僕の強みはゴールを奪えること」。スラン在籍中にミカウタゼは語っている。「ドリブルして、スピードをあげて、シュートする。そういうことが得意だし、僕の主な強みだ。子どものころからやってきた。背番号9としてプレーすることには慣れている。ゴール前に入りこんで、チャンスを作ってシュートを決めるんだ」

    また、左右両足を遜色なく使えることも武器の1つ。本人は幼少期からの練習の賜物だと胸を張る。「そう、それ(両足でプレーできること)は大きな長所だ」と、アヤックスと契約した際のインタビューで語っている。「子どもの頃から、いつも下手だった左足の練習をしてきた。少しずつ左足を右足と同じように扱えるようになったんだ」

    ミカウタゼを指導した経験のあるエミリオ・フェレーラは『Sporza』のインタビューで、「彼はどんな方法でも得点できるね。ある時はドリブルから、ある時は長距離から、そして左足、右足……。頭では得点してないけどね」

  • Georges Mikautadze Metz 2024Getty

    伸びしろ

    ミカウタゼはプロ入り当初、試合で目立ったミスをしたことがなかったという。だが、アヤックス時代に監督だったファント・シップは、あまり試合に出られなかったのは、ボールがないところでの動きとプレッシングに難があったからだと言う。フェレーラもヘディング能力について言及しているが、175cmに満たない身長では無理もないことかもしれない。

    ミカウタゼの多才さと前線を駆け回る能力を考えると、多少ポジショニングが悪くなるのは仕方がない。だが、しかるべき時にしかるべきポジションにいられないことが、守備では少々積極性に欠ける原因となっているかもしれない。それが今後の大きな課題となるのだろう。

  • Georges Mikautadze Georgia Euro 2024INA FASSBENDER/AFP via Getty Images

    今後どうなる

    報道によると、メスはミカウタゼをアヤックスからレンタルする際、すでに1300万ユーロ(約22億円)の買取オプションを発動させたという。そしてEURO2024での大活躍を見れば、再び大きな移籍金を手にできるはずだ。すでにモナコが選手と口頭合意に達したと報じられている一方で、生まれ故郷のリヨンも興味を示しているという。

    しかし、ジョージア代表での活躍がさらなるビッグクラブの関心を集める可能性は高い。以前からウォルバーハンプトンやバーンリー、ミラン、ユヴェントスなどの興味は伝えられてきたし、EUROで得点王となれば黙っていないだろう。

    一方でミカウタゼ自身は、6月頭にSNSで自身の将来について「僕の移籍について、ちょっと言ってくよ。今後どのクラブに行くかなんて、まだ決めていない。いつか決断を伝えられると思うよ」とし、まだ将来は何も決まっていないと綴っていた。

    ミカウタゼが決定的な仕事のできるストライカーとしてのポテンシャルを発揮してきているのは、間違いない。EUROで最大のブレイクスターの1人である彼は、ジョージアをどこまで導き、そしてどのようなステップを踏むことになるのだろうか。

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