Declan Rice set-piece GFXGetty/ GOAL

デクラン・ライスのプレースキックはベッカム級に? キックの達人としての地位を確立へ

デクラン・ライスのプレーに難癖をつけることは難しいだろう。アーセナルの1億ポンド(約189億円)の男は、必ずしも問われているわけではない質問に断固として答えを出す道を見つけている。25歳のライスは、古巣のウェストハムを6対0で下した試合で、人々が口々に語るようなセンセーショナルな活躍をしたが、注目に値するのは長距離から見事に決めたシュートだけではない。

身長188cmのライスはセットプレーから得点できることで有名な選手ではないが、慣れ親しんだロンドン・スタジアムに戻って、アーセナルはライスから今まで以上の能力を引き出す方法を見つけたようである。

ペナルティーエリアで押し合いや突き飛ばし合いをするのではなく、セットプレーのキッカーとしてボールの前に立ち、直接ゴールを決めたわけではないが、インスウィングの見事なキックで2アシストを記録した。最初はコーナーキック、次は絶妙なフリーキックだった。最後に自身で決めた得点は、ケーキの上にイチゴを飾ったようなものだ。ガナーズは、成長し続けるライスの新たな面を解き放ったように見える。そしてそれは、イングランド代表として国際大会でも役立つことだろう。

  • Declan Rice Dubai Arsenal 2023-24Getty

    ウィンターブレイクの成果

    報道によると、アーセナルは1月にドバイの暖かなキャンプ地で、セットプレーの反復練習に集中していたという。ガナーズはその時点ですでに、エヴァートンと並んで、セットプレーからのプレミアリーグ最多得点(11)を記録していたが、セットプレーの練習が攻撃面での優先事項だったことは注目に値する。

    リーグ戦が再開すると、ライスは意外にも左からのコーナーキックおよびフリーキックのキッカーとなっており、右足からインスウィングの危険なキックを繰り出すようになった。右からのセットプレーは、引き続き左利きのブカヨ・サカが担当している。

    BBCによると、アーセナルがドバイに行く前にライスは20試合で3回しかコーナーキックを蹴っていなかった。ところが、その後は4試合で12回も蹴っており、そこから驚きの2アシストをあげている。

    最初のアシストは、ウィンターブレイク明けの最初の試合で5対0で勝ったクリスタル・パレス戦で、ライスがロンドン・スタジアムで2アシストを決めた。アーセナルは、ウィンターブレイク明けにセットプレーからの得点を5ゴールも積みあげ、プレミアリーグ最多(16)をひた走っている。

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  • Declan Rice Arsenal corner 2023-24Getty

    「ボックス外の方がより大きな脅威に」

    長身のライスならセットプレーの空中戦で脅威を与えると思われるかもしれない。実際、彼のアーセナルでの最初のゴールはマンチェスター・ユナイテッド戦でコーナーキックをヘディングで決めたものであるし、直近のゴールもセットプレーではないクロスからではあるが、ヘディングで決めたものだ。

    しかしながら、アーセナルの監督はライスの新たな実力を見出だし、今やライスの役割は変わった。ライスはペナルティーエリアの外からの方が、より大きな脅威となることができるとアルテタ監督はウェストハム戦の圧勝の後言っている。

    「ライスは自分の任務と果たすべきことに集中しなければならなかった。セットプレーがそのひとつだった。ピッチにある程度の選手たちがいる場合、彼はボックスの中にいるよりもボックスの外にいる方が、より大きな脅威となる」

    BBCラジオ5ライブで語ったときは、こうも言っていた。

    「(ライスは)セットプレーのキッカーとして大いなる才能がある。ピッチやボックス内にいる選手たちと連携させて、最大限利用できる能力だ。彼はまたやってくれた」

  • Nicolas Jover Arsenal set-piece coachGetty

    優秀なセットプレーコーチ

    ライスは有名なセットプレーのコーチであるニコラス・ホベールに教わることで、明らかに大きく成長した選手のひとりである。

    フランス出身のホベールは、アーセナルがセットプレーのチャンスを得ると、しばしばタッチライン際をうろうろするが、2021-22シーズンにエミレーツ・スタジアムにやってきた当初は守備面で大きな影響を与えていた。驚くべきことに、そのシーズンの4月までガナーズはセットプレーで1点も失点しなかった。現在のホベールは攻撃面でも大いに貢献しており、アルテタ監督のチームは2年連続でタイトル争いをしている。

    インデペンデント紙によると、ホベールの練習は短時間で行われ、段階ごとに選手たちを配置して実際の試合形式にしていくという。まずはキッカーが誰かをめがけてではなく、きちんとしたキックを蹴る練習を行い、その後に攻撃側の選手たちが、そして最後に守備側の選手たちが入るのである。

    アーセナルの選手たちは長身ぞろいで、カイ・ハヴァーツ、ガブリエウ・マガリャンイス、ベン・ホワイト、ウィリアム・サリバといった選手たちはみな、180cmを越えている。ホベールは彼らを活用すべく、複数の選手たちが、陽動作戦のように1回の全体的な動きにおいて部分的に動きまわる「錯乱作戦」を採用している。

    ライスはウェストハム戦のセットプレーでさまざまな成功を収めたが、彼が北部ロンドンのホベールの庇護のもとでセットプレーのレベルをあげたことは明らかだ。

  • James Ward-ProwseGetty Images

    ウォード=プラウズも冷や汗?

    ライスはウェストハム戦で、イングランド代表の同僚ジェームズ・ウォード=プラウズから完全にお株を奪うことにもなった。2人を比較する専門家もいる。

    「彼(ライス)のキックは、デヴィッド・ベッカムとまでは言わなくとも、ジェームズ・ウォード=プラウズと比べれば同じくらい良い。毎回ピタリと合わせてくる。ボールを自由自在にできるようだ」と、アンドロス・タウンゼントはBBCラジオ5ライブで語った。

    ウォード=プラウズは昨年の夏、ライスの代わりのような形でウェストハムと契約した選手で、常に堅実な中盤の司令塔の役割を果たしてきた。だが、ここ数シーズンに彼がイングランド代表に出入りしている主な理由は、セットプレーのキッカーとしての才能だ。実際、この面で彼の右に出るものはいなかった。

    サウサンプトンのアカデミー出身のウォード=プラウズは、すでに今シーズンの全公式戦で2桁のアシストを記録しており、昨年12月にアーセナルに2対0で勝ったときにもコーナーキックから1得点した。

    しかしながら、ウォード=プラウズが直近でイングランド代表に選ばれたのは2022年6月で、ガレス・サウスゲート監督のチームではすでに隅に追いやられている。ライスがセットプレーのスペシャリストとして頭角を現せば、まもなくドイツで開催されるEUROのチームに招集される可能性は低くなるかもしれない。

  • Declan Rice England 2023Getty

    イングランド代表の選択肢

    ライスが「ボックス外にいる方がより大きな脅威となる」というアルテタ監督の見解にサウスゲート監督が賛同するかどうかは興味深いところだ。この夏のドイツでのユーロ2024の前に、まもなくベルギーとブラジルとの親善試合があるが、そこが実験の場となるかもしれない。

    ウォード=プラウズなしでも、イングランド代表はセットプレーのキッカーを務められる選手に恵まれている。キーラン・トリッピアーは1シーズン11アシストを誇っているし、トレント・アレクサンダー=アーノルドも、このところキッカーを務めることが多い。フィル・フォーデン、ジェームズ・マディソン、コール・パーマーも、それぞれの所属クラブでキッカーを任されている。

    だが、彼らに比べてライスが唯一、スリー・ライオンズにおいてスタメン確実の選手であることは間違いない。サウスゲート監督がセットプレーに一貫性を求めるなら、中盤のダイナモにその役割を持たせるのが良いと考えるかもしれない。

  • Mikel Arteta Declan Rice Arsenal 2023-24Getty

    ライスの進化

    ライスはエミレーツ・スタジアムでの見事なデビュー・シーズンを送っており、新たに加わった最新の武器は「彼にできないことがあるのか?」という疑問を投げかける。

    2023-24シーズンはまだ少なくとも3カ月あるが、中盤をほしいままにするライスは今シーズンすでに前2シーズンであげた得点とアシストを合わせた数(9)に到達しており、アルテタ監督とその仲間たちはサッカーに関するライスの新たな面を解放したようだ。

    赤と白のユニフォームを着てから最高と言っていいプレーを古巣相手に披露したライスは、初めて1試合で2アシストを記録し、93%のパス成功率を維持しつつ84タッチを記録して試合を牽引していた。その上さらに、あの素晴らしい長距離ゴールで6対0の試合を締めくくったのである。

    自分史上最高の攻撃的シーズンを過ごしつつ、アーセナルのエンジンは守備面でも素晴らしい仕事をしている。

    新たに発見されたライスのセットプレーの能力は、今やケチのつけようのない完璧な選手を形作る最後のピースとなり得るものだ。