Alejandro Garnacho Chelsea Man Utd GFXGOAL

ガルナチョを追いかけるのはチェルシーにとって巨大なリスク。マンチェスター・Uは純利益を得られるチャンスに飛びつくか

つい最近、マンチェスター・ユナイテッドが近い将来アレハンドロ・ガルナチョを売却する用意があることが明らかになったとき、チェルシーの名前が買い手の候補にあがったのは、ある意味必然だった。しかも、それから2週間後、ブルーズ(チェルシーの愛称)はそのウイングへの関心を正式に表明し、最初のオファーを提示したのだった。そして、現時点では、チェルシーが唯一の候補クラブとなっている。

マンチェスター・Uがアカデミーの逸材を売却することに前向きであること、そしてチェルシーがまたしても大型の補強に乗り出すことへの驚きは、赤い悪魔が財政難を解消するために5,000万ポンド(約97億円)以上の純利益を狙っていることと相まって、さらに大きなものとなっている。

現状では、この取引は間違いなくINEOSや、ルベン・アモリム監督と仲間たちに有利に働くという揺るぎない確信がある。西部ロンドンのチームは、情熱的なアルゼンチン代表選手を獲得できる可能性に賭けているのだ。

  • Mainoo Garnacho Man Utd sales GFXGetty/GOAL

    マンチェスター・UのPSR問題

    マンチェスター・ユナイテッドは、財政状況のせいでアカデミーの逸材を売却する際に手詰まりになる可能性がある。1月初旬には、プレミアリーグの『収益性と持続可能性に関する規則』(PSR)に違反する可能性があるとして、赤い悪魔が、ガルナチョと同じくキャリントン出身のコビー・メイヌーへのオファーを検討していると報じられた。

    マンチェスター・U共同オーナーであるINEOSとサー・ジム・ラトクリフは、すでに数々の痛みを伴う削減を行ってきたが、規則違反を避けるために「今すぐ行動を起こさなければならない」という書簡をファンに送った。

    その手紙には、「今行動を起こさなければ、PSRとFFP(『ファイナンシャル・フェアプレー』)の要件を満たせなくなる危険性があるのです」と書かれ、「現在、私たちは毎年多額の損失を計上しており、その合計は過去3年間で合計3億ポンド(約583億円)を超えています。これは持続可能な状態ではありません」と続く。

    「私たちは難しい選択を迫られるでしょう。これには、クラブの多くの支出分野における削減に加え、従業員の大幅な削減も含まれます」

    数か月前であれば、ガルナチョを売却するという考えはありえなかっただろう。しかし、2025年1月の移籍市場のタイミングは、大きな反発を避けたいマンチェスター・Uにとって好都合だったかもしれない。

    20歳のこの選手は、ルベン・アモリム監督の下で調子も人気も低迷しており、ファンも、ここ数週間の彼の起用を見送る監督の決断を概ね支持している。彼の不安定なパフォーマンスと不誠実な行動に苛立ちを募らせたファンの中には、退団を望む声もあると見られている。

  • 広告
  • Mykhailo Mudryk ChelseaGetty

    チェルシーの急務

    ガルナチョが獲得できるかもしれないという憶測は、当然ながらチェルシーの関心を引いた。このクラブは、将来を見据えたチーム作りを目指し、地球上で最も才能ある若手を独占しようと躍起になっているように見える。

    チェルシーには左ウイングの補強も必要とされている。ミハイロ・ムドリクが11月の薬物検査で陽性反応を示したために現在出場停止処分中で、Bサンプルの検査を待っているところであるが、おそらく長期間のドーピング禁止処分を受けることになるだろう。

    ムドリクは禁止薬物の摂取について一切の認識がないと主張しているものの、FAのアンチ・ドーピング規定では「故意であるかどうか」は「罪」に影響しないと定められており、また「知らずに摂取した」と主張しても法廷では認められない。Bサンプルが陰性でない限り、最悪の場合、このウクライナ代表選手には4年間の出場停止処分が科されることになる。

    それでもチェルシーには机上では多彩な攻撃オプションがあるが、純粋なウイングだけに注目すると、事実上、残っているのはジェイドン・サンチョ、ペドロ・ネト、ノニ・マドゥエケの3人だけで、後者の2人は右サイドでのプレーを好む。また、若手のタイリーク・ジョージはトップチームに昇格したばかりであり、経験不足とみなされる可能性が高い。

  • Crystal Palace FC v Chelsea FC - Premier LeagueGetty Images Sport

    「もっとゴールを決められる」

    彼らの貢献度は及第点ではあるものの、ワイドの選手の中で最も生産性の高いグループに入らないことは明らかだ。サンチョ、ネト、マドゥケの3選手がプレミアリーグで挙げた得点とアシストの合計は「18」である。

    この点について、エンツォ・マレスカ監督は明らかに懸念しており、ウイングたちにさらなる活躍を要求している。「我々の攻撃力はプレミアリーグで3番目に優れている。だから多くのゴールを決められているが、チームのプレーの仕方によっては、もっとゴールを決めることができる」と語った。

    「これはニコ(・ジャクソン)だけの問題ではない。おそらくウイングのところで、ペドロ(・ネト)やジェイドン(・サンチョ)のように、ボックス内で1対1の状況を作り出せる回数が増えれば、もっとゴールを決められるだろう。彼らがすぐにゴールを決められるようになればいいのだが」

    「重要なのは、彼らが毎試合、そこに到達することだ。確実にゴールを決められるようになれば、チームにとってより良いことだ。攻撃陣やウイングがもっと確実にゴールを決められるようになれば、良い結果につながるだろう」

  • Manchester United FC v Southampton FC - Premier LeagueGetty Images Sport

    解決策にはならない

    もしチェルシーが、ガルナチョを自分たちの抱える問題の解決策として理想的だと結論づけているのであれば、それは大きな誤りである。一貫して安定性を欠くこのアルゼンチン代表の若手選手は、最近ではオールド・トラッフォードで批判の矢面に立つ存在となり、才能があるとみなされていた選手から、クラブが脱却を切望する平凡な選手へと転落してしまっている。

    「ガルナチョにはまだ決定的なインパクトを与える能力があるが、それは滅多に発揮されない」と、最近、GOALのジェームズ・ウッドは書いている「ほとんどの場合、彼は最終局面で間違った選択をし、シュートやパスに冷静さを欠いている。頭を垂れた状態でプレーしがちで、常にトラブルに巻き込まれる。彼を見ていると腹が立つし、サッカーはチームプレーであることの意味を理解していないように見える」。

    クリスティアーノ・ロナウドを崇拝しているこのウイングは、マンチェスター・Uのアカデミーを卒業したが、今シーズンはあのヒーローの持つ高い水準には程遠い活躍で、リーグ戦では3得点と1アシストに留まっている。最後のゴールは11月初旬に決めたものであり、唯一のアシストは今シーズンの開幕戦でフラム相手に決めたものだ。トリッキーなウイングとして知られていたが、今シーズンのプレミアリーグではドリブルを12回しか成功させておらず、成功率はわずか34.3%である。

    まだ20歳のガルナチョには時間があり、かつてはワールドクラスの選手になりうる能力があると見なされていたのだから、まだその潜在能力を発揮できる余地があるとも思われている。しかし、若いからこそ、彼の現在の停滞はスタンフォード・ブリッジで警鐘が鳴らされるべきである。

  • Christopher Nkunku Joao FelixGetty

    次善の策と大物の加入

    チェルシーの攻撃オプションを詳しく見れば、少なくとも夏まではムドリクやガルナチョがいなくても十分に戦える戦力が揃っていると考えるのは当然だろう。

    チェルシーには、専門のウイング以外にも、合わせて1億ポンド(約190億円)近くを費やしたクリストファー・エンクンクとジョアン・フェリックスがおり、2人とも左サイドでのプレー経験が豊富で、出場時間を確保できる可能性は十分にある。

    しかし、マレスカ監督はこれまで、フォワードのエリアのどこで誰をプレーさせるかという点において、かなり厳格であることが証明されている。パーマー、エンクンク、フェリックスを背番号10として他のポジションで起用するのではなく、役割分担をさせるべきだと考えているのだ。また、自分のシステムに完全にフィットしない選手に対しては、さらに容赦ない態度を取っている。

    一方、またもや思慮に欠ける移籍の決定だったことが判明するかもしれないが、バイエルン・ミュンヘンが旋回する中エンクンクはスタンフォード・ブリッジの出口に向かっているようだ。ガルナチョとの交換移籍が噂されるほどである。他の選手が得点に苦しむ中、なぜ、あれほど攻撃的な才能のある選手がもっと起用されないのか、ファンが疑問を抱くのは当然である。

    さらに、パルメイラス期待の新星エステバン・ウィリアンが間もなく加入することもあって、状況は複雑化している。ウィリアンは、ワイドのエリアで先発出場することが期待されている。

  • Aston Villa FC v Manchester United FC - Premier LeagueGetty Images Sport

    マンチェスター・Uの問題児

    彼のエゴ以上に大きいものはあるだろうか。ガルナチョがチェルシーに加入すれば、すでに複雑なチームにさらに危険な要素が加わることになる。

    ガルナチョの気性についてブルーズが懸念を抱いているという報道がされているが、今シーズンだけでも数々の短気な態度を見せているため、それも当然のことだろう。

    11月にはマンチェスター・UがPAOKと対戦したヨーロッパリーグの試合で、スタンドから「ファーストタッチを狙え」と野次られたことに反応したり、その3日後に行われたプレミアリーグのレスター・シティ戦で、キャプテンのブルーノ・フェルナンデスによればファンから評価されていないと感じたために、自身のゴールを祝うことを拒否したりしているのだ。

    アモリム監督はガルナチョを一度謹慎処分にしており、12月のマンチェスター・ダービーでは、その3日前のヴィクトリア・プルゼニとのヨーロッパリーグでの試合中に「不服従」の態度を示したとして控え選手から外している。

    チェルシーのチームには個性的で自己主張の強い若手選手が多い。今のところ、マレスカ監督は概ね平和を保っているが、移籍市場が開いたことで亀裂が現れ始めている。ガルナチョのような激情家がチームに加われば、悪い方向にバランスが傾く可能性がある。

  • Manchester United FC v Chelsea FC - Premier LeagueGetty Images Sport

    結果は予測不能

    彼の気性に対する懸念がある中で適切な調査を行ったにもかかわらず、チェルシーは入札を行う準備を進めているようだ。

    プレミアリーグでトップ4を争うライバルであり、将来的にはさらに大きな成功を収める可能性もあるチームへの売却は決して良い印象を与えないが、マンチェスター・Uは、この移籍が逆方向のメイソン・マウントの移籍と同じように振り返られるだろうと考えているかもしれない。すなわち、5,000万ポンド(約97億円)以上をまったく無駄に費やした、と。

    赤い悪魔は、将来のPSRによる処分を避けるため、切実に資金が必要であることが明らかなこの時期、この移籍金は純粋な利益となる。また、アモリム監督が自身のイメージ通りにチームを作り始めている中、かつてはアカデミーの宝石と言われながら今や問題児とも言われる選手との関係を断ち切る準備ができていることは明らかだ。

    最後に笑うのは、新しい環境でキャリアを再スタートさせることに自信を見せるガルナチョかもしれない。しかし、現状で喜ぶのは、ファンや監督の期待に応えられていないこのウイングを、5,000万ポンド(約97億円)以上の希望価格で買ってくれる相手を見つけられたマンチェスター・Uだろう。