理論を信じ、ある種のサッカーを完成させるために練習で努力することについては、一日中でも語ることができる。しかし厳しい現実として、我々はそうした理屈の域をはるかに超えている。前述の「過去23試合で勝ち点15」という数字が、2シーズン連続でヨーロッパリーグに出場するチームを率いている監督の実績を雄弁に物語っているのだ。
ポステコグルー監督が好む戦術がイングランドのサッカーに適応するかどうかの懸念は、彼がトッテナムに就任した当初は相手チームが油断していたため、浸透するのに時間がかかった。ところが、ひとたび、ある対戦チームがその策を見破ると、他のチームも続いた。2024-25シーズンのプレミアリーグで、スパーズはリードしていた試合で、他のチームよりも多くの勝ち点を落としているが、これは偶然ではない。
「アンジェ・ボール」は原子力に例えられる。成功すれば人類にとって奇跡であり、人類が資源を駆使した結果の偉業となるが、失敗すればチェルノブイリ事故が起きるのだ。
ポステコグルーのフォレストが試合を行う前、フォレストは彼の戦術にふさわしいチームだという見方があった。オラ・アイナ、オレクサンドル・ジンチェンコ、ネコ・ウィリアムズは理想的な偽サイドバックである。ムリーロは、ボールさばきが見事なDFだ。エリオット・アンダーソン、ドウグラス・ルイス、イブラヒム・サンガレは、中盤の戦いを支配することができる。モーガン・ギブス=ホワイト、オマリ・ハッチンソン、ジェームズ・マカティーは、ポステコグルー監督がトッテナムを率いていた時にチームの司令塔だったジェームズ・マディソンと同様に、プレイメーカーとしての資質を数多く備えている。チームには、スパーズが標的にしていたカラム・ハドソン=オドイをはじめ、トリッキーなウィングも何人もいる。クリス・ウッドの得点力が枯渇した場合には、夏の移籍で加入したアルノー・カリムエンドやイゴール・ジェズスがチャンスをつかむかもしれない。理論上は申し分ない。だが現実はそうではない。ポステコグルーの戦術はイングランドで解読ずみなのだ。誰もが彼のチームへの対策を知っている(たぶんルベン・アモリム監督を除けば)。フォレストは事前に警告を無視した代償を今まさに痛感している。
スパーズがヨーロッパリーグを制した時、およびその後、もはや誰も彼らを恐れていなかった。だからこそクラブは指揮官をフランクに代えたのだ。彼らは再び「大人の」チームを目指した。ポステコグルーが「カウンターやセットプレーで失点するリスクを冒すより、攻撃パターンを練り上げる方が重要」と考えていたため、同じ戦術を繰り返してカウンターやセットプレーで崩されるチームになりたくなかったのである。ポステコグルー自身、2024-25シーズンの開幕間際に「何よりもリーグ戦での成績で評価されるべきだ」と宣言した。トッテナムを17位に沈めることとなった采配は、前代未聞の戦略と言える。負傷者やヨーロッパの大会に集中したことが、これほどの規模と資金力を有するチームが降格圏の1つ上でシーズンを終えた主な要因とは到底考えられない。
これはポステコグルー自身や彼の理念への軽視ではない。彼は世界中の何十万人、おそらく何百万人もの人々に喜びをもたらした。サッカー界で最もユニークな人物のひとりである。彼の理想はサッカー監督に求められるべきものだ。アヤックスやポルト、あるいはセルティックのように、「タイトル争いをするのは1~3チームのみ」というリーグに属するクラブなら、彼を指揮官に迎えるべきだろう。しかしプレミアリーグではもはや生き残れない。遅かれ早かれ、フォレストとマリナキスは決断を下すだろう。イングランドでは、ポステコグルーの輝かしい功績よりも、低迷した時のことの方が記憶されるに違いない。