Goal.com
ライブ
inter(C)Getty Images

弱者としての抵抗を選ぶか、得意な武器で真っ向勝負か――インテル、優勝候補リヴァプールにどう抗う?

返り咲いた華やかな舞台

インテリスタにとって、愛するネラッズーリ(黒青。インテルの愛称)がチャンピオンズリーグ(CL)決勝トーナメントで戦う姿を見るのはなんと10年ぶりのこと。優勝候補の一角を占めるリヴァプールが相手とあって劣勢は免れないところだが、それでも(いやそれだからこそ、か)、ファーストレグの舞台となるサン・シーロのチケットは瞬く間にソールドアウトとなった。

新型コロナウイルス対策のため、収容人員がキャパシティの50%(3万8000人)に制限されているのが残念だが、ホーム&アウェー一発勝負ならではの痺れるような緊迫感と熱気が「カルチョのスカラ座」と呼ばれるイタリアきっての名スタジアムを満たし、インテルの戦いを後押しするのは間違いないところだ。

前回のCLベスト16進出は、長友祐都が主力として活躍していた11-12シーズンにまで遡る。2012年3月13日にサン・シーロで行われたマルセイユとのラウンド・オブ・16セカンドレグに2-1で勝利を収めたものの、0-1で敗れたファーストレグとの合計は2-2、アウェーゴールの差(ちなみに今シーズンから廃止が決まっている)で敗退という結末に終わった。

ジョゼ・モウリーニョの下でCL、スクデット、コッパ・イタリアの「トリプレッタ」(三冠)を達成してから2年の時を経たこのシーズンは、セリエAでも不振が続き、ジャン・ピエロ・ガスペリーニ(現アタランタ)、クラウディオ・ラニエーリ、そしてアンドレア・ストラマッチョーニと監督が3人も替わった末に、翌年のCL出場権に手が届かない6位止まり。その後2010年代後半まで続く迷走の始まりとして記憶されることになる。

クラブの保有権もインテルを偏愛してきた地元ミラノの名士マッシモ・モラッティを離れ、2013年にインドネシア人実業家エリック・トヒル、そして3年後の2016年には中国の家電量販大手である蘇寧グループの手に渡った。その蘇寧グループの着実かつ戦略的な投資、そしてユヴェントスからやって来た敏腕経営者ジュゼッペ・マロッタCEOの手腕によって段階的に競争力を取り戻してきたインテルは、ルチャーノ・スパレッティがチームを率いた18-19シーズンにようやくCLの舞台に返り咲く。

しかし、セリエAではアントニオ・コンテ体制2年目の20-21シーズンに11年ぶりのスクデットを手に入れるなどかつての地位を取り戻した一方、肝心のCLでは3年続けて痛い取りこぼしによるグループステージ敗退という不本意な結果に留まってきた。昨シーズンに至っては、グループ最下位でヨーロッパリーグに回ることすらできないという屈辱を味わっている。

インテルのように輝かしい歴史を誇る名門クラブにとっては、CLの華やかな舞台で勝ち進むことこそが最大の価値であり目標である。その意味で今シーズンついに実現したグループステージ突破、決勝トーナメントへの勝ち上がりが、蘇寧グループの下で進んできた復活の歩みにおける重要な一里塚であることは確かだ。

とはいえ、昨シーズンのスクデットから今シーズンここまでに至るインテルの歩みは、決して順調なものではなかった。オーナーの蘇寧グループがコロナウイルス禍の直撃を受ける形で深刻な経営危機に陥り、戦力強化どころか運転資金にすら事欠く状況となって、CFロメル・ルカク(現チェルシー)、右WBアクラフ・ハキミ(現PSG)という絶対的な主力2人の売却をはじめ、いわゆるリストラによる経営規模縮小に取り組まざるを得なくなったからだ。この方針変更を受け入れられないコンテは契約を解消して去ることを選び、それを受けたマロッタCEOが慌ててラツィオから引き抜いたのが、現在チームを率いているシモーネ・インザーギ監督だった。

インザーギ・インテルの基本

Bastoni Inter Serie AGetty

そのインザーギが、前任者コンテが築いた3-5-2というチームの土台を継承しながら、ルカク、ハキミの後釜として獲得されたエディン・ジェコ、デンゼル・ドゥンフリースという新戦力2人をそこに組み込み、さらに彼自身の哲学やカラーを反映する修正や変更を加えることででき上がったのが、現在のインテルである。

昨シーズンのインテルは、良きにつけ悪しきにつけルカクという圧倒的な前線の基準点の存在を前提に成り立っているチームだった。攻撃はGKを組み込んだ後方からのビルドアップが基本だが、最終ラインでのパス回しで敵のプレスを誘うとそこから一気にルカクに縦パスを送り込んでチームを押し上げ、そのセカンドボールからフィニッシュへの道筋を作っていくというのが大枠。そこに、左からのサイドチェンジをフリーで受けるとそのまま右サイドを爆発的なスピードで敵陣に持ち上がるハキミの突破がアクセントを加えていた。

しかし、ルカクを失った代わりに、前線から中盤に下がってきてビルドアップに絡むことで局地的な数的優位を作り出し、そこからいわば敵陣でのゲームメーカーとして崩しとフィニッシュに絡むという、ある意味「偽9番」的なプレースタイルを持つジェコが加わった今シーズンは、それに合わせてビルドアップでもロングボールを抑え、グラウンダーのパス交換で中盤を経由して敵陣に進出、そこからピッチの幅を広く使って最終ラインを攻略する方向に舵を切っている。

そこで特徴的なのは、後方から攻撃を組み立てる過程で3バックの左右を務めるCB、とりわけ左のアレッサンドロ・バストーニが、アンカーのマルセロ・ブロゾヴィッチとポジションを入れ替える形で大外よりも一列内側のレーンを攻め上がり、しばしばそのまま敵陣まで進出して攻撃に絡んでいくこと。ポジションチェンジで相手のマークを剥がしつつ局地的な数的優位を作り、可能なら自らボールを持ち上がって純粋なMFのように振る舞う左右CBの動きは、攻撃にアクセントと意外性をもたらす大きな武器のひとつとなっている。

その意味でこの試合のキープレーヤーのひとりになると目される22歳のバストーニは、土曜日のセリエA・ナポリ戦(1-1)まで足首の故障で欠場していたが、どうやらこの試合には間に合う見込み。コンディションは万全とは言えないだろうが、CBとしては際立ったテクニックに加え、状況判断やプレー選択といった戦術眼の良さ、そして後ろ髪を引かれることなく積極的に敵陣に進出していくパーソナリティの強さなど、インテルのみならずイタリア代表でも未来を担うべき存在。CLのビッグマッチというメジャーな国際舞台はこれが初めてでもあり、ぜひ注目していただきたい。

対リヴァプール策

inzaghi-kloppGetty Images

セリエAにおけるインテルは、この柔軟なポジションチェンジを交えたビルドアップとポゼッションで主導権を握り、守備に回った時には中庸な高さにラインを保ちつつ、敵CBにはボールを持たせて危険な中央のパスコースに蓋をするミドルプレスを基本とする戦い方で手堅く勝利を手元に引き寄せ、シーズンを通して首位争いの主役を演じてきた。立ち上がりは戦力的な優位を武器に積極的な攻勢に出て自分たちのペースで試合を運び、一旦先制したら重心を下げてペースダウン、カウンターやセットプレーで追加点を挙げて逃げ切るというのが、典型的な勝ちパターン。しかしもちろん、セリエAよりは数段レベルの高いCLの舞台、しかも優勝候補の一角を占めるリヴァプールを相手に、同じような戦いができるかと言えば、答えは明らかに「NO」だ。

ユルゲン・クロップ体制となって7年目を迎え、チームとしての完成度がこれ以上ない水準まで高まっているリヴァプールは、プレミアリーグでもCLでも平均ボール支配率が60%を超えているという事実が示す通り、自らボールを支配して試合のリズムを緩急自在にコントロールし、相手に受け身に回ることを強いる戦い方が身に付いている。それをさせないためには、マンチェスター・シティのように相手を上回る質の高いポゼッションでボールと主導権を握り、逆に受け身を強いるか、あるいは今ラルフ・ラングニックがマンチェスター・ユナイテッドに求めているように、前線からアグレッシブなハイプレスを仕掛けることでビルドアップを分断し、ハイペースで攻守が入れ替わる白兵戦に持ち込むかのどちらかが必要になる。しかしインテルが得意とするレパートリーには、そのどちらも含まれていない。

前者に関しては、インテルがマンチェスター・シティでないことは誰の目にも明らか。攻撃に関しては、ポゼッションによるゲーム支配は棚上げした上で、すでに触れた左右CB、MF間の縦のポジションチェンジを活かしたビルドアップで相手のプレスを外してボールを敵陣に運び、比較的スペースのある状況で両サイドのドゥンフリースやイヴァン・ペリシッチを活かしたり、2トップがいい形でボールを持つ形が作れるかどうかがひとつの鍵になるはずだ。

その点で希望があるとすれば、リヴァプールはアフリカ・ネイションズカップの決勝で敵味方として優勝を争ったモハメド・サラーとサディオ・マネが、心身の疲労を引きずっている可能性が高く、インテンシティの高いハイプレスを仕掛けてくる時間はそれほど長くないと予想されること。自陣からボールを持ち出す過程でプレスの餌食になり、そこからサラーやマネに一気に決められてしまうというのが最も避けたいパターンだが、少なくともそのリスクは多少低くなりそうだ。

ただしその分リヴァプールの重心は下がるだろうから、敵陣でコンパクトな守備ブロックを崩す難易度が上がるのも必然ではある。敵陣に人数をかけたところでのボールロストから、カウンターを許して失点するというのもまたどうしても避けたい展開。そこでは前線に攻め残るであろうサラーやマネに自由に受けさせないための予防的マーキングを、ステファン・デ・フライやミラン・シュクリニアルが90分を通して遂行できるかどうかがポイントになってくるだろう。

後者、すなわちリヴァプールのビルドアップをどこまで分断できるかもまた、小さくない不安要素だ。週末土曜日のナポリ戦でもそうだったが、インテルは相手のビルドアップに対して布陣を噛み合わせて前からハイプレスを仕掛けることはせず、5-3-2の基本的な配置を守りつつ、ボールの動きに合わせて特にMF陣がマークを受け渡しながらプレッシャーをかけ、展開を制限してサイドに追い込んでいくミドルプレスを基本としている。しかし、2トップ(ジェコ、ラウタロ・マルティネス)のプレッシャーが低強度かつ遅れがちなため簡単にその背後にボールを運ばれ、中盤も後手に回ってボールにプレッシャーをかけ切れず、ブロック全体が後退を強いられる、あるいはそのまま中盤ラインの背後にボールを運ばれ最終ラインが裸での対応を強いられるという場面も散見される。

最終ラインにシュクリニアル、デ・フライという対人能力の高いCBを擁していることもあり、セリエAのレベルであればそれがそのまま失点につながる決定機にまで発展する頻度は高くないが(実際インテルの失点はナポリに次いでリーグ2位)、相手がリヴァプールとなると話は違ってくる。積極的なプレスが空回りして背後を取られピンチを招くという展開を避けることを優先すれば、最初から重心を下げて受けに回り防戦からの逆襲に活路を見出すという、古典的な堅守速攻戦略を選ばざるを得なくなる。そうでなくとも、相手に押し込まれた結果としてそれを強いられる展開となることも十分にあり得る。その場合は、ドゥンフリースやペリシッチのロングスプリントを活かしたカウンターアタックを発動できるかどうかが、勝機を直接的に左右する要因になるのかもしれない。

通過するべき一里塚

客観的に見れば、戦力的にもチームの戦術的完成度という点でも、インテルがリヴァプールに後れを取っていることは否定のしようがない。アンダードッグの立場に置かれた時に、それを受け入れて弱者としてしたたかに抵抗し続けるか、それとも開き直って自分たちの得意な武器で真っ向勝負を仕掛けるか、その選択には指揮官とチームの個性が表れるものだ。

インテルにとってこのリヴァプール戦は、「絶対に負けられない戦い」というよりは「さらなる成長に向けて通過するべき一里塚」という側面が強いだけに、インザーギ監督が勇気ある選択を下し、過度に受けに回ることなく積極的に強みを打ち出していく姿を見たいところだ。

取材・文=片野道郎(イタリア在住ジャーナリスト)

▶欧州CLはWOWOWが独占ライブ配信!初回無料トライアル加入はここから

欧州CL|関連情報

広告
0