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【野村明弘:CL特別連載②】驚きを隠せない変貌。チェルシーはトゥヘル体制で何が変わったのか

連載第1回:嫌われものの金満を愛し、舌打ちもされた。それでも声を大にして言いたい「チェルシーはパッションに満ち溢れたクラブ」

■レジェンドの解任

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1月25日、チェルシーはクラブのレジェンドでもあるフランク・ランパードの解任に踏み切りました。2003年にロマン・アブラモビッチがオーナーに就任してから、実に16回目の監督交代…。

「またか…」 

私だけではなく、ロイ・キーンをはじめとする現地の識者らが、チェルシーの度重なる早期の監督交代に異議を唱えました。

マウリツィオ・サッリ時代に不満を募らせたチェルシーサポーターの心を取り戻してくれて…。18歳未満の選手の海外移籍に関するFIFA 規則に反し科された移籍市場における補強禁止処分のため、若手へシフトしなければならない中、暫く結果が出なくてもサポーターが我慢をしてくれる監督は、彼しかいない…。白羽の矢が立ったのがランパードでした。

監督としての経験は2部ダービー・カウンティでの1年だけで、その能力は未知数でしたが、ダイレクターのマリナ・グラノフスカイアらチェルシーの上層部は「補強活動が再開できるまでの一時の難局さえ凌いでくれれば…」と、実は当初から解任ありきの就任だったのではないかとさえ、私は勘ぐってしまいます。ランパードは、都合よく使われてしまったのではないかと…。

■解任の歴史

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ランパードの解任に、チェルシーサポーターは心を痛めましたが、後任として就任したトーマス・トゥヘル新監督がチームを好転させたのも、これまた事実です。

思い返せば、サポーターが愛してやまず解任を悲しんだクラウディオ・ラニエリの後任となったジョゼ・モウリーニョが50年ぶりのトップリーグ優勝を成し遂げ、彼の後を引き継いだアブラム・グラントがクラブ史上初のCL決勝に導き、アンドレ・ビアス=ボラスの後に暫定監督となったロベルト・ディ・マッテオが初のビッグイヤーをクラブにもたらすという、この解任の歴史がチームを前進させてきたのも、紛れもない真実ではあるのです。

ランパードとの別れという大きな悲しみは何処へ…。今やトゥヘル監督に全幅の信頼をおいている現状は皮肉なものではあります。

■トゥヘル体制での変化

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マインツ、ドルトムント、パリ・サンジェルマンで監督を務め、戦術家、戦略家との呼び声の高かったトゥヘル監督がチェルシーで選んだのは、3-4-2-1のシステム。全体をコンパクトに保ち、各選手が素晴らしい距離感を保ちながら連動して守り、就任から公式戦14試合負けなし、その間たった2失点(そのうち1つがOG、ひとつが南野拓実選手の得点)に抑えたのです。

「こんな短期間で、こうも変わるものか…」

正直、私は驚きを隠せません。選手の連動した動きを見ていると「トゥヘル監督にしっかり指導されているな」と感じます。各選手が、何となくではなく、確実に意図をもって動いていることは間違いないでしょう。コロナ禍の過密日程の中、どう落とし込んだのか不思議にすら感じています。ちなみに、決定力不足など攻撃面での課題はまだ目をつぶっておきましょう。そこまで求めるのは酷かと…。

忖度なくフラットな状態からの選手選考。ランパード時代にはチャンスが限られていたアントニオ・リュディガーやアンドレアス・クリステンセン、マルコス・アロンソらを起用し、これが見事にハマりました。

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そして、戦術家のトゥヘル監督らしく、相手の戦い方に合わせ、メンバーの配置を変えているのも興味深いです。裏を狙いたい場合や前線からの守備を考えた場合はトップにティモ・ヴェルナーを…、前線に高さを求める際、タメを作りたい場合はカイ・ハヴェルツを…。トップにスピードのあるジェイミー・ヴァーディを擁するレスター相手には、いつもは右WBを務めるリース・ジェームズを右ストッパーに、セサル・アスピリクエタを右WBへと2人の位置を入れ替えるなどなど…。

また、一握りの選手に偏る訳ではなく、多くの選手にチャンスを与えています。イタリア代表ではレギュラーながらチェルシーで戦力外的な扱いだったエメルソンは、CLラウンド16アトレティコ・マドリーとのセカンドレグで途中出場し、見事に得点を決めました。

一方で、サウサンプトン戦で途中出場したハドソン・オドイを「彼の姿勢、エネルギーが不満」として30分で交代させる一面もありました。かつてモウリーニョが、途中出場から得点も挙げたジョー・コールを「守備をしない」と途中交代させ、守備を頑張る選手に変貌を遂げさせた姿を彷彿とさせました。トゥヘル監督は、しっかりとした基準をもって選手を評価しているのでしょう。

かつては、教え子に「個性的で気まぐれな独裁者だった」などと言われ、性格に難ありと思われがちだったトゥヘル監督ですが、チェルシーの選手からはそのマネジメント能力やモチベーターとしての能力の高さを評価する声が聞かれます。

前述のアトレティコ戦では、怪我でスタンド観戦だったチアゴ・シウヴァが試合中ずっと中腰でピッチに向かってコーチングの声をあげ続けていました。その姿は、かつての主将ジョン・テリーと重なりましたし、エメルソンの得点時にチアゴ・シウヴァ、メイソン・マウント、ジョルジーニョがスタンドで抱き合って喜んでいる姿には、一体感が溢れていました。強いチームへと進んでいるのだなと伝わってくるものがありました。

チェルシーは今、とても良い空気に包まれていますし、戦術、戦略も申し分ありません。トーマス・トゥヘル監督がチェルシーに多くのものをもたらしてくれそうな予感がしてなりません。

そのひとつが、今季のビッグイヤーであることを願っています。(第3回へ続く)

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文・野村明弘

nomura

1975年生まれ、東京都出身。1998年に長崎文化放送に入社し、記者・アナウンサーとして活動。2003年に退社後、渡英して現地のフットボール文化に触れる。帰国後はフットメディアに所属し、プレミアリーグやチャンピオンズリーグ、Jリーグなど国内外のサッカー実況を担当してきた。2020年に独立してフリーとなった現在、スポーツコメンテイターとして様々なメディア、媒体で活躍の場を広げている。

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