35歳にしてキャリアハイ。フランクフルトでの「長谷部誠」という存在の大きさ

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(C)Getty Images

フランクフルトの中心に、日本の長谷部誠がいる。

2018-19シーズンのドイツ・ブンデスリーガで現在首位を走るのは今季からリュシアン・ファーヴル監督が率いるドルトムント。続いてリーガ6連覇中のバイエルン・ミュンヘンが勝ち点5差で続いている。ただドルトムントは直近のフランクフルト戦、ホッフェンハイム戦で連続ドローに終わり、上位争いは3位のボルシア・メンヘングラードバッハ、4位のライプツィヒ、そして現在5位のフランクフルトも虎視眈々とランクアップを狙っている。

フランクフルトは昨季までチームを率いたニコ・コバチ監督がバイエルンの指揮官へと引き抜かれたことでオーストリア人のアディ・ヒュッター監督に後任を託した。そのヒュッター監督はシーズン開幕前のキャンプや公式戦初戦となったDFBポカール、そしてブンデスリーガの序盤戦で4バックシステムを採用したが結果を残せず、結局現在は昨季までコバチ監督が用いていた3-4-1-2の布陣を採用している。

■守備では的確な指示で味方を動かす

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当初4-2-3-1で戦ったとき、長谷部はダブルボランチの一角を担ったが、ヒュッター監督は中盤での彼のプレーをさほど評価せずにスタメンからも外した。しかし3バックへと回帰した今、指揮官は自らの目利きの誤りを素直に認め、長谷部には彼が最も輝くポジションであるリベロの役目を与え、それに呼応するようにチーム成績も上昇の一途を辿っている。

リベロでプレーする長谷部は沈着冷静な振る舞いと熱く激しい所作を共存させている。例えば相手が前から激しくプレスを掛けてきた際には味方と敵の位置を把握した上で正確無比なパスを通す。元々長谷部はミッドフィールダーなので、確かな足元の技術がある。相手選手が迂闊にアプローチすればワンアクションでそれをかわし、一気に状況を打開するスキルを有しているのだ。

一方、味方選手が安易なプレー選択をしたり、少しでも集中力を削いだりすると声を荒げ、ときには彼らの身体をつかんでたしなめたりもする。日本代表のキャプテンとしてチームをまとめてきた長谷部は落ち着きのある青年のように捉えられがちだが、本来の彼は情熱溢れるエモーショナルな人物で、ピッチの上に立てば勝利のために敵、味方の差異無く感情をぶつける。

今季のフランクフルトのチームキャプテンは長谷部の右横に立つDFのダビド・アブラームだが、チーム最年長の長谷部はキャプテンに始終指示を飛ばしてバックラインを統率する。長谷部は体躯に恵まれていないから大柄な相手FWとの肉弾戦では分が悪い。それを十分に理解する彼は局面でのフィジカル勝負をアブラームや左ストッパーの19歳のエヴァン・エンディカらに任せ、自身は試合状況を的確に読み切り、いわゆる予測で相手の侵入を防いでいく。

■最後方から攻撃面でも貢献

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そして長谷部は攻撃面でもチームに多大な影響力を及ぼす。彼は単純に最も近くの味方ボランチへボールを預けたりしない。ストッパー、ボランチ、左右両サイド、トップ下、2トップと、すべてのポジションの選手の挙動を見極め、相手が最も防御し難いポイントへパスを供給する。長谷部のアクションによって態勢を崩された相手は陣形を修正する必要に迫られ、受け身に回り、そしてフランクフルト自慢の攻撃陣に圧力を掛けられていく。

今季のフランクフルトには強力な3トップが君臨している。ブンデスリーガの得点王争いでトップを走るルカ・ヨヴィッチ、強靭な空中戦能力を誇るセバスチャン・アレ、そして昨夏のロシアワールドカップで準優勝に輝いたクロアチア代表のアンテ・レビッチだ。

3人は三者三様の能力を有しながら、それぞれが有機的なプレーアクションを起こして連携を図って相手ゴールを打ち破っていく。例えばヨビッチは強烈でいて正確なシュート能力があり、わずかなスペースを見出してゴールを射抜く。一方のアレは相手DFとの制空権争いで勝利してターゲットマン役をこなしながら、巧みなボックスワークでボールにコンタクトしてゴールを量産する。そしてレビッチは重戦車のような迫力あるドリブルを繰り出して相手守備網のゲインラインを突破し、その風穴を開ける。

最後尾の長谷部には様々な選択肢がある。1本のパスでヨビッチのゴールをお膳立てしてもいいし、アレの頭に合わせるフィードをきっかけにチーム全体の位置取りを上げることもできる。相手がスペースを空けた場合はレビッチにスルーパスを通して彼の突破を促進させてもいい。シーズンも半ばを過ぎて、対戦相手はフランクフルトの攻撃起点が長谷部であることを認識した。そのため彼は相手の激しいプレス&チェイスに晒されるようになったが、凄まじいアタッキング能力を誇る味方攻撃陣のおかげで打開策を見出し、また味方攻撃陣も頼もしいリベロの下支えを受けて自らのストロングポイントを表出できている。

■35歳にしてキャリアの春。現地でも…

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今年で35歳になった長谷部はブンデスリーガ全体でも6番目の年長者となった。ヨーロッパでも屈指のレベルを誇るドイツ・ブンデスリーガで、この年齢でトップパフォーマンスを維持するのは並大抵のことではない。しかし今の長谷部は積み重ねた年齢と積み上げた経験を活かせる最適なポジションを得られたことで、まさに今、自らのサッカー人生のピークを迎えた感がある。

長谷部がニュルンベルクからフランクフルトへ移籍加入してから約4年半の月日が経った。フランクフルト、正式名称フランクフルト・アム・マインはドイツ国内で五番目の規模を誇る都市だが、国内屈指のハブ空港があることから世界各国の方々が訪れ、国際金融の中心地として各企業が社屋を構える国際的な商業都市でもある。そんな市の特徴に倣うように、アイントラハト・フランクフルトも十数カ国に及ぶ国籍の選手たちが在籍し、そんなチームを国内屈指の熱狂度を誇るサポーターたちが支えている。

ドイツのサポーターは総じて応援するクラブのユニホームを着てスタジアムへ赴き、その背中にはファンショップでプリントしたお気に入りの選手の背番号が刻まれている。昨季までの一番人気はクラブのレジェンド的存在だったFWアレックス・マイアー(今季は2部のザンクト・パウリへ移籍)だったが、今季は大躍進しているヨビッチの8番やレビッチの4番などが目立つ。

正直言って長谷部の背番号20を着る地元サポーターはそれほど見かけない。しかし、それでもこの街における彼の認知度は我々日本人が想像する以上に高い。

先日、市内のホテルで彼のインタビュー取材を行ったが、混乱を避けるために事前にフロントにその旨を告げると、フロントマンは『ハセベはいつ来るんだ?』と言って、背伸びをしながら遠くを見つめ、いつまでも彼の登場を待ちわびていた。

また、たまに街中のパブでフランクフルトの試合を観戦していると、ファン、サポーターがドイツ語で長谷部の話題を語り合っている場面に出くわす。先日はフランクフルトの黒いユニホームを着た中年の男性ふたりが、こんなことを言い合っていた。

「マコトは何歳だっけ?」

「30歳を越えているはずだよ」

「嘘だろ。どう見たって、まだ20代の半ばじゃないか。あのプレーを観てみろよ。あんなに機敏に動く30代のブンデスリーガーなんていないだろ」

ヨーロッパでは、ただでさえ日本人は年齢よりも若く見られる。しかも長谷部はスリムで端正な容姿なので、間違っても35歳には見えない。一方で、長くブンデスリーガを観ているこちらのファン、サポーターたちは長谷部がすでに10年以上も、このドイツでプレーしていることを知っている。だから、よく考えた末に彼らは思いとどまるのだ。

「あれ? やっぱりハセベって、かなりのベテランなんじゃないのか?」と。

■「ミスタークレバー」は愛され続ける

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2008年初頭にJリーグの浦和レッズからヴォルフスブルクに移籍した当時、時の指揮官だったフェリックス・マガトは長谷部を右サイドバックのポジションに据えた。その後、長谷部は日本代表で確固たる地位を築き、国際試合ではチームの中心であるボランチとしての評価を高めていった。しかし結局ヴォルフスブルクでの約5年間でボランチを任されたゲームは限られた。その後、中盤中央でのプレーを熱望してニュルンベルクへ移籍するも、チームは2部降格の憂き目に遭う。

そして挫折を経て辿り着いたフランクフルトではようやく中盤を任されるも、今度は膝のケガに悩まされて納得いくプレーができずに忸怩たる時を過ごした。しかし2019年の今、長谷部は自身にとって究極の役割を見出した。チームの最後尾に君臨し、攻守両面で味方を支え、自らの個性をも発揮する。

行きつけのパブで、知り合いのドイツ人に聞いてみた。

ーーマコト・ハセベはどんな選手?

「ミスター・クレバー。俺は背筋をピンと立てて足元にボールを置き、スッと前を向くマコトの姿が好きだね。その瞬間にアイントラハトの攻撃が劇的に動き出す。それと、守備の際のあの落ち着きを見てみろよ。どんなにスピードがある奴でも彼には敵わない。だってマコトは相手よりも0.1秒だけ早く反応して、必ず相手よりも早くボールに追いついてしまうんだから」

フランクフルトの中心に長谷部誠がいる。街の人々は、そんな彼を自然に受け入れ、畏敬の念を注ぎ続けている。

取材・文=島崎英純

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