2018-19シーズンのCLベスト4から3年の月日を経て、エリック・テン・ハーフ監督率いるアヤックスは再びチーム力をピークに上げてきた。今季のアヤックスはCLグループステージを6戦全勝で突破(オランダクラブ史上初)。オランダリーグでは23節を終えた時点でライバルのPSVに勝ち点5差を付けて首位に立っている。しかも得点70、失点5という驚異的なスタッツだ。
全員がヒーローになれるチーム
(C)Getty ImagesCLベスト4に進出したときのチームも、今のチームも指揮官は同じで、フォーメーションは4-3-3のまま。ポゼッション+ハイプレス+ショートカウンターのハイブリッド型チームであることも一緒だ。しかし、多くの選手が入れ替われば、サッカーのアクセントが代わってくるのは当然のこと。3年前のアヤックスは、フレンキー・デ・ヨングという稀代の天才プレーメーカーがパサータイプのショーネとセントラルMFのコンビを組み、彼らを軸にピッチの至るところにダイヤモンドを作りながら相手チームを翻弄した。
今のアヤックスは、中盤の底にアルバレスという守備能力の高い選手を置くことによって、他の9人のフィールドプレーヤーたちがためらうことなく攻撃に加わることのできる仕組みができている。とりわけCBティンバーがMF、FWのようにプレーし、右SBマズラウイが敵のバイタルエリアに出没してリーグ戦で5ゴールを量産するさまを見ていると、「多様性選手」という枠組みを超えた「どこのポジションでもスペシャリストのように振る舞える選手たち」がアヤックスの育成システムから誕生しているのを感じる。そのプロトタイプが今季は左SBとしてプレーするベテラン、ブリントなのだろう。
10ゴールを挙げてCLグループステージの得点王となったストライカーのアレールは、オランダリーグでも16ゴール6アシストという好成績。左ウイングを務める主将タディッチも7ゴール15アシストと秀でた数字を残している。しかし、今季のアヤックスは全員がヒーローになることのできるチームだ。リーグ戦では実に18人もの選手が得点者として名を連ねており、東京五輪で優勝したブラジル代表の一員、アントニーのようなスター選手のみならずマズラウイ、アルバレス、ブリントといったいぶし銀たちにも試合後の記者会見でスポットライトが当たっているのだ。
「テン・ハーフ監督から『もっとゴールの数字を伸ばせ』と指摘され、今季は積極的にシュートを打つようにしています」(マズラウイ)
「ビチュヘコーチとファネンブルクコーチからマンツーマンの指導を受け、テクニックが向上しました。おかげでトラップ→ターンの動きがスムーズになりました。逆に、僕がチームメートにヘディングを教えてもいいかもしれませんね(笑)」(アルバレス)
3年前のチームは、レギュラーメンバーこそ綺羅びやかな名前がズラリと並んだが、実は控えの選手層は非常に薄かった。しかし、今はローテーションで選手を回しても、チームのレベルを高みで維持することができている。3年前のヒーローの一人ながら、今季は控えに甘んじるタグリアフィコは、冬の市場でバルセロナに移籍するチャンスを逃した不満を抑えてプロフェッショナルに振る舞い、短い出場時間の中で100%の力を出し切ってチームを鼓舞し、ヨハン・クライフ・アレーナが「ニコ(タグリアフィコの愛称)コール」で熱狂の坩堝に化している。
中盤の作り方も選択肢が増えた。今季のアヤックスはアルバレス(アンカー)、ベルフハウス、フラーフェンベルフ(ともにインサイドハーフ)の3人がMFを組んでいた。しかし、フラーフェンベルフが“風邪(実際はコロナの無自覚症状だったと言われている)”により21節のヘラクレス戦を欠場すると、代わりにインサイドハーフに入ったクラーセンがゴールを決めてレギュラーの座を奪ってしまった。
今季のアヤックスの左サイドは、ウイング(タディッチ)とサイドバック(ブリント)の大外に左インサイドハーフ(フラーフェンベルフ)が張り出すことを交えながらビルドアップしている。しかし、右インサイドハーフのポジションをクラーセンが奪ったことにより、フラーフェンベルフがこなしていた役割をベルフハウスが引き継ぐことになった。
フェイエノールト時代に右ウインガーとして活躍したベルフハウスにとって、左サイドのレーンに張り出すポジションの取り方はお手の物。こうしてベルフハウスは「ウインガーのように相手の脅威になる左インサイドハーフ」という新境地を拓いた。
一方で、フィジカル、テクニック、洞察力に優れたフラーフェンベルフをベンチに置いておくのももったいない。テン・ハーフ監督は、アルバレス、クラーセン、ベルフハウス、フラーフェンベルフの4人のMFのうち、どの3人をチョイスしてベンフィカ戦のピッチに送り出すのか注目だ。
虎視眈々
(C)Getty Imagesベンフィカが調子を落としていることもあって、オランダ国内では「アヤックス優勢」の声が多い。直近のウィーレム2戦(1-0でアヤックスの勝利)後、テン・ハーフ監督が「50・50の勝負になる」とベンフィカ戦を展望したところ、サッカートーク番組でファン・ホーイドンク氏が「サッカーの監督は自身のコメントで敵チームの戦力を高めてしまっている。今度の勝負は80・20でアヤックス優勢だ」と噛み付いた。しかし、過去2シーズン、アヤックスは欧州の舞台(CL・EL)で勝つべき相手に苦渋をなめている。監督インタビューは決してトークショーではないのだから、テン・ハーフ監督が「50・50」と慎重に語るのは当然のことだろう。
楽しみなのは、ベンフィカのストライカーを務めるウルグアイの新星ダルウィン・ヌニェスの突破とシュートを、アヤックスの守備陣がいかに封じ込めるかというところ。ティンバー(179cm)とマルティネス(175cm)の小兵CBコンビは「2人のピットブル」と呼ばれるほど、一度相手に食らいついたら離さない。しかし、サイドを抉られてからの低いクロスに対する弱点を持っており、ベンフィカとしてはそこを突きたいところ。
ドルトムント相手に4-0で快勝した試合後、テン・ハーフ監督は「いつまでも人びとの記憶に残る歴史的なもの」と語った。中には「トータル・フットボール2.0」と名付けたメディアもあった。この先、アヤックスはCLでどこまで行くのだろうか。
2月21日付け『フォルクスクラント』紙の記事で、タディッチ主将はこう語っている。
「3年前のアヤックスはCLに出ることを目標にしていた。今季は、自分たちはCLで勝つことができるんだと信じないといけない。これが今のチームのメンタリティだ。もちろん、アヤックスは優勝候補の本命ではない。しかし、今残っている16チームすべてにチャンスはあるんだ。優勝する可能性の大小はチームごとによって違う。しかし、自分たちこそがトロフィーを勝ち取るチームなんだと信じないといけない。ここ数年、アヤックスが負けた試合でも、相手の方が間違いなく勝っていたというチームはなかった」
ダークホース。それが今季のCLに於けるアヤックスのポジションだろう。


