■どんな状況でも勝ち点3を求め続ける
思えば湘南ベルマーレは、節目の試合で引き分けたことが少なくない。たとえば昨季、J2優勝を決めたファジアーノ岡山戦は1-1だった。勝ち点101を積み上げるなど圧倒的な成績でJ2初制覇を果たした2014年も、J1昇格を決めた京都サンガF.C.戦、シャーレを掲げた東京ヴェルディ戦ともにドローだった。
ただし、最初から勝ち点1を狙いにいく戦いは彼らの辞書にない。引き分けはあくまで勝利を目指したうえでの結果であり、どんな状況においても目の前の勝ち点3を求め続けてこそ湘南のいまはある。
16位の名古屋グランパスとアウェイで対戦する今季のJ1最終節も、その姿勢は変わらない。現在14位の湘南と15位のサガン鳥栖、そして名古屋と、三者が勝ち点40で並びJ1参入プレーオフ出場圏に足をかけるなか、得失点差でリードする湘南は引き分け以上でJ1残留が決まる。しかし、「自分たちが勝つことに集中したほうがいい」と曺貴裁監督は週末を見据える。
「他チームの状況など周りはいろいろ言うけれど、プレーしながらテレビを見るわけにはいかないし、勝てばなにも考える必要はない。いままでの試合と同じく勝ち点3を取る準備をしなければいけない」
■指揮官が語る「判断の大切さ」
名古屋との前回対戦は3月までさかのぼる。互いに特徴を傾けた一戦は両者譲らずスコアレスドローで決した。それから8カ月余り、目下22ゴールを挙げ、得点ランクトップに立つジョーや、チームトップのアシストを記録するガブリエル・シャビエルなど、名古屋はタレントに事欠かない。くだんの2014年に湘南の3バックを牽引した丸山祐市をはじめ、中谷進之介や前田直輝、相馬勇紀など新たな才も加わっている。
相対する湘南にとって、浦和レッズを2-1で下した前節の戦いは、ひとつの道しるべとなるだろう。彼らはトレーニングやミーティングを通じてボールを奪う守備や素早い攻守の切り替えといった自分たちの基準をいま一度見つめ直し、90分を通して突き詰めた。
果たして彼らは限られたチャンスを決め切り、守っては1失点も粘り強く身を挺して、リーグ戦5試合ぶりの勝利を手繰り寄せたのだった。指揮官は残留が懸かる大一番を最終戦で経験できることをポジティブに捉えている。
「ここからブレたチームはいい結果を得られないと思うし、自分たちの基準や自分たちがやってきたことを信じられるかどうかが大事だと思っている。なにより、シーズンの最終節までこういう経験ができることは我々のチームにとって非常にプラス。いままでとはまた違った経験が選手を伸ばすと思う」（曺監督）
今週オフ明けのミーティングでは、ラグビーの映像を用いながら判断の大切さを選手たちに説いたという。
「ジャッジすること、判断することはスポーツのなかで絶対なくしてはいけないもの。それがなければ面白くない。前にとりあえず蹴っておけばいい、ではなく、判断することを怖がらないでプレーしてほしい」
■曺監督「残留すれば終わりではない」
▲名古屋戦の予想フォーメーション
そうしてスタートしたトレーニングは常と変わらず前向きな意欲に満ちていた。週末を踏まえて抑えることもなければ、接触プレーも厭わない。基準は揺るがず、バチバチと音が聞こえてきそうな激しいぶつかり合いが果たされる。
「最高です」と変わらぬ温度に山根視来が笑えば、岡本拓也も「こういう練習を楽しくやれるチームはなかなかないと思います」と白い歯を見せた。
ボールを奪う守備を志向していても、ときにゴール前を固めなければならない時間帯があるように、状況に応じた戦いはもちろん必要だ。心が折れるほどの苦しみを含め、指揮官のもとで様々な経験を糧に育んだ勝つための戦いの幅が今節も活かされよう。
そして曺監督は、週末を思い、諭すようにこう口にした。
「大事なのは、この幕引きが次に繋がるスタートだということ。残留すれば終わりではないし、その先に見えるものが何なのかを理解して選手たちにはプレーしてほしい。残留争いといったところだけに目を向けずに、慌てず堂々と戦いたいと思います」
これまでもここからも、サッカーと向き合う日常は続く。今季の締め括りとともに、さらなる高みへの一歩を彼らは踏み出す。
文＝隈元大吾
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