「人生で最も悲しいことは、才能を無駄遣いすることだ。自分がしてきた選択は、永遠に自分の人生につきまとう」
これは、ロバート・デ・ニーロ監督の名作「ブロンクス物語/愛につつまれた街」のラストシーンで、若き主人公カロジェロ・アネロが向き合った“人生における真実”だ。
この人生の教訓を誰よりも理解しているサッカー選手は、アントニオ・カッサーノだろう。35歳のカッサーノは、サッカー人生においていくつもの恐るべき選択をしてきた。中でもその最たるものは2006年1月にASローマのチームメイト、フランチェスコ・トッティのアドバイスを無視してローマを去り、レアル・マドリーへ移籍したことであろう。カッサーノはその翌月、『コリエレ・デロ・スポルト』紙のインタビューでこう話している。
「トッティは僕に言ったんだ。『アント、いいか。世界のどこか別のところへ行って100%平穏でいられなくなるくらいなら、年収は減っても幸せでいるほうがいいんだぞ』って。でも僕はレアルからのオファーに舞い上がっていたんだ。もしあの時フランチェスコ(・トッティ)の言うことを聞いていれば、あと10年か15年はローマで彼と一緒にプレー出来ていたんだろうな」
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Getty Imagesしかしカッサーノはそうしなかった。その結果、スペインで過ごしたたった18カ月の間、その時間の大半を「女」と「食べ物」に溺れながら過ごすこととなる。これは彼が最も愛するものだ。彼は、当時の出来事を生々しく振り返る。
「マドリーではホテルのウェイターと“友達”になったんだ。彼の仕事は僕がSEXをした後に、僕のもとへ3つか4つのお菓子を運ぶことだったよ。彼が階段を上がってお菓子を持ってくると、僕は女を奴のほうへ追いやって、そのお菓子と交換したんだ。奴は女を連れて行き、僕はお菓子を食べる。SEXした後に甘いものを食べるなんて、まさにパーフェクトな夜だよね」
だが、誰が見ても明らかなように、その食事は試合前のものとしては理想的ではなかった。そしてそれは当たり前のごとくチーム関係者を激怒させ、カッサーノは体重が1グラム増える度に罰金を払うこととなったのだ。マスコミからは、「ゴルディート(おデブ)」というあだ名までつけられてしまった。
この懲罰によりカッサーノは多額の金を支払うこととなったが、それでも誰も彼を止めることはできなかった。そして、彼はレアルのユニフォームを着て活躍することなくスペインを去る。リーガ・エスパニョーラに出場したのは19試合、わずか2得点しかあげられなかった。
少年時代、カッサーノはプッリャ州バーリという商業都市の石畳で技術を磨き、素晴らしく独創的なドリブルを手に入れた。そこから数十年が経った今、自暴自棄な帰還を果たすこととなるとは当時の彼でさえも想像していなかっただろう。
「彼は、信じられない才能の持ち主だった」
そう、レアルの伝説のキャプテン、ラウール・ゴンサレスは言っている。
「あんな選手は見たことがなかったね。彼が人生の別の時期にレアルに来ていたら、おそらく違った結果になっていただろう」

しかし本当にそうだろうか。カッサーノはサンプドリア、ACミラン、インテル、パルマで成功を謳歌し、イタリア代表でも活躍した。17歳の時にインテル戦で見る者を驚愕させるゴールをあげ、桁外れの才能を見せつけたカッサーノは、その後ローマでトッティとピッチの中でも外でも素晴らしいコンビとなった。そしてユーロ2012では、マリオ・バロテッリとの奇妙で効果的なパートナーシップを確立し、イタリアを決勝進出に導いた。カッサーノとバロテッリは、非常に気の合う同志になったのだ。
だが、カッサーノの絶頂期はそう長くは続かなかった。素早いフットワークで相手ディフェンダーを翻弄することはできても、長く好調を維持することは全くできなかった。そして今シーズン、彼は昨年セリエBから昇格したばかりのエラス・ヴェローナに移籍することを決意したが、そこでもまたひと悶着を起こす。
今年の4月、カッサーノが『ガゼッタ・デロ・スポルト』紙にこう語っている。
「僕は誰にも似ていない。2カ月後には復活するんだ。目にもの見せてやるよ」
ある意味では彼の主張は正しかった。カッサーノは唯一無二の人間だ。彼のように予測できないことを成し遂げる能力を持ったものは他にはいない。7月10日、カッサーノは約束通りヴェローナでサッカー人生をリスタートさせた。だが、プレシーズンの親善試合に2試合出場した8日後、まさかの引退宣言をしてセンセーションを巻き起こすこととなる。
しかしその数日後、カッサーノの妻がSNSで「カッサーノは別のクラブでサッカーを続ける」と暴露してさらに事態をややこしくする。ところがその暴露から数時間後には、カッサーノが「ジェノバにある自宅で家族と過ごす時間を増やすため、とにかく引退するのだ」と断言し、これ以上ないほどに事実がうやむやになった。ヴェローナのマウリツィオ・セッティ会長が「あいつの頭はどうかしている」と批判したのも、もっともだ。
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Getty Imagesだがそれでも冒頭の「ブロンクス物語」で主人公が学んだ通り、人間は「どんな人でも、ありのままを受け入れなければならない」のだ。バーリ出身の貧しい少年であったカッサーノは、サッカーの才能には溢れてはいるが、ありのままの受け入れ方が少々違う。自暴自棄の傾向がかなり強い人物なのだ。
かつてアンドレア・ピルロが嘆いていた言葉が心に染みる。
「カッサーノは700人以上の女性と寝たと言っているけど、二度と代表チームに選ばれないとしたら彼は幸せになれるのだろうか?」
その問いに答えを出すのであれば、残念ながら「なれない」が正解だ。カッサーノの最大の敵は、常に自分自身である。「もっとよい人生が歩めなかったのは、自分自身のせいだ」とかつて彼は告白している。少なくとも自身でそのことを自覚しているようだ。
「僕はサッカー人生において、自分の実力の50%しか発揮していなかったんだ。でも自分のベッドを作ったのは自分自身だからね。だから僕はそこで寝るしかないんだよ」
人生において受け入れがたい誘惑や困難をそれでも「受け入れる」ことは大切ではあるが、それに「立ち向かう」ことも時には必要なのではないだろうか。特にカッサーノの人生においては。なんにせよ、全てのチャンスを失った今、彼に何を言っても後の祭りだ。
文=マーク・ドイル/Mark Doyle
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