ニュース ライブスコア
ラ リーガ

地獄から這い出した先にあったもの――。幸せな日々過ごすアラベス、乾貴士という誕生日プレゼント【連載:リーガは愛憎譚に満ちて】

15:00 JST 2019/02/10
2019-02-09-alaves-3

アラベスが創設98年目を迎えたのは1月23日。乾貴士が今季限りの期限付き移籍で加わることが発表されたのは、その翌日のことだった。彼の到着は、まるで誕生日プレゼントのようだ。

日本人MFにとってビトリアのクラブは、エイバル、ベティスに次ぎ、スペイン第三の家となる。彼はこのイベリア半島にある国で、北のバスクから冒険を始め、南のアンダルシアへ移り、またバスクに戻ってきた。エイバルから車で30分のところにあるバスク州都で、新たな挑戦に臨むのだ。

陽気な人々が多く、いつだってお祭り騒ぎのようなアンダルシアの州都セビージャと比べれば、ビトリアはとても落ち着いた都市である。その人口は25万2000人。バスクではアトレティック・クラブが拠を構えるビルバオ34万5000人に次ぐ多さで、18万6000人が住まうレアル・ソシエダのサン・セバスティアンを上回る(ちなみにエイバルは2万7000人)。ここビトリアには100万平方メートルの公園や庭園がいくつも存在し、多くの人々が緑の中での散歩は趣味の一つとしている。2012年には環境保護や持続可能な都市づくりを行っていることへの評価から、欧州グリーン首都賞も受賞した。

アラベスの本拠地メンディソロサは、そうした緑に囲まれた地域の一つに存在する。そこではもう、乾がアルビアスール(白青)のユニフォームを着て躍動する姿に期待感を膨らませている。彼は100年近くの歴史を誇るビトリアのクラブにとって、史上初の日出ずる国の選手となるのだ。

■財政難、リーガ2部Bの地獄に悶えた日々

▶ラ・リーガ観るならDAZNで。1ヶ月間無料トライアルを今すぐ始めよう

アラベスは現在、その歴史の中でも豊潤な、幸せに包まれた日々を過ごしている。イムノの「力強さはまたも生まれる」という一節の通りに。彼らのリーガ・エスパニョーラ1部での冒険は3シーズン連続となり、通算では14シーズン目だ。リーガ2部B(実質3部)まで落ちて、奈落の底から空を見上げていた10年前は、もはや遠いの過去のことである。あの頃のクラブは、財政面で窮地に陥っていた。会長でありながらも、あの手この手でベンチに座り監督の役割をも努めようとした、あのディミトリー・ピーターマンの時代に膨れ上がった借金で首が回らなくなっていたのだ。

アラベスは2007年にレイ・コンクルサル法(日本の会社更生法に近い)を適用。そして2011年、バスケットのヨーロッパ最高峰リーグに参加するサスキ・バスコニアも保有するバスコニア・グループに買収されて、地獄を脱する糸をつかんだ。株式83%を取得したバスコニア・グループのホセアン・ケレヘタが会長を務めるようになると、チームは2013年にリーガ2部復帰を達成――終わりの見えぬ地獄の日々を、ついに終えたのだった。それが、どれだけの喜びであったのか。アラベスのソシオで、20歳にも満たぬ内に同クラブに関する本を2冊出版した作家ジェライ・マルティン・ペレスは、こう綴っている。

「僕たちはどん底で、強烈な寒さに凍えていた。パラシュートも身に付けず、急降下していくクラブを目にしながら。アラベスは消滅に近づきながら、夏には牛が草を食べるピッチでプレーして、そこで昇格のチャンスが手の中からこぼれていった。しかしながら、どん底で4年を過ごした後、ついに2部へと復帰を果たしたのだ」

「僕たちはいつだって、大胆にも夢を見ていた。が、その夢はいつだって、この手からすり抜けていった。しかし、最後には誇りを持ってこう言えるんだ。僕たちは“栄光はまたも生まれる”ところを目にしたのだ、と」

■地獄から這い出した後にあったもの…コパ・デル・レイ決勝進出、リーガ上位進出

▶ラ・リーガ観るならDAZNで。1ヶ月間無料トライアルを今すぐ始めよう

それから3年後、アラベスは現ヘタフェ指揮官ホセ・ボルダラスの手によって1部の舞台まで駆け上がった。テレビ放映権が各クラブの個別契約から一括管理で販売されるようになり、たとえスモールクラブであっても莫大な収入が手にできる1部で、アラベスは力強い一歩を踏んでいる。昇格したシーズン、マウリシオ・ペジェグリーノが率いるチームは、コパ・デル・レイの決勝まで進出した。決勝でバルセロナに敗れ去りはしたものの、王者を決める試合に臨めたというのは、偉業のほか何物でもない。アラベスにとっては2000-01シーズンのUEFAカップ以来、史上2度目の決勝進出だったのだから。あのUEFAカップ決勝ではリヴァプールと対戦して、今では馬鹿げた方式でしかないゴールデンゴールにより4-5で敗れた。しかしながら先のコパ同様、圧倒的な強者(ビッグクラブ)にタイトルを占有される運命にある現代フットボールにおいて、慎ましきスモールクラブが最後まで抵抗する様は、スペイン全土に感動を与えたものだった。

とはいえ、あのコパ決勝進出という甘い蜜は、その次の2017年夏の補強を怠慢にするものでもあった。2017-18シーズン、アラベスは一気に不調に陥り、11月終了時点の成績が2勝11敗と負けに負けを重ねて、残留圏と勝ち点6差で最下位に位置するなど降格が確実視された。そこで招聘されたのが、2002-03シーズンに選手としてアラベスでプレーし、そこでスパイクを脱いだアベラルド・フェルナンデスである。スポルティング・デ・ヒホンを1部昇格に導き監督としても名声を手にした彼は、集中治療室で回復の見込みがないとされていたアラベスの一命を取り留めただけでなく、瀕死であったのが嘘のような生命力にあふれる現実を生み出した。彼が率いるチームは勝利に勝利を重ねて、勝ち点47の14位でシーズンを終えたのだった。どれだけ楽観的なアラベスのサポーターであっても、12月の段階でこうした残留劇を演じるなど、決して予想できなかったはずである。

そして今季、アラベスは昨季の勢いそのままにリーガ1部で躍進を遂げ、第22節終了時点で7位に位置している。アベラルドがアラベスで実践するプレースタイルは、それこそ危機に瀕していたアトレティコ・デ・マドリーを率い、クラブ史上最高の黄金期をもたらしたディエゴ・シメオネの初期のスタイルに似寄る。使用するシステムは4-4-2で、激しさも伴う強固な守備が何よりの特徴。彼らのボール奪取のエリアは相手ゴールから平均して80メートル離れており、そこからボールを奪取すると、ダイレクトプレーを中心として相手のゴール前まで一気に攻め込む。ポゼッション率はリーガで19番目に低く、ゴールまでの平均タッチ数は2.4回と、まさにゴールまでの“最短の道”を選択するチームだ。

■乾に求められる役割は?

▶ラ・リーガ観るならDAZNで。1ヶ月間無料トライアルを今すぐ始めよう

アラベスはこの冬の移籍市場でイバイ・ゴメスをアトレティック・クラブ、ルベン・ソリアーノをバレンシアに放出。左サイドハーフのジョニーはアベラルドにとってアンタッチャブルであり、乾はイバイとルベンの代わりに右サイドハーフに据えられることが濃厚だ。ただし、そこには懸念材料も存在している。例えば、乾の恩師でもあるエイバル監督ホセ・ルイス・メンディリバルは、乾のサイドの適正についてこう語っていた。

「右利きのタカは、左サイドの方が快適にプレーできる。一応、右サイドでも何度か起用したことがあったよ。そっちでも一応プレーはできるが、素晴らしいクロッサーというわけでもないからな。クロスの質はあまり良くないし、やはり持ち味はドリブルだ。前を向いてボールを運ぶスピードがずば抜けている。ほかの選手は、彼のようにボールを受けてすぐ反転することができない。タカの最大の武器は、反転からトップギアに入るまでのスピードにある。相手選手はそのスピードに対応し切れない」

右サイドでプレーする乾は、カジェリ、そしてエイバル時代の元チームメートであるボルハ・バストンの2トップにイバイのような質の高いクロスを送るというタスクもこなさなければならない。このチームの攻撃における生命線は、2トップにいかに良質なボールを届けられるかにかかっているのだから。もちろん、メンディリバルの言うような持ち味のドリブルはアラベスにとって新たな武器になり得るものだし、攻撃が逆サイドから展開された場合には、フィニッシュも請け負うことになるだろう。

兎にも角にもアラベスと彼らのサポーターは、乾がやって来たことに胸を躍らせている。彼はスペインのフットボール好き(その比率は他国とは比べ物にならない)であれば誰もが「素晴らしい選手」であることを知る、ここで地位を確立した存在なのだから。たとえベティスで苦労したとしても、そうした評価が簡単に崩れるわけがない。

乾貴士が地獄から這い上がり、天空を駆けるアラベスの新たな翼になることを、もれなく私も期待している。

文=ホセ・ルイス・デル・カンポ(Jose Luis del Campo)/スペイン『マルカ』紙、アラベス番
翻訳・構成=江間慎一郎

▶ラ・リーガ観るならDAZNで。1ヶ月間無料トライアルを今すぐ始めよう

【DAZN関連記事】
DAZN(ダゾーン)を使うなら必ず知っておきたい9つのポイント
DAZN(ダゾーン)に登録・視聴する方法とは?加入・契約の仕方をまとめてみた
DAZNの番組表は?サッカーの放送予定やスケジュールを紹介
DAZNでJリーグの放送を視聴する5つのメリットとは?
野球、F1、バスケも楽しみたい!DAZN×他スポーツ視聴の“トリセツ”はこちら ※提携サイト:Sporting Newsへ