4年に一度の祭典が、間もなくやってくる。
『Goal』はFIFAワールドカップの開幕を前に、開催国ロシアのレジェンドたちにインタビューを行った。全世界の目がロシアに集まる特別な1カ月。レジェンドたちの現在や、ワールドカップに抱く期待、願い、思いとは?
「スペシャルウィーク・ロシア」の第2弾はオレグ・ロマンツェフ。かつてはソビエト連邦の代表としてプレーし、その後は指導者として活躍。スパルタク・モスクワの監督としてリーグ優勝8回、そして1994~96年、1999年~2002年と2度に渡ってロシア代表の指揮官を務めた。ユーロ1996や2002年の日韓ワールドカップなどビッグトーナメントでも指揮を執った名将は、今夏に行われる母国開催のW杯をどのように見ているのだろうか。
■サッカーから離れ「今は一人のファンとして」
――調子はどうですか。監督業を引退してからどのようにして過ごしているのですか?
サッカー人生に疲れたんだよ。だから引退したんだ。監督から引退してすぐは以前一緒に働いた人たちからアドバイスを求められたときだけアドバイスしていたけど、今は本当にサッカーとは関わっていないよ。
――サッカーやグラウンドが恋しくはならないですか?
私は人生をサッカーにささげてきたから恋しくないといえば嘘になるね。でももう私の時代はだいぶ前に終わったし、サッカーに関わる仕事をする元気も願望ももうない。ただ今は一人のファンとしてサッカーを見て楽しんでいるよ。
■指導者として海外挑戦をしなかった理由
――あなたは90年代に優秀な成績を収めた監督でした。今の監督たちについてはどう思われますか?
監督としての質を評価するためには、必ずその監督が行う練習に参加しなければならない。どんな設備を使っていて、どんな考え方を選手に伝えているか知らなければならない。でも、今の私はそれらを知ることができない。そもそも根本的に監督というのは何かイノベーションをチームにもたらせるようにならなきゃならないんだ。でも、イノベーションというのはサッカーの世界で見るとさほど多いものではないんだ。特にロシアサッカーにおいてはね。
――90年代にあなたが指揮したスパルタク・モスクワは国際大会において素晴らしい成績を収めました。1991年(チャンピオンズカップ)と1993年(カップウィナーズカップ)では優勝に近づきましたが、あと一歩足りず、後悔はありますか?
もちろんだ。あれは運がなかったよ、非常に不運だった。客観的に見ても主観的に見ても優勝できない理由は確かにあったけどね。本当に監督人生においての一つの恥だよ。あの試合では勝つべきだったよ。でも優勝できない運命だったんだよ。本当に残念だった。
――あなたは監督人生をロシアの中だけで終えましたね。他の国で指揮を執るチャンスはなかったのですか?
あったよ。たくさんあった。でも全部断ったよ。ときには非常に魅力的なオファーもあったんだけどね。君はフランス人だよね。そしたら自分の国、つまりフランスをもちろん愛しているだろう。そして私はロシア人だ。シベリアで生まれ、シベリアで育った。本当に自分の国を愛しているんだ。だから他国からのオファーを断り続けた。何回もロシアから出ようとしたが、そのたびにホームシックになるんだ。そのせいでどこにも行けなかったね。でも少しの後悔もないよ。
――最近新しく出てきたロシア人監督たちのことはどう見ていますか? ドミトリー・アレニチェフ(FKエニセイ・クラスノヤルスク指揮官)、セルゲイ・セマク(ゼニト指揮官)、イェーゴリ・チトフ(スパルタク・モスクワコーチ)、イーゴリ・シャリモフ(クラスノダール指揮官)…ほとんどがあなたのかつての教え子たちです。
私が思うに、彼らにはしっかりとチャンスを与えてあげてほしい。そのチャンスとはたった半年だけなどではなく、長い目で見て彼らを信頼するということだ。彼らが良いビジョンを持っていて、頭が切れると思ったなら、才能を証明できるようにチャンスを与えてほしい。2、3試合負けたくらいでクビにしないでほしい。でもこればっかりは今日のサッカー界においてはオーナーの考え方次第だと思う。オーナーたちは彼らを信じ続けることができなかったとしても、私の教え子たちは才能にあふれていると思っているよ。

――教え子たちの中で良いサッカーをしていると思う人はいますか? また、彼らの戦術の中にあなたが教えてきたことは生きていますか?
みんな良いサッカーをしていると思うよ。私が好んだ魅力的なサッカーをしていると思うよ。それは美しくて、もちろん勝てるサッカーだよ。今、名前が出てこなかった教え子たちも自分のアイデアを実行しようとして苦労している。彼らは監督をするのにベストな環境ではないかもしれないが、なんとか結果を残そうと頑張っているんだ。彼らの状況は私が監督をしていた頃とは全く違う。私は選手を選ぶことができたが、彼らはできない。与えられた選手を最大限生かすことしかできないんだ。違いが分かるかい? 私は足りない選手は連れてくればよかったけど、彼らは与えられた選手たちでなんとかするしかない。選手を選ぶには視察しなきゃいけないから長い時間がかかる。いろんなところに行っていろんな試合を見に行って初めて選手を獲得するんだ。でも私と違って彼らはもっと大変だ。不運なことだけど、私よりもっと難しい仕事を任せられていると思う。
Getty Images――ロシア人として海外で指揮を執ったことある監督は片手で数えられるくらい少ないですが(レオニード・スルツキーなど)、どうしてロシア人は国境を越えて指揮を執らないのでしょうか?
それは私じゃない人に聞いた方がいいね。君は海外のサッカーをよく知っているだろう? 私はロシアのサッカーしか知らない。フランス、ドイツ、イングランドのサッカーはただのファンとして楽しんでいるだけだからよく知らないしね。だからこの質問には答えられないよ。きっと君の方が答えられると思うよ。
――スパルタク・モスクワでの教え子の中で誰が一番テクニックを持っていましたか? フョードル・チェレンコフ? イリヤ・ツィンバラル? それともチトフ、いやアレクセイ・モストヴォイですか?
その4人はみんなテクニックがあったよ。君が選んだのは歴史に名を残す素晴らしい選手たちだからね。でも君が言う「テクニックがある」というのが一体何を意味しているかによって誰を選ぶかは変わるね。狭いスペースなのにドリブルで2、3人抜いてしまうようなテクニックであればもちろんモストヴォイだ。でもボールを運べて決定的なパスを出せるという意味ならばアレニチェフかチトフだね。チェレンコフはどちらにも当てはまるかな。でもきっと君が意味する「テクニックがある」というのに最も当てはまるのはモストヴォイだろう。
■ロシア代表はリーダー不足?
Gettyimages――今のロシア代表をどう見ていますか。
私から見るといくつかの問題を抱えているように思うよ。もしかしたらこれは問題でもないのかもしれないけど、今の代表チームにはリーダーが不足しているね。ほら、フランスでいう(ジネディーヌ)ジダンや(ミシェル)プラティニのようにその人が中心でチームが作れるような選手が不足していると思うよ。
――デニス・グルシャコフ(前キャプテンだが、今大会の最終メンバーには選ばれなかった)はリーダーではないですか?
彼は今のチームのキャプテンかもしれないけど、きっと私が彼はジダン級ではないと言ったら納得してくれるよね。遠く及ばないと思うよ。彼はきっとテクニックで引っ張っていくようなリーダーではなくて、監督にとってメンバーから外せなくなるキャプテンだと思う。でもこんなことを言うと本当の意味でその人が中心になってチームができあがるような選手は(ディエゴ)マラドーナくらいしかいないのかもしれないね。彼が出てきたときは本当に彼が中心となって残りの人たちが自然に決まった。選手たちもそれに文句を言わなかったんだ。もしそんな選手が一人や二人チームにいたならばすべてがうまくいくのにね。でも現実はそのように願うだけでそんなことは起こらない。そんな選手が現れてほしいというただの私の願いだよ。
――そのようなリーダーがいるかいないかは、どちらが良いと言い切ることはできないということですね?
もちろんだよ。どちらが良いということではない。サッカーは一人ではなくチームで勝つスポーツだよ。まあでも、どちらにせよマラドーナがロシアに現れることはない。
――今大会のワールドカップでのロシアが入ったグループAは一番突破の予想をするのが難しいかもしれません。ロシアが突破する可能性はどれくらいだと思いますか?
そうだね、ロシアは難しそうなグループに入ったと思うよ。決して強いとは言えない、難しいグループだね。近年世界中でサッカーは進歩を遂げている。アフリカやアジア、中央アメリカも南米もだね。良いサッカーをしているし、進歩を遂げてきている。私は初戦に全てがかかっていると思う。ほかの3チームも平等に突破できるチャンスがある、だからこそこのグループは難しいんだ。みんな平等にスタートするんだ。だからこそ初戦で勝ち点をもぎ取らなきゃいけない。きっとグループリーグ最終戦ではどこかのチームがすでに脱落しているはずだ。ロシアにアドバンテージはない。なぜならサウジアラビアもエジプトもウルグアイもきっと同じことを考えているからだ。実際このグループはどのチームが突破するか全く見えない唯一のグループだと思う。
Getty Images――では現ロシア代表監督のスタニスラフ・チェルチェソフについて話しましょう。彼はあなたが監督をやっていたときの教え子ですね。選手時代にリーダーや監督になる素質があると思いましたか?
監督のときはわからなかったな。何も見つけられなかった。私にとって彼は一人の選手であり、チームのキャプテンであっただけだ。彼の印象は練習が終わった後もずっと居残り練習をやっていたことかな。いくつもあった練習をいつもしっかり覚えていて、フィードバックをくれて少しずつさらに良いものにしようとしていたね。彼は言うなれば完璧主義のゴールキーパーだった。敵のチームの選手がPKでどっちに蹴りたがるかすべて覚えていた。彼はいつもノートを持っていて全てをメモしていた。この選手はどっちにPKを蹴ったとか全てね。ナイスガイでもあるし、彼の成功を願っているよ。
――1990年代のロシア代表は今のチームよりずっと強いと思うのですが間違いでしょうか?
このような論議には参加したくない。私たちのチームは確かに強かった。けど勝てなかった。私たちの大きなミスのせいだよ。そういったすべてのミスをずっと悔やみ続けているんだ。私たちの頃の代表はヨーロッパチャンピオンには劣らない強いチームだった。でも何かがうまく行かなったんだ。すべては私のミスだ。自分の仕事をできなかった。でもあの頃のチームは間違いなく今より強かった、それは間違いないよ。
――ロシアでは、他のスポーツと違ってサッカーは良い結果を残せず苦労していると思います。何が原因だと思いますか。
正直よくわからないけど、きっと時間が必要なんだと思う。もしかつてのソビエト連邦のようにロシア、ベラルーシ、カザフスタンや、アルメニア、ウクライナといった国々たちからいい選手を引っ張ってこられたのなら、すべての大会でいい成績を残せると思う。でも今はロシアだけなんだ。ロシアが勝つためにはもっと時間が必要だと思う。これが私の考えだよ。
――最後に監督としての最高と最悪だった記憶を教えてください。
最高の記憶はフランス代表にスタッド・ド・フランスで3-2で勝ったときかな。1999年に私が代表監督をしていたときだ。クラブでは1991年のサンティアゴ・ベルナベウでレアル・マドリードで3-1で勝利した試合が一番かな。逆に最悪な記憶はユーロ2000予選の最終節ウクライナ戦での残り数分にフィルモノフがオウンゴールを献上してしまったときかな。その数週間前には当時ワールドカップ王者のフランスに勝って1位で突破できそうだったのにこのオウンゴールで3位になってしまい本戦に出場できなかったんだ。悲しい記憶だね。
インタビュー・文=ナイーム・ベネドラ/Naim Beneddra

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