わずか19歳にして、ジャンルイジ・ドンナルンマは、ACミランの熱狂的なファンの怒りに悲しいほど慣らされて育ってきた。それを断ち切ったのは、昨年の12月13日の夜だった。
サン・シーロで行われたコッパ・イタリアでのエラス・ヴェローナ戦で、ゴールへ向かって走ったドンナルンマは、クルヴァ・スッド(南側ゴール裏のスタンド席)に掲げられたバナーに気づき、一瞬立ちすくんだ末に涙を流した。
「年間600万ユーロで寄生する兄との契約で、倫理的な嫌がらせだと?今すぐ出ていけ、オレたちの我慢もここまでだ」
ミランの主将レオナルド・ボヌッチは、10代のチームメイトをなんとか慰めようとしたが、ドンナルンマの涙は止まらなかった。
最後まで集中を切らさず無失点に抑えたものの、これほどあからさまな敵意の中でシーズンを乗り切ることができるのか?その後を不安視する者は多かった。
ドンナルンマは子どもの頃からミランのファンで、パオロ・マルディーニ以来、ミランのアカデミー出身として最も将来を嘱望される選手だった。しかし、一連の退団報道でサポーターの怒りを買い、中傷されたのである。
ジェンナーロ・ガットゥーゾ監督は、掲げられたバナーについて「あれはひどい。彼が悪者のように書かれていたが、間違いだ」とサポーターの行為を批判。19歳GKを完全に擁護した。
Getty/Goal Composite事実、契約延長に際して「倫理的な嫌がらせ」を受けたとミランを糾弾したのは、ドンナルンマではなかった。それは彼の代理人、ミーノ・ライオラである。この男は、顧客であるドンナルンマは「サン・シーロを去るべきだ」と今でもおおっぴらに発言している。
しかし、当のドンナルンマは16歳でプロデビューのチャンスを与えてくれ、昨年の夏兄のアントニオと再契約したクラブであるミランに残りたいと言い続けているのだ。
ドンナルンマは十分に承知していた。ミランがたった1ヶ月前に拒否した兄の復帰を認めたのは、7月11日に自身の契約を2021年まで更新したことに対するあからさまな対価とみられていることを。最終的に自分の未来をミランに預ければすべては許される、と。そして、夏の移籍市場で最も長く続いたドタバタ劇に決着がつけば、サン・シーロでの初めての試合でファンに温かく迎え入れてもらえ、自分もそんなファンに感謝の気持ちを示せる、と。
Getty/Goal Compositeヨーロッパリーグ(EL)予選のFCウニヴェルシタテア・クライオヴァ戦の後、若き守護神は「予想以上にファンの人たちが僕を受け入れてくれて嬉しい。僕はこのユニフォームにすべてを捧げると誓う」と、ミランへの忠誠心を誓った。
「僕がミランで一番のファンであることは、みんなが知っている。僕にとって、あんなことは何でもない。ミランのユニフォームを着ていることに誇りを持っている」
さらに「僕の周りで騒動が起こってしまって申し訳ない」と、ファンに謝罪さえしている。自身の将来をめぐって炎上したインスタグラムのアカウントは消去までした。
それでも、遠慮無用なライオラが、予想どおりミランのスポーツ・ディレクターであるマッシミリアーノ・ミラベッリとの「闘いは終わらない」と発言したため、ファンの不満はまったく消えることなく当然ながらドンナルンマの苦しみは続いた。
契約紛糾の絶頂期には、ポーランドで開催されたU-21のヨーロッパ選手権でイタリア代表としてプレーした際おもちゃのコインが投げつけられる事態まで起こった。
Getty/Goal Compositeドンナルンマは通常ではありえないミスを連発し、以前には見られなかった集中力の欠如も見受けられた。
「ドンナルンマは心穏やかではないだろう」と、関係者のひとりであるディノ・ゾフは『コリエーレ・デラ・セラ』紙に語っている。「彼は自分の手に負える以上の騒ぎに巻きこまれてしまっていると思う。ユーロを見てごらん。大会中ずっと良くなかった」
「残念ながら予想どおりだね。40歳の時の私が(メディアに)巻きこまれたようにね。彼がああなることは想像できた」
そう、問題はそこだ。経験豊富なプロでも、そういうプレッシャーに負けた者は大勢いる。だが、ドンナルンマは違った。
試練を課せられスタートしたシーズンでも、ベストの状態を維持。1999年以降に生まれた世界最高の50人を選ぶ『Goal』の権威ある2018年の『NxGn』で、第2位に輝いた。
1年前、ドンナルンマはこの賞でトップとなり、偉大なゴールキーパーになる才能があることはすでに知られていた。だが、一連の問題を受けてもなお、冷静な振る舞いを見せるその姿を見れば性格的にも偉大な選手になれることが鮮明に分かる。では、彼はいかにしてイタリア国内の苦々しい論争の的となったことに対処したのだろうか。
ドンナルンマをミランでデビューさせたシニシャ・ミハイロヴィッチがまったくもって正しく指摘したとおり、昨年イタリアの半分がかつての愛児に背を向けた。
いつも騒動を起こすことで知られ、ミランのファンを公言する北部同盟(イタリアの政党)のリーダーであるマッテオ・サルヴェーニは、「彼にミランのユニフォームを着せ続けたいのか正直わからない。私だったら、一度でもノーと言われたら終わりにする」と言及するにまで至った。
幸運にも、ミランの幹部たちはずっと寛大だった。ミラベッリは、「我々のクラブを傷つけようとする興行師」とライオラを揶揄し、問題を肥大化させている代理人に批判の責任を負わせた。
さらに、ヴィンチェンツォ・モンテッラからガットゥーゾに指揮官が代わると、ガットゥーゾは、「私がジージョを守る」と誓い、ヴェローナ戦の完敗の後背番号99を熱心に弁護してその誓いを守ってみせた。
Getty/Goal Composite一方のドンナルンマは、始まったばかりのキャリアにおいてベストパフォーマンスをすることで監督に応えた。アウェイでのEL・アーセナル戦の敗北は不幸であったが、直近のセリエA5試合のうち4試合でクリーンシートを記録。コッパ・イタリア準決勝のラツィオ戦では、PK戦で2本を止める大活躍ぶりだった。
彼の人生を例えるとすれば、それはジェットコースターだ。ヒーローからどん底へ。そしてまたヒーローへ――事実、彼は普通の選手にとっては一生をかけて対処すべき以上の悪評に、6ヶ月にわたって耐えてきた。それでも、彼はまだサンシーロのピッチへ立ち続けている。
「彼の年齢、経験、性格からいって、ジージョはこれまでにない選手だ」と、元ミランGKマルコ・アメリアは『Goal』にそう語りつつ、19歳にして掛かるプレッシャーが多きすぎるのではと心配している。
「ここしばらく、彼は自分の将来や自分に関するうわさで信じられないほどのプレッシャーを背負っていた。あの年齢であれば、ジャンルイジ・ブッフォンですら耐えることはできないだろう」
「彼の周りに引き寄せられているものすべてから見て、彼は大人になって冷静さを見せ始めているね」
事実、ドンナルンマはまだ19歳かもしれないが、誰に何を言われようが、何を投げつけられようが、うまく立ちまわれることを示しつつある。
4ヶ月前のサン・シーロでのトラウマになりそうな夜についてガットゥーゾ監督は、ひどい目に遭ったドンナルンマが「動揺していた」ことはもちろん認めているが、涙を流した後は気を取り直し、むしろ前よりも素晴らしいプレーを見せてくれていると語っている。
「彼のプレーには感謝しかない」と、ガットゥーゾは言う。「あの年齢で、今や彼は世界一のゴールキーパーだ」
かつて闘争心をむき出しにし”闘犬”とまで言われたガットゥーゾが認めるほどのタフさ。あらゆる苦難を乗り越えてさらなる飛躍を誓うドンナルンマ。彼が「スーパー・ジージョ」と呼ばれる所以は、19歳の青年が持っているとは到底考えられない強靭すぎるハートを持っているということなのだろう。
文 = Mark Doyle
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