やはり、ウクライナは曲者だった。そして、日本代表が抱え続けてきた問題が明確に噴出した試合となった。
ワールドカップ本大会で当たるポーランドを仮想した東欧国。ベンチに座るのは、現役引退後に指導者へと転身したあのアンドリー・シェフチェンコである。そして母国のレジェンドに勝利を託されピッチに立った先発選手のうち、半数以上の6人が国内強豪のシャフタール・ドネツク所属。彼らは約2週間前、UEFAチャンピオンズリーグの決勝トーナメントでASローマと戦った実力者たちだ。技術もフィジカルも、確実に日本より格上だった。インテンシティの高さを維持しながら、決して大雑把なプレーになることなく、各選手がしっかりとボールをコントロール。さらにショート、ミドルレンジとパスを通していく。
そして戦術面でも柔軟な集団だった。日本はヴァイッド・ハリルホジッチ監督が掲げる“デュエル”を前面に押し出すために、中盤では相手の布陣に合わせる形で人を配置。そんな日本の出方を上回る戦いを、シェフチェンコ監督は見せてきた。
「例えば、相手の3トップの右サイドの選手がかなり中央に入ってきて、結局相手に中盤で数的有利な状況を作られてしまった。簡単にパスをつながれたし、マリよりもウクライナはもう一つ、二つ、ランクが上だった」
中盤に入った主将の長谷部誠は、実際に直面した苦しい戦況を振り返りながら相手の実力を認めた。ポーランドを含め、W杯で戦う対戦国は彼ら以上に難敵揃いである。「改めて厳しい現実を突きつけられている」と長谷部は続けた。
■痛感した“個の未熟さ”

ウクライナ戦を終えて、相対的な観点から出た修正点はもちろん、ここからのチーム強化に生かさなければならない。ただ、改めて自分たちを主体的な観点で見つめた時に、ハリルジャパンが抱える課題が浮き彫りになった形だ。これまで少々うやむやにしていた部分が、とうとう表になって出てきたのである。
マリ、ウクライナとの2試合を通じて日本が痛感したのは“個の未熟さ”だった。
身体能力の高いアフリカ人に対して、日本代表は時間経過とともにフィジカル、スピード、パワーのすべてで差を見せつけられた。そして東欧の選手たちからは技術力と個人戦術で上回られた。
これはハリルジャパンの戦い方が、ピッチに立った選手たちの“個”をむき出しにするようなものだからとも言える。
ウクライナとのゲーム、時間帯によってチーム全体のプレスエリアの上げ下げをできていたあたりは、「マリ戦からの反省点を出せた部分」(槙野智章)だった。ただし、ラインの上下動はあれど、相手ボールと選手を常に全速力で追いかけ回し、それでも局面で巧みに交わされてしまう。
一方、ボールを持てば縦に、前に急ぐことがハリルジャパンにおける攻撃の大前提でもある。場合によってはキープし、タメや時間を作るといったプレーは少ない。
これを繰り返した結果、選手たちは自分たちでプレーリズムの主導権を握ることができず、ただただ疲弊していったのである。
アジアレベルを相手にしていた時期は、少々のプレーの遅れやミスもリカバーできた。しかし、ここに来て対戦相手の実力が上がったことで、それらがごまかせないレベルにまでなってきている。世界を相手にした場合、やはり日本人選手の排気量ではこのスタイルは厳しいのだろうか。
いみじくも長友佑都が日本代表の陥っていた戦況を分かりやすく言葉にしていた。
「ボールを裏のスペースに蹴る。選手が裏に抜ける。相手にボールを取られる。そこで今日みたいなクオリティの高い相手だと、そこからボールポゼッションされる。こっちは守備に追われ疲労する。またボールを取った時にはプレー精度が落ちる。ゴール前に入っていく選手も少ない。“負のスパイラル”じゃないですけど、やっぱり全部が全部縦に速いサッカーだけではなく、時間帯によってはボールを持つオプションも持っておかないと、やっぱりしんどいですよね」
■指揮官の日本サッカーに対する本音
攻撃も守備も、大味なプレーの数々。局面局面で“個”をさらし続けた結果、個で上回る相手には勝てない。人数を掛けた守備の対応や攻撃のアイディアを創出するような工夫は、ハリルジャパンには見られない。
もしかしたらハリルホジッチ監督の頭の中には、そんな発想すらないのかもしれない。ウクライナ戦後の会見で、日本人選手に対する本音が見え隠れした。
「今回は試合を通じて4,5回のチャンスを作れた。対戦しているのは、カンボジアやシンガポールではない。そんなに多くのチャンスを作ることはできない相手だ。これでも多いほうだと思う」
さらに続ける。
「ケガでレギュラークラスの選手を5,6人呼べなかった。ブラジルやフランスではないので、選手が欠けたところが(チームに重く)のしかかってくる。その中で多くの選手を試した。試したことで得た情報もある」
吉田麻也や酒井宏樹、香川真司らハリルホジッチ監督が招集したかったタレントを欠いていることは事実。またウクライナが主要クラブの選手をユニットとして起用したのに対して、日本は選手をテストする要素が強かった。組織における練度の差は明らかだった。
日本人の感覚からすれば、このウクライナ戦は「戦い方の工夫次第でもっと勝利に近づけたはず」と考えることだろう。ただ、ハリルホジッチ監督は違う。決して多くはなかったゴール前でのチャンスだが、彼は日本のレベルであればこれで十分だと考えているようだ。むしろ、決めきれなかったことがいけないのだと。極論を言えば、日本が世界と戦うのなら、90分間で1回あるかないかの好機を生かさない限り勝ち目はない。
それが指揮官の日本サッカーに対する、本音である。
「見ている人はボールを持って仕掛け続けることを期待するかもしれないが、そのような贅沢なことはできない。我々が何をできるのかを考えたい。幻想を抱くとワナに陥る」
フィジカルと柔軟な戦術がかけ合わされるのが現代サッカー。一方、フィジカルナイズした戦い方、そして極端なまでにボールポゼッションを嫌う志向が、日本の指揮官のスタイルである。
ハリルホジッチ監督は普段から「タクティクス(戦術)」と連呼するが、あくまで相手の分析をチームに施すことに留まっているようにも見える。そうでなければ、シェフチェンコ監督が仕掛けた柔軟な戦術に、ハリルホジッチ監督も戦術家の一面があれば対応することができたはずだ。
現代サッカーの体現を目指すハリルジャパン。だが、今のそれは戦術的柔軟さを欠いた単なるフィジカルサッカーにすぎない。大味過ぎる戦い方は、日本人の個には見合わない。ごまかし続けてきた懸念が、大事なW杯直前に溢れ出てきた。
文=西川結城
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