Lionel Messi PSG 2022-23Getty Images

PSGでリオネル・メッシが道を踏み外した8つの理由:無許可の渡航に衰退した得点力

先日、パリ・サンジェルマン(PSG)のクリストフ・ガルティエ監督は世界中がすでに知っていることを発表した。「来季、リオネル・メッシはリーグ・アンでプレーしない」ことを。

ガルティエ監督の発表は、メッシのここ数カ月を考えれば驚きでもなんでもない。監督はメッシがサッカー史上最高の選手であることを認めつつ、フラストレーションを溜めるPSGのファンに対し、パルク・デ・プランスでのラストゲームでは「温かいコール」をしてくれるよう頼んだ。彼らにとっては間違いなく望んでいないことだ。

2年前に鳴り物入りで加入し、5カ月前にワールドカップを掲げ、今シーズンもまたバロンドールの最有力候補である彼が、所属チームの監督から2度も無関心を表明されたのだ。もっとも、ガルティエの言葉はPSGにおけるメッシを完璧に総括したものだったが。

輝かしい経歴の持ち主であるメッシだが、PSGでバルセロナの時と同じような印象を残せなかったことは事実だ。ある意味、ショックなことではない。メッシは30半ばを過ぎているし、決して慣れ親しんだクラブを去りたいと思っていたわけではない。だが、事態はそれ以上に複雑である。では、PSGの“スケープゴート”はどこで道を踏み外したのだろうか。

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    早々とゴールから遠ざかる

    メッシが期待に応えられないことがあるなどと、誰が思っただろうか。サッカー史上最高の選手になるというメッシの挑戦は、毎年証明され続ける必要がある。ご存じの通りSNSでは、日々の戦いのためにネタが必要なのだ。

    だが、PSGに加入した最初の数カ月で、メッシに関する鉄板ネタは枯渇した。全然なかったわけではないが、最初の4カ月で7得点4アシストというのは、メッシにしてはがっかりな成績だったのだ。

    パフォーマンス自体は良かったし、数値だけで判断すべきではない。チャンピオンズリーグのマンチェスター・シティ戦での記憶すべきゴールのみならず、ワールドクラスの瞬間を生みだしたこともある。だが、早々に押された烙印は決して元に戻らなかった。

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  • Kylian Mbappe Lionel Messi PSG 2021-22Getty Images

    スケープゴートに

    PSGの問題は常に論争の的となった。メッシ、キリアン・エンバペ、ネイマールが同じチームにいるというのは、華々しい攻撃を予想させた。だが、ハイプレスでフォワードにもハードワークが求められる今の時代において、この3人は常に重荷になった。

    そして当然のことに、PSGはたちまち相手ボールの時に8人でプレーするようになってしまった。リーグ・アンでは、それでもいい。PSGには他のチームを簡単に倒せる力がある。だがチャンピオンズリーグでは、最悪の事態を招いた。

    さらに過激なPSGのウルトラスがメッシに対し、ピンポイントで多くの批判を浴びせたことも裏目に出た。メッシはPSGのひどい守備の原因とされ、スケープゴートにされたのだ。メッシにどれほどの責任があるかは論争の的となった。それでもメッシは走らなかった。PSGの悲観論者たちは、たやすくメッシを批判した。

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    ワールドカップ後

    2023年1月、パルク・デ・プランス周辺には異なる空気が流れはじめていた。メッシは20年来の悲願を達成し、カタールでワールドカップを掲げた後、2週間近い休暇を取った。その間、決勝でメッシに敗れたエンバペは、休むことなくPSGの練習場に戻っていた。

    比較というものは常に起こるものだ。最高の偉業を達成した余韻に浸り、世界の反対側でのんびり寝そべっている。他方、生え抜きの若者はすでに仕事に戻っている。もちろん1月にエンバペがPSGのヒーローとなっていたのに対し、メッシがほとんど消えていたことも彼の役に立つわけがない。

    それ以来、ずっと同じだ。リーグ・アンでのメッシはふらふらしていて、心はまだドーハにあるか、カタルーニャに飛んでいるかのどちらかだった。PSGに復帰してから12得点しており、数字的には申し分ない。それでもPSGの信者たちからのブーイングは鳴りやまず、ガルティエ監督は何カ月もの間、メッシの明らかな努力不足への質問をかわすのに苦労していた。

    ワールドカップを掲げた後、メッシは何も気にしなくなっていたのかもしれないが、誰がメッシを非難できるというのか。とはいえ、怒りにかられるファンたちをなだめるようなことをメッシがしなかったのも事実だ。

  • Leo Messi with the white falcon in DiriyahSaudi Tourism Authority

    「渡航」

    1年前にメッシがサウジアラビアの観光大使になった時、眉をひそめた人たちもいた。多くの人権侵害が取りざたされる国から3000万ユーロ(約45億円)という大金をもらう契約だった。

    立派なことに、メッシはこれに関してゆるぎないサポートを示した。1カ月後、契約を実行するべく中東に無許可で渡航したのである。メッシは不名誉にもクラブの命令を無視し、ロリアンに敗れた後の練習を休み、サウジアラビアへ短期間の旅行に飛んだのだ。この問題でメッシには謹慎処分がくだされた。

    メッシ自身はすでに旅行から戻っているし、すべてはクラブとのコミュニケーションの破綻のせいだと弁解した。ファンたちは、もはやチームのことなど考えない行為だと解釈した。

  • Lionel Messi Kingsley Coman PSG Bayern 2022-23Getty

    チャンピオンズリーグでの敗退

    PSGに関してはもっと根深い問題がある。才能ある選手たちが揃っているにもかかわらず、チャンピオンズリーグで勝ち続けられないのだ。必ずしもメッシのせいではない。メッシがパリに来て2年になるが、1年目は絶好調のカリム・ベンゼマにやられ、2年目はバランスの取れたチームであるバイエルン・ミュンヘンに敗れ去った。

    メッシがPSGに来たのは、絶対にとまでは言わないまでも、チャンピオンズリーグで得点を取るためだ。PSGは毎年リーグ・アンを優勝するはずのチームで、メッシがいようといまいと、それは成し遂げられるだろう。それでもターゲットにされるのは少し不公平かもしれない。

    バイエルン・ミュンヘンに敗れたのは、マルキーニョスやマルコ・ヴェッラッティなど守備陣のエラーによるものだ。レアル・マドリー戦でリードをひっくり返されたのは、GKジャンルイジ・ドンナルンマの大きなミスのせいだった。それでも、メッシは不文律の責任を背負ってパルク・デ・プランスに来たのであり、それを果たせなかった。

  • Lionel Messi PSG 2021-22Getty Images

    時の翁

    メッシも年を取る。PSGと契約した時は34歳で、フランスに来る前の数年間もバルセロナはメッシをかばうことが多かった。PSGも、メッシが90分間容赦なく走り続けられないことはわかっていた。ケガの1つや2つすることもあるだろうとも思っていただろう。スポーツ界のレジェンドと言えど、その筋肉は加齢による消耗が始まっていたかもしれない。

    たとえケガがなくて、単に動けないのだとしても、年齢の影響は明らかにメッシを襲っている。去年も今年も、ふくらはぎのトラブルで試合に出られないことがあった。その間、メッシの走りが足りないことは、毎週フルタイムで走ることのできない選手を擁護する必要を生んでしまったかもしれない。メッシも年を取る。PSGとファンは、この事実から目をそらしてしまっている。

  • Lionel Messi Barcelona press conference Getty Images

    つながりの欠如

    誰もがあの涙を覚えている。バルセロナにい続けられないと正式に発表した時、メッシは記者会見を冷静に行うことができなかった。メッシは、財政的な理由で子どものころから在籍していたクラブを追いだされ、締めだされたのだ。本当は行きたくなかったのに。それこそ、メッシの次のクラブが戦わなければならない運命だった。バルセロナはメッシを育てた家庭であり、今でも多くのつながりのある街だ。PSGは良いクラブで、ファンも温かく迎えたが、メッシの心の穴を埋めることはできなかった。とても難しい問題だった。

    メッシはプロのサッカー選手であり、大金を稼ぎ、不平を言うことなくプレーすることを期待されている。明らかな努力不足を言い訳してはならない。だが、避けがたいトラブルに襲われたとき、メッシが彼らに合わせるために心から献身することが難しいことは明らかだ。

  • Christophe Galtier Paris Saint-Germain 2022-23Getty

    監督の限界

    この点に関して、PSGの監督たちの苦闘がよく知られている。実際、それは不可能な仕事で、PSGが最高の監督を雇いつ続け、その監督たちが失敗していることを見ても明らかだ。ここ数年の監督たちは、攻撃を担うスターたちとその他の選手たちとが良いバランスをとれる戦術を見つけようとしてきた。はっきりした解決策はない。

    ただ、メッシが加入してからのPSGの2人の監督の失敗は、派手だった。マウリシオ・ポチェッティーノはリーグ・アン優勝を果たしたが、メッシを有効活用できなかった。ガルティエ監督は問題だらけの中で就任した。だが、おそらく最も驚くべきことに、ガルティエ監督は、彼が最も得意としていると思われていたエリアに弱点があったPSGの後方を弱くしてしまったのだ。

    いずれにせよ、メッシがパリで問題を解決してくれる監督と出会えなかったことは間違いない。