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トゥヘル・イングランド代表の勝者と敗者:ケイン&ベリンガムの躍動と垣間見えた野心…一方「期待外れ」のウイングたち

トーマス・トゥヘル監督の初陣、アルバニア代表戦を迎えたイングランド代表。聖地ウェンブリー・スタジアムでの注目の一戦は、18歳マイルズ・ルイス=スケリーがデビュー戦で見事な先制点を奪うと、後半には主将ハリー・ケインが追加点をマーク。2-0で勝利を収め、スタジアムは大きな歓迎ムードに包まれていた。

明確に「目標」と設定した2026年ワールドカップ優勝へ向け、最初のテストをクリアした“スリー・ライオンズ”。概ね良いスタートを切ったように思えるが、中には指揮官本人が指摘した課題も散見された。今回『GOAL』は、トゥヘル・イングランド初戦の勝者と敗者を分析する。

  • England v Albania - European Qualifiers Group K - FIFA World Cup 2026Getty Images Sport

    勝者:トーマス・トゥヘル

    あのスタジアム最も勝利を喜んでいたのは、もちろん新監督だろう。就任発表から約半年間に渡って様々な準備をこなしてきたトゥヘルの努力と苦悩は、この試合の随所に表れていた。

    新指揮官はまず基本に立ち返ることをチームに指示し、丁寧なビルドアップで主導権を握りつつ、DFラインの背後を積極的に取る動きなど常にチームが足を止めないことを促した。アルバニアの硬いブロックを崩すためにも素早くダイレクトな展開を目指し、それが見事にハマって2ゴールを奪っている。少なくとも今週末は、彼に対するネガティブな声は聞こえてこないだろう。

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  • Spain v England: Final - UEFA EURO 2024Getty Images Sport

    敗者:ガレス・サウスゲート前監督

    トゥヘルは、前任者であるガレス・サウスゲートのイングランド代表について否定的に語っている。初陣前の会見で「イングランド代表に特定のスタイルはあるか?」と問われ、「いや、特にない。アイデンティティ、リズム、パターンが欠けていた。選手たちの自由や表現、ハングリー精神もね。私の見解では、彼らは優勝に向けた野心よりも、敗退への強い恐怖を抱えていたように思う」とバッサリ切り捨てていた。

    これにはサウスゲートも衝撃を受けたに違いない。そして初陣でチームが好パフォーマンスを見せていたことを考えると、仮にトゥヘルが前任者よりも良い結果を残した場合、サウスゲートに対する批判の声はさらに強まってしまうかもしれない。

    サウスゲートが間違いなく成功への文化を築き上げたことは否定できない。EUROでは2大会連続決勝にも進んでいる事実がそれを証明している。だが確かに、最終的にタイトルを手にするための力もなかった。彼はこれ以上世間から責められる必要はまったくないが、どうしても比較はされてしまうだろう。

  • England v Albania - European Qualifiers Group K - FIFA World Cup 2026Getty Images Sport

    勝者:マイルズ・ルイス=スケリー

    アーセナルで今季トップチームデビューを飾ったばかりの18歳だが、このイングランド代表デビュー戦も衝撃的だった。いつも通りまったく慌てることなく、常に冷静にボールを扱い、スペースに飛び込み、GKの股下を抜いてゴールを奪った。トップレベルでの責任を楽しんでおり、トゥヘルのスタイルにも完璧にハマっている。今やアーセナル、そしてイングランド代表の「レギュラー」と言っていいだろう。

    そしてこの代表デビュー戦でのゴールは、イングランド代表史上最年少のデビュー戦弾となった。マン・オブ・ザ・マッチも当然であり、新体制で最も輝いた選手である。

  • FBL-WC-2026-EUR-QUALIFIERS-ENG-ALBAFP

    勝者:ケイン&ベリンガム

    EURO2024ではあまりにも効果的な形で試合に関与できず批判されたケインとベリンガムだが、トゥヘルのシンプルな戦術は彼らを蘇らせた。

    ケインは彼が最も得意とする「No8~No.10」を同時にこなすプレー、中盤でビルドアップに関与しつつ決定的なパスでチャンスを作り、自らフィニッシュにも関与。ベリンガムも積極的にボールに触り、ライン間で素晴らしいパスを送って先制点をアシストした。両選手ともにポテンシャルを最大限に発揮したが、おそらく世界中が羨むコンビとなるだろう。

  • Phil Foden Marcus Rashford 2Getty Images

    敗者:ラッシュフォード&フォーデン

    「敗者」という表現は少し厳しいかもしれない。「期待していたほど活躍できなかった」という表現が適切だろう。この2人のマンチェスター出身選手は、今季クラブでも難しいシーズンを送ってきた。トゥヘルは新たなスタートのキッカケとしてチャンスを与えたが、2人共それを活かせなかったのは残念だ。

    ラッシュフォードに関しては、少なくとも彼の狙いは確認できた。ベリンガムやケインが持った時には常に背後へ走り込む準備ができている。しかし、ファイナルフェーズでのクオリティや決断は物足りなかった。一方のフォーデンは、終始「迷子」になっていた。ブカヨ・サカとコール・パーマーの負傷でチャンスをもらったものの、唯一サポーターが判断できるのは「彼をスタメンからは外すべき」ということだけだろう。

    トゥヘルも試合後、「このポジションでよりインパクトのあるプレーを期待している。ドリブルをもっと増やし、ボックスに向かってよりアグレッシブに走り込んでほしい。全体的にそれが欠けていた。彼らは決定的なプレーができてなかったね」と遠慮なく語っている。

  • England v Albania - European Qualifiers Group K - FIFA World Cup 2026Getty Images Sport

    勝者:ダン・バーン

    なんと忙しい1週間だただろう。ニューカッスルでのリーグカップ制覇から、32歳でのイングランド代表デビュー。ダン・バーンが見せた輝きは特筆すべきだろう。

    トゥヘルはバーンの身長2メートルを誇る体躯を存分に活かし、アーセナルにおけるガブリエウのように、CKのターゲットとして効果的に活用した。本人もエズリ・コンサと素晴らしいコンビネーションを見せ、目立ちはしないがあの夜のヒーローの1人となっている。

  • Ipswich Town FC v Nottingham Forest FC - Premier LeagueGetty Images Sport

    敗者:モーガン・ギブス=ホワイト

    当初発表されたメンバーからは落選したギブス=ホワイト。しかしコール・パーマーの負傷により、追加招集を果たしていた。その時のことをこう振り返っている。

    「(トゥヘルから招集外の)話を聞いたとき、彼の決断を尊重したよ。『チームの調子を考えれば、僕は招集されるだけのことはしたと思う。でも監督はもちろんあなたであり、残念だけど、完全に尊重するよ』と伝えたんだ。でも、日曜日に連絡があったからすぐに来たよ」

    「4時か5時くらいだったかな? 最初にメッセージで『話せる?』と連絡が来た。30秒で返事したよ。彼は電話をくれて『まだ怒っているか? それとも、明日一緒にトレーニングするか?』と聞いてきた。議論の余地はない。もちろん練習に参加したと伝えた。心から笑顔になれたよ」

    結局ギブス=ホワイトは、初陣ではアーロン・ラムスデールとジャレル・クアンサと共にメンバー外となっている。それでも、現チームの中盤でポジションが確約されているのはベリンガムとデクラン・ライスだけだろう。先発起用されたカーティス・ジョーンズはインパクを残せなかった。まだまだチャンスはあるはずだ。

  • England v Albania - European Qualifiers Group K - FIFA World Cup 2026Getty Images Sport

    勝者:ワールドカップへの期待

    確かに初陣でアルバニア戦に勝ったからといって、ワールドカップで躍進できるとは限らない。それでもこの初戦では、このチームに欠けていたポジティブな雰囲気をもたらしたことは間違いない。イングランドは恐怖に縛られるべきではなく、成功に向かってポジティブな姿勢で試合に挑むべきなのだ。トゥヘルの主張は完全に正しい。

    ここ最近のスリー・ライオンズを取り巻く雰囲気は常に後ろ向きであり、それがチームへ伝染していた。EURO2024は決勝に進んだものの、あのチームを「成功」と捉えた人はほとんどいない。だからこそ新体制の初陣では、ファンが真に期待できる姿を見せることが重要だった。そうした意味では、トゥヘル・イングランドにとってこれ以上ない初陣だったと言えるはずだ。