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トゥヘルがマンチェスター・ユナイテッドの新監督に最適か

2024年夏、エリック・テン・ハーグの契約を無分別にも延長する前に、マンチェスター・Uは後任としてトゥヘルと接触していた。このドイツ出身監督が最終的に「ノー」と言った理由については諸説ある。

一部では、移籍の方針を主導できないスポーツ部門の体制下で働くことを望まず、支配権の問題だったと指摘されている。また、バイエルン・ミュンヘンでの過密スケジュールで燃え尽き、次の仕事につく前に休息を欲したとの見方もある。それならば4カ月後にクラブの監督よりはるかに余裕のあるイングランド代表の監督となることを受け入れ、正式就任を翌年1月まで遅らせた理由も説明できる。

マンチェスター・Uはその後、2人の監督と3人の暫定監督を交代させたが、依然として完全に混乱した状態にある。トゥヘルは彼らをこの状況から救い出せる数少ない人物のひとりだ。しかし、ワールドカップ直前にイングランド代表監督を追い求めるのは危険な賭けである。

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    短期間で好成績を収められる手腕

    マンチェスター・Uが暫定的な措置としてキャリックを起用したのは、現在の市場に一流の候補が不足しているためである。しかし夏になれば、はるかに魅力的な候補者が現れるだろう。アンドニ・イラオラのボーンマスとの契約、オリヴァー・グラスナーのクリスタル・パレスとの契約、マルコ・シウヴァのフラムとの契約が、いずれも満了を迎えるのだ。

    2022年にテン・ハーグに負けたマウリシオ・ポチェッティーノも、地元開催のワールドカップでアメリカ代表の監督を務めた後、再び職探しを始める可能性がある。現時点でフリーの監督としてはシャビ・アロンソとエンツォ・マレスカが最有力だ。

    しかしマンチェスター・Uが狙うべきはトゥヘルである。このドイツ出身監督は短期間で好成績を収められる驚異的な手腕を持ち、プレッシャーに屈した様子を見せたことが一度もない。

    トゥヘルは、ボルシア・ドルトムントでユルゲン・クロップの後任監督となった2シーズンで、ブンデスリーガで2位と3位に入り、DFBポカールを制覇した。その後、パリ・サンジェルマンでリーグ・アンを2年連続で制覇し、チャンピオンズリーグの決勝に進出。サッカー界で最も甘やかされていたチームに自身の権威を印象づけた。

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    適応力の高さ

    トゥヘルはフランク・ランパードの後任としてチェルシーの運命を変え、就任から4カ月でチャンピオンズリーグを制覇し、国内の3つの大会の決勝に進出した。その後バイエルンの監督に就任すると数週間でドルトムントを追い抜いてタイトル争いに加わり、翌シーズン、バイエルンは11年ぶりにブンデスリーガ優勝を逃すも、チャンピオンズリーグの決勝進出まであと一歩に迫った。

    トゥヘルは10年以上ぶりに外国籍のイングランド代表監督となり、激しい批判と監視に直面してきたが、ワールドカップ予選で記録的な無失点での全勝を達成。チーム内に激しい競争を巧みに植えつけ、スター選手の言いなりにならない姿勢を示した。

    サポーターの視点から見ても、トゥヘルには多くの魅力がある。試合中の采配では世界最高のひとりであり、最適なチームの陣形を整える能力ではペップ・グアルディオラと肩を並べる。マインツで予想以上の成果を上げた際に初めて示された彼の適応力は、独断的なアモリムに不満を抱いてきたマンチェスター・Uのサポーターの気に入るはずだ。アモリムはオールド・トラッフォードで体制を整えるには数年かかると言ったが、トゥヘルは通常、望ましい結果を得るのに数週間しか必要としない。

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    強く、偉大な人物

    トゥヘルを監督に招聘する上での欠点は、彼が2年以上同じチームにいない傾向があることだ。イングランド代表監督の就任会見で「私は長期的な戦略に取り組んでいる」と冗談を言ったが、ワールドカップ以降もイングランド代表監督を続けることを拒否し、すでに辞めるための計画を立てているように思われる。そんな彼の短期的な見通しはマンチェスター・ユナイテッドにとって朗報だろう。

    サー・ジム・ラトクリフと他のマンチェスター・Uの取締役会のメンバーは、トゥヘルの、オーナー陣に立ち向かい、自分のやり方で物事を進める習慣を警戒しているかもしれないが、アモリムとジェイソン・ウィルコックスの対立が残した混乱を思えば、クラブの運営方法を見直さざるを得ないはずだ。

    「本当に強く、偉大な人物を迎え入れ、その人物に仕事を任せることで、この悪循環を止めることができる」と、アラン・シアラー氏はベットフェア社に言った。

    「(アストン・)ヴィラ、(マンチェスター・)シティ、アーセナルというトップ3のクラブが、基本的にすべて監督によって運営されているのは偶然ではない。こうしたクラブにはフットボール・ディレクターが存在するが、彼らは監督と連携して仕事をしている。マンチェスター・ユナイテッドを目標に近づけるためには、この仕組みを導入しなければならない」。

  • Avram Glazer and Sir Jim Ratcliffe of Man UtdGetty Images/GOAL

    プライドを飲み込む

    ある時点になれば、ラトクリフは、沈みかけた船をコントロールしたいのか、それとも実際に前進してタイトル争いをするクラブで権限を委譲する役割を果たしたいのか、決断を下さなければならない。後者の道を選ぶということは、非常に大きなエゴを持つ人物がプライドを飲み込むことを意味するが、トゥヘルが、これまでのアモリムやテン・ハーグが達成できなかった結果を出すことができれば、はるかに良いイメージとなるだろう。

    しかし、ラトクリフがトゥヘルを監督に起用すべきだと判断したとしても、その採用にはリスクが伴う。イングランド代表がワールドカップの決勝に進出すれば、トゥヘルには来シーズンに向けて準備する時間が5週間も残らないことになるのだ。決して理想的な状況ではないが、この監督の実力と実績を考えれば、それだけの価値は十分にあるだろう。とは言え、契約は大会前に締結される必要があり、そのことでイングランドのサッカー協会(FA)とトゥヘルが対立する可能性がある。

    トゥヘルが来シーズンのマンチェスター・Uの指揮を引き受けることに合意すれば、それは間違いなくワールドカップ期間中のイングランド代表に大きな混乱をもたらすだろう。イングランド代表が大会で期待外れの結果に終わった場合、メディアはそのことを主な原因だと必ず言い張るに違いない。つまり優勝するか否かが大問題になるのだ。

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    スペインの時のような騒ぎは避けよ

    国際的な名監督が大会前にクラブの監督に就任した前例は数多く、結果は様々だ。マンチェスター・ユナイテッドは2014年のワールドカップ前にデイビッド・モイーズの後任としてルイ・ファン・ハールを招聘した。彼がオランダ代表を率いてブラジル大会でスペインを5-1で粉砕し、準決勝進出を果たすと、赤い悪魔のサポーターたちの期待は高まるばかりだった。

    イタリアにおいても、アントニオ・コンテがEURO2016の大会前にチェルシーの監督就任に合意したことは、特に問題視されなかった。同大会では予想を覆してスペインを破る活躍を見せ、PK戦でドイツに敗退した。しかしながら、2018年のワールドカップ直前にフレン・ロペテギがレアル・マドリーの監督就任に合意した際には、大騒動が起きた。

    当時スペイン代表監督だったロペテギは大会開幕前に解任され、暫定監督のフェルナンド・イエロが率いたスペイン代表はベスト16でロシアに衝撃の敗退を喫した。さらにロペテギのレアル・マドリーでの冒険も3カ月と続かなかった。主な問題は、契約発表のタイミングを巡って、ロペテギとスペインサッカー連盟のルイス・ルビアレス会長の間できちんとした合意がなかったことにあった。ロペテギは直前にスペイン代表監督の契約の延長に合意したばかりだったし、2023年の女子ワールドカップとその後の騒ぎで醜態をさらしたルビアレス会長は弱みを見せたくなかったのだった。

    現在、イングランド代表はGOALの取材に対し、トゥヘル監督の将来や契約状況についてコメントを控えたが、トゥヘルがロペテギと決定的に違うのは、自身がワールドカップ以降を見据えたことは一度もないという事実を示してきたことにある。

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    ハイリスク・ハイリターン

    言うまでもなく、このような状況は慎重に対処しなければならない。マンチェスター・Uにとっては、ラトクリフによって解任されてからわずか5カ月後にFAのサッカー最高責任者に復帰したダン・アッシュワースと交渉しなければならないという皮肉な状況も生じうるのだ。

    ラトクリフは、アシュワースが提出したテン・ハーグの後継候補のリストをよしとせず、彼を解雇したとみられている。報道によれば、そのリストにはプレミアリーグでの経験を持つ監督だけが選ばれていたという。マンチェスター・Uがアモリムの後任として、プレミアリーグで即戦力となる監督のみを検討していると言われてしまうという事実は、クラブの混乱を浮き彫りにしている。言うまでもなく、マンチェスター・Uは過去15カ月間で、テン・ハーグとアッシュワースを解任し、アモリムを招聘して解雇するのに4,000万ポンド(約84億円)以上を費やしており、経済的に無駄な浪費をしたとしか言いようがない。

    トゥヘルは間違いなく最高峰の人材だ。問題は、マンチェスター・Uが彼を惹きつけるために自らの体制を変える意思があるか、そしてワールドカップ直前に代表チームを不安定にさせることで生じる反発に耐えられるかどうかだ。しかし、マンチェスター・Uを再び常勝チームにする最善のチャンスを求めるなら、トゥヘルを見逃すわけにはいかない。

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