文=ナシャリ・アルトゥナ(Naxari Altuna)/バスク出身ジャーナリスト
翻訳=江間慎一郎
(C)Getty Images文=ナシャリ・アルトゥナ(Naxari Altuna)/バスク出身ジャーナリスト
翻訳=江間慎一郎
(C)Getty Images24日のラ・リーガ第6節ヘタフェ戦、久保建英はこの試合で何をすべきかを誰よりも分かっていた。おそらく、過去にあのスペイン首都のチームでプレーした経験があったからだろう。
この日本代表MFは、2020-21シーズンの後半戦にヘタフェ指揮官ホセ・ボルダラスの戦い方を学んでいた。彼らは時間が経過することで、エンジンがかかってくることで非常にアグレッシブなプレーを見せてくる。だからこそ久保は、彼らがまだ十分に温まっていないキックオフから2分後に先制点を決めてみせた。ペナルティーエリア内右に走り込みながらブライス・メンデスのパスを引き出すと、左足ダイレクトでシュートを放ち、対角線上の枠内左上にボールを収めている。
久保にとって、今週はまさに素晴らしいものとなった。先週の日曜にはレアル・マドリーの神殿サンティアゴ・ベルナベウで、本来は彼らの選手として輝かせるはずだった才能を存分に発揮した。さらに水曜にはインテルとの一戦でチャンピオンズリーグ(CL)デビューを果たし、こちらでも活躍を披露。両試合ではゴールこそなかったものの、チームメートに何度となく決定機を供給し、そしてヘタフェ戦で自らスコアを動かしている。
Getty Imagesだがボルダラスのチームは、久保のゴールにもめげることなく、前半の内に1-2と逆転を果たした。ラ・レアルは後半、激しい肉弾戦の中で苦戦を強いられるかに思えたが、しかしサポーターにとっては幸せな展開が待ち受けていた。
そう、ミケル・オヤルサバルの活躍である。
ラ・レアルのキャプテンでもあるこの10番は、彼らのサポーターが最も愛している選手だ。「ディオス(神)」、と言っても差し支えないほどに。
14歳の頃にラ・レアルの下部組織に入団。ラ・レアルが10年前に出場したCLでボールボーイを務めた彼は、わずか18歳でトップチームに昇格すると、それからクラブの象徴となる階段を駆け上がっていった。この10番は選手としての能力はもちろん、そのメンタリティーや帰属意識によってラ・レアルのイコンとなったのである。
オヤルサバルはこれまで欧州を代表するビッグクラブから何度となくオファーを受け取ってきたが、大金を手に入れたり名前を売ったりするよりも、ラ・レアルでプレーし続けることを最大の望みとしてきた“ワン・クラブ・マン”だ。ラ・レアルを誰よりも、何よりも愛している彼は、下部組織出身の若手や、それこそ久保のように外からやって来る選手にとっても大切な存在である。
彼は1年半前に左足前十字靱帯断裂という重傷を負い、今なおスペイン代表のレギュラーだった頃のレベルに戻れずにいる。選手本人も現状に焦りを募らせ、努力を重ねているが、それと同時にチームメートたちのサポートも忘れていない。オヤルサバルが優先するのはラ・レアルというクラブ/チームそのものであり、プレーポジション(オヤルサバルは本職は右ウィングだが左ウィングでもプレーする)が重なる久保についても、彼がピッチ内外でチュリ=ウルディン(ラ・レアルの愛称)に適応できるよう尽力している。
例えばインテル戦、オヤルサバルは偽9番として、スペースを生み出すために走ることを止めなかった。彼は決して私利私欲に走らず、チームが必要としていることのために全力を尽くせる男だ。チーム内競争のライバルでもある久保を輝かせることにもためらいはなく、彼がゴールを決めたならば即座に両手を上げて喜びを表し、祝福のために全速力で駆け寄っていくのである。
(C)Getty Imagesヘタフェ戦、オヤルサバルは58分から出場し、アノエタはスタンディングオベーションで彼のことを迎えた。ラ・レアルのサポーターは、たとえ外部に批判する連中がいても、そうした意見に左右されず彼のことを支え続けている。
オヤルサバルは、そんなサポーターの期待に見事応えた。審判がPKの笛を吹くと、いつものようにキッカーを務めて2-2とするゴールを記録。2020年、アトレティック・クルブとのコパ・デル・レイ決勝でも優勝を導くゴールを決めたように、彼はPKで決してナーバスにならず、冷静にボールを蹴り込める。
ラ・レアルはさらに66分、ブライス・メンデスのヘディングシュートで再逆転を果たすと、88分にはミケル・メリーノのお膳立てからオヤルサバルがこの日2点目を記録。92分にヘタフェに1点を返されたが、4-3で試合を物にしている。ラ・レアルのゴールショーは久保に始まりオヤルサバルに終わったのだった。
オヤルサバルにとって、このヘタフェ戦の2ゴールが自信を取り戻すための助けとなればいいのだが……。何と言ってもラ・レアルのサポーターは、久保とオヤルサバルが一緒になって引っ張るチームを夢見ているのだから。
久保の活躍、ラ・レアルへの完璧な溶け込みよう(昨季アトレティックとのダービーで決めたゴールの喜びようと言ったら!)は、サポーターにとって本当に喜ばしいことである。そして、私たちと同じようにこの日本人MFの暴れっぷりを喜ぶオヤルサバルがかつての輝きを取り戻せば、今季まだ不安定さも感じさせるチームはもう一歩前へ進めるはずなのだ。