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カラフィオーリ獲得でアーセナルの守備はさらに強固に。左SB問題も解決か

EURO2024開幕前、イタリアに期待する人は多くなかった。結果はおおかた予想どおりと言ってよく、イタリアはぎりぎりのところでグルーブステージを突破すると、ベスト16でスイスにあっけなく負けた。だが、チームとしてのアズーリに興奮させられる場面が多くなかった一方、ある若いDFの出現が大会序盤の話題になっていたのは確かである。

ボスニア・ヘルツェゴビナ代表との親善試合で、初めてシニアの国際試合で先発してからわずか6日後、リッカルド・カラフィオーリはルチアーノ・スパレッティ監督によって、アルバニアとの欧州選手権の初戦に抜擢された。フル出場を果たしたカラフィオーリはすべての人の話題となった。

髪を風になびかせる風貌がパオロ・マルディーニ似の22歳は、まったく緊張した様子を見せず、試合開始早々に失点したイタリアが立ち直り、2対1で勝利するのに貢献した。センターバックの右にアレッサンドロ・バストーニ、左にカラフィオーリというコンビは、ジョルジョ・キエッリーニとレオナルド・ボヌッチの時代を髣髴とさせ、大いに期待させてくれた。カラフィオーリは空中も地上も制し、パスミスが極端に少なく、チーム全体の押し上げを仕切っていた。

フル出場を果たしたカラフィオーリは当然ながら大喜びで、記者たちにこう語った。

「この1週間は本当に素晴らしかった。2日前に先発を告げられた。スパレッティ監督に準備は出来ているかと聞かれて、もちろん『はい』と答えた。ポジティブなことだけ考えて、ピッチに立ったらどんな気持ちだろうと考えていた。素晴らしい気分だった。こんな気持ちは今まで感じたことがない。とても幸せだ」

この試合のパフォーマンスで、カラフィオーリ個人にとってEUROが素晴らしいものになることが決定した。さらに今や、アーセナルへの移籍を果たし、プレミアリーグでプレーするという夢をかなえたのである。この若者がキャリアの初期にどれほどの障害を乗り越えなければならなかったかを考えると、この幸運は非常に注目すべきものである。

  • Riccardo Calafiori Roma Getty Images

    異色の経歴

    たとえば2018年10月、イタリアのサッカー界で最も輝かしい未来があると噂される選手のひとりだったカラフィオーリは、膝にキャリアが危うくなるほどの大ケガを負った。その日の夜、チャンピオンズリーグのヴィクトリア・プルゼニ戦で初めてハットトリックを決めたエディン・ジェコは、まだ10代だったカラフィオーリに敬意を表し、若きチームメイトの名前を記したユニフォームを掲げたのだった。

    後にカラフィオーリは、成長期の大事な時に負ったケガが精神的負担となったと打ち明けた。

    「あれは本当にひどくつらい出来事だった。負傷した方の膝は、もう片方の3倍もの大きさになっていた。熱も出て、苦しかった」とローマTVで語っている。

    苦しいリハビリを乗り越え、当時のパウロ・フォンセカ監督のもとでピッチに戻り、トップチームのデビューを果たしたのは2020年12月だった。しかしながら、ローマでのキャリアは事実上、2021-22シーズンのジョゼ・モウリーニョ監督就任とともに終わった。このシーズン、カラフィオーリは9試合しか出場できず、それも欧州リーグの試合ばかりで、1月にはジェノアへレンタル移籍に出されることとなる。

    その年の夏、カラフィオーリは勇敢にもユース時代を過ごしたチームを去ることに決め、バーゼルと契約した。そこで切望していたトップチームでのプレーを手に入れたが、スイスの巨人たるバーゼルにとって必ずしも良いシーズンではなく、スイス・リーグでは5位に沈み、ヨーロッパ・カンファレンス・リーグでも準決勝どまりだった。

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  • Riccardo Calafiori Bologna 2023-24Getty Images

    居場所を見つける

    それでも昨年の夏、カラフィオーリはボローニャに移籍してセリエAに戻ってきた。このことが、すべての関係者にとって重要だったことが証明されることとなる。

    名将チアゴ・モッタ監督は、加入当初からカラフィオーリに関して明確なプランをもっていた。それまでは主に左サイドバックとして起用されていたカラフィオーリを、モッタ監督は守備の中心に据えることにこだわり、この変更がカラフィオーリの才能のすべてを解き放つこととなった。

    「監督が僕に自由をくれ、すべてがそこから始まった。モッタ監督は初めから僕をセンターバックとして見ていた」と、カラフィオーリは言っている。

    「監督から本当に多くを学んだ。誰が来てもスペースを攻めないといけない、恐れることなくプレーして、自分を表現しろというのが、監督の哲学だった」

    カラフィオーリのプレーは、現代になってからのボローニャのベストシーズンの要だった。モッタ監督はチームをリーグ5位に引き上げ、チャンピオンズリーグ出場をもたらした。カラフィオーリに注目しなかった人々も、EURO後には注目せざるを得なくなった。

    アルバニア戦で華々しい大会デビューを果たしたカラフィオーリのことを絶賛した人々の中に、イタリアのレジェンド、ジャンルカ・ザンブロッタがいる。

    「チーム全体がよかったのは最初の60分だけだったが、彼はフルで素晴らしかった」と、『ミラン・フットボール・ウィーク』で語っている。

    「恐れることなく個性を発揮していた。昨日の彼は美しいプレーを披露していた」

    そう、次のスペイン戦で不運なオウンゴールを記録してしまったかもしれないが、それでもイタリアが大会を騒がすようになるにつれ、カラフィオーリの評判は爆発的にあがっていった。そして、アーセナルやチェルシーなどのヨーロッパのクラブが興味を示すようになったのである。

  • Gabriel Saliba 2023-24Getty Images

    驚きの契約

    その争いを制したのがガナーズで、北部ロンドンのチームはオプションつきの4,200万ポンド(約83億円)でカラフィオーリを獲得した。表面上、アーセナルがこの夏ディフェンスの強化を優先したことは奇妙に見えるかもしれない。

    昨シーズンのアーセナルは、プレミアリーグ最高の守備を誇っていた。ウィリアン・サリバとガブリエウ・マガリャンイスのセンターバックのコンビは鉄壁だった。それでも、ガナーズが今シーズン最終的にマンチェスター・シティを上回るために、さらに強固な守備が必要なのは明らかだ。前述のコンビのどちらかがケガをすれば、ベン・ホワイトを中央に回さなければならなくなる可能性が高い。アルテタ監督としては、2023-24シーズンに右サイドの深いところでホワイトとブカヨ・サカのコンビがどれだけ効果的だったかを思い知らされるのは避けたいところだろう。

    だが、カラフィオーリはただの二番手ではないはずだ。最初から力を発揮できれば、センターバックの左側としてガブリエウの代わりにもなれるかもしれない。昨シーズン当初、アルテタ監督がガブリエウを起用していなかったことを忘れてはならない。とは言え、ここ9カ月の調子を見れば、監督はガブリエウの成長を確信しているかもしれないが。

  • Arteta Guardiola Getty Images

    革新的方法

    そうなると、アーセナルが課題とする左サイドバックにカラフィオーリを起用することのほうが、もっと意味があるのではないだろうか。昨シーズン、開幕戦でユリエン・ティンバーが前十字靭帯を痛めた後、冨安健洋、ヤクブ・キヴィオル、オレクサンドル・ジンチェンコが短期間ずつその役割を務めた。反対サイドでホワイトが常に一貫して起用されていたのとまったく対照的だった。

    今シーズン、この問題を解決するために、たとえティンバーが戻ってもアルテタ監督がカラフィオーリを起用しても驚くことではない。過去5シーズンにわたり、ガナーズの監督は伝統的なセンターバックをサイド際の守備に起用することが多くなっている。

    ホワイトはこの理論の実験台だった。巨体のイングランド代表は2022-23シーズン、右サイドバックでほんの少し出場しただけで、そのポジションで恒久的に起用されるようになった。その後、冨安とキヴィオルにも同じ起用がされている。

    アルテタ監督の戦術の多くがそうであるように、ペップ・グアルディオラ監督のマンチェスター・Cにも似たところがある。グアルディオラ監督のもとでは、ヨシュコ・グヴァルディオルとナタン・アケがそれぞれフルバックに転向した。これはきわめてデリケートな選択で、マンチェスター・Cの監督は2023年のチャンピオンズリーグ決勝で勝利した後、こう説明した。

    「中央に4人のDFを置くことで、我々は適切に守ることができる」と、グアルディオラ監督は言った。「これは最大の一歩だ。これで楽しくディフェンスができるし、いくつかミスをしても自信をもって守備ができる」

    こうした「守備第一」の選手をフルバックに配置することが、試合をコントロールする―ーもしくは「支配する」ことのすべてであることは、アーセナルの監督が熱心に説明するとおりである。アーセナルやマンチェスター・Cの「フルバック」は、空中戦で脅威となり賢い守備をするのみならず、ボールをうまく扱い、ポゼッションを高めることができる。

    彼らはみな、必要となればオーバーラップや前線へボールを運ぶこともでき、ホワイト、グヴァルディオル、アケは昨シーズン、22得点に貢献した。だが、アルテタとグアルディオラが彼らを、常に視野の先の前線を見て適切に攻撃しようとするフルバックとは違うと見ているのは明らかだ。

  • Riccardo-Calafiori(C)Getty Images

    カラフィオーリはうまくやれるのか

    では、カラフィオーリはアルテタ監督が左サイドバックに求める複雑な要件を満たすことができるだろうか。フィジカル面ではすべてにわたって合格だろう。180cmを超える長身で空中戦に強く、昨シーズンのセリエAでカラフィオーリよりも1対1での空中戦の勝率が良かったのは4人だけである。

    彼は行動的なDFでもあり、フィジカル・コンタクトに強く、恐れることなくボールを取り返しにいく。時にはチャレンジのタイミングを間違うこともあるが、カラフィオーリの脇をすり抜けることはまず無理だろう。昨シーズンのセリエAで彼をドリブルで抜こうとした選手のおよそ70%がボールを失っている。これは驚異的な数字で、彼のポゼッション能力の高さを物語っている。

    EUROでは後方から前線へ果敢に攻めこむ姿が称賛されたが、これはしばらく前からの彼のサッカーの特徴である。スペクタクルとまでは言わないまでも堅実なパサーであり、逆サイドに長いパスを出すことができる。これにより、今シーズンはサカやカイ・ハヴァーツとともに人気が出ることだろう。

  • Riccardo Calafiori Arsenal 2024-25Getty Images

    取る価値のあるリスク

    だが、カラフィオーリをすでに完成した選手とみなすのは危険だろう。常にスピードのあるウィングと対峙することになる左サイドバックで、彼が早々に成功するかどうかには疑問符が付く。

    彼はポゼッションにこだわりすぎる傾向もあり、その結果ドリブルやパスミスで簡単にボールを失ってしまうことがある。バーゼルのハイコ・フォーゲル監督が、最近のスカイ・スポーツのインタビューで、カラフィオーリが改善すべき点としてあげたのが、それである。

    「あるシチュエーションでは、もっと慎重になる必要がある」と、フォーゲル監督は言った。

    「彼の勝利のメンタルは素晴らしい。だが時々、目の前の状況に我慢できなくなることがある。だから、状況はいいのにボールを失う危険がある。だが、それは経験の問題だ。経験を積むには年月がかかる。彼は経験を重ねているところだ」

    それでも、カラフィオーリがトップクラスの才能の持ち主であり、そのポテンシャルを発揮するのにアーセナルほどうってつけの場所がないことは明らかだ。ホワイトの成長が示すとおり、アルテタ監督には中央のDFからバランスのとれたフルバックを育てる特別な才能がある。また、ガナーズのようなとてつもない才能のある選手たちが集まったチームでプレーすれば、そうした成長が早まることだろう。すべてが計画どおり進めば、アーセナルは守備に関する最後のピースを見つけたと言えるかもしれない。