取材・文=江間慎一郎
(C)Getty Imagesペップが「これがレアル・マドリー。これがベルナベウ」と語る意味…衝撃を与えた“極上の戦い”
CL・EL2025-26配信!
(C)Getty Images極上の戦い
ここはレアル・マドリーの本拠地サンティアゴ・ベルナベウ、地下2階にある記者会見場だ。今しがたチャンピオンズリーグ(CL)準々決勝1stレグ、マドリー対マンチェスター・シティが終わったばかりで、壇上ではジョゼップ・グアルディオラが流暢な英語を駆使して興奮気味に語っている。
「非常に面白い試合だった。2チームとも攻撃を仕掛け、この大会に威厳を与えた。私たちはリードを得たが、同点に追いつかれてしまった。これがフットボールだ。これがレアル・マドリーなんだ。これがベルナベウなんだよ」
ペップの言う通り、非常に見応えのある一戦だった。今回の入場チケットの値段は最も安い席で88ユーロ(約1万4500円)、最も高くて445ユーロ(約7万円)に設定されていたが(気が遠くなる額のVIPゾーンは除いて)、その購入者は期待を優に上回る、極上の戦いを目に焼き付けたはずである。
(C)Getty Imagesレアル・マドリーのサプライズ
試合の序盤はカオスだった。シティはキックオフから2分後、ベルナルド・シウバの壁の外側を狙った意表を突くフリーキックで先制に成功。だが、あまりにあっさり点を決めた彼らは、何をすべきか迷ったように後方に引いてしまい、マドリーがその機に乗じている。マドリーは12分、エドゥアルド・カマヴィンガのミドルがルベン・ディアスのオウンゴールを誘発し、14分にはヴィニシウス・ジュニオールのスルーパスからロドリゴがペナルティーエリア内左に侵入してネットを揺らした。先制点が決まってから10分後、わずか2分間の内に逆転は果たされている。
「マドリーについて驚いたこと? ロドリゴを左サイド、ヴィニシウスを中央で起用したことだ。彼らは凄まじく速い」
ペップがそう振り返ったように、カルロ・アンチェロッティはこの試合でサプライズを用意していた。ロドリゴとヴィニシウスの左サイドでの併用である。ヴィニシウス不在時にロドリゴが左サイドでどれだけ輝こうとも、ヴィニがいれば彼に左サイドを任せてロドリゴを右で使ってきたイタリア人指揮官だが、今回は中盤に(右から)フェデ・バルベルデ、カマヴィンガ、トニ・クロース、ロドリゴ、前線にジュード・ベリンガム、ヴィニシウスを並べる4-4-2を採用。これが見事にはまっている。
左サイドで連係するロドリゴとヴィニシウスは、2点目の場面が象徴するように、マドリーのトランジションからの攻撃力を大幅に引き上げている。シティがこのブラジル人コンビをどれだけ警戒しようと、彼らのスピードとテクニックは抑え切れるものではなかった(カイル・ウォーカー不在ならなおさらで、マヌエル・アカンジでは歯が立たなかった)。スペインメディアはこれまで「ロドリゴとヴィニシウスを同時に輝かせるために“左サイドが二つあれば”どんなに素晴らしいか……」などと報じてきたが、この一戦はこれ以上ない解を見ているようだった。
また、アンチェロッティが今回使用した4-4-2システムは、守備面でも大きな効果を発揮している。四角形での守備ブロック構築はシティの中央からの攻撃を跳ね返すとともに、両サイドバックの攻撃参加を阻害することに役立っていた。胃腸炎でケヴィン・デ・ブライネも欠いたシティの攻撃は本来のレベルからかけ離れたものとなり(とりわけロドリが精彩を欠き続けていた)、ボールを簡単に奪われては、ロドリゴ&ヴィニシウスを起点とするマドリーのカウンターの餌食となっている。
(C)Getty Imagesモドリッチが起こしたドラマ
しかし苦戦するシティも、その後にリアクションを見せた。ペップはジョン・ストーンズを1列上げることでチームのパス回しの質を高めると、ペナルティーエリアを狙った中央での無謀な縦パスを止めて、マドリーを左右に揺さぶりながらゴール近くまで後退させていった。昨季同様、アントニオ・リュディガーに抑えられるアーリング・ハーランドは最後まで存在感を発揮できなかったものの、ミドルシュートという武器があれば問題は何もない。マドリーのDFラインをしっかりと下げた彼らは、66分にフィル・フォーデン、71分にヨシュコ・グバルディオルがペナルティーエリア手前からシュートを決め切って再逆転を果たしている。
だがしかし、ドラマはまだ終わらなかった。ベルナベウはやはり、マドリーが劇的ゴールを決めるための舞台なのである。アンチェロッティはシティにスコアをひっくり返された直後にクロースをルカ・モドリッチに代えたが、試合終盤になってバロンドール受賞者をピッチに立たせられる強みたるや……。
モドリッチはチームメートたちにポジショニングを指示しつつ、自らは果敢に動いてパス回しの中心となり、バルベルデの劇的同点弾が生まれる下地をつくり出している。今季に入って出場機会が激減している38歳のクロアチア人MFだが、マドリーが劇的逆転勝利を果たしたリーガ前半戦のクラシコでも同じように終盤から出場して流れを引き寄せるなど、その重要性は相変わらず、極めて高い……それともちろん、バルベルデがヴィニシウスのクロスから放った右足ボレーによるゴールも凄まじかった。
(C)Getty Images「自信」
会見場では、ペップが喋り続けている。
「2-3とした後の展開に悔いが残るか? いいや。ここはベルナベウなんだ。君は英国人だからここでプレーする意味を理解していないのだろう。バルベルデのゴールは並外れていた。ゴラッソだったよ。ベルナベウで自分たちのアイデアを90分通して実現できると考えているならば、過ちを犯すことになる。一試合を通してマドリーをコントロールし続けることなんて不可能なんだよ。私たちにはまだ学ぶための時間が必要だ。シティはこの大会を、まだ10~12年くらしか経験していないのだから」
「過去の経験もあるし、2ndレグはベルナベウよりホームでプレーすることを望むよ。この1stレグの結果によって、私たちが本命になったのかはどうかは分からない。本命は己のプレースタイルを押し付けられる方となるだろう。2ndレグは、私たちのファンが間違いなく力になってくれる。良い試合になるだろうね」
そしてペップが去った後には、アンチェロッティが登場。イタリア人指揮官は「2ndレグはアウェーで、マドリーにとって少し不利となる。しかし私たちには今日のようなゲームを繰り返せる自信がある」「2-3とされたとき、自分たちに逆転できる自信がなければ負けていただろう」「私たちの自信は無傷のままだよ」と、マドリーの精神性を体現するかのような「自信」という言葉を何度も、何度も繰り返していた。
それから会見場を後にして、エレベーターで1階に上がり、スタジアムを出る。近くのバルではマドリーとシティのサポーターが少数(4~5人)ながらそれぞれ固まって、マドリーの地ビール“マオウ”を飲み、“我がチーム”のチャントを交互に叫んでいた。それはまるで意地と意地のぶつかり合い……ゴラッソにゴラッソで応じた試合を再現していたかのようだ。白いユニフォームを着た人々も水色のユニフォームを着た人々も、さっき生まれたばかりのフットボールの面白さが凝縮された名勝負に、自分たちのチームのプレーぶりに胸を張っていた。
チャンピオンズ最多王者とチャンピオンズ現王者の決着は、まだついていない。雌雄が決するのは1週間後。舞台は、シティの本拠地エティハド・スタジアムだ。


