Pep Guardiola Jose Mourinho GFX 16:9Getty/GOAL

ペップに“モウリーニョ化”のサイン?もがくマンチェスター・シティ指揮官が取るべきではない選択

今年2月、アーセナルに1-5で完敗したことを考えれば、今回ジョゼップ・グアルディオラが採用した戦術は理解できる。ここで敗れればプレミアリーグ覇権奪還の夢は早々に厳しくなり、勝負に徹した彼の判断はある程度理解できる。実際、開始9分にアーリング・ハーランドのゴールで先制に成功し、一定の成果は挙げていただろう。

しかし、あまりにも守勢に回りすぎた結果、あの先制点以降はほとんどアーセナルゴールを脅かすことができなかった。そして、フィル・フォーデンやハーランドを早い時間に下げたことも、チームに与えるメッセージとしてはポジティブに働かなかったと言っていい。結局後半アディショナルタイムに劇的なゴールを許したが、これはある意味で必然だった。

自分たちの理想とは真逆の展開で、土壇場で1ポイントを失う形になったマンチェスター・C。この結果は、彼らの今後にどう影響するのだろうか?

  • FBL-ENG-PR-ARSENAL-MAN CITYAFP

    キャリアワーストのポゼッション率

    シティのパフォーマンスは、明らかにこれまでの彼らとは違う姿だった。スタッツもそれを裏付ける。この試合で記録したボール保持率は「32.0%」で、グアルディオラの監督キャリアで最低の数字だ。これを現状のベストメンバーで記録したことは、非常に気がかりだ。

    試合後、グアルディオラはこの戦術は意図的なものではなく、アーセナルに翻弄された結果であると主張した。「この国でまた記録を更新するなんてね。本当に誇りに思う。アーセナルを称賛すべきポイントはたくさんあるし、10年に一度なら悪くないだろう?」とコメント。さらに「今のチームは過渡期。結果なんてどうでもいい」とし、「トレーニングや試合で闘志を取り戻し、楽しんでいる姿が見たい。今週は立ち直れたし、これからも続けたい。戦術に関しては、自分たちがより快適に勝てる方法を、自分たちが誇りに思える方法を見つけていく」とも語った。

    また「ダーティーなプレー」で結果を出したことに関して問われると、首を振りながら「苦しかったね!ボールはジジ(ジャンルイジ・ドンナルンマ)の近くではなく、(ダビド)ラヤの近くにあるべきだ」と語っている。

  • 広告
  • Manchester City v Manchester United - Premier LeagueGetty Images Sport

    ドンナルンマ獲得の意味

    だが、こうした変化は今夏の移籍市場でも確認できた。ドンナルンマの獲得、そしてエデルソンの放出だ。

    ドンナルンマはショットストップやハイボール処理に関しては世界最高だろう。しかし、お世辞にも彼のビルドアップやフィード能力はトップレベルとは言えない。これがパリ・サンジェルマン退団にもつながっている。中盤でも快適にプレーできたであろうエデルソンとは、真逆のプロフィールだ。ドンナルンマ加入後、グアルディオラは「ジジに不慣れなことは要求しない。エデルソンがやってきたことを要求するわけではない。軽視しているというわけではなく、全く違う選手だからだ」と語っている。

    つまり、シティはGKへ要求する能力の方向性を変えている。今後はGKをフィールドプレイヤーとしてカウントすることはできないだろう。また、右サイドバックにアブドゥコディル・クサノフを起用していることも、スタイルの変化を示唆している。

  • Arsenal v Manchester City - Premier LeagueGetty Images Sport

    新スタイルと選手たち

    だが、シティはまだまったく新しいスタイルへの適応途中だ。アーセナル相手には一定の成果を挙げたとはいえ、結局勝ちきることはできていない。そして失点シーンに関しても、より高い位置に全体を押し上げて試合を支配するという、長年採用してきたスタイルの弊害により、ガブリエウ・マルティネッリが張り込むスペースが生まれてしまっている。

    そもそも選手たちは、こうしたスタイルに100%納得しているわけではないかもしれない。

    特にチームの絶対的中心であるロドリは、恐れることなく相手チームのこうした戦術を批判してきた。2023-24シーズンのチャンピオンズリーグ準々決勝、レアル・マドリーにPK戦の末に敗退した後、「はっきり言って、僕には1つのチームしか見えなかった。守備では(相手は)よく守っただろう。耐える戦術を知っていたしね。でも僕の意見では、あれだけチャンスを作った僕らが突破すべきだった」と語っている。またスペイン代表として出場したEURO予選でスコットランドに敗れた際も、「彼らのプレースタイルは、僕にはくだらなく見える。常に時間を浪費し、挑発し、倒れる。これはフットボールじゃない」と断罪した。極めつけは2024-25シーズンの優勝後、激しくタイトルを争ったアーセナルに対して「ホームで直接対決した際、『ああ、勝ちたくないんだ。引き分けが欲しいだけなんだ』と思った。僕らはそのメンタリティと同じように戦おうとは思わない」と語っている。

    最も得点が期待でき、カウンターで脅威になるハーランドを76分で下げ、ディフェンスラインに6人を配置する……こうした戦術は、ロドリが全否定してきたそのものではないのだろうか。

  • Manchester City v West Ham United - Premier LeagueGetty Images Sport

    チームマネジメント

    これまでのシティは、最終ラインからボールを巧みに動かしながら相手陣内に全員が侵入し、ハーフコートで試合を進めながら完全に支配する形を目指していた。そのスタイルでは世界最高クラスであり、だからこそ歴史的な三冠を含む数々のタイトルを積み上げてきた。

    しかし昨シーズン、ロドリを長期離脱で失い、ケヴィン・デ・ブライネやイルカイ・ギュンドアンといった精神的支柱も様々な理由でパフォーマンスを落とし、その結果としてグアルディオラ体制最悪の時期を過ごしてしまった。彼らの代役は存在せず、こうした理由からも支配的なスタイルの調整が必要になったのかもしれない。単純に、ハーランドという世界最高のストライカーを活かすという意味もあるだろう。

    もちろんシーズンはまだ始まったばかりで、今回はアーセナルが相手だったことが大きい。とはいえ「ビッグマッチをどう戦うか」という意味では1つの指標になる。現在のシティは中途半端な印象だ。そして、チームスタイルを調整するほどの選手層もない。グアルディオラは「スカッドに人数が多すぎるなら辞める」とスカッドの肥大化をまったく望んでいないが、主将ベルナルド・シウバが過密日程を嘆いたこととやや矛盾している。彼らは勝利に慣れすぎたせいか、苦しい時のチームマネジメントに答えを見出せていないようだ。

  • FBL-ENG-PR-ARSENAL-MAN CITYAFP

    優勝争い

    プレミアリーグ開幕5試合を終え、シティが稼いだ勝ち点は「7」。これはルベン・アモリム率いるマンチェスター・ユナイテッドと同じだ。昨季王者にして首位を快走するリヴァプールとは、すでに8ポイントの差が開いた。

    繰り返すが、まだ開幕5試合を終えたばかりである。しかしハーランドが絶好調(全体会で13ゴール)で、ロドリが復帰し、ドンナルンマという守ることに関しては世界最高の守護神が到着したにも関わらず、思うように勝ち点を積み上げられていない。リヴァプールもアーセナルも、これから超大型補強で入ってきた新加入選手たちがフィットし、チームとして完成していくはずだ。シティは彼らを追いかけ、それを上回らなければならない。それを考えると、序盤とはいえこの差は重くのしかかる。

    近年のプレミアリーグで優勝するためには、シーズンを通してほぼ完璧な結果が求められる。それは他でもない、シティが始めたことだ。だが、残念ながら昨シーズンから続く流れは彼らの衰退を意味しているのかもしれない。

  • FBL-POR-LIGA-AVS-BENFICAAFP

    グアルディオラの時代

    そしてシティが目を向けなければならないのは、グアルディオラの時間があと何年続くかということ。これまで残してきた結果やフットボール界への影響を考えれば、彼は史上最高の指揮官と言ってもいい。

    しかし、永遠はない。ジョゼ・モウリーニョを見ればそれは明白だ。その時代の最先端を行き、歴史を作った指揮官でも、いつかは時代に取り残される。アーセン・ヴェンゲルやサー・アレックス・ファーガソンも経験してきたことだ。現在のプレミアリーグは、選手だけでなく世界最高の指揮官が揃っている。常に自分をアップデートし続け、ありとあらゆる手段で勝ちに来る指揮官しかいない。そうしたハイレベルな指揮官を相手に少しでも水準を下回ってしまえば、あっという間に順位は転落していくだろう。

    モウリーニョの信念は、「あらゆる手段で勝利を掴む」ことだった。だからこそ守備に念頭を起きながら、どれだけ「つまらない」と言われようが徹底的に勝利するため、リーグ優勝するための手段を取ってきた。それが数々のタイトルをもたらした。当時の彼を憎みこそすれ、その手腕を疑う人はほぼいなかった。だがしかし、最終的にはフットボールに取り残されていった。かつての「未来」だった指揮官が、今では「時代遅れ」と厳しく批判されている。

    パリ・サンジェルマン、バルセロナ、リヴァプール、そしてアルゼンチン代表やスペイン代表の成功は、現代フットボールを示す明確な物差しだ。攻守四局面すべてにハイレベルで適応し、チームが1つの生き物のように動き続けなければならない。もう「バスを停めてリードを守り切る」ことは不可能である。

    グアルディオラ自身は、進化の必要性を認識している。リヴァプールやアーセナル、そしてPSGやバルセロナといったチームに追いつくため、シティに変化を加えなければいけないともがいている。だが、そのインスピレーションをモウリーニョから得るのは危険なはずだ。