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嘲笑されてきた“チェルシーモデル”がついに成功へ?2つのタイトルとマドゥエケ放出が示す意味

チェルシーの「不可解な」移籍戦略が、ようやく実を結び始めた。

若手主体のチームが2カ月連続でタイトルを手にした後、今度は5200万ポンドとされる金額でノニ・マドゥエケをアーセナルに放出する。この移籍で、チェルシーが手にする利益は2000万ポンドを超え。ベストプレイヤーの1人とは決して言えない選手から手にする利益としては、十分な成果だろう。

あまりにも派手な補強戦略で散々酷評されたチェルシーだが、ピッチ上でも具体的な結果がようやく表れ始めると伴に、若手主体の補強戦略がクラブに大きな利益をもたらし始めている。これまでは理解不能とされていたアプローチだが、ここに来てようやく評価され始めているのだ。

  • Chelsea FC v Everton FC - Premier LeagueGetty Images Sport

    巨額の利益に

    おそらく、チェルシーファンの多くはマドゥエケの退団に動じないはずだ。確かに同じロンドンのライバルに移籍することは気になるかもしれないが、ピッチ上では不安定なパフォーマンスを繰り返していたため、この移籍金なら文句を言う人はいないだろう。2年半前に加入して以降はポテンシャルを発揮することもあったが、90試合で20ゴール9アシストという成績を考えれば、2000万ポンドの利益は見逃せないはずだ。

    昨季後半からようやくレギュラーを掴んだマドゥエケだったが、フィニッシュフェーズでの決定力不足と自分で完結することにこだわるスタイルは、完全に指揮官の信頼を勝ち取ったわけではない。クラブワールドカップで示したように、ペドロ・ネトの方がよりチームにとってはポジティブな影響を与えている。

    そしてアーセナルファンの一部も、この補強に反対している。SNSでの「#NoToMadueke」運動やミケル・アルテタを批判する声など、少なくない数が挙がっている(その方法は最悪だったが)。

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  • Chelsea FC v Everton FC - Premier LeagueGetty Images Sport

    規律違反

    またマドゥエケの場合、規律の欠如が売却決定に大きく影響したとも言われている。

    2023-24シーズンに発生したPKキッカーを巡る醜い争いの中心人物であったこと、昨季のウルブズ戦でハットトリックを達成する直前に「ウルブズはクソみたいな場所」とインスタグラムに投稿したことなど、目に余る行動を重ねてきた。

    2014年12月、エンツォ・マレスカ監督はアストン・ヴィラ戦でマドゥエケをベンチ外とし、「ノニはもっとできる。もっとできるんだ。ゴールやアシストを決めて気分が良くなると、少し緩んでしまう。彼がプレーしなかった理由は、トレーニングの仕方が気に入らなかったからだ。彼はもっと、もっと、もっと良くなれるんだ」と姿勢に苦言を呈していた。だが同月後半、フラム戦でまたもメンバー外に。マレスカが「技術的な判断」と説明し、後にレギュラーを掴んでいるものの、指揮官や上層部から見てこうした振る舞いが売却に影響したことは間違いないだろう。

  • noni-madueke(C)Getty Images

    “チェルシーモデル”

    そして今回のマドゥエケの移籍は、チェルシーにとって財政面、スポーツ面、そして規律面において明確な意味を持つ取引である。これまで理解不能とされてきた移籍戦略が、ついに機能し始めたと言える最初の兆候だ。

    トッド・ベーリーが実権を握り始めて以降のチェルシーは、信じられないような数の選手たちを次々に獲得。スカッドの肥大化や投資額はイギリス国内で嘲笑されることもあったが、そのほとんどが将来有望な若手選手であり、事実として現在プレミアリーグで最も平均年齢が若いスカッドを作りあげている。

    さらにこの移籍戦略により、1シーズンの給与総額を削減することに成功。PSR(プレミアリーグの収益性と持続可能性に関する規則)へ対処する手段して異例の長期契約(7~8年)を結ぶことで、長期間にわたってコストを分散して償却している。また戦力外の選手を償却期間中でも次々に放出することで、多くのメリット獲得している。

    この“チェルシーモデル”は長年笑いものとなってきたが、ピッチ上でも結果を残し、移籍市場でも大きな利益を獲得している今では、改めて評価すべき戦略なのかもしれない。

  • Chelsea FC v Paris Saint-Germain: Final - FIFA Club World Cup 2025Getty Images Sport

    サポーターの信頼

    “チェルシーモデル”にはサポーターすら不満を覚えた時期もあったが、2024-25シーズンの結果に文句を言える人間はいないはずだ。

    苦戦を強いられたものの確実に新シーズンのチャンピオンズリーグ出場権を手にすると、カンファレンスリーグでは確実にタイトルを獲得。そしてクラブワールドカップでは、圧倒的な優勝候補であったパリ・サンジェルマンを決勝戦で3-0と下し、二度目の世界王者に輝いている。

    そしてこの試合の主役になったのは、2023年に4200万ポンドでやってきたコール・パーマー。当時は移籍金に関して「払いすぎ」との声も少なくなかったが、現プロジェクトの「顔」である彼はこれまでの活躍で、評価額がおよそ4倍に達したとも言われている。さらに、この決勝戦にマドゥエケが不在だったことも注目すべきだ。ベーリーらによる買収から3年、ようやくサポーターも補強戦略に納得し始めている。

  • Cole PalmerGetty

    自信

    “チェルシーモデル”にはサポーターすら不満を覚えた時期もあったが、2024-25シーズンの結果に文句を言える人間はいないはずだ。

    苦戦を強いられたものの確実に新シーズンのチャンピオンズリーグ出場権を手にすると、カンファレンスリーグでは確実にタイトルを獲得。そしてクラブワールドカップでは、圧倒的な優勝候補であったパリ・サンジェルマンを決勝戦で3-0と下し、二度目の世界王者に輝いている。

    そしてこの試合の主役になったのは、2023年に4200万ポンドでやってきたコール・パーマー。当時は移籍金に関して「払いすぎ」との声も少なくなかったが、現プロジェクトの「顔」である彼はこれまでの活躍で、評価額がおよそ4倍に達したとも言われている。さらに、この決勝戦にマドゥエケが不在だったことも注目すべきだ。

    ベーリーらによる買収から3年、ようやくサポーターも補強戦略に納得し始めている。そして選手たちも現在のプランに自信を深めている。圧巻のパフォーマンスでクラブW杯優勝に導いた後、パーマーは「監督は特別であり、重要なものを築いているんだ。シーズン中にはみんなが僕らを批判していたけど、正しい方向に進んでいると信じているよ」と強調していた。

  • Joao Felix ChelseaGetty Images

    欠陥

    だがもちろん、依然として欠陥はある。チェルシーはわずか数週間前、財務規則違反でUEFAから2700万ポンドの罰金を科されている。さらにチェーザレ・カサデイ、アンジェロ、マティス・アムグーは正当な出場機会すら与えられずに売却された。

    さらに彼らのモデルは「当たればラッキー」に見えても仕方がない。昨夏にジョアン・フェリックス、キアナン・デューズバリー=ホール、レナト・ヴェイガ、オマリ・ケリーマンの獲得に1億ポンド以上を費やしたが、彼らはほぼ戦力になっていない。ケリーマンを除く3選手は1年で退団するのが確実だろう。

    これまでの歴史で、今のチェルシーほど選手の入れ替わりが激しいクラブはなかっただろう。「若手選手を商品のように扱っている」、こうした批判は当然かもしれない。

  • Chelsea FC v Paris Saint-Germain: Final - FIFA Club World Cup 2025Getty Images Sport

    「予定より早く進んでいる」

    新体制で過ごした3年間、派手な補強を繰り返してきたチェルシー。それでも今夏は、これまでの教訓を活かしたものと言えそうだ。

    リアム・デラップ、ジョアン・ペドロ、ジェイミー・ギッテンスと各国リーグで実力を証明している選手たちを獲得。前者2人に関してはすでにクラブW杯で戦力になる得ることを証明した。一方でジョルジェ・ペトロビッチの売却に成功、フェリックスやラヒーム・スターリングなど他の戦力外選手の移籍先を探していることも伝えられている(最終手段として、深い関係を築くサウジアラビア方面も残っている)。これまで以上に“うまく”立振舞ることが期待できそうだ。

    だがいずれにせよ、“チェルシーモデル”の成功はピッチ上の結果にかかっている。そしてマレスカ曰く、それは「予定より早く進んでいる」ようだ。2カ月連続で2つのタイトルを獲得、それもクラブW杯が与えた影響は巨大だ。今の彼らは、世界屈指の強豪相手にもまったく引けを取らない戦いができるまでに成長している。

    チャンピオンズリーグ出場権を確保し、2つのタイトルを獲得し、マドゥエケの取引で巨額の利益を獲得……“チェルシーモデル”はようやく、成功に近づいている。