Arsenal women Champions League splitGetty Images

アープス獲得の不確実性、ルッソの悪夢…アーセナルの女子CL敗退が大惨事である理由

先週の土曜日、試合終了とともにマヌエーラ・ツィンスベルガーの頬を涙がつたった。その姿は、パリFCに負けたアーセナルの衝撃がどれほどのものだったか、すべてを物語っていた。

女子チャンピオンズリーグ予選の2試合目、ガナーズは、フランスのチームに勝てば、ホーム&アウェイ方式のアウェイの試合を制して本大会進出が決まるはずだった。だが、ジョナス・アイドヴァル監督率いるアーセナルは、喜劇的ですらある守備のミスで、恥ずかしながら早々に大会を去ることとなった。

トレードマークというべき固い決意を見せたアーセナルは、2点リードされながら、ジェニファー・ビーティーとアレッシア・ルッソのゴールで奈落の底から這いあがり、試合を延長戦へと持ちこんだ。その後、両チームがそれぞれ得点し、試合はPK戦にもつれ込んだ。

だが、女子ワールドカップで一躍スターとなったパリFCのGKチアマカ・ナドジーが、アーセナルのルッソとフリーダ・マーナムのシュートを止め、敗色濃厚だったパリFCの勝利となった。試合後、アイドヴァル監督は、早々に自身のチームのパフォーマンスが悪かったことへの言い訳を始めた。

  • Jonas Eidevall Arsenal 2023Getty Images

    苦しい言い訳

    「この大会が始まったときから、本当にタフな試合になるだろうとわかっていた。その理由はいろいろある」と、アイドヴァル監督は言った。

    「ひとつ目はパリが本当に良いチームだということだ。さらに、我々には準備の時間が限られていたし、まったく慣れていない3Gの人工芝のピッチでプレーしなければならなかった。この試合を難しくした外的要因は複数あり、一発勝負で戦わなければならなかった」

    アイドヴァル監督の言うことにはある程度正当性があり、確かに情状酌量の余地はある。プレシーズンのアーセナルには多少の騒動があったし、試合日程の調整がつかず、準備のための試合ができないまま厳しい予選が始まったのは確かだ。

    実際、アイドヴァル監督はこうも言っていた。

    「ほとんどの監督は、実際の試合が始まる前に、1つか2つ親善試合をしたいと思っていると思う。世界中どこでもそうだろうし、私も他の監督たちと同じだ」

    人工芝でのプレーも理想とは程遠いものだったし、パリFCは昨シーズンにフランスの二大チームから大きく離されての3位だったにもかかわらず、決して下を向いていなかった。

    だが、これらすべてを考えても、アイドヴァル監督の言い訳はかなり苦しいものである。アーセナルはパリFCよりも選手層がずっと厚く、ケガで何人かのスターを欠いていたとはいえ、大会を勝ち進むのに充分な選手たちがいたのは事実だ。

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  • Frida Maanum Caitlin Foord Arsenal Women 2022-23Getty

    報われなかった努力

    アーセナルの早すぎる敗退がフラストレーションのもとになってしまったのは、最近のアーセナルがはるかに厳しい挑戦を乗り越えてきたからでもある。

    2022-23シーズン、アーセナルは前十字靭帯断裂でリア・ウィリアムソン、フィフィアネ・ミデマー、ベス・ミードといった主要な選手を欠いていた。さらにシーズン終盤には、同じケガでラウラ・ヴィーンロイターまでいなくなった。キャプテンのキム・リトルや、ラファエル、リア・ウェルティといった選手たちもそれぞれの理由で、さまざまな時点でいないことがあった。

    ケガ人続出でもアーセナルは勇敢に戦いつづけ、WSL(ウィメンズ・スーパーリーグ)を3位で終えた。最後の2試合には敗れたものの、最終日に勝ち点で並んだマンチェスター・シティを得失点差で上回っての3位だった。

    アーセナルが女子チャンピオンズリーグで勝ち進みながらリーグ戦も戦っていたことを考えると、上位3チームに入ったことは、より印象深く思われる。アーセナルは前回優勝のリヨンと同じ組に入りながらグループ首位に。準々決勝ではブンデスリーガ優勝の常連、バイエルン・ミュンヘンと対戦した。

    第1レグは1対0で敗れたものの、第2レグでは北部ロンドンで2万人を超える観客の前で奮闘し、フリーダ・マーナムとスティーナ・ブラックステニウスの得点で最後の4チームに残ったのであった。この結果、準決勝ではヴォルフスブルクと対戦することとなった。

    ドイツでの試合では両チーム2得点ずつの引き分けだったが、アーセナルは前半2対0とリードされたところから追いついての引き分けだった。第2レグではエミレーツ・スタジアムに6万人以上のサポーターが集まったが、アーセナルはついに力尽きた。2対2の同点から延長戦に突入すると、明らかに疲れ果てていたロッテ・ウーベンモイの決定的なミスで、ポーリーン・ブレマーに絶好のチャンスを与えてしまい、ヴォルフスブルクが決勝に進出したのだった。

    チャンピオンズリーグの決勝まであと一歩のところまで行き、前代未聞の負傷者の多さにも関わらずリーグ3位となったことは、驚くべきことであった。今シーズン、アーセナルはその努力に見合う成果をあげるだろうと思われていた。ライバルチームを倒してヨーロッパ・チャンピオンとなるチャンスをつかむはずだったのだ。

    ところが、スウェーデンの地で負けたことにより、今シーズンはもうチャンピオンズリーグの試合に出られなくなったのである。

  • Arsenal Women Wolfsburg 2023Getty Images

    光に満ちた特別の夜はもう来ない

    このことは、昨シーズンにWSLを他のどのチームよりも素晴らしく戦ったことで、新たなサポーターを大勢獲得したアーセナルにとってひどく胸の痛むこととなるだろう。昨シーズンはグループステージで着実に観客を増やし、バイエルン戦では21,307人もの観衆がチームを大いに後押ししていたのである。

    試合後、アイドヴァル監督はこう言っていた。

    「大勢の観客、特に大勢のアーセナルのサポーターの前に登場し、プレーするたびに素晴らしい雰囲気と素晴らしい時間を感じている。本当に感謝している。バイエルン・ミュンヘンと戦ったときに我々が素晴らしいプレーができたのは、大勢のサポーターのおかげだった」

    ヴォルフスブルク戦でも観客数は膨れあがり、エミレーツ・スタジアムでの女子の試合では史上初めて完売となった。チケットの売り上げが確定すると、アイドヴァル監督は大いに喜んだ。

    「いつか振り返ったときに、完売が普通のこととなった最初の試合がこれだったと思えるようになるといい。私がエミレーツで戦うためにこのチームに来て以来、我々はあらゆる機会を利用してきた。いつでも来たいと思える場所だ。エミレーツでプレーするたびに、ホームにいる感覚が強くなっている」

    そして、そこに問題がある。アーセナルはエミレーツでWSLの5試合をすることになっているが、チャンピオンズリーグを敗退したために今後、通常のMeadowパークから離れてプレーするチャンスがなくなったのである。

    このことは、コンチネンタルカップの後半戦とFAカップの試合が大きいほうのスタジアムで行われることで報われるかもしれないが、これらの大会はチャンピオンズリーグほど魅力的な大会ではない。クラブにとっては大いにフラストレーションが溜まることであり、昨シーズン積みあげた勢いを失わないよう必死になることだろう。

  • Alessia Russo ArsenalGetty Images

    ルッソの災難

    誰よりもアーセナルのチャンピオンズリーグ敗退の痛みを感じているのは、夏に契約したばかりのルッソだろう。この夏のマンチェスター・ユナイテッドからの移籍は物議をかもしたが、このフォワードは北部ロンドンに来た理由のひとつとして、特にヴォルフスブルク戦のような光り輝く夜の試合をたくさんプレーできそうだからと言っていた。

    「女子サッカーは信じられないほど急激に成長したと思っている。特にアーセナルのようなクラブの成長はすごい」と、彼女は言っていた。

    「昨シーズン、エミレーツ・スタジアムでのヴォルフスブルク戦のチケットが完売したことは素晴らしかった。このクラブの一員となれて、ただただ興奮している」

    ルッソはガナーズがタイトルを獲得できる可能性があることも指摘していた。だから、本大会に出場する前に敗退してしまったことは心の痛むことだろう。古巣のマンチェスター・Uはグループステージ進出を決めており、来月にはホーム&アウェイ方式の試合に挑むこととなったが、そのこともルッソの痛みを増すだけだろう。

    とにかく、ルッソは少なくとももう1シーズン待たなければチャンピオンズリーグを経験することができないのだ。

  • Mary Earps England Women's World Cup 2023Getty

    メアリー・アープスとの契約はありうるか

    この敗退はクラブの今後の選手獲得にも影響を与えるかもしれない。先週、アーセナルがイングランド代表のゴールキーパー、メアリー・アープスをマンチェスター・Uから獲得することを決めたと報じられた。

    ガナーズは10万ポンド(約1,800万円)を超えるオファーをしたようだと言われている。ゴールキーパーとしては記録的な報酬となるだろう。アーセナルがチャンピオンズリーグを敗退する前から、アープスは強く移籍を希望していると言われている。

    しかしながら、2023年ワールドカップでゴールデン・グローブ賞を受賞したアープスは、プロとして初めてチャンピオンズリーグでプレーできるチャンスを諦めてまで、ロンドンへ移籍したいと思っているだろうか。その可能性は低い。

    アープスの契約は今シーズン末で満了するため、最終的にはアーセナルに来る可能性があるが、今月末の移籍市場の締切前にガナーズがアープスを獲得するチャンスは今や、かなり遠のいている。ルッソ同様、我慢強く待たなければならないだろう。

  • Jonas Eidevall Arsenal 2023Getty

    アイドヴァル監督にかかるプレッシャー

    2021年、ジョー・モンテムロ前監督の後を継いだアイドヴァル監督は、大胆にもチャンピオンズリーグのトロフィーを北部ロンドンに持ってくると誓った。

    「これはとても重要なことだ」と、彼は言った。「ある意味、これでアーセナルは人々に注目されるようになると思う。トップレベルで最高のトロフィーを競う大会で戦うことが、私がアーセナルに来た理由のひとつだ。このクラブでチャンピオンズリーグが勝てるかどうか、やってみたいと思う」

    過去2大会で準々決勝と準決勝に進出していたアーセナルは今シーズン、アイドヴァル監督と仲間たちが真剣に挑戦する舞台が整っていると見られていた。

    しかしながら、夢は破れた。そして、アーセナルの優しいボスには国内リーグで結果を出すというプレッシャーがのしかかってきたのである。昨シーズン、チャンピオンズリーグでの躍進とともにコンチネンタルカップで優勝したことで、スウェーデン人監督は当然のことながら多くの称賛を得たのであった。

    しかし、今回の重大な結果を受けて、監督に多くの疑問が浮上していることも当然である。今シーズン、北部ロンドンに栄冠をもたらすことができなかったことで、アイドヴァル監督は来年の夏、契約が満了すればチームを去ることになるかもしれないという深刻な危機に見舞われている。