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アーセナルはもう「惜しかった」では許されない:アルテタが認めるべき後退とキーンの言葉

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おそらく、今季もアーセナルは優勝ではなく準優勝で満足しなければならないだろう。オールド・トラッフォードでの引き分けにより、首位リヴァプールとの差は「15」まで広がった。残り10試合で取り返すことはほぼ不可能だろう。過去2シーズンはマンチェスター・シティに阻まれたが、今季は就任1年目のアルネ・スロット率いるリヴァプールを前にまたも涙をのむことが濃厚だ。

アーセン・ヴェンゲル後の混迷の時代を終わらせたという意味で、ミケル・アルテタは絶賛されるべきだ。その後の進歩を見れば疑いようがない。だが、このアーセナルが優勝“候補”の地位を脱し、実際に優勝できるかどうかには疑問が残る。

あのパフォーマンスを見れば、近年最悪の状態のマンチェスター・Uになんとか引き分けに持ち込めたのは幸運だったと言えるだろう。ケガ人続出や様々な不運が今季のアーセナルを狂わせたのは確かだが、問題はそれだけではないようだ。

  • Coventry City v Manchester United - Emirates FA Cup Semi FinalGetty Images Sport

    ロイ・キーンの言葉

    率直で歯に衣着せぬ物言いで知られるロイ・キーンは『スカイスポーツ』で、マンチェスター・U戦を終えたアーセナルについてコメント。来シーズンの優勝の可能性を問われた際、こう酷評した。

    「いや、なぜ私がそんなことを考える必要があるんだ? アルテタがそれをできると考える根拠は? ここ数年はかなり近づいてきているが、来年はリヴァプールはもちろん、マンチェスター・シティも力を増すだろう」

    「アーセナルがそれを成し遂げられるという証拠はどこにあるのんだ? ストライカーを獲得すればそれは助けになるだろうが、彼らに正しいメンタリティはあるのか? 監督にはあるのか? 勝っている時の彼らは別の姿を見せるが、負けている時はまったく違う姿になる」

    「シーズン20ゴールを挙げるようなストライカーを獲得して、必ずし違いが生まれるわけではない。シティはまた足踏みしてくれるのか? ペップ(グアルディオラ)は復活するだろう。リヴァプールもさらに強くなる。チェルシーはわからないが……アーセナルがそれを成し遂げるという証拠は何かあるだろうか?」

    「チャレンジするのは良いことだ。だが、もうタイトルを獲得すべき時なんだ」

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  • FBL-EUR-C1-ARSENAL-PSGAFP

    アルテタの功績

    アルテタに「優勝の資格がない」と批判する声は、これまではただ注目を集めるだけの不公平なものだった。監督就任から200試合で100勝以上を達成した歴代10人のプレミアリーグ指揮官の中で、アルテタは5位(118勝)。ペップ・グアルディオラ(146勝)、ジョゼ・モウリーニョ(137勝)、ユルゲン・クロップ(127勝)、サー・アレックス・ファーガソン(122勝)と名将に並ぶような成績である。また2022年~2024年の平均勝ち点は「86.5」であり、これはクラブ歴代最高だ。こうした数字は嘘をつかない。

    ヴェンゲル体制末期や短命に終わったウナイ・エメリ政権、そしてアルテタ最初の18カ月はとにかく結果が出ないため、イングランドでは揶揄される存在だったアーセナル。それをこのスペイン人指揮官は、少しずつ自分のイメージ通りのチームに作り直し、低迷していた古巣を再びプレミアリーグのトップへと押し上げていった。2019年12月に就任した後、彼以上に称賛に値する指揮官はおそらくあの国にいないはずだ。

    だからこそ、ファンの愛情も厚い。それは選手として長きに渡って活躍したからというだけではない。サポーターとの信頼関係を事あるごとに口にしてきたアルテタが、今のクラブにもたらしたものはかけがえのないものである。愛されて当然の存在だ。

  • FBL-ENG-PR-MAN UTD-ARSENALAFP

    “失敗”

    現代の監督は時に週に6回もの記者会見を行い、さらに試合前と試合後に別でテレビインタビューにも応える。もはや当たり前の光景になってきたが、その負荷は大きい。そしてアルテタのような聡明な青年指揮官は、公の場での振る舞いがいかに重要かも心得ているはずだ。

    それでも、冷静さを失うことは度々起きる。今回のマンチェスター・U戦では、『スカイスポーツ』のパトリック・デイヴィソンにタイトルレースについて質問されると、おもむろに立ち上がってその場を後にした。これはリヴァプール相手にタイトルを「死守したい」と語ってから3週間後のことだ。そしてあの発言以来。アーセナルは3試合で2ポイントしか獲得できていない。

    アルテタは、これまでの仕事ぶりからライバルチームよりも猶予を与えられていただろう。だが「良い戦い」をして「タイトルまであと一歩」で満足するファンはもういないはずだ。今季はこれまで以上にトロフィーが求められていた。特にペップ・シティが躓いたことにより、これ以上ないチャンスだったはずだ。だからこそ、2024-25シーズンのアーセナルは“失敗”と記憶されてもおかしくはない。

  • Manchester United FC v Arsenal FC - Premier LeagueGetty Images Sport

    こだわりすぎた“完璧”

    現役時代に常勝軍団の主将だったキーンは、今のアーセナルに「真価」を促している。シティは冬の大型補強からチームの刷新を図っており、リヴァプールも主力3選手の去就を含めて今後大きな動きがあるかもしれない。

    では、アーセナルはどうだろうか?もちろん、今のチームに最も必要なのはストライカーだ。だが、それだけで解決できるほど簡単じゃない。確かに、ケガ人続出という不運もある。マルティン・ウーデゴールとブカヨ・サカという2人の主軸が抜けてしまえば苦しくなるのは当然だ(選手層を活かしきれないことに問題はあるが)。

    しかし、首位と15ポイントも離された理由はそれだけではないのだ。プレミアリーグ最高のエンターテイナーだった彼らだが、よりテンポを落として緻密に作り上げた攻撃へとシフトしていったことが大きな問題だった。テンポの悪さ故に相手が守備ブロックをしっかりと構えた後に攻撃を仕掛けるが、もちろんスペースは余っておらず、再びテンポを上げることもできない。フェラーリで農場の泥の中に突っ込むようなものだ。唯一セットプレーだけだが改善されたが、それだけで試合に勝てほどプレミアリーグは甘くない。

    そして攻撃面の脅威を放棄しただけでなく、守備面でも弱体化している。ファイナルサードであれほど苦しんでいたマンチェスター・Uが何度もGKダビド・ラヤを脅かしたという事実が物語っている。

    それでも、アルテタは自身のスタイルとプレーシステム、ルーティン的な試合展開から脱却する意思を見せていない。この硬直したアプローチこそ、アーセナルの衰退を招いている。彼らは“完璧”にこだわった結果、あらゆる細部を気にしすぎていて、あまりにも複雑になりすぎている。それは「手段を問わずに勝利する」ではなく、「より試合をコントロールする」に向かっていったためだ。

  • Arsenal FC v Manchester United FC - Premier LeagueGetty Images Sport

    野心

    アーセナルの問題はそれだけではない。タイトルを取れずに年数が経過したということは、現チームの主力選手の契約が次々に満了に迫っているというこだ。

    トーマス・パーティとジョルジーニョの契約は今季限り。そしてレアンドロ・トロサールとオレクサンドル・ジンチェンコ、冨安健洋の契約は2026年まで。さらに2027年には、サカ、サリバ、ガブリエウという3大スターの契約が満了する。現時点で契約延長に関するニュースは一切ない。契約が残り2年となってしまえば、売却か延長かの難しい判断を迫られることになる。

    少年時代からアーセナルで育ったサカは、残留する可能性が高いだろう。しかし、大黒柱である2人のセンターバックは同じとは限らない。特にサリバにはレアル・マドリーが接触し始めており、あと3カ月でセルヒオ・ラモスが「彼にはレアル・マドリーのDNAがある」と言い出すはずだ。

    いずれにせよ、アーセナルは話題の中心にある内に成功を掴まなければならない。最高の選手たちの野心を真剣に実現し、数々のライバルたちよりも意欲的であることをタイトルという形で証明しなければならないのだ。

  • Mikel Arteta speechGetty Images

    「惜しかった」では許されない

    2023-24シーズンの最終節、タイトルを逃した直後にアルテタはエミレーツ・スタジアムで力強いスピーチを行った。

    「(最終節まで優勝の可能性を残していたのは)みんなが信じ始めていたからだ。みんなが忍耐強く待ち、我々が挑戦しようとしていることを理解してくれた。そしてそのすべての功績は、この素晴らしい選手・スタッフのおかげだよ」

    「今は一息ついて、考え、振り返ろう。そしてどうか、このチームを応援し続けて欲しい。満足はしていないし、これ以上のものを勝ち取りたい。だからこそ、必ず手に入れよう。本当にありがとう」

    誰もが今季のシティの失速を予想していなかったし、ユルゲン・クロップ最終年のリヴァプールの低迷、チェルシーがビッグイヤーを獲得したトーマス・トゥヘルを1年以内に解任することなど、フットボールは短期間で予想もしないことが起こり続ける。

    そうした中でアルテタは、チームが5つのフェーズの中で「フェーズ4」にあると主張している。それは「チャンピオンズリーグで最高レベルに定着すること。常に団結し、ビッグタイトルに迫ること」だ。この方法論がアーセナルを導いてきたことは間違いないし、これまでの戦いは称賛されるべきだ。

    だが、もう「惜しかった」では許されない。アーセナルにとって、もはやタイトル獲得は「義務」に近い。これまで進歩を積み重ね続けてきたからこそ、トロフィーを掲げなければいけないのだ。それを実現するためにも、補強はもちろんだが、アルテタ自身の変化も必要なのだ。