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マンチェスター・Uのファンにはラッシュフォードを疑い続ける理由がある…ダービーでのスペクタクルなゴールでも彼の不滅の「献身」を証明するには至らない

「僕のファンの人には良かったと思うし、僕を疑っている人に対しては、さらに良かったんじゃないかな」。マーカス・ラッシュフォードは、『ザ・ブレーヤーズ・トリビューン』で述べた自身の力強い言葉をさらに裏付けることが出来なかった。日曜のダービーで、マンチェスター・ユナイテッドは、このイングランド代表ストライカーの開始8分でのノンストップの25ヤード(約23メートル)砲のおかげで、宿敵マンチェスター・Cを唖然とさせた。ラッシュフォードのシュートはクロスバーを叩いてGKエデルソンが守るゴールへ吸いこまれ、エティハド・スタジアムのアウェイ側スタンドは狂喜乱舞したのだ。

それはラッシュフォードのキャリア全体から見てもベストゴールのひとつで、本人も、トレードマークとなりつつある、こめかみを指さす仕草で喜びを表現した。きっと、右足だけでなく精神的な強さも自身の最高の武器であると思っていることだろう。だが、そんな歓喜の瞬間も彼の心の成熟を示すものではなく、26歳にしてすでにピークを過ぎてしまったように見られている選手が非常に残念な2023-24シーズンを補うには、不十分なものだったことは間違いない。

試合は結局マンチェスター・Cが3-1の逆転勝利をおさめ、ラッシュフォードは、試合時間残り15分の時点で痛ましい姿で交代となった。彼を疑う人々のリストは今まで以上に長くなり、彼ができることがこの程度だというのなら、サー・ジム・ラトクリフとINEOSは、この夏、マンチェスター・Uの選手名簿から週給35万ポンド(約6,600万円)の選手を外したほうが賢明だろう。

  • Rashford-Walker-Man-Utd-CityGetty

    「またやる気のない顔をしていた」

    エティハドで先制点を挙げたから10数分後、ラッシュフォードは、ブルーノ・フェルナンデスのプレーを受けてゴール前へ突進する絶好のチャンスを得たが、ファーストタッチにもたついてカイル・ウォーカーに追いつかれ、危険を回避されてしまった。数分後、再びフェルナンデスが、今度は深いクロスでおぜん立てをしてくれたが、ラッシュフォードはボレーを完全に失敗し、ピッチに倒れこんだ。

    その後ラッシュフォードは不満げな様子でベンチにサインを送っていたようで、本人に続ける気はあったにせよ、まったく脅威は感じられなくなっていた。後半もかろうじてピッチに立っていたが、彼が再びウォーカーとの競争に負けた後、マンチェスター・Cはフォーデンが反対サイドを駆けあがって同点ゴールを決めた。ラッシュフォードは審判にアピールしていたが無視された。たとえ認められたとしても非常にソフトなファウルだった。

    ようやくエリック・テン・ハーグが交代させると決め、マンチェスター・Uは必死に頑張ったが、代わって入ったのが、過去10年で最悪の契約と言われるブラジル代表の問題児アントニーだったという事実は、アカデミー出身のヒーローのプレーがどれほど悲惨だったかを物語るものだった。

    試合後、テン・ハーグは、ラッシュフォードは「100%」の状態ではなかったと言い、チームのために「すべてを捧げていた」と言ったが、元リヴァプールのDFスティーヴン・ウォーノックが『スカイ・スポーツ・ニュース』のスタジオで語った評価のほうが、はるかに正しかった。「彼はまた、やる気のない顔をしていた」とウォーノックは言ったのだ。「自分ひとりでゴールを決めたような顔をして、『自分がやるべきことはやった』とでも言いたげだ。インターセプトもハードワークもポゼッションの強さもなかった」。

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  • Rashford-Man-UtdGetty

    安っぽい言葉

    今シーズン、ラッシュフォードはマンチェスター・Uで全公式戦33試合に出場し、6ゴールしか挙げていない一方、規律違反でチーム内で2度罰を受けている。彼の態度にクエスチョンマークがつくのは当然にも関わらず、本人は、自分の行く手を遮る批判を受け入れる代わりに、「自分は何者であるか」を大っぴらにアピールする必要性を感じていた。

    「マンチェスター・Uへの僕の貢献に疑問を感じるというなら、僕は声をあげなければならない」と、『ザ・プレーヤーズ・トリビューン』で取り上げられた際、ラッシュフォードは言った。「僕の人格全体、人として僕がよって立つものすべてが疑問視されているみたいだ。僕はここで育った。子どものころからこのクラブでプレーしてきた。僕が子どもの頃、僕がこのチームに所属できるように、僕の家族は人生を変えるほどの大金を断ったんだ」。

    それはまったくPRの失敗以上の何ものでもなく、長くラッシュフォードの熱狂的なサポーターのひとりであったロイ・キーンですら、不愛想な反応を示したほどだった。「彼が払った犠牲や断ったカネの話を聞いてハッピーな気分にはなれない」と、マンチェスター・C戦の敗戦後、マンチェスター・Uのレジェンドは『スカイスポーツ』で語った。「毎週のように試合を見に行く大勢のファンもみな、同じことを言うだろう。だから、マーカスはよく考えなければならない。『もしかしたら、時々自分で自分を閉ざしていることがあるかもしれない』と考えるべきだ。時には、自分のことをもっとよく見る必要がある」

    言うは易く行うは難し。ラッシュフォードがクラブに長く関係してきたからと言って、特別扱いしてもらえる権利があるわけではない。マンチェスター・Uへの献身を証明する方法はただひとつ、毎週ピッチの上で活躍するしかないのだ。ラッシュフォードがやる気のない仕草をし続けたり、オールド・トラッフォードで求められる最低限のプレーの質や勤勉さをまったく満たさないとなれば、ファンにも専門家にも懸念の声をあげる権利がある。

  • Phil Foden Manchester City 2023-24Getty

    フォーデンとの比較

    今シーズン、ラッシュフォードがマンチェスター・Uで自身の実力を最大限発揮する可能性は低いと思われる。10代でマンチェスター・Uのトップチームで活躍するようになってから8年以上が立つが、彼はまだ、真にワールドクラスの選手となるのに必要な安定性を見せていない。そこが、ダービーでヒーローとなった、マンチェスター・Cの23歳のフォーデンとの違いだ。

    この2人は、この夏のEURO2024でガレス・サウスゲート監督が率いるイングランド代表の攻撃陣として競い合う可能性がある。だが、イングランド代表監督が夜も眠れないほど悩むということはなさそうだ。現在の調子ならフォーデンが先発メンバーに選ばれるのは必須で、5月まで好調を維持できればバロンドールを獲得するチャンスすらあるかもしれない。

    マンチェスター・Cは、アーリング・ハーランドやケヴィン・デ・ブライネ、ロドリなど、ピッチ全体に優秀な選手があふれているが、今シーズンずっと輝いているのがフォーデンで、マンチェスター・Uは先週末、彼の才能を抑える策を持っていなかった。「彼はプレミアリーグで最高の選手だ」と、フォーデンの魅惑的なプレーについて尋ねられたグアルディオラ監督は語った。「彼は以前から才能ある選手だったが、今や成熟度を増し、サッカーについて、特に守備についての理解を深めた。信じられないほど素晴らしい」

    ラッシュフォードとフォーデンの間の才能の差は、単にテクニックだけにとどまられず、サッカー・センス全般について言える。フォーデンには、他人が教えることの出来ない2つの大事な能力、ゆるぎない自信と深い競争意欲があるのだ。

    それは、マンチェスター・U戦でのフォーデンの2点目を見た者なら誰にでもわかることだ。フォーデンは、ボックス内に駆けこみフリアン・アルバレスからのリターン・パスを受けると、アンドレ・オナナを難なくかわしてゴールを決めた。そうした決断力に欠けるラッシュフォードに、こんなゴールは決められない。テン・ハーグが、赤い悪魔に同じような決定的なインパクトをもたらしてくれることをラッシュフォードに期待することはできないのだ。

  • Marcus RashfordGetty Images

    被害者ぶる

    フォーデンは自身を憐れむようなことがなく、それもまた偉大な選手の証である。マンチェスター・Cが苦しんでいた時は彼自身も苦しみ、グアルディオラ監督の元でレギュラーの先発メンバーとなったのは過去2シーズンのことだったが、彼のハードワーク率が下がることは決してなかった。

    ラッシュフォードは違う。ラッシュフォードは、自分は不当にメディアの標的にされていると感じている。1月、ベルファストでのどんちゃん騒ぎを受けて、テン・ハーグがFAカップのニューポート・カウンティ戦にラッシュフォードを連れていなかったことについて、マンチェスター・Uのストライカーはトリビューン・エッセイの中でこう言った。「26歳で夜遊びしたり、駐車券を受け取っている若者は僕だけじゃないはずだ。僕の車の値段がいくらかとか、一週間あたりの報酬や宝石、タトゥーのことまで邪推している。僕のモラルを疑問視したり、家族やサッカー選手としての未来について憶測したり。他の選手たちを扱う時とトーンが違う」

    ラッシュフォードは、子どもたちの給食を無料にするキャンペーンに参加した際、「(新型コロナウイルスの)パンデミックを思いださせる」魔女狩りだとも言った。「何か理由があって、特定の人たちを間違ったやり方で傷つけようとしている」ともラッシュフォードは言った。「やつらは、僕が人間臭くなる時を待ち構えていて、僕を指さし、『見たか? あれが奴の本性だ』と言っているようだ」

    被害者ぶるのは、過去8カ月にわたり、ラッシュフォードがピッチ上でほとんどマンチェスター・Uに貢献していないことを正当化するための安易なやり方である。ラッシュフォードは、マンチェスター州ウィゼンショーで最低賃金で働くシングル・マザーによって育てられた5人兄弟のひとりで、その才能によって明るい未来を切り開いてきた。トップチームに上りつめたラッシュフォードは、生まれ育ったコミュニティに錦を飾ったのだ。

    なんと素晴らしいことだろう。だが、それが、マンチェスター・Uで彼が受け取っている途轍もない金額に見合う仕事をしなくていいというフリーパスを与えるわけではない。試合中、彼が全力で走りまわり、弱点をカバーすべく懸命になるなら、誰も何も言わないだろう。好きなだけ同情を得ることかできる。だが、自分の何が悪いのかを理解できるようにならない限り、厳しい言葉は決してやまないだろう。

  • Marcus-Rashford(C)GettyImages

    責任逃れ

    「ここ数シーズン、クラブが過渡期にあることは誰もがみんな知っている」と、ラッシュフォードは自分を批判する人たちに「もう少し人道的になってくれ」と嘆願した後、述べた。「チームが勝っているとき、マンチェスター・Uのファンが世界一素晴らしいファンであることは事実だ。クラブには、そういう昔ながらのポジティブなエネルギーがもっと必要だ。ああいう雰囲気が何をもたらすか、僕は知っている。そのせいで、僕は最悪の時間を切り開き続けてきたのだから」

    ラッシュフォードは、マンチェスター・Uが「いるべき場所に戻りつつある」とも言っている。だが、彼が選手名簿の先頭を飾るひとりであり続けるなら、その予言の実現は難しいだろう。彼やチーム全体がクラブの核となる価値を維持していないのに、なぜ、サポーターが「ポジティブなエネルギー」を発散させなければならないのか。サポーターたちが多くを求めなくなったら、誰がするというのか。

    オールド・トラッフォードの雰囲気がもっとポジティブであったとしても、2023-24シーズンのホームでのマンチェスター・Uの8敗を阻止できたとは思えないし、ラッシュフォードがもう少し頑張れと駆り立てられないこともなかっただろう。事の真相は、ラッシュフォードが本当に好調なのはチームのすべてがうまく行っていた時だけ、というのではないだろうか。そうでなければ、テン・ハーグ監督のデビュー・シーズンにプロ入り最高の30ゴールをあげた後、ラッシュフォードの調子が落ちたことを説明できない。

    ラッシュフォードは赤い悪魔の衝撃的な没落の責任から逃れてきており、相変わらず批判をかわそうとしている。サー・アレックス・ファーガソン時代の後のマンチェスター・Uの選手たちの多くは、弱気な考え方を共有してきたが、マンチェスター・Cとの差を縮めたいと思うなら、そんなものはきれいさっぱり根絶されなければならない。

  • Rashford Man Utd GFXGOAL

    今後の展望

    サー・ジム・ラトクリフがマンチェスター・Uの少数株主になったことで、成功を渇望するファンたちは再び希望を抱くようになり、この夏、大きな変化が起こりそうである。最初に出ていくのが、悪夢の一週間で良い第一印象を与えられなかったテン・ハーグであることは間違いないだろう。

    フラムとマンチェスター・Cに続けて敗れたことで、マンチェスター・Uがチャンピオンズリーグに出場できるチャンスはほとんどなくなり、FAカップで優勝しても四面楚歌のオランダ人監督に救いはないだろう。監督が出ていくとなれば、ラッシュフォードは、ひどいプレーをしても常に言い訳をすれば許してくれた、最大の応援団を失うことになる。

    夏の移籍市場でチーム全体の大規模なオーバーホールが起こる可能性は高いが、マンチェスター・Uは、新しい選手と契約するための資金を得るために今いる選手たちを売りに出さなければならない立場にある。報道によれば、クラブは適当なオファーがあればラッシュフォードを現金化することを考えているようで、パリ・サンジェルマンは再びラッシュフォードの功績を高く評価している。

    もしラッシュフォードが自身の将来についての憶測が再び強まることを望まないなら、現在の考え方を根本的に変えなければならないだろう。熱心にプレーすればクラブへの愛を証明できるが、自己憐憫の悪循環にはまったままなら、最終的にマンチェスター・Uでのキャリアは悲しい結末を迎えることになる。

    ラッシュフォードはそのようにふるまっているかもしれないが、彼はもう子どもではない。彼のレガシーは今後数カ月で彼がどのような道を進むかによって明確に決まってくることだろう。