Lionel Messi Inter Miami Leagues Cup 2023Getty Images

インテル・マイアミがリーグスカップ制覇。今後「リオネル・メッシ・カップ」と呼ばれても不思議ではない貢献

「リーグスカップって、いったい何?」。これまでなら、こんな疑問を口にしても誰にも責められることはなかっただろう。正直なところ、ほんの1カ月前には最も熱心な北米サッカーのファンですら、この質問に答えられなかったかもしれない。この夏の大会が近づくにつれ、世界中の多くのファンが同じ疑問をもっていた。

だが今や、多くの人がこのカップ戦を知っている。それはすべて、リオネル・メッシというひとりの男のおかげだ。今回のリーグスカップは彼の大会であり、北米の海岸に彼がやって来たことを祝うパーティーだった。7試合で10得点をあげたメッシは、また新たなトロフィーを自身の数限りないコレクションに加えた。ペレもマラドーナもリーグスカップで優勝したことはない。この夏までこの大会の存在が知られていなかったのはそのためだ。

そんなわけで、7月にこの大会が開幕したとき、さまざまな疑問が巻き起こった。リーグスカップという名前の意味は? どんな大会なのか? 注目する人はいるのか?

あるアルゼンチンのスーパースターのおかげで、我々はこれらの疑問に対する答えを得た。メッシはこの大会を世界に知らしめ、命を吹きこんだ。彼がいなければ決して起こらなかったことである。

キックオフ前、この新しい大会がどんな大会になるか誰にもまったくわからなかった。今、我々全員がこの大会を記憶するだろう――メッシがそのスターとしての力を注ぎこみ、常に彼と結びついて語られることになる、この大会を。

  • Liga MX MLS Juego de Estrellas@Getty

    数年前からあった大会

    実を言えば、リーグスカップはこの夏初めて開催された大会ではない。第1回大会は2019年に開催され、新型コロナウイルスの感染拡大で中断した後2年ぶりに復活した大会である。しかしながら、これまでの大会はこの夏に開催された巨大な大会と比べれば単なる前座にすぎなかった。

    これまでの2大会は、アメリカのメジャーリーグ・サッカー(MLS)とメキシコのリーガMXから選ばれたチームによって、比較的静かに行われた。だがこの夏、MLSとリーガMXは所属の全チームを参加させることにした。この新装開店の大会のために国内リーグは中断され、3カ国全47チームが参加する2つのリーグから最終的に1チームが優勝したのである。

    実に素晴らしいアイデアだ。MLSとリーガMXの関係が深まることで生まれたアイデアである。2つのリーグは数年前から協力関係にあり、両リーグのチームは数々の大会で対戦してきた。オールスターゲームやシーズン中のトーナメント大会、戦略的な協力、それらすべてが2つのリーグの話し合いの末に行われてきたのだ。

    だが、今回の大会は巨大だった。大会が始まる寸前、突然サッカー界で最も期待される大会のひとつとなったのである。今回のリーグスカップはまったく新しい大会となり、メッシがデビューを飾ったのだ。

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    メッシ到来

    MLSとリーガMXのそれぞれの本部で、どれだけのシャンパンが開けられたか想像するのは難しい。今回の新しい大会はこの種の大会として初めてメッシのおかげで輝き、おそらくこれまでで最高の大会となったのである。メッシのインテル・マイアミでの初めての試合の相手は、メキシコのクルス・アスルだった。両チームはこれ以上ない舞台を与えられた。アルゼンチンのGOATが中央に立ち、MLS対リーガMXの真剣勝負が行われたのである。

    結局のところ、メッシは「中央に立った」どころではなかった。インテル・マイアミのタタ・マルティーノ監督は、チームの新しいスーパースターを先発ではなく途中でベンチから投入するという形でデビューさせたため、メッシが存在感を示すまでには時間がかかった。結果として、レブロン・ジェームズやキム・カーダシアン、セリーナ・ウィリアムズといったセレブもいた観客たちは、7度のバロンドール受賞者をその目で見るのを待たされることとなったのだ。

    だが、待っただけの価値はかなりあった。PK戦に突入するかと思われたその瞬間、観客の目を奪ったのはメッシだったのだ。観客はみな、あの土壇場でのフリーキックを見た。メッシはデビュー戦で、またしても伝説となる瞬間を生みだしたのである。彼しかできないことをして自身の到来を知らしめたのだ。

    それはまさに、「インテル・マイアミにようこそ」の瞬間だった。そして、これから起こることの前触れでもあった…。

  • Messi Leagues Cup win Inter MiamiGetty Images

    そしてメッシは圧倒した

    クルス・アスル戦のミラクルなフリーキックが始まりならば、最後はまさに運命のようにシュートがネットに突き刺さった瞬間だった。それによってメッシはまたしてもトロフィーを高々と掲げることになったのだ。

    インテル・マイアミが7試合を戦った間、メッシは他を圧倒した。それは彼のサッカー人生を見てきた人なら誰もが知っている、彼の素晴らしい能力であり、期待されていなかったわけではない。しかしながら、こんなにも早く、このチームでこんなに素晴らしいことを成し遂げられると予言できた人はまずいなかった。

    結果として、メッシは7試合で10得点をあげ、楽々と得点王になった。しかも得点だけでなく、チームや大会に全身全霊を捧げた。ピッチにメッシがいると、インテル・マイアミの試合はメインイベントと化し、様々なバックグラウンドをもつチームメイトがそれぞれの役割を果たして、新しくリーダーになったスーパースターによってレベルアップした。メッシが来るまではMLS やリーガMXに何の興味もなかった世界中のファンが、メッシがインテル・マイアミを背負って快進撃をつづけていくのを見守った。

    今大会のこうした姿は長く語り継がれるだろう。これから何年も、ただ初めてのこととしてのみならず、ただ最高のこととしてだけでもなく、おそらく最も重要なリーグスカップとして記憶されるだろう。メッシは、すべて彼自身でこの大会を世界に知らしめた。将来的に、リーグスカップはメッシが作りあげた大会として知られ、記憶されるかもしれない。

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    MLSの勝利

    だが、メッシだけではない。実際には、バルセロナの元スターがいるチーム以外にも46ものチームがある。メッシは間違いなくトップニュースになる選手だが、このリーグスカップ全体を通じて、魔法のような瞬間は他にもあった。

    笑ってしまうほど素晴らしいゴールからゴールキーパーの苦難、絶対的に不可解なPK戦まで、リーグスカップにはMLSとリーガMXのあらゆる混沌が一堂に会していた。両リーグは大騒動がしばしば生まれることで有名であり、ライバル関係にある両リーグのチームは1カ月にわたる大会を通じて、数多くの騒動を生みだした。

    しかしながら、2つのリーグのうち最後に笑ったのはMLSだった。MLSは、長い間この地域の弟分とみられていたが、ここ数年で潮目が変わり始めていた。始まりは、2022年にシアトル・サウンダーズが北中米カリブ海サッカー連盟(CONCACAF)のチャンピオンズリーグで優勝したことだったが、今大会はMLSのチームの追い上げを示した。常にメキシコ最大のクラブであるティグレスやクラブ・アメリカ、モンテレイといったチームのレベルにはまだほど遠いものの、その差は縮まりつつあり、それはメッシが潮目を変えたからだけではない。

    MLSは今大会を大成功だったと振り返ることになるだろう。準々決勝に進出した8チームのうち、6チームがMLSだった。準決勝に進んだ4チームのうち、メキシコのチームはひとつだけ。最終的に1位から3位をアメリカのチームが独占し、インテル・マイアミ、ナッシュビルSC、フィラデルフィア・ユニオンが次回のCONCACAFチャンピオンズカップの出場権を獲得した。

    それでも、この大会にコンスタントに勝ちつづけることは、MLSのチームにとって非常に挑戦的なことである。しかしながら、今大会は、世界のこの地域で急速に進化するには、何が重要で何が重要ではないかを示したのだった。

  • Leagues Cup trofeo@CONCACAF

    今後の進化

    こうしたことすべてを考えると大きな疑問が生じる。メッシのデビューの恩恵と、この種の大会で初めてという輝きを抜きにして、リーグスカップはサッカーの大会のヒエラルキーでどのあたりに位置することになるだろうか。それは、まだわからない。この大会は今回を始まりとして成長していくに違いないが、各チームが今後どうかかわってくるかを見ていく必要がある。

    アメリカのチームにとって、この大会はU.S.オープンカップをしのぐものになるだろうか。正直に言うと、すでにそうだと言えるかもしれない。今大会は観戦チケットが完売し、TV視聴率もかなり高く、大成功を収めた。オープンカップでは無理なことである。歴史的にはオープンカップは比べものにならないほど長いが、観客の興奮度と関心度から言えばリーグスカップの方がおそらく、すでにオープンカップを大きく飛び越えている。

    では、CONCACAFチャンピオンズカップ(CCC)のトロフィーとリーグスカップのトロフィーは、どちらがより重要だろうか。難しい問題だ。リーグスカップが大変な大会であることは間違いないが、CCCは優勝チームにクラブ・ワールドカップへの出場権が与えられる。このことはこの地域で最大の勲章であり、CCCはこの地域のクラブにヨーロッパや南米の最高のチームと対戦して実力を試せる唯一のチャンスを与えることができるのだ。

    おそらく最も重要なことは、この大会が今後どうなるかということだ。長く噂されてきた、リーガMXとMLSの統合が近々起こるのだろうか。おそらく、そうはならないだろう。この大会はしばらくこのままで充分だろう。この大会は、南米のコパ・リベルタドーレスへの出場につながるのか? その可能性は高い。特にメッシが関わってくると。

    これらすべての話をまとめると、ひとつの大きな考えが浮かぶ。この大会が今後どうなるかを言うことは難しいが、この夏の史上初の開催を通じて、長くつづくインパクトを残したというのは間違いないだろう。

  • Inter Miami win the Leagues CupGetty Images

    意味の定義

    我々がみな知っているとおり、大会やリーグ、トロフィーは意味あるものでなければならない。ただ開催されればいいというものではない。ヒーローや敵役、物語性、感動の瞬間が必要なのだ。

    リーグスカップもいつかはそうなるだろう。MLSそのもののように、この大会も歴史上のしかるべき地位を獲得しなければならない。文字どおり世紀を超える歴史をもつ様々な大会があるスポーツにおいて、リーグスカップが、FAカップやチャンピオンズリーグ、その他の大きなカップ戦のような真の意味を持つようになるのは不可能だ。

    だが、この大会はとんでもないスタートを切った。今大会ほど記憶に残る大会は少なく、画期的な瞬間が感じられる大会は少ない。北米サッカーはまもなく、メッシ以前とメッシ以後というふたつの時代に分かれるだろう。今回のリーグスカップはターニングポイントであり、すべてが変わった大会であった。

    それにより、この大会は今後、これまでとは異なるレベルの名声をもつことになるだろう。参加チームにとってもそうだ。MLSとリーガMXの戦いは激しく、この大会に参加したことを自慢する権利がもてることは、ほとんど常に、ビッグチームがこの大会に参加する充分なモチベーションを与えることだろう。

    だが、今後は別のモチベーションが生じてくるだろう。メッシが掲げたトロフィーを獲得するというモチベーションが。メッシとインテル・マイアミは最初のチャンピオンであり、このトロフィーに名が刻まれるだけで、彼らなしでは決してありえなかった名声が加わるのだ。