メッシのインテル・マイアミ初年度は失敗か？ アルゼンチンのスター上陸もMLS・PO進出ならず

シーズンの3分の2が終わった時点で、マイアミはリーグの順位表で最下位に位置するダメダメっ子だった。ずいぶん前から下位に甘んじていて、フィリップ・ネヴィルは監督をクビになった。マイアミは何カ月間も、プレーオフにふさわしいチームどころか、そもそもチームの体を成しておらず、DRV PNK スタジアムではサッカーの試合で起こりうる悪いことすべてが起こっていた。

それはかなり長い数カ月だったが、すべてが失敗だった。2022年にはゴンサロ・イグアインの大活躍もあってプレーオフに進出したクラブだったが、そのイグアインが去ることとなり、夏が始まるころにはすべての希望がマイアミから根こそぎ無くなっていたのだった。

だが、事態は予想外に早く変わった。その変化は必ずしもサッカー史上最高に違いない選手の加入に関係するものではないかもしれないが、事実としてその時からマイアミは変わった。

25年後の未来、リオネル・メッシがMLSに来た時の熱狂について、当時を知らない人たちに説明することは難しいかもしれない。バロンドールを7度受賞したメッシが、2人の親友を連れてMLS最下位のチームに現れると、マイアミはたちまちその地域最高の勢いで走り出し、誰にも止められない巨大な存在となったのだ。

マイアミのリーグスカップでの躍進は、今後何年も語り継がれるだろう。メッシが作り上げた大会であり、メッシはインテル・マイアミのピンクのユニフォームを着て、数週間ずっと戦い続けた。マイアミはアメリカのファンからだけでなく、全世界から注目を浴びた。

世界のサッカーファンは、メッシと仲間たちがMLSとリーガMXからやってきたチームを蹴散らして、最後にはクラブ史上初のタイトル獲得を成し遂げる姿を見た。フリーキック、試合の最終盤でのゴール、クレイジーなほど見事なアシスト、PK戦……。あらゆる要素が詰まった大会だったが、マイアミにとって最も重要なことに、最後にトロフィーを掲げたことだ。

公平を期すために言えば、我々は依然としてリーグスカップの意義がどの程度あるのか、北アメリカのサッカーという進化するエコシステムに合うものかどうかは、わからない。だが、メッシが関わり、メッシが勝ち、メッシにとってアメリカの観客への挨拶代わりになったゆえに、この栄冠は重みを増したと言っていいだろう。

リーグスカップ後の数週間、インテル・マイアミは絶好調だった。いくつかの大事な試合に勝ち、その最中はごくわずかな希望の光が燃え上がっていた。だが、最後にはメッシをもってしてもプレーオフ進出は不可能であることが判明した。メッシはインテル・マイアミのMLSリーグ戦が崩れ落ちていくのをただ見守るしかなかった。

結局のところ、彼らが落ちていた穴は深すぎたのだ。メッシ、ジョルディ・アルバ、セルヒオ・ブスケツが最下位のチームに入ったものの、アルバとブスケツの2人はケガに倒れ、チームが穴から這い出すことはできなかった。

土曜の試合ですべてが終わった。マイアミは、サポーターズ・シールド賞を受賞したFCシンシナティに0-1で敗れ、公式戦5試合連続で勝ちなしとなった。メッシは、勝利が必要なマイアミのために最後の一か八かの切り札として試合の後半に出場したが、100％の力を出してもチームを救うことはできなかった。

こうしてマイアミの長いオフシーズンが始まった。プレーオフの試合はなく、シーズン後の予定もない。今後の数カ月をどうするか考える時間はたっぷりある。それは悪いニュースかもしれない。だが良いニュースでもある。これでインテル・マイアミのプロジェクトの終わったわけではなく、ただ1シーズンが終わっただけであるということだ。

インテル・マイアミに起こることすべてをピッチの中と外の2つに分けてみよう。まずは、ピッチの中のことを話そう。

今シーズンは事実上、メッシ以前とメッシ以降に分けることができる。メッシ以前のチームは最悪だった。メッシ以降のチームはジェットコースターのように成功へとのぼりつめた。

ピッチの中からの視点で見れば、たとえ今年はプレーオフに進出できないとしても、インテル・マイアミが1年前よりも良い状態であることは否定できない。もちろんメッシ、アルバ、ブスケツがいるし、彼らは花形スターだ。ファクンド・ファリアス、ディエゴ・ゴメス、トマス・アビレスといった若手がマイアミの未来を明るくしてくれているし、ベンジャミン・クレマスキやドレイク・カレンダーといったアメリカの才能ある選手たちが、それぞれのキャリアにおいて大いなる前進を遂げている。

実際のチームを見てみれば、タタ・マルティーノが監督になり、マイアミはMLSで最高のチームのひとつを作りつつある。不運だったのは、こうしたことが少しばかり長々とチームがMLS最悪のチームのひとつであり続けた後に起こったことだということだ。

それでもスポーツ的な視点から見れば、インテル・マイアミはホームランをかっ飛ばしている。タイトルを獲得したし、今後数年にわたる成功のための準備ができた。この成功は一瞬でできたものではない。そんなことは滅多にない。

2024年が始まるころ、インテル・マイアミと面と向かって張り合うチームはないだろう。だから、このチームを作り上げた、作り続けるであろう人々を信用すべきである。

デイヴィッド・ベッカムがLAギャラクシーに加入して以降、メッシがアメリカ合衆国に来た時のような歓迎は見られなかった。この夏に我々が見たものは、ベッカムの到着すら霞んで見えるようなものだった。

アルゼンチンの大スターが行くところ、インテル・マイアミの試合はどれもお祭りのようだった。セレブたちが大挙して集まり、世界中の大スターがスタジアムにいる他のすべての人々と同じく、ファンになっていった。MLS史上初めて、ひとりの選手が本当にアメリカの人々の心をとらえたのだ。インテル・マイアミの試合はニッチでなくなり、メインイベントとなった。

メッシが居る限り、彼らはファンで居続けるだろう。そして今度はクラブが、瓶で雷を捕まえるような奇跡をどうすれば最大限活用できるかを考える番だ。新しいスタジアムが出来つつある。クラブのSNSのフォロワー数が世界最大のチームと肩を並べつつある。スポンサーや収益、グッズの販売は天井知らずの右肩上がりを続けるだろう。インテル・マイアミ、Apple、MLS全体にカネが集まり続けるだろう。それより重要なことに、メッシがショーを続ける限り、注目が集まり続けるだろう。

今シーズンのインテル・マイアミはたったひと夏で、商売になるMLSのチームから、世界で最も認識されているブランドのひとつとなった。今後、彼らは何ができるだろう？ 現時点で視界は際限なく広がっている。

2023シーズンは基礎を作り上げる序章のようなものだった。物語の始まりであって、終わりではない。シャーロットFCとの2試合が終われば、新しいフェーズが始まるだろう。

マイアミではすでに、世界最高の選手たちの何人かが取り沙汰されている。ルイス・スアレス、ルカ・モドリッチ、アントワーヌ・グリーズマン……まだまだ大勢いるだろう。インテル・マイアミとMLSは、ビッグな選手たちの行き先として一歩前進した。次に誰が来てもおかしくない。

それは、今年の夏に築かれた基礎がなければ決して起こらなかったことだ。メッシが来なければ起こらなかったことであり、彼の加入がたちまちにして魔法に変わらなければ起こらなかったことなのである。メッシは最高のスターたちがMLSでどのような人生を送れるかを示した。メッシに続くことを決意した選手たちにとって、MLSは居心地の良い場所になり得るのだ。

ピッチの内外で、ゲームはすっかり変わった。だからこそ、インテル・マイアミの関係者で2023シーズンを失敗だったと振り返る者はいない。たとえMLSカップが取れなかったとしても。2024年への期待は空高く舞い上がり、今シーズンの成功を土台にできるおかげで、クラブは今後これまでとは違う光を浴びて判断されるようになるだろう。