Kylian Mbappe PSG 2023-24Getty Images

エンバペは「何を見ても白に見える」。PSGのスターはバルセロナ戦で「消えて」いた

「私は逃げも隠れもしない」と、パルク・デ・プランスでのチャンピオンズリーグ準々決勝第1レグ、パリ・サンジェルマン対バルセロナの試合の前に、フランスのサッカー番組『Telefoot』でキリアン・エンバペは言った。「必ず全力を尽くす」

確かに大部分において、PSGは全力を尽くして水曜の試合を戦ったが、悲痛にも2-3で敗れた。対戦相手よりもポゼッションで勝り、シュートの数も多かった。だが、エンバペは約束を果たさなかった。

エンバペは事実上、フランス代表の同僚ジュール・クンデに90分まるまる抑えこまれ、PSGが10人で戦っているように思われるような時間帯もたびたびあった。リーグ・アンの巨人をここまでほぼひとりで引き上げてきたのはエンバペであり、チャンピオンズリーグで決めた6得点中3得点をベスト16のレアル・ソシエダ戦で決めて勝利に貢献した。バルセロナ戦でも得点して勝利をもたらすと期待されていた。

エンバペは最も重要な時に結果を出せる選手であることをずっと示してきた。チャンピオンズリーグでPSGのために決めた46得点のうち19得点が決勝トーナメントでのものであり、フランス代表としてもワールドカップで12回ネットを揺らしている。サッカー史上、これ以上のゴールを決めた選手は5人しかいない。

25歳になるまでに彼が成し遂げてきたことは驚異的であり、全盛期を迎えるのはまだこれからだと考えると恐ろしくさえある。では何故、バルセロナ戦であれほど無様だったのか。答えは明白である。すでにエンバペの心はレアル・マドリーに飛んでいるのだ。

  • Mbappe-Barcelona-PSGGetty

    「抑えこまれて楽しくプレーできない」

    エンバペがきちんとプレーできていれば、PSGはバルサに勝てたはずだ。チャビ監督のチームはコンディション良好で試合に臨んだが、まだまったく完成されたチームとは言えない。つい最近の偉大なるルイス・エンリケやペップ・グアルディオラが築いたチームには遠く及ばないことは、試合前にPSGの現監督が対戦相手の古巣に思い知らせたとおりだ。

    ところがエンバペは、PSGの攻撃の左サイドでまったく脅威を感じさせなかった。試合中ドリブルに成功したのはたったの1度、シュートは3本だけで、いずれも枠外だった。『ESPN』によると、エンバペは13回もボールを奪われ、彼らしくなく集中力や熱意を欠いたプレーで、チームの足を引っ張っていた。

    フランス誌『ル・パリジャン』はそんなエンバペを冷徹に評価している。その存在は「消えて」いて、「PSGの勝利をふいにした」というのである。また、ユース時代にPSGでプレーした元セネガル代表のハビブ・ベイェは、フランスの有料民間テレビ局『カナル・プリュス』でこう言った。

    「エンバペは他との違いを見せつけるべき選手だ。PSGの攻撃のリーダーとして、あんな試合をしてはならない。今日のエンバペには激しさがなかった。まったく良くなかったし、もっと良くなければならない。抑えこまれて楽しくプレーできないようだった」

    『レキップ』紙はエンバペに10点満点中の3点という低い採点を付けた。これは前日のレアル・マドリー戦で同じく役に立たなかったアーリング・ハーランドと同点で、エンバペがハーランドよりも技術的に優れた選手であることを考えると、少々甘い採点とすら思える。エンバペはバルサ戦で何の努力もしておらず、彼ほどの選手にとって、これ以上の罪はない。

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  • Luis Enrique Kylian Mbappe PSGGetty

    モチベーションの急落

    単にエンバペの実力が落ちただけだと言う人もいるだろう。実際、リーグ・アンでのPSGの直近7試合で、エンバペが先発したのはたったの3試合であり、2-0で勝ったマルセイユとのル・クラスィク(フランス・ダービー)でもたった65分で交代した。

    ルイス・エンリケ監督はエンバペの出場時間を注意深く管理しているだけだと主張しているが、もちろん、それ以上のことがある。2月に、エンバペはシーズン終了とともに契約が満了すればPSGを離れ、フリーでレアル・マドリーと契約することに決めたと報道されて以来、エンバペはチーム内での自身の役割が減らされていることに気づき始めている。

    あれ以降、エンバペのモチベーションが急落していることは明らかであり、かまってもらえる時にしか現れなくなってきている。マルセイユ戦の後、手にキャプテンマークを持ってトボトボ歩きながらピッチを去る写真を投稿し、こうキャプションをつけた。「愛しい人よ、悲しいかい? リラックスしてくれ、もうすぐだ」

    エンバペとPSGの別れがスムーズにいかないことは明らかだが、それは、エンバペが意気揚々と去っていくことを何とも思っていないようだからだ。3月初め、PSGが古巣のモナコに遠征した試合では前半だけで交代したが、後半、ベンチでチームメイトと並んで座るそぶりすら見せなかった。保温用に着るトラックスーツに着替えると、携帯電話をかけながらトンネルを通って観客席に行き、その間、モナコのファンに笑顔で手を振っていたのである。ついにはサインをしたりポーズをとって写真におさまったりした後、母親で自身の代理人を務めるファイザ・ラマリの隣に座ったのだ。

    さらに事態を悪化させたのは、PSGが0-0で引き分け、その時点で優勝の望みが危うくなった後も笑顔を見せ、大きく笑ったりしていたことだ。こうしたことすべてを考えあわせると、実のところエンリケ監督はエンバペにひどく甘すぎる。バルサ相手に逆転の望みをつなげるには、もっと厳しい態度を取らなければならないだろう。

  • Kylian Mbappe Real Madrid 2024Getty/GOAL

    そうなると思っていたはず

    スペインの『マルカ』紙は、PSGがバルサに負けた後、レポートの見出しのひとつを「エンバペは何を見ても白に見えている」とした。ピッチ内外でのエンバペの行動すべてがまさにそのとおりであることを示している。

    エンバペとレアル・マドリーの物語は、今やもう10年越しにもなろうとしている。そもそもロス・ブランコスは、2017年にモナコからPSGへ移籍する前にも、このフランス代表FWを口説いていた。2021年にはパルク・デ・プランスからエンバペをおびき出そうとしたが、一連の巨額の提示は拒絶されるばかりであった。翌年にはエンバペは新しい契約にサインし、レアル・マドリーは当惑したのだった。

    数日後、エンバペは『BBC』に、レアル・マドリーでプレーするという「夢」は終わったのかと尋ねられ、こう答えた。

    「そんなことはない、絶対に終わったりしない。今後何が起こるかは、誰にもわからない。レアル・マドリーの会長(フロレンティーノ・ペレス)と話をした。私は彼と彼のクラブを大いに尊敬している。私たちは良い関係にある」

    PSGはエンバペを残留させるためにあらゆる努力をした。報道によると、エンバペに舞台裏での権力を保証までしたという。2年の契約延長には、昨年夏にエンバペ自身が拒否した、さらにもう1年のオプションがついていた。本当にそうなると思っていたはずだ。

    エンバペはPSGから搾り取れるだけ搾り取ったが、真の忠誠心はまったくなかったようだ。結局のところレアル・マドリーは常にエンバペを手に入れようとしていたし、気持ち的にはエンバペはすでに荷物をまとめていたのである。

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  • Kylian Mbappe Joan Laporta SplitGetty

    失われたチャンス

    水曜の試合でエンバペが消えていたことに驚く理由は多々あるが、特に、ウォーミングアップ中のバルサのジョアン・ラポルタ会長の微妙な皮肉があげられる。「ファンの方々には、我々の選手と監督を信じてほしいと言いたい」と、ラポルタ会長は言った。「我々は偉大なチームだ。非常に集中しているし、とても重要なのは、みな、私が、PSGのある選手と我がチームの誰かとを交換したりしないことを知っていることだ」

    ラポルタ会長は、チャンスがあればいつでも、バルサの宿敵にエンバペが今にも加入しそうだということの重要性を必死で軽視しようとしている。先月『ムンド・デポルティーボ』紙のインタビューで、レアル・マドリーが超大型選手と契約する日が近づいていることについて、嫉妬を感じるかとの問いを一蹴した。

    「全然感じない」と、ラポルタ会長は言った。「きっと問題が起こるだろう。代わりに誰かを手放さなければならない、そうだろう? 同じポジションに2人は要らない。(契約に)関係する数字を考えれば、更衣室に混乱が起こるのは間違いない。ありがたいことではないだろう」

    『スカイスポーツ』によると、エンバペは、現在PSGで稼いでいる年収1億1,710万ポンド(約223億円)にはまったく及ばないにしても、レアル・マドリーのクラブ史上最も高額な選手になりそうだ。さらにこのフランス代表は、1億ポンド(約190億円)という法外な契約金をポケットに入れようとしている。これは給与削減の打撃を和らげるはずだ。

    この移籍が公式に発表されれば、レアル・マドリーの選手の中に面白くない顔をするものが出てきても当然だろう。とりわけ、エンバペがサンティアゴ・ベルナベウで全力を尽くさなかった場合は。エンバペのベストポジションは左サイドだというラポルタ会長の指摘は正しく、現在そこにはヴィニシウス・ジュニオールがいる。エンバペは背番号9の役割を果たすことに慣れる必要があるかもしれない。

    バルサの会長を黙らせるには、パリでバルサを引き裂く以上によい方法はなかったはずだ。2020-21シーズンのチャンピオンズリーグのベスト16でPSGがブラウグラナと対戦した時、エンバペはハットトリックを記録した。その時の彼なら、自分への批判をエネルギーとしただろうが、そんな激しさは今の彼にはない。虎のような鋭い目をすることはなくなり、PSGで再びあのような彼を見ることはないだろう。

  • Kylian Mbappe PSG BarcelonaGetty

    自分勝手の度合いが高い

    3年前、カンプ・ノウでバルセロナを叩きのめした時、エンバペはいずれバロンドールを獲得するのは間違いないと思われていた。ルイス・エンリケ監督のデビュー・シーズンにおいても、相変わらずPSGで最も影響力のある選手であり続けている。エンバペの才能に疑う余地はないが、今シーズンの振る舞いは自分勝手の度合いが高いように思われる。それを改めなければ、サッカーを続け、才能を最大限に発揮することはできないだろう。

    水曜の試合で、監督の戦術がエンバペの助けにならなかったことは事実だ。ルイス・エンリケ監督は影の背番号9としてマルコ・アセンシオを先発させたが、彼がこのところあまりプレーしていなかったことを考えると、奇妙な采配であった。結果としてバルサはエンバペを封じ込めることに成功した。

    PSGの監督はイ・ガンインを中盤に配し、マルキーニョスを右サイドにコンバートした。前半のPSGはあらゆるチームプレーにおいて苦戦し、エンバペはまったく活躍できなかった。だが、エンリケ監督はうまくいかない原因に気づき、後半からブラッドリー・バルコラを投入してウスマヌ・デンベレを中央に配置した。それにより、しばらくは試合の趨勢がPSGに傾いたが、勝利のためにはエンバペの魔法が必要であり、彼はその期待に応えられなかった。

    マンチェスター・ユナイテッドのレジェンド、リオ・ファーディナンドは試合後にこう言った。

    「我々が話題にしたのは、私が世界最高だと思う選手、エンバペだ。彼はプレーしなかった。そして彼がプレーしなければPSGは絶対に勝てない」

  • Mbappe-PSG-2023-24Getty

    ヒーローか悪党か

    バルサが仮のホームとしているオリンピック・スタジアムでのチャンピオンズリーグ準々決勝セカンドレグで、エンリケ監督がエンバペを起用しない可能性は高いが、それは巨大なリスクとなるだろう。エンバペは依然としてPSGで最も強力な武器であり、気分が乗れば、潮目を変える活躍をするのに充分な実力のある選手である。

    すべては彼を信頼するかどうかにかかっている。エンバペの出場時間がいつもより短かったのは事実だが、全公式戦の直近10試合中6試合で得点できていない。エンバペを起用して何が得られるのか、エンリケ監督にもわからないだろう。

    チャンピオンズリーグ初優勝はPSGの悲願だが、エンバペが初戦のようなプレーを繰り返すのなら、それは果たせぬ夢のままだろう。ピッチをとぼとぼ歩くだけの選手がいたのでは勝てない。エンリケ監督はチームの厳しい現実をエンバペにぶつけるか、それとも彼を完全に戦いの場から外すか、どちらをしなければならない。

    PSGの歴代得点ランキングのトップに踊り出て、国内での13回の優勝をもたらしたエンバペでも、悪党としてチームを去ることになれば、これ以上の恥はないだろう。だが、今後数日の間に改心できなければ、まさにそういう事態が起こるにちがいない。

    チャビ監督のバルセロナに勝つことが出来れば、ベスト4で待ち受けているのはアトレティコ・マドリーかボルシア・ドルトムントだ。PSG が目指すのは、2度目のチャンピオンズリーグ決勝進出のみ。エンバペはPSGにおいて、少なくともヒーローになろうと努力する義務がある。意気揚々とレアル・マドリーに移籍できるのは、その後のことだ。

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