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「タケ、君は最高だ」久保建英が笑えばラ・レアルが笑う。ソシエダで特別な存在となった理由

10日に行われたラ・リーガ第13節バルセロナ戦。最大の輝きを放ったのは久保建英だった。公式でも現地メディアでもマン・オブ・ザ・マッチに選出された久保のパフォーマンスについて地元バスク出身記者はどう見ているのか記していく。

文=ナシャリ・アルトゥナ(Naxari Altuna)/バスク出身ジャーナリスト

翻訳=江間慎一郎

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    「タケ、君は最高だ」

    レアル・ソシエダの本拠地レアレ・アレナ……ネーミングライツを取れば、アノエタ。私たちが誇りとするスタジアムだが、ここ最近は重苦しい雰囲気をまとっていた。

    アノエタでのここまでの7試合の成績は、2勝1分け5敗。加えて先週のミッドウィーク、アウェーでのヴィクトリア・プルゼニ戦を1-2で落としたこともあり、今回の“欧州で最も旬なチーム”バルセロナとの対戦は、さすがに意気揚々とスタジアムに足を運ぶことができなかった。

    だがラ・レアルはこの大一番に咆哮をあげた。私たちにアノエタとは何かを思い出させてくれた。選手たちのあふれる闘志は観客に伝染し、応援の声をさらに大きいものとして、さらなるエネルギーが選手たちに送られる……こうなればアノエタは、たとえ誰が相手でも難攻不落の要塞となるのだ。

    そしてこのエネルギーの循環におけるポンプ役……、いや、心臓となったのは、まぎれもなく久保建英である。この日、彼が見せた格別で、それでいて気持ちのこもったプレーは、これまで以上に私たちのハートを打った。タケ、君は最高だ。

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    久保が主役に

    バルセロナの若きスター、ラミン・ヤマルは負傷によってスタンドから試合を見守っていた。その表情は悔しさに満ちていた。ピッチ上で、真なるフットボールの試合が行われているにもかかわらず、それに参加できなかったために。

    彼が見つめるピッチの上には、同じくバルセロナの下部組織ラ・マシアで育った彼の先輩、久保がいた。この日本人こそが真なるフットボールの試合の主役であり、そして、フットボールそのものだった。ヤマルと同じく左利きの久保は、小柄で、しかし凄まじい迫力のプレーを見せ、バルセロナにとっての悪魔、ラ・レアルにとっての天使となった。

    振り返れば、久保が世界に衝撃を与えたのは昨季ラ・リーガ前半戦、敵地サンティアゴ・ベルナベウでのレアル・マドリー戦だった(しかしバルサとマドリーが古巣など改めて凄まじい)。あの試合で世界トップレベルのパフォーマンスを見せた久保は、それ以降どのチームにとっても絶対的に警戒しなければならない選手となり、ディエゴ・シメオネ率いるアトレティコ・デ・マドリーが縦関係で2枚のマークをつける守備方法を発明した(1人がかわされると、後ろのもう1人がそのタイミングでボールを奪う)。

    それから久保は常に自由を制限されてきたわけだが、少しでも自由を与えれば、やはり手が付けられない存在だ。相手の良さを打ち消すよりも、勇敢なハイライン戦術を駆使して自分たちの良さを全面に押し出すバルセロナ相手ならばなおさらで、しかも、この日の彼はいつも以上に気合が入っていた。

    日本でも、この試合のレポート記事が何本も公開されていただろうが、久保にフォーカスを当てていれば、あまりにくどい内容になっているはずだ。何しろラ・レアルのゴールチャンスは、ベッカーがゴールした場面を除けば、ほとんどが彼を起点に生まれていたのだから。

    「右サイドの久保が縦に抜けてクロス」「久保が何人も立て続けにかわして自らシュート(これが決まっていれば完璧なゴラッソだったのに!)」「後方に下がる久保が素晴らしい判断のパスやドリブルでビルドアップの起点に」「久保が中央でいとも簡単に1人をかわしてから超精度のスルーパス」「後半開始直後、久保がベッカーを狙って意表を突くロングフィード」「久保がCKからのサインプレーでファーに飛び込みシュート」。一体、どれだけ彼が主語になる試合だったのか……相手はバルセロナだというのに!

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    久保は私たちのメッシ、ヤマル

    久保が自らゴールを決められなかったのも、チームメートたちが彼の供したチャンスを生かし切れなかったのも残念だが、しかし背番号14の圧倒的プレーによってラ・レアルが試合の流れを引き寄せたのは紛れもない事実だ。攻撃面だけでなく、強度あるプレスによって守備面でも大きく貢献していた久保は、ラ・リーガのマン・オブ・ザ・マッチに輝いたが、彼以外が選出されることは絶対にあってはならなかった。実際、アノエタの観客は、試合終了後に「クボ! クボ! クボ!」と、その名を叫び続けていた。そのチャントに笑顔で応じていた彼は、胸を張って誇りたい私たちの一人。愛すべき日本人である。

    「今日、僕たちは魂のプレーを見せました。このユニフォームを着てプレーしてきた中でも、最高の試合の一つだったかもしれません。明確なチャンスを何度も迎えましたし、3-0にすることだってできたはずです……。でも、不満は言いませんよ。大切なのは勝ち点3を獲得したことですし、明日は町でこの勝利が話題になっているはずです」

    「ラ・レアルでの101試合目に最高のプレーを見せられた感想? とても良い感じです。僕はラ・レアルの一部だと思っていますし、皆からの愛情も感じられています。人々は僕だけでなく、チーム全体にも拍手を送ってくれていましたね」

    「本当のことを言えば、辛かった。少し辛かったんです。試合で負けた後、スタンドへ向かって……皆は元気づけてくれますが、自分が拍手を受けるのに値しないことは分かっていたんです。だけど、今日は完全に拍手を受けるに値しましたし、人々がこのラ・レアルを信じるきっかけになったように思います」

    ロビン・ル・ノルマン&ミケル・メリーノの退団と新加入選手の適応不足で苦労を強いられる今季のソシエダ。久保は少し前に「僕がチームを引っ張りたい」と言ってくれたが、もちろん、うまくいかないもどかしさだってあったのだろう。だが今回のバルセロナ戦で、あの言葉は完全に体現された。ラ・レアルはアノエタで、マラドーナのバルセロナ、メッシのバルセロナを負かしてきたが、久保は私たちにとってのマラドーナ、メッシ、ヤマルになりつつある。それでいて私たちをいつも思いやってくれる特別な、本当に特別な存在だ。久保が笑えば、ラ・レアルが笑い、人々も笑うのである。

    これからフットボール界はインターナショナルウィークに突入。ラ・レアルはその後ビルバオで、アトレティック・クルブとの伝統のバスクダービーに臨む。真なるフットボールの試合が続くが、私たちに恐れなどない。それは無限にも近い可能性を解き放ち始めた久保が、このチームを引っ張っているからにほかならない。

    タケ、やっぱり君は最高だ!