takefusa-kubo(C)Getty Images

久保建英がレアル・ソシエダサポーターの希望の光に。ダビド・シルバの魔法を失っても「クボの閃き」がある

フットボールクラブの性格というものは、人間と同じようにそうやすやすとは変わらない。厳格なサラリーキャップを敷くラ・リーガでは、バルセロナをはじめとして多くのクラブが選手登録で苦労を強いられているが、翻ってレアル・ソシエダは我が道を進み続ける。

このバスクのクラブは健全経営を貫き、下部組織を大切にし、絶対に必要だという確信と財政的余裕を持って選手補強を実現する。そうして1年前に獲得したのが、久保建英だった。頻繁にチームを変えてきた過去からサポーターから疑いの目も向けられた日本人MFだったが、ソシエダを自分の庭とするまで時間はかからなかった。

久保はすぐさま、その庭に咲き乱れた美しき花たちの仲間入りを果たした。ミケル・メリーノ、ブライス・メンデス、ミケル・オヤルサバル……そしてダビド・シルバという左利きのテクニシャン集団の仲間入りを。

チームを導くのは ダビド・シルバの役割だったが、久保も唯一無二の才能とパーソナリティーでもって、すぐさまファンの心を鷲掴みにしている。ピッチ内での果敢なプレーとピッチ外でのウィットに富んだ発言はどちらも魅力たっぷり。とはいえ、彼が最も雄弁に己を物語るのは、やはり芝生の上だ。

  • kubo(C)Getty Images

    チームの“顔”として今季初ゴールを奪取

    今夏、ソシエダはシルバを失った。今季限りで現役を退く考えとされた37歳の元スペイン代表MFは、左足前十字じん帯断裂に苦しみ、スパイクを脱ぐ時期を早めている。サポーターはマゴ(魔法使い、シルバの愛称)との別れを悲しんだが、それでも失意のどん底まではいかなかった。なぜなら、シルバの魔法を失おうとも、彼らにはまだ久保の閃きがあるからだ。ラ・リーガ開幕節、日本人MFはサポーターのそんな期待に応えている。ソシエダの本拠地アノエタで、またも閃光が走ったのだった。

    昨季のラ・リーガ開幕節カディス戦(1-0)、加入後いきなりゴールを決めてサポーターに期待を抱かせた久保は、それから1年後のラ・リーガ開幕節ジローナ戦で今度は期待の新人としてではなく、チームの“顔”として先制点を奪取している。中盤で相手のパスをカットしたアイエン・ムニョスが、左サイドを駆け上がってグラウンダーのクロス。ペナルティーエリア内右にフリーで侵入した久保がこのクロスに左足で合わせると、地を這うボールが枠内左に収まった。

    フリーだったとはいえ、あのクロスボールをダイレクトで叩いて枠に向かわせるのは、決して簡単ではない。そしてニアではなくあえてファーにシュートを打つことでGKパウロ・ガッサニーガの意表を突いたのも、決定力の飛躍的向上が決して偶然の産物ではないことを証明している。

    得点後も久保の存在感は凄まじかった。私たちは今まさに、一人の選手が“格”を手にする瞬間、ワールドクラスになる瞬間に立ち会っているのかもしれない。

    久保がボールを持てば対面する左サイドバックをはじめとしてジローナDF陣の緊張と警戒心は最大限に高まった。が’、それでもこの日本人の圧倒的技術とキレに裏打ちされたドリブルやボールキープはいかんともしがたい。観客は久保がパスを受ける度に、また何かが起こるという期待に胸を躍らせていた。

    しかし久保がどれだけ存在感を放っても、チームのゴールにつながらなければ意味がない。追加点を奪えずにいたソシエダはジローナに追いつかれてしまい、今季は開幕節の勝利を逃してしまった。

  • 広告
  • Takefusa KuboGetty Images

    ラ・レアルで中心へ

    これまでのソシエダがシルバを潤滑油として機能していたことは間違いなく、これから左利きのテクニシャン集団は久保を中心にまとまっていかなくてはならないだろう。この試合ではブライス・メンデスとうまく連係が取れていたし、これからふくらはぎを痛めていたミケル・メリーノも復帰してくる。彼ら左利きの選手たち以外にも長期離脱から復帰したウマル・サディクや新加入のアンドレ・シウバらFW陣とどう絡むのか、アレクサンドル・スルロット(RBライプツィヒからビジャレアルに完全移籍)との間にあったような抜群の連係を確立できるのかどうかにも注目したいところだ。

    いずれにしろ今季のソシエダは久保が中心であり、昨季4位のチームの中心となる選手は、ラ・リーガを代表する選手の一人にもならなくてはいけない。

    金銭的に厳しい状況にあるラ・リーガは近年、多くのスター選手を失っている。クリスティアーノ・ロナウドとリオネル・メッシがしのぎを削っていた時代は遠くなり、今夏にはカリム・ベンゼマも去ってセルヒオ・カナレスはメキシコにベティスよりも高い年俸を求めた。それでも2強には煌びやかな選手たちが残り、そのほかのクラブにも抵抗を続けている天才たちがいる。アントワーヌ・グリーズマン、ナビル・フェキル、イシ、ビクトル・ツィガンコフ、そして久保……(奇しくも彼らは全員が左利きだ)。久保にはチャンピオンズでも、ソシエダとラ・リーガの価値を示してもらいたいものだ。

0