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佐野海舟=「遠藤航3.0」=プレデター?「日本代表を進化させる存在」を西紙副編集長が徹底分析!

昨夏に鹿島アントラーズからマインツへと加入した佐野海舟。初の海外挑戦となったシーズンだが、すぐさまドイツに適応。昨年12月には、ボー・ヘンリクセン監督が5分間にわたる熱弁で「彼のポジションでベストプレーヤーの1人になれるよ」と絶賛したことも話題に。ここまでブンデスリーガ、DFBポカールの全32試合に先発するなど、来季のチャンピオンズリーグ出場権を狙うチームで絶対的な存在になっている。

そんな24歳MFについて、スペイン大手紙『as』の副編集長を務めるハビ・シジェス氏は「衝撃的だ」と絶賛する。長年にわたって海外で活躍する日本人選手・日本代表チームを追い続けてきた有名紙の分析担当が「日本代表を進化させる存在」を紐解いていく。

文=ハビ・シジェス/スペイン紙『as』副編集長

翻訳=江間慎一郎

  • Kaishu Sano Mainz 2025(C)Getty Images

    佐野海舟の衝撃

    フットボール界の趨勢はよりフィジカル的、アスリート的な選手を重視する方向に流れている。だが、それに沿った補強戦略で肝心要のフットボールを犠牲にし、行き場を見失ってしまったレアル・マドリーが象徴するように、その趨勢は必ずしも正しいとは言えないのだが……。

    さて、佐野海舟(24)もそうした流れの中で頭角を現した選手である。非常に恵まれたフィジカルの持ち主であるこの日本人は、ボール奪取やスペース管理など、相手のプレーを破壊する能力に長けており、ボー・ヘンリクセン率いるマインツで絶対不可欠な存在として君臨する。マインツ加入直後からあまりにも自然に、チームに大きな影響力を及ぼしていく姿は、衝撃的とさえ形容できるものだ。

    前述のようにフットボールはフィジカルがすべてではなく、佐野はこれから創造性も磨き上げていく必要もある。だが欧州主要リーグに飛び込んだばかりの選手に、今以上の活躍を望むのは欲張り過ぎだろう。彼はブンデスリーガで、称賛すべきデビューシーズンを過ごしているのだから。

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  • sano(C)Getty Images

    遠藤航3.0?

    佐野は現代フットボールの進化を体現している選手にも映る。少し横暴で、ナンセンスな比較になるかもしれないが、彼はある意味「遠藤航のアップデート版」と言えなくもない。インテリジェンスや判断力はまだリヴァプールMFより劣っているものの、そのプレーぶりは彼のように激しく、ダイナミックだ。今日のフットボール界で、欧州のトップクラブがピッチ中央に置きたいと思うタイプ・クラスの選手である。

    佐野はピッチ全体をプレーエリアとしており、中央のほかサイドも余裕でカバーすることが可能。そのプレーリズムは非常に高く、守備のツボも心得ている。新チームに容易に適応して、強烈な存在感を放つ様子には、ただただ驚かされるばかりだ。鹿島アントラーズ→マインツという変化にも動じなかったこの男は、将来さらなるステップアップを果たすとしても、難なく適応してしまうのではないかと感じさせる(実際、そうしたポテンシャルを秘めている)。

    ヘンリクセンの1-3-4-2-1(スペインのフォーメーションはGKから表記)で2ボランチの一角を務めている佐野は、攻守の“バランスをもたらす者”としての役割を請け負い、相棒のアミリが自由にゲームメイクできるよう手助けしている。佐野はマインツ加入当初、ベンフィカに移籍したレアンドロ・バレイロの代役になることを求められたが、そんなのは難題でも何でもなかった。むしろバレイロより、佐野の方が代えの利かない存在だ。ヘンリクセンは適応期間のシーズン序盤に何回か交代でベンチに下げたことを抜かせば、彼のことをずっとピッチに立たせ続けている。

    迅速なトランジションとハイプレスを特徴とするマインツは、残り4節の段階でブンデスの6位につけているが、その実力は決してフロックではない。そしてこの躍進において、佐野が果たしている役割は相当に大きい。

  • Bo Henriksen Kaishu Sano Mainz(C)Getty Images

    プレデター

    ヘンリクセンの戦術に佐野がはまったというのも勿論だが、そもそもの前提として、彼の個人能力は抜きん出ている。相手の攻撃を前もって“潰す”プレス、ボールを奪う能力は感嘆もので、誰でも身につけられるわけではない生来の才能だ。そして1対1の局面では闘志、激しさ、果てには獰猛さすら感じさせ、ほぼ無敵の強さを発揮。ボールを奪うという行為を心から楽しんでいる彼は、まるでプレデター(捕食者、略奪者)のようである。

    佐野は相手選手を決して自由にさせない。背後にピッタリと貼り付いて、フェイントやカバーに入る選手にもしっかりと気を配っている。そして、そこにこそ、彼の研鑽してきた実力が反映されている。

    何度となく繰り返すことのできるスプリント、狭いスペースで見せる抜群の加速力、空中戦における圧倒的な強さなど……恵まれたフィジカルを活かした彼のプレーは、一見すればとても単純かつ簡単なように思える。しかし、違う。佐野はそれだけの選手ではない。彼は努力を惜しまず、相手選手の研究にも余念がない。どう動いて、どうマークから逃れようとするのかという相手の行動パターンを把握して、確実な立ち回りを見せる。

    例えば、昨年12月のバイエルン・ミュンヘン戦だ。マインツはドイツの盟主との試合を2-1で制したが、佐野のプレーはまさに圧巻だった。DFとMFのライン間で動き回るジャマル・ムシアラに目を光らせ続け、チームを危機に陥れるプレーを前もって、ことごとく潰していた。

    佐野が今季残している数字が、その存在感を裏付けている。彼はブンデスで53回のインターセプトを記録しているが、これは欧州5大リーグでプレーするMFの中では、ライアン・フラーフェンベルフ(リヴァプール)、セネ・ライネン(ブレーメン)に次ぐ回数となる。加えて走行距離の1試合平均は「12km」にのぼり、合計「674回」のスプリントと、最高速度「時速34.5km」を計測している……日本人の弱点はフィジカルと言われた時代は、もうはるか昔のことだ。

  • 20250325-japan-saudi-arabiaGetty Images

    日本代表を進化させる存在

    無論、欧州での初シーズンなのだから欠点もちらつきはする。中盤の選手は数多くの責務を背負う難儀なポジションだが、佐野の場合はゲームメイクの部分にまだ伸び代がある。別に、彼に技術や創造性が欠如しているわけではない。横たわる問題は「もっと大胆になれるか」、「覚悟を持てるかどうか」ということである。

    佐野は相手のラインを破る縦パスやサイドチェンジのボールを、もっとコンスタントに出していかなければならない。ボルシア・ドルトムント戦で、フィリップ・ムウェネに送った抜群のロングボールが象徴されるように、彼にはインテリジェンス、視野の広さ、パスの技術と“フットボール”の本質も間違いなく備わっているのだから。

    佐野はそうした面を磨くことができれば、言葉通り、輝かしい未来が待っている。マインツ以上のクラブでレギュラーとして活躍し、日本代表でも決定的な存在になれるだろう。

    そう、日本代表とその指揮官である森保一にとって、佐野のブンデスリーガでの活躍は、間違いなく素晴らしいニュースであるはずだ。まだ一度も招集されていないとしても、競争力の権化のようなプレーを見せる彼は、日本のフットボールを進化させる選手の一人になり得る。佐野はその伸び代含めて、日本でも欧州でも、絶対的に注目すべき選手なのだ。