ヘンリクセンの戦術に佐野がはまったというのも勿論だが、そもそもの前提として、彼の個人能力は抜きん出ている。相手の攻撃を前もって“潰す”プレス、ボールを奪う能力は感嘆もので、誰でも身につけられるわけではない生来の才能だ。そして1対1の局面では闘志、激しさ、果てには獰猛さすら感じさせ、ほぼ無敵の強さを発揮。ボールを奪うという行為を心から楽しんでいる彼は、まるでプレデター(捕食者、略奪者)のようである。
佐野は相手選手を決して自由にさせない。背後にピッタリと貼り付いて、フェイントやカバーに入る選手にもしっかりと気を配っている。そして、そこにこそ、彼の研鑽してきた実力が反映されている。
何度となく繰り返すことのできるスプリント、狭いスペースで見せる抜群の加速力、空中戦における圧倒的な強さなど……恵まれたフィジカルを活かした彼のプレーは、一見すればとても単純かつ簡単なように思える。しかし、違う。佐野はそれだけの選手ではない。彼は努力を惜しまず、相手選手の研究にも余念がない。どう動いて、どうマークから逃れようとするのかという相手の行動パターンを把握して、確実な立ち回りを見せる。
例えば、昨年12月のバイエルン・ミュンヘン戦だ。マインツはドイツの盟主との試合を2-1で制したが、佐野のプレーはまさに圧巻だった。DFとMFのライン間で動き回るジャマル・ムシアラに目を光らせ続け、チームを危機に陥れるプレーを前もって、ことごとく潰していた。
佐野が今季残している数字が、その存在感を裏付けている。彼はブンデスで53回のインターセプトを記録しているが、これは欧州5大リーグでプレーするMFの中では、ライアン・フラーフェンベルフ(リヴァプール)、セネ・ライネン(ブレーメン)に次ぐ回数となる。加えて走行距離の1試合平均は「12km」にのぼり、合計「674回」のスプリントと、最高速度「時速34.5km」を計測している……日本人の弱点はフィジカルと言われた時代は、もうはるか昔のことだ。