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ザークツィーはマンチェスター・ユナイテッド最大の問題、決定力不足を解決する存在に

現地時間16日(金)、マンチェスター・ユナイテッドのファンは手詰まり感に堪えていた。フラムとのプレミアリーグ開幕戦は残り2分。試合がまさにスコアレスで終わろうとしていたその時、ジョシュア・ザークツィーがシュートを放ち、新加入したチームを勝利へと導いたのだった。

赤い悪魔はオールド・トラッフォードで輝きを見せられず、特に前線は歯抜けの状態だった。ブルーノ・フェルナンデスとメイソン・マウントはGKベルント・レノに至近距離でのシュートを阻まれ、カゼミーロはシュートを5本放ったが、すべて枠外だった。

途中交代で出場したザークツィーは、チームメイトにゴールの決め方を教えた。アレハンドロ・ガルナチョからのパスを受けると、まったくスペースのないところで絶妙なシュートを放ち、ゴールネットを揺らしたのである。フラムの選手たちはピッチに倒れこみ、ストレットフォード・エンドは歓喜に沸いた。

ザークツィーは、クエンティン・タランティーノとジェイミー・フォックスへのオマージュで、ピストルを撃つ格好をした。ゴールを決めたときのいつものパフォーマンスで、昨シーズンはセリエAのボローニャで11回やった。そのおかげでボローニャは5位でシーズンを終えることができ、史上初めてチャンピオンズリーグ出場権を得たのだった。

「映画の『ジャンゴ 繋がれざる者』で観たんだ」と、昨シーズン、ザークツィーは『ガゼッタ・デロ・スポルト』で語った。「ジャンゴが銃の撃ち方を習う場面があるんだ。それを真似しようと思った」

マンチェスター・Uのファンは、ザークツィーに深刻な得点力不足を解決してもらおうとは思っていなかったかもしれない。しかも、こんなに早くとは。だが、ザークツィーは引き金を引いて的を撃ちぬいた。この調子が続けばマンチェスター・U最大の問題である、決定力不足の解決に役立つことだろう。

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    的外れ

    ザークツィーがプレミアリーグ初ゴールを決めるのに、26分しかかからなかった。マンチェスター・Uで最後にプレーしたオランダ人ストライカーと比べると、雲泥の差だ。ヴァウト・ヴェグホルストは5カ月間レンタル移籍で所属していたが、リーグ戦では1得点もできなかった。17試合に出場し、10試合に先発して797分もピッチにいたというのに。オランダ代表のロナルド・クーマン監督はEURO2024でザークツィーよりもヴェグホルストを多く起用したが、マンチェスター・Uのファンはそのことを少し懸念していた。

    だが23歳のザークツィーはデビュー戦で自身の攻撃能力に対する疑いを撃ち砕いた。マンチェスター・U史上最高のオランダ人ストライカーにして現在はザークツィーのコーチをしている、ルート・ファン・ニステルローイを髣髴とさせるスタートだった。ファン・ニステルローイもデビュー戦で得点し、それもまたオールド・トラッフォードでのフラム戦だった。その試合で2得点というロケットスタートを果たした後、最初のシーズンで23得点を挙げることとなる。翌年には25得点で得点王を獲得した。

    ザークツィーはファン・ニステルローイとは全く異なるタイプのストライカーであり、ゴールを量産するというよりはファシリテーターとして知られている。だが、ストライカーというものは経歴や他の資質がどうあれ、まずは得点数で評価されるものだ。ザークツィーが素晴らしいスタートを切ったことが肝心なのである。

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  • Rasmus Hojlund Man Utd BrentfordGetty

    メンタルブロック

    ヴェグホルストはリーグで得点を取れなくなればなるほど、重圧を感じるようになっていった。ザークツィーと同僚のラスムス・ホイルンドも、プレミアリーグの最初の数試合で無得点だった後、メンタルブロックに陥ってしまったようだった。そのことは、テン・ハーグ監督が去年のブライトン戦、ホームデビュー戦で取り消されたホイルンドの得点に言及したことでもわかる。

    ホイルンドは、9月中旬、マンチェスター・Uで初先発したブライトン戦で、同点ゴールを決めたかに見えた。だがVARでの検証でシュートの前にボールがアウトになっていたとされた。同じ週、ホイルンドはチャンピオンズリーグで得点したが、プレミアリーグ初得点は3カ月以上も後のことだった。

    「昨シーズンのラスムスの初得点の時のことを思いだす。我々は2分もハーフウェイライン上で待たされ、VARがラインを出ていたと判定した。ラスムスは苛立っていた」と指揮官は回想した。「だから、彼(ザークツィー)の得点は本当にうれしい。あの得点は彼を勇気づけ、自信を与えるだろう。ファンにとっても彼にとっても、とても素晴らしいスタートになった」

  • Weghorst-Man-Utd-LiverpoolGetty

    低スコア、低シュート

    ホイルンドがまだケガから復帰できず、最初のインターナショナル・ブレイクまで待たなければならないため、24日(土)のアウェイのブライトン戦とその次の9月1日(日)のリヴァプール戦では、ザークツィーがマンチェスター・Uのファーストチョイスとなるだろう。

    そして今や、彼には、ホイルンドやヴェグホルスト、クリスティアーノ・ロナウドですら出来なかったことをして、マンチェスター・Uを再び数多くの得点をあげるチームにするチャンスがある。過去3シーズン、赤い悪魔はリーグ戦で1得点を挙げるのに60分以上かかっていた。

    昨シーズンの総得点は57で、34年ぶりに得失点差がマイナスとなった。そんな得点力不足のせいで、34年間で最も低い順位でリーグを終えることとなり、プレミアリーグ創設以降、最悪の成績であった。

    58失点も理想からほど遠い数でありアーセナルの2倍にもなるが、リーグ全体では4番目に少なく、アストン・ヴィラ、トッテナム、チェルシー、ニューカッスルのほうが多く失点していた。これらのチームの最終順位はマンチェスター・Uよりも上で、得点数ははるかに多い。ヴィラは76得点、トッテナムは74点、チェルシーは77点、ニューカッスルは驚くなかれ85得点も記録している。

    ライバルたちと違い、マンチェスター・Uは貧弱な守備を攻撃で埋め合わせることができず、結果としてチャンピオンズリーグ出場を果たせなかった。もう2度とそんなわけにはいかない。フラム戦では昨シーズン以上に守備は堅固だったが、それでもいくつかのミスをしており、もっと強いチームが相手だったら負けていたことだろう。

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    同じことの繰り返し

    だが、マンチェスター・Uの攻撃の鈍さは昨シーズンだけのことではない。3年にわたって続いてきた問題に過ぎないし、さらにテン・ハーグ監督が就任する以前にさかのぼることもできる。2022-23シーズンのマンチェスター・Uの得点は58で、失点がわずか43、他のチームよりも無失点試合が多かったことで救われたのだった。

    2021-22シーズンは、C・ロナウドが18得点もしたのに、57得点だった。失点数も同じで、得失点差はゼロ。プレミアリーグ史上最少だった。

    その前の2020-21シーズンは73得点で、最終順位は2位だった。2019-20シーズンは66得点で3位。2018-19シーズンは65得点で、ジョゼ・モウリーニョのもとで2位となり、勝ち点は81も稼いだ2017-18シーズンでさえ――サー・アレックス・ファーガソンが監督だった時以来の最高勝ち点だった――、68得点しかしていない。モウリーニョが就任した最初の年は、たった54得点だった。

    だが、2015-16シーズンには、ルイ・ファン・ハール監督のもと、わずか49得点で、17位だったサンダーランドよりも1得点しか多くなかった。比較のために述べると、ファーガソンの最後のシーズンにしてプレミアリーグのタイトルを獲得した最後のシーズンである2012-13シーズンには、86得点している。

    マンチェスター・Uが戻りたい場所はそこであり、ここ最近挙げてきたよりもずっと多くの得点が必要なのである。そしてザークツィーは複数の方法でそれに貢献できる可能性がある。

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    アイドルはスーパースター

    ザークツィーのこれまでの得点数はマンチェスター・Uのファンをドキドキさせるほど多くはなかったかもしれない。昨シーズンのセリエAでの11得点は、アタランタでマンチェスター・Uへ大型移籍する前にホイルンドが挙げた得点より2点多いだけだった。4アシストというのも大した数字ではない。

    だが、ザークツィーの場合、その動きの良さ、優れたテクニック、味方の攻撃陣とともに得点をあげたいという熱意が格別だ。センターフォワードとしてプレーしつつも、むしろハリー・ケインのように深い位置にいて背番号10のような役割を果たすことを好む。

    ザークツィーの子どもの頃のアイドルはズラタン・イブラヒモヴィッチで、セリエAを沸かせた最高のセンターフォワードのひとりであるガブリエル・バティストゥータからも影響を受けている。だが、ボローニャで監督だったチアゴ・モッタは、昨シーズン、ザークツィーのことを語るときに、別の選手を思いだしていた。

    「ザークツィーは(ズラタン・)イブラヒモヴィッチと(ガブリエル・)バティストゥータがアイドルだったと言うし、2人とも素晴らしい選手だが、毎日ザークツィーを見ていると、バルセロナにいた時のロナウジーニョを思いだす」と、モッタは『スカイ・スポーツ・イタリア』で述べた。「だけど、誰とも比べることはできない。彼はジョシュアだ。他の誰とも違う特別な選手だ」

    モッタはこうも言っていた。「ゴールのことしか考えないFWがいるが、ジョシュアはそうではない。彼は広い心を持っていて、それが違いを生むのだ」

  • Joshua ZirkzeeImago

    可能性を解き放つ

    ザークツィーは、現在はユヴェントスの監督となったモッタについて、自分を9.5番に変えてくれ、テクニックが自分の最大の財産だと認めてくれたと語っている。「優れたテクニックを持った長身のセンターフォワードはそう多くない。テクニックは間違いなく私が天からもらった贈り物だ。そのおかげで、私の本質をみんなに見てもらえる」と、イタリアの新聞『コリエーレ・デラ・セラ』で述べた。「自分を表現する最高の手段だ。チームのために創造性を発揮することが大事だ」

    チームメイトのためにチャンスを創りだすことで、ザークツィーはマンチェスター・Uの可能性を解放するだろう。昨シーズン、マンチェスター・Uで最多得点を記録したのはフェルナンデスとホイルンドで、リーグでの得点は10点ずつだった。トップ5の残り3人はアレハンドロ・ガルナチョ、マーカス・ラッシュフォード、スコット・マクトミネイで、それぞれ7得点だった。

    テン・ハーグ監督の1年目、マンチェスター・Uはラッシュフォードの17得点に大きく依存しており、次に得点の多かったフェルナンデスは8得点だった。2021-22シーズンには、C・ロナウドが18得点で大差をつけた最多得点者であり、フェルナンデスが2位で8得点、メイソン・グリーンウッドが3位で5得点だった。

    ファーガソン時代以降で最も得点が多かったのは2020-21シーズンで、フェルナンデスが18得点、ラッシュフォードが11得点、エディンソン・カバーニが10得点だった。この時のマンチェスター・Uのトップ3は合計39得点を挙げており、全得点の53%を占めていた。昨シーズン、トップ3が挙げた得点は27で、全得点の47%だった。

  • Joshua Zirkzee Erik ten HagImago

    試合をコントロールして仕留める

    つまり、ザークツィーは、ホイルンドやフェルナンデス、ラッシュフォードかガルナチョとともにマンチェスター・Uの得点ランキングのトップ3に入り、全体の得点数を増やすことに貢献することが期待されているのである。

    「彼は、これまでの我がチームになかった才能を持っており、それをすぐに見せてくれた」と、テン・ハーグ監督はザークツィーについて言った。「彼は、つなぎやコンビネーションが非常にうまい。我がチームにはボール扱いが非常にうまい攻撃的な選手が何人もいて、彼の才能によって恩恵を受けることができる。だが、私は言いたい。ザークツィーはボックスに入ってゴールを決めなければならない。なぜなら、ストライカーの主な役割は点を取ることだからだ」

    「ストライカーにとって大事なのは点を取ることだ。彼は仕留めなければならない。だが、彼にはいくつもの才能があり、我々は正しいバランスを保たなければならない。彼はボックス内に入ってシュートを決めなければならないが、つなぎもやってほしい。彼の周りには、コンビネーションを駆使して試合をコントロールできる、偉大なMFが何人もいるのだ」

  • Joshua ZirkzeeGetty

    ファシリテーター兼プレデター

    『マッチ・オブ・ザ・デー』のスタジオにいたアラン・シアラーも感心していた。「彼はボックス内で脅威になっていた」と、プレミアリーグの最多得点記録をもつシアラーは言った。「背番号10の役割を果たすポジションにいたけれど、パスをせず、DFをかわすわけでもなかった。非常に賢いシュートだった」

    実際、昨シーズンのホイルンドは「ボックス内での脅威」になっていたが、チームメイトたちとうまく行かないことが多すぎた。フェルナンデスやラッシュフォードからのパスを求めて苦しんでいたのだ。ザークツィーはホイルンドの力を最大限引き出すことができるだろうが、テン・ハーグ監督の言うとおり、自分で得点することを躊躇すべきではない。

    ザークツィーがファシリテーター兼プレデターになれたなら、今シーズンのマンチェスター・Uはすべての銃を撃ちまくることができ、トップ4に返り咲くことができるだろう。