Antoine Griezman Atletico Madrid last derby dance GFX GOAL

アントワーヌ・グリーズマンの美しい物語:退団前のラストダンスへ?殺害予告から再びファンの愛情を取り戻すまで

アントワーヌ・グリーズマンは、またも重要な決断を迫られている。今回は不適切なドキュメンタリーで大々的に発表されることも、1年以内に愚かな方針転換することもなさそうだが……。

最近の報道によると、グリーズマンは自身の言葉に忠実であり続けるつもりのようだ。すなわち、アトレティコ・マドリーが彼の「ヨーロッパでの最後のクラブ」となるだろう。今の問題は、彼の退団が今年の夏なのか、それとも来年夏なのかということ。そして、アメリカを愛する彼がMLSのどのチームに加わるのかということだけである。

しかし、3月に34歳になるグリーズマンの退団は今季終了後の可能性が高いと指摘されている。つまり、8日のマドリー・ダービーは彼にとって最後となる可能性も高いということだ(チャンピオンズリーグで再戦する可能性はあるが)。そして、両チームの差はわずか「1」。否が応でも注目されるだろう。アトレティコが勝利すればバルセロナも絡んだ3チームによる優勝争いで主導権を握るだけでなく、グリーズマンの感動的な復活劇を最高の形で締めくくる最大のチャンスを手にすることになるはずだ。

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    「●ね、グリーズマン」

    2019年夏、グリーズマンがバルセロナに移籍してから初めてメトロポリターノのピッチに立った時、一部ファンの怒りは頂点に達した。スタジアムの外にある彼を称えるプレートの上にはネズミのおもちゃが置かれ、南側ゴール裏には「名声を欲しがるあまり、男であることを忘れた男」とのバナーも掲げられた。ウォーミングアップのために姿を見せたかつてのエースに対し、「●ね、グリーズマン」との声も響き渡っている。

    アトレティコのサポーターは、退団自体に怒り狂ったわけではない。その方法だった。その1年前にもバルセロナから誘われたものの、「ファンの存在」を理由として一度拒絶している。本人は『レキップ』紙で「故郷で愛情をもらったら、他の場所に行くことはないよ」と語っていた。しかしその翌年、再び声をかけられると、その誘いに乗って赤と白に背を向けたのだった。

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    唯一の支持者

    そんな彼がバルセロナで苦しんだことは、アトレティコファンを大いに喜ばせた。移籍の理由は「ラ・リーガ優勝」だったが、不運な2シーズンでその願いを叶えることはできなかった。皮肉な話だが、2020-21シーズンのアトレティコはバルセロナが容赦なく放出したルイス・スアレスの大活躍もあり、バルセロナを上回ってタイトルを獲得している。だからこそ、2021年夏にグリーズマンと再契約するというアイデアを支持するファンはほとんどいなかった。

    しかし、メトロポリターノには彼の熱烈なファンが1人いる。そう、ディエゴ・シメオネだ。

    当時アトレティコは、グリーズマンの後釜として移籍金最高額を支払ってジョアン・フェリックスを獲得。しかし、シメオネのチームに適応するインテリジェンスと献身性が欠けていた。対照的に、グリーズマンは非常に賢く献身的で、現代サッカーでも特異な存在である。チームのために自分を犠牲にすることを厭わないスーパースターであり、だからこそ、シメオネは彼の復帰というアイデアに飛びついた。

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    契約条項をめぐる混乱

    そして、アトレティコ復帰初年度は契約の面でも苦労した。2年間のレンタル期間中に全公式戦の50%で45分以上プレーした場合、4000万ユーロ(約62億円)の買取義務が発生する条項が付帯しており、そのためアトレティコはグリーズマンの出場時間を意図的に減らすなど、滑稽な扱いが続いたのだ。

    それでも最終的にバルセロナとの妥協案がまとまり、2022年10月に2000万ユーロ(約31億円)で獲得。この決着により、たちまち彼のパフォーマンスは飛躍的に向上する。

  • ラ・リーガ最高の選手

    契約問題の解決で出場時間を伸ばし、ようやく周囲の賛辞を集め始めたグリーズマンは、フランス代表としても2022年ワールドカップ決勝進出の立役者に。その大会後にアトレティコへ戻ると、すぐさまラ・リーガ最高の選手であることを証明している。

    2023年は全公式戦で37ゴールに直接関与し、ラ・リーガ最多を記録。2024年1月にはアトレティコの歴代最多得点記録を更新し、レジェンド、ルイス・アラゴネスを上回った。さらにアトレティコの最多出場記録でもトップ10に入っている。いずれ彼の銅像も建つだろう。

  • “過小評価”

    シメオネは事あるごとに33歳FWを「最も重要な選手」と語っており、「このチームに来て以来、アントワーヌは常に我々の得点源だった」と指摘している。ラ・リーガにおいて、直接的な得点関与数でグリーズマンを上回るのは、ラウール、クリスティアーノ・ロナウド、リオネル・メッシの3人だけ。それだけの結果を残す彼が、その才能に見合った称賛を受けていないのはもはや犯罪だろう。C・ロナウド&メッシという存在、バルセロナ移籍のタイミングと方法が尾を引いているのは確かだ。世界で最も“過小評価”されている選手と言っていいかもしれない。

    だが、それも今となっては昔の話だ。彼の心からの謝罪、自ら「批判は当然だよ」と語るような誠意、そして何よりもピッチ上での活躍と姿勢が、“ファンの愛情”を取り戻している。グリーズマンの影響力は、33歳となっても衰えない。昨シーズンは全公式戦で24ゴールを挙げたが、これは2018年以降で最多の数字であり、今シーズンもすでに15ゴールを記録している。

    ギリシャ神話のミダス王(触ったもの全てを黄金に変える能力)のような彼は、11月のバジャドリー戦のゴラッソ、セビージャ戦の土壇場の決勝弾、マジョルカ戦のチップキックなど、今季もピッチに魔法をかけ続けている。

  • 美しいストーリー

    シメオネにとってさらに重要なのは、グリーズマンが周囲に与える影響力である。「我々にはリーダーが必要だ」と繰り返し主張し、彼の復帰を誰よりも歓迎した。それに応える形で、彼はピッチ内外での働きで「素晴らしいお手本」となったのだ。

    今夏加入したばかりのフリアン・アルバレスも、「アントワーヌが素晴らしいのは誰もが知るところだ。彼のおかげで僕らは皆、より良いプレーができる」と話す。「彼がこのクラブ、そしてサッカー界全体に与えてきたものすべてを考えると、一緒にプレーできて嬉しいんだ」

    彼のこれまでの発言やフランス代表を引退したこと、そして最近の報道により、今季限りでアトレティコを去る可能性は高いだろう。彼のプレーを欧州最高レベルで楽しめるのは、残り数カ月かもしれない。だからこそ、このダービーでの一挙手一投足を見逃してはならないのだ。そして最後の日、彼がトロフィーを掲げるという美しいストーリーを待ち望んでいる中立的なファンは多いはずだ。