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イーサン・ウィートリー:マンチェスター・ユナイテッドの次世代ゴールゲッター

今シーズンのマンチェスター・ユナイテッドの悲惨さには多くの理由が挙げられてきたが、最大の問題点のひとつは、コンスタントに得点を決められるストライカーがいないことである。今シーズンの大半でスコット・マクトミネイがチーム最多得点者であったことからも、それは明白だ。チーム全体で54得点しかあげられず、プレミアリーグの上位チームの中では、ボーンマス、ブライトン、ブレントフォードと並んで最少タイである。

デビュー・シーズンとなったラスムス・ホイルンドは新しいリーグに対応するのに苦労しており、アントニー・マルシャルは昨年12月からのケガのため、もう何カ月もチームに貢献できていない。マーカス・ラッシュフォードに至っては、シーズン終了後にチームを去ることになるかもしれないほど絶望的に残念なシーズンを過ごしている。

だが、マンチェスター・Uの攻撃力不足に対する解決策がすでにクラブ内にあるとしたら、どうだろう。ユースで面白いほど得点を決め、トップチームのドアをノックしている選手がいるとしたら? 18歳のイーサン・ウィートリーは、今まさに一歩を踏みだそうとしている……。

  • Ethan Wheatley Man Utd 2023-24Getty

    すべての始まり

    ウィートリーはグレーター・マンチェスターを構成するストックポート区で生まれ、最近ではフィル・フォーデンやコビー・メイヌーを輩出したことで知られる有名なサッカー・サークルで育った。家族はマレーシアにルーツをもち、祖母がマレーシア出身であるためマレーシア代表に選ばれる権利はあるものの、すでにU17イングランド代表に選ばれている。

    ウィートリーは子どもの頃からマンチェスター・Uのアカデミーに所属し、2022年に16歳でクラブと最初の契約を交わした。シャイな性格で知られており、11歳の時にチェコ共和国へのツアーに参加した際にはホームシックにかかり、彼をプレーさせるためにチョコレートのパンケーキで釣ったという話は、クラブのスタッフの間で有名である。

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  • 大躍進

    さまざまな年代のチームでプレーした後、今シーズンのウィートリーはU18のチームでコンスタントに得点を重ねている。なかでも最高だったのは、4月に宿敵リヴァプールの本拠地に乗りこみ、9対1で大勝した試合でのハットトリックだろう。

    これは、ウィートリーがずっと楽しみにしていた試合だったはずで、前回のレッズ戦でルカ・ファーネル=ギルにパンチや肘打ちをされたリベンジを心に誓っていたことだろう。実際、ウィートリーはあの事件をはっきりと心に刻んでおり、マンチェスター・Uの2点目となるハットトリックの最初の得点を敵陣で決めると、ウェイン・ルーニーの有名なゴールパフォーマンスをまねて、ボクサーの格好をしてから地面に平らに寝そべった。

    2点目を決めた時には、別のサッカーのレジェンドの真似をして、キリアン・エンバペのように腕を組んで膝でスライディングをして見せた。

  • Ethan WheatleyGETTY

    忘れられない1週間

    4月の順調な滑りだしとともに、月末はウィートリーにとって忘れられない1週間となった。FAカップの準決勝、マンチェスター・Uがウェンブリーでコヴェントリー・シティと対戦した試合でベンチ入りを果たし、その2日後のU18プレミアリーグ・カップの決勝のマンチェスター・シティ戦では2得点をあげたのだ。

    3対1で勝ったこの試合、ウィートリーは前半のみで交代したが、それには理由があった。その翌日、彼はオールド・トラッフォードにいて、プレミアリーグのシェフィールド・U戦を戦うトップチームに帯同していたのだ。4対2で勝ったこの試合、91分にホイルンドと交代してピッチに立ち、シニア・デビューを果たしたのである。

    アディショナルタイムになってからの出場だったが、存在感を示すには充分な時間があった。ペナルティーエリア内でブルーノ・フェルナンデスからのパスを受けられそうになったが、残念ながらクロスはブロックされた。それでもただの顔見せだけではなく、この出場によりマンチェスター・Uのトップチームでのデビューを果たした250人目のアカデミー出身選手となったのである。

    「この24時間は素晴らしい24時間だった。マンチェスター・Uは長い歴史を誇る偉大なクラブで、とりわけアカデミーは素晴らしい。デビューできたことも、250番目という数字も光栄だ。ちょっと特別な気がする」と、ウィートリーは言った。

    「ブルーノが僕をピッチに引っ張っていって、こう言ってくれた。『まだ9分ある。お前にゴールを取らせてやるよ!』。だから僕はブルーノに応えるためにあの位置にいようと思った。うまくいかなかったけど、でも、すぐまたチャンスがあることを願っている」

  • Ethan Wheatley Man Utd 2023-24Getty

    最大の強み

    ウィートリーにはゴールへの貪欲さがある。今シーズン、U18とU21の全公式戦で22得点をあげているのがその証拠だ。右足でも左足でもヘディングでも、あらゆる方法で、あらゆる角度からゴールを決めることができる。

    ペナルティーエリア内での意識が高く、動きが的確で反応が鋭い。ルーズボールを拾うことができ、ドリブルでゴールキーパーを交わすのもうまい。角度のないところからゴールを決める技術もあり、リヴァプール戦とマンチェスター・C戦ではニアポストの内側へシュートを決めた。

    ストライカーとしての体格にも恵まれており、身長は185cmだがディフェンダーを華麗に交わして置き去りにする身の軽さもある。

  • Ethan Wheatley Man UtdGetty

    伸びしろ

    マンチェスター・Uの250人目のアカデミー出身選手となったことで、すでに大いに注目されているウィートリーだが、それだけがマンチェスター・Uの選手として記憶される唯一の証でないことを確実にする必要がある。U18からトップチームへ昇格し、レギュラーになれることを証明する必要があるのだ。

    「デビューしたとしても、まだやるべきことはある。イーサンは今週だけで、U18とU21とトップチームを駆け回った。私の中では彼はまだアカデミー卒業生ではない。まだトップチームの更衣室に入りこんでいないし、学ぶべきことがたくさんある」と、マンチェスター・Uのアカデミーのディレクターであるニック・コックスは言う。

    「デビューの際には、その時にいる選手たちとかなり微妙な関係になるものだ。イーサンは再びトップチームに入れるよう、今日も一生懸命に練習しなければならない。先発メンバーに選ばれ、5試合プレーしたが、一人前と言えるようになるには50試合必要だ。このくらいでいいと満足したり、過剰に祝福したりしてはならない」

  • Danny Welbeck Man UtdGetty

    ダニー・ウェルベックの再来か

    ウィートリーは体格や冷静さ、スキルが、同じくマンチェスター出身で、アカデミーからトップチームに昇格したダニー・ウェルベックに似ていると言われる。両足が使えて動きが素早く、信じられないような角度から得点できるところは、メイソン・グリーンウッドを思い起こさせる。

  • Ethan Wheatley Man UtdGetty

    今後は?

    ウィートリーは、今シーズンの終了まではマンチェスター・Uのユースでプレーし続け、トップチームの練習に参加し、試合に出ることもあるだろう。マンチェスター・Uはケガ人続出で、マルシャル不在も続いているため、テン・ハーグ監督のチームで再びプレーするチャンスは大いにある。彼以外に、ホイルンドに次ぐセンターフォワードはいない。

    プレシーズンにも大いに活躍することが期待される。多くのトップチームの選手がEUROやコパ・アメリカの後、休暇を取ることが予想されるからだ。その後、来シーズンにクラブはウィートリーをレンタルに出してシニアでの経験を積ませるか、チームに抱えつづけるかの選択を余儀なくされるだろう。

    マルシャル退団となればマンチェスター・Uは市場でストライカーを探すようになる可能性が高いが、今シーズンはケガ人に大いに悩まされてきたこともあり、最近のウィートリーのゴール前での素晴らしい記録を考えれば、クラブはウィートリーを保有し続けるに違いない。