Ethan Nwaneri Arsenal role GFXGetty/GOAL

“真のスターの素質”を持つヌワネリが羽ばたくために:アーセナルでの新たな役割とは?

アーセナルの広報部門は大変だろう。新SD(スポーツダイレクター)アンドレア・ベルタは、近年のクラブ史では前例のないペースで選手獲得を進めている。もちろん、アーセナルとミケル・アルテタにとってはプラスしかない。SNSチームが上げる悲鳴は、嬉しい悲鳴であるはずだ。

しかし、ベルタが対応するのは選手獲得だけではない。当然、既存選手の契約交渉も担当することになる。ガブリエウ、マイルズ・ルイス=スケリーとの長期契約には成功した。そして次は、イーサン・ヌワネリだ。現行契約は残り1年。移籍の可能性も浮上したが、最終的には契約延長で合意に達したことが伝えられている。

そんな18歳の才能は、誰の目にも明らかだ。大型補強により、アルテタのチームでこれまで以上にスタメンを勝ち取るのは難しくなるだろう。しかし才能あふれる彼は、別の役割で大きなインパクトを残すことは可能なはずだ。

  • Brentford FC v Arsenal FC - Premier LeagueGetty Images Sport

    呪われた記録?

    2022年9月に15歳181日でプレミアリーグ史上最年少デビューを飾ったヌワネリ。3-0で勝利したブレントフォード戦後、アルテタは「みんなが彼について話していたよ。ペア(メルテザッカー、アカデミー監督)もね。ケガの影響でチームに12~13人くらいしか選手がいなかったので、彼を起用することに決めた。それだけだよ」としつつ、こう続けている。

    「これは一つのステップ、一つの経験だ。楽しんで!おめでとう! だがこれはただの一歩であって、キャリア全てのステップが前進するわけではないことも理解しなければならない。前進し、後退し、また前進する。転ぶこともある。残念ながらこの世界はそうであり、どの選手のキャリアもそうなんだ」

    アルテタが語るように、若くしてデビューしたからといって必ずしも最高レベルに到達できるわけではない。プレミアリーグ最年少デビューでトップ10に入っているのは、ハーヴェイ・エリオット、マシュー・ブリッグス、イザイア・ブラウン、アーロン・レノン、ジョゼ・バクスター、ルシアン・ヘップバーン=マーフィー、ゲイリー・マクシェフリー、リース・オックスフォード……彼のコメントを裏付けるものである。

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  • Arsenal FC v Manchester City FC - Premier LeagueGetty Images Sport

    “特別”な兆し

    だがアルテタは、そんなヌワネリの才能に惚れ込んでいる。昨年11月、「彼を教育するうえで、我々がベストだと信じる道を示そうとしている。家族やエージェント、友人たちも非常に重要な役割を果たすことになる。騒がしい声に耳を傾けず、愛するフットボールに集中し、その一瞬一瞬を楽しみ続けることが大切だ。そうすれば、必ず良いことが起きるよ」と期待を込めた。

    そんなヌワネリは2024-25シーズン、公式戦37試合で9ゴール2アシストを記録した。この活躍からPFAヤングプレーヤー・オブ・ザ・イヤーにもノミネートされている。特にケガ人続出に苦しんだ冬の時期には、イングランド代表招集が噂されるほど輝きを放っている。ハイライトは、マンチェスター・シティを5-1で破ったあの一戦。カットインから強烈な一撃を突き刺した。トレードマークになりつつあるあのシュートについて、本人は『The Athletic』でこう振り返る。

    「ボールをもらえば何かできると思っていたんだ。幸運にも、デク(ライス)が僕を見つけてくれた。考えずにただやるだけだった。考えるのは後だよ。(あのフィニッシュは)子どもの頃から公園で何時間も練習してきた結果なんだ。右サイドでプレーすることが多かったし、左足で内側に切り込むのが自然と身についてきた。年々磨かれてきたもので、本当に自分の中から自然に出てくるものなんだ」

  • Ethan Nwaneri Arsenal 2025-26Getty Images

    新ポジション

    『The Athletic』は、アーセナルとヌワネリの契約延長交渉が最終段階にあると伝えた記事の中で、今後彼のポジションをウイングではなく中央へ移す計画であることを明確に指摘した。ノニ・マドゥエケが加入したことも、その計画を後押しするものだろう。そして本人もこう語っている。

    「時々、自分はナチュラルなMFだと感じるんだ。でも、監督が指示したポジションで全力を尽くす必要がある。アーセナルのファーストチームであれば、どのポジションでも喜んでプレーするし、チームのために仕事をするつもりだ。実は、これまで何度か偽9番も経験しているんだよ。監督が必要とするなら、どのポジションでもプレーするさ」

    実際、彼のミランとのプレシーズンマッチで普段マルティン・ウーデゴールがプレーするポジションで起用された。そして同ポジションの選手に対し、アルテタはその才能を最大限ボックス付近で発揮できるように整備している。マルティン・スビメンディの補強は、まさにそのためだった。ウーデゴールは2022-23シーズンにリーグ戦15ゴールを奪ったが、直近2シーズンは合わせて11ゴールに留まった。これは、より頻繁に深い位置でビルドアップに関わることが増加したためである。ここに、おそらく世界最高峰のゲームメーカーが加わったことにより、両者はボックス付近での仕事に集中することができるはずだ。

  • Chelsea FC v Arsenal FC - Premier LeagueGetty Images Sport

    本人の意志

    若手育成に定評のあるアーセナルだが、トップチームのレベルが上がるにつれて、ヘイル・エンドの若者にとってはやや難しくなっていることも事実である。実際ヌワネリに対しては、ドルトムントやチェルシーが接触していたようだ。新契約交渉がうまくいっていないように見えた数カ月前、両クラブとの関連は強く噂されていた。しかし、本人の意思はまったく揺るがなかったようだ。

    元ウェールズ代表で『TalkSPORT』の解説を務めるディーン・サンダースは、今週はじめに「ジェイ・ボトロイドが彼(ヌワネリ)の父親と学校で一緒だったんだ。だから父親と話したよ。彼は『出場時間を要求したことは決してないよ』と明言した。私がメディアの噂に反応したことがあったからね。彼はアストン・ヴィラのファンで、『あなたからの批判は痛いよ』と話してくれた。どうやら、そんな事実はなかったようだ。親切な人だったね」と明かしている。

    ヌワネリは移籍を求めず、クラブにプレッシャーをかけることもなく、さらに出場機会の保証も求めなかった。愛するクラブで真摯に自身の役割を受け入れ、そして虎視眈々とポジション奪取を狙っている。

  • Arsenal FC v Brighton & Hove Albion FC - Premier LeagueGetty Images Sport

    スタメンへのハードルと…

    ヌワネリの存在は、同じくヘイル・エンド出身のブカヨ・サカと比較されてきた。アルテタは以前、「(サカの存在は)アカデミー全員と若手選手たちに、明確な道筋があることを信じさせる。我々は彼らに機会を与え、それを勝ち取ってくれれば、すべての選手と等しく扱われるはずだ」と語っていた。

    だがそのサカの存在が、ヌワネリの出場機会を減らす一つの要因となってしまっていることは皮肉なものだ。もはや背番号7は世界最高峰の右ウイングであり、アーセナルでは絶対的存在だ。そして新たな役割として移る中央には、キャプテンであるウーデゴールがいる。ヌワネリが様々な面で、両者に届いていないことは事実だろう。そのため、やはり新シーズンはベンチに座る機会は増えてしまうかもしれない。

    それでも、絶対に彼にはチャンスが巡ってくる。特にアルテタがウーデゴールの存在にやや依存している現状では、彼の離脱時に大きなダメージを負うことになる(鉄人のサカはさておき)。昨季はこれに苦しんだことは間違いない。もちろん戦術的な調整は必要だが、悲願のタイトルを手にするには、ヌワネリの中央起用による新たな一面をチームが見せる必要もあるだろう。それだけのことができる才能を持っていることは確かであり、キーマン2人とは違う形で貢献もしてくれるはずだ。

  • Arsenal v Olympique Lyonnais - Pre-Season FriendlyGetty Images Sport

    比較すべきではない

    おそらく、ルイス=スケリーがトップチーム昇格1年目で驚異的なシーズンを過ごしたことが、一部ファンが「なぜヌワネリがスタメンで自由にプレーできないのか」と疑問を持つキッカケになったのだろう。同じくヘイル・エンド出身の18歳は、2024年12月までプレーしてことがなかった左サイドバックで、いきなりリーグ最高レベルのパフォーマンスを見せてしまった。

    だが、ルイス=スケリーの場合はタイミングや特徴など様々な要素が今のアーセナルに完璧にフィットしただけであり、そんなことはそう簡単に起きるものではない。彼と比較して焦る気持ちを持つ人間もいるかもしれないが、比較するのはフェアではない。彼も本格的にトップチームでプレーしたシーズンは初めてであり、トッププロ選手としての生活にも適応しなければならない。それでも昨季見せた輝きは、アーセナルの将来を背負って立つほどの才能を感じさせた。サカやウーデゴール、そしてルイス=スケリーと比べるのではなく、ヌワネリはヌワネリとして成長を見守る必要があるのだ。

  • Ethan Nwaneri Arsenal 2025-26Getty Images

    “真のスターの素質”

    ヌワネリは今年3月に18歳になったばかり。トップレベルで20年近いキャリアを築くことだって可能だろう。当然「彼を見たい」という声は高まっているが、アルテタが語ったように、焦らず一歩ずつ階段を登っていく必要がある。“飛び級”は考えないほうがいい。そしてアーセナルがプレミアリーグ、チャンピオンズリーグ優勝を本格的に狙っていることを考えると、出番はやや限定的になる可能性があるのも確かだ。

    「最も重要なのは、彼をプッシュすること。そして彼自身が奏し始めたら、後ろから支えて安定させ、守ることが大事だ。この才能はプッシュしなければならないよ」、アルテタは語る。

    「守ることは必要だが、その羽根は折らないようにしないとね。未来がどうなるかは彼次第で、どれだけそれを望むかなんだ。今は強烈な野心を持っている。そして、適切な人たちに囲まれている。2~3年後の姿を見る水晶玉は持っていないが、私の予測は極めてポジティブだよ」

    ヌワネリも「僕は試合に影響を与える選手、コントロールできる選手、ゴールを決める選手になりたい。それが僕のプレーなんだ。でも守備やインサイドでのプレー、フィジカルなど改善すべき点も山ほどあるんだ」と、野心を語りつつも冷静に自身を見つめている。この冷静さと冷静な自己分析が“真のスターの素質”だ。彼にはそれが備わっており、だからこそ、焦る必要はまったくない。アルテタ、チームメイト、クラブの期待と信頼は厚い。ファンも一歩ずつスターに近づいていく彼を、忍耐強くサポートすることが必要だ。