WSL winners and losers Getty Images

エマ・ヘイズ監督のサクセスストーリーが完結! チェルシーが5連覇を成し遂げたFA女子スーパーリーグの勝者と敗者

今シーズンのFA女子スーパーリーグの最終節は、とてつもないドラマが起こる可能性があった。最終節を前に、チェルシーとマンチェスター・シティが勝ち点で並び、得失点差も僅差だった。だが、最終的にはドラマは起きず、ブルーズがマンチェスター・ユナイテッドを6対0で下して5連覇。エマ・ヘイズ監督はまたしても頂点に立ったのだった。

今月初め、無慈悲にもブリストル・シティに8対0で勝ったチェルシーにふさわしい、最後まで見事な戦いぶりだった。しかしながら、今シーズンはチェルシーだけが注目されたシーズンではなく、圧倒されるチームもあれば躍進を見せたチームもあった、実に面白いシーズンであった。

すべての決着がついた今、2023-24シーズンのWSLの勝者と敗者をまとめておこう。

  • Emma Hayes Chelsea Women 2023-24Getty

    勝者:エマ・ヘイズ監督

    今シーズン、チェルシーファンはイングランド・サッカー史上で17年前に1度だけ起こった夢を見ていた。それはエマ・ヘイズ監督が指揮を執る最後のシーズンに、前例のない4冠達成という希望。イングランドの女子サッカー界において弱小チームだったチェルシーに圧倒的な強さをもたらし、監督就任から12年間で15個ものタイトルを獲得した監督にふさわしい置き土産となるはずだった。

    ところが、ここ4週間の間に、ブルーズはコンチネンタル・カップの決勝で敗れ、FAカップは準決勝敗退、さらにチャンピオンズリーグも準決勝で負け、残すはWSLのタイトルだけとなってしまった。しかし、第20節でリヴァプールに4対3でまさかの敗戦を喫した時には、それすらも逃してしまうのではないかと思われた。ところがそこからマンチェスター・Cがホームでアーセナルに取りこぼし、チェルシーは息を吹き返したのだった。

    ヘイズ監督のチームは、見事にこのチャンスを掴んだ。第21節ブリストル・シティに8対0で勝利し、数時間前にマンチェスター・Cに並ばれた得失点差を広げることに成功。最後の2試合にも勝利し、チェルシーは5年連続のWSL制覇を果たしたのだった。

    名将との最後のシーズンをタイトルなしで終えていれば、悲しい別れとなっていただろう。タイトルがひとつしか取れなかったことは、確かに残念なシーズンであったと言える。しかし、5年前にはタイトルがひとつもとれなかったことを思えば、はるかに素晴らしい結果であり、ヘイズ監督は大逆転劇とともに勇退することになったのだった。

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  • Gareth Taylor 2023Getty

    敗者:ガレス・テイラー監督

    ヘイズ監督の物語の裏には、2020年の夏にマンチェスター・C女子の監督に就任したガレス・テイラー監督がいる。同年のFAカップを制し、2022年にはコンチネンタル・カップ優勝を果たしたにもかかわらず、テイラー監督は、しばしば才能ある選手たちを最大限に活用できていないと、周囲から批判されてきた。

    今シーズンのテイラー監督は、マンチェスター・Cを8年ぶりのWSL優勝に導くことで、周囲を黙らせようとしていた。チームを見事にまとめ、常に魅力的なサッカーを取り広げていた。キアラ・キーティングやジェス・パークといった若手を抜擢し、必要な時はイングランド代表のスターであるクロエ・ケリーを外してメアリー・ファウラーを起用するという、大胆な作戦を取ることもいとわなかった。

    しかしながら、シーズン最終節を前にアーセナル戦でホームでまさかの敗戦を喫したマンチェスター・Cは、最も大事な時期にタイトル争いの主導権をチェルシーに渡してしまった。2分間で2失点し、シーズンの行方を変えてしまったのである。テイラー監督は、これまで評価されていたよりもはるかに優れた監督であることを確かに証明し、その点において新規の3年契約は充分に妥当なものであった。しかし、今年、彼と彼のチームは大きな勲章を逃してしまった。

  • Hannah Hampton Chelsea Women 2023-24Getty

    勝者:ハンナ・ハンプトン

    シーズン中盤、チェルシーに移籍したハンナ・ハンプトンの決断が正しかったのかどうか、疑問に思われる時期があった。チェルシーで初めてプレーしたのは12月になってからで、GKのポジション争いが激しいチームで何試合出られるのか、不透明だったのだ。

    しかしながら、ひとたびチャンスを得ると、ハンプトンはそれをものにし、WSLリーグの後半戦では常に素晴らしいプレーを見せていた。チェルシーは今後10年、ハンプトンに守護神として長く活躍することを期待していることだろう。そしてそれは、彼女のイングランド代表としてのキャリアにもつながり、メアリー・アープスとライオネスの正GKの座を争うことになるだろう。

  • Khadija Shaw Man City Women 2023-24Getty

    敗者:カディジャ・ショー

    カディジャ・ショーにとって個人として成功することも意味のあることに違いないが、チームの成功をより重視していることは間違いなく、試合に出ることなくWSLのタイトルがマンチェスター・Cの手から滑り落ちていくのを見るのは、耐えがたいことだったろう。

    ジャマイカ代表のスターであるショーは、昨年、不運にも年間最優秀選手賞を逃した。2年連続でリーグで20得点以上をあげており、今シーズン終了後には多くの賞を受賞する可能性があった。しかしながら、足のケガで手術を受けたため18試合しか出られず、21得点どまりとなり、マンチェスター・Cの最後の3試合に出場することができなかった。

    アーセナルに負けた試合では、彼女の不在が特に響いた。決定的なチャンスでクロスに誰も合わせられなかった場面が何度もあり、結果的にマンチェスター・Cはまさかの大逆転負けを喫して、チェルシーにタイトル争いの主導権を渡してしまった。この試合、マンチェスター・Cのゲームマネージメントや守備も敗戦の要因ではあったが、ショーのケガがなかったらマンチェスター・Cが優勝していたかもしれないというのは、決して大袈裟な話ではない。優勝を目指すチームに貢献できなかったことは彼女にとって大きなダメージとなるだろう。

  • Liverpool Women 2023-24Getty

    勝者:リヴァプール

    今シーズンはリヴァプールにとって本当に素晴らしいシーズンだった。レッズは昨年、WSLに返り咲いて7位を確保し、夏の移籍市場では、チーム強化に向けて見事な立ち回りを見せた。結果、リーグで上位争いができるチームを作りあげることに成功し、最終的に4位となった。

    チェルシー、アーセナル、マンチェスター・ユナイテッドに勝ったことは、確実に成長したシーズンを象徴する勝利であり、マット・ビアード監督は、このチームが今後も大いに前進していけると確信している。「我々のチームはポジション争いが激しい。黙っていても試合に出られる選手などいない」と、今月初め、成功の秘訣について問われたビアード監督は言った。「それに加えて、私にとって最大の驚きは、負けた時の対処方法だ。負けた時は常に、試合を振り返って、走ってきた。今年はたくさんのことを学んだ。だから来季が楽しみでならない」

    来シーズンも今シーズンのようにできれば、トップ3に駆けあがり、チャンピオンズリーグ出場権を獲得できると言う人もいる。だが、それはそう簡単に実現できることではない。いずれリヴァプールはそれを目標とするだろうが、今のところ、リヴァプールはリーグで対戦したくないチームとなっており、それは称賛に値することである。

  • Mary Earps Man Utd Women 2023-24Getty

    敗者:マンチェスター・U

    1年前、マンチェスター・ユナイテッドは最終節までチェルシーとタイトル争いを演じ、初めてFAカップの決勝にも進出。チャンピオンズリーグ出場権も初めて獲得した。数年かけて着実に成長し、WSLのエリートチームに真の仲間入りを果たしたと思われた。

    今シーズンはFAカップで優勝したものの、赤い悪魔にとってリーグ戦はまったく不本意なものになってしまった。マーク・スキナー監督のチームは「ビッグ・フォー」以外のチームから多くの勝ち点を落とし、クリスマス前にタイトル争いから事実上脱落。2月中旬には、チャンピオンズリーグからの敗退も決定した。最終的な5位という順位はマンチェスター・Uとしては最低で、オールド・トラッフォードでチェルシーに6対0で大敗するというリーグ戦の終わり方は、理想からかけ離れたものであった。

    それでも、スキナー監督はクラブと新たな契約を交わした。このチームにふさわしい監督であることは証明し、その最たる例としてFAカップでチェルシーを破って優勝したことがあげられる。ただ、マンチェスター・Uが女子サッカーの強豪となるには、これだけで終わるわけにはいかない。コンスタントにより良いチームになっていくことが必要である。

  • Robert Vilahamn 2023Getty

    勝者:ロバート・ヴィラハムン監督

    ロバート・ヴィラハムン監督は、トッテナムの監督に就任した今季多くの賞賛を得たが、それは当然のことだった。クリスマス前にはいくつか心配になる試合もあった――マンチェスター・Cに7対0で大敗した後、マンチェスター・Uに4対0で負けて連敗――、それでもヴィラハムン監督は自身のビジョンを信じ、何よりも大事なことに選手たちを信じた。赤い悪魔に敗れた1週間後、スパーズは女子リーグで初めてアーセナルに勝った。

    シーズン後半、チームは快進撃を見せ、1月には素晴らしい成績をあげた。初めてFAカップの決勝に進出し、WSLでは最後の12試合で4敗しかせず、6位でフィニッシュ。スパーズの関係者はみな、自分たちの未来に大いなる希望を抱いていることだろう。とりわけヴィラハムン監督は、これから数年間は監督を続けたていきたいと口にしている。スウェーデン出身の監督は、明確な方針が見えないチームだったスパーズをまったく一新させた。今のスパーズには、明らかな伸びしろもある。

  • Maisie Symonds Elisabeth Terland Brighton Women 2023-24Getty

    敗者:ブライトン

    ブライトンは女子サッカー界で多くの素晴らしいことを見せた。多額の設備投資を行い、偉大な選手たちを加入させ、大きな成果をあげられることを示してきたのだ。今シーズンは、ホームのマンチェスター・ユナイテッド戦で後半アディショナルタイムに同点に追いつかれて勝利を逃したものの、アウェイのマンチェスター・C戦には勝利した。しかしながら、毎年、上下を繰り返す順位表で上位を目指したいと思うなら、ここからチームを前進させるために適切なコーチを見つけなければならない。

    昨シーズン、ブライトンは、2度エイミー・メリックズを暫定監督に挟みながら、正規の監督を3人も迎えた。今シーズンは同じことは繰り返さなかったものの大した成果はあげられず、今度はマイキー・ハリスを暫定監督に据えたまま、リーグ戦の終了を迎えたのだった。

    これは2月にメリッサ・フィリップス監督を解任した影響もあり、この決定は早急だったと言わざるをえない。ブライトンのテクニカル・ディレクターであるデヴィッド・ウィアーは、投資に見合う成果が出ていないことを指摘して、こう言った。「これは軽々しく下された結果ではなく、我々が望む成長に必要だと思ったから行ったものだ。我々は今シーズンに向けて、女子チームとインフラ整備に多額の投資をしたが、その投資額を考えると、結果とパフォーマンスは我々が期待したレベルに届いていない」。

    ブライトンは適切な監督を探す必要があるが、忍耐も必要である。成長には時間がかかるものであり、監督が頻繁に代わっているようでは達成できない。完璧な候補者を探し続けるブライトンにとって、この夏は重要な夏となるだろう。

  • Elisabeth Terland Brighton Women 2023-24Getty

    勝者:エリザベート・ターランド

    ブライトンはチームとしての成績は振るわなかったものの、今シーズン称賛に値する選手がひとりいる。それがエリザベート・ターランだ。今シーズンのWSLでショーに次ぐ得点をあげているが、2人が所属するチームは正反対の結果となった。ショーのマンチェスター・Cは勝ち点55、得点数61で2位となったが、ターランドのブライトンは、勝ち点わずか19、得点はたったの26で9位であった。

    そのうちターランドの得点は13で、苦戦したチームの中では素晴らしい結果である。これがまぐれでないことは、WSLデビューだった昨シーズンにも17試合で7得点もあげたことからもわかる。22歳のターランドには伸びしろしかなく、契約満了となるこの夏には、彼女の努力に見合う大きな移籍のチャンスが訪れることだろう。

  • Jonas Eidevall 2023Getty

    敗者:ジョナス・アイドヴァル監督

    アーセナルのジョナス・アイドヴァル監督は、今シーズン、コンチネンタル・カップを制してチームにタイトルをもたらしたものの、WSLリーグでは大きな成果をあげられなかった。ガナーズは優勝争いに最後まで絡み続けることができず、残念なことにチャンピオンズリーグも第1ラウンドで敗退してしまった。

    その原因はいくつかある。特に複数のスター選手をケガで欠いたシーズンであったことは事実だ。しかしながら、今年のアーセナルが、チェルシー、マンチェスター・C、マンチェスター・ユナイテッドに敗れながら、優勝チームと勝ち点差が5だったことは、フラストレーションの溜まる事実である。

    「ビッグ・フォー」以外のチーム相手に勝ち点を取りこぼしたことがガナーズの今シーズン最大の失敗であったが、ホームでリヴァプールに1対0で敗れた最初の週末から明らかだったにもかかわらず、アイドヴァル監督には改善することが出来なかった。

    アイドヴァル監督は、アレッシア・ルッソの加入に熱心だったにもかかわらず、彼女をどう使えばベストなのかを未だにわかっておらず、この点に関しては懸念とまでは言わないまでも少々驚きである。フィフィアネ・ミデマーの退団は、来シーズンのチームの成長におけるアイドヴァル監督へのプレッシャーをさらに高めるばかりだ。