Luis Enrique Mbappe Neymar GFXGetty/GOAL

PSGでルイス・エンリケ新監督に立ちはだかる「8つの大問題」

そう、やっとすべてが決まった。4回目の求人でやっとパリ・サンジェルマン(PSG)の監督が決定したのだ。パルク・デ・プランスの扉を通って喝采を浴びる監督たちのリストに、次に名前が載るのはルイス・エンリケである。リーグ・アン現王者を率いるために2年契約を交わしたのだ。彼には完璧な履歴書がある。バルセロナで三冠を達成し、ユーロ2020では傷だらけのスペイン代表を不運な準決勝敗退にまで導いた。

これまでの多くの監督と同じく、ルイス・エンリケは心配事や注意すべきことが散見されるPSGを率いることになる。静かに大きな入れ替わりが起きているチームなのだ。すでにリオネル・メッシとセルヒオ・ラモスはチームを去り、キリアン・エンバペとネイマールも出ていくかもしれない。さらに、センターバックのプレスネル・キンペンベまでもが今季絶望という事態に陥っている。

加えて、ファンはイライラを募らせ、フットボール・ディレクターのカンポスやかろうじて体裁を保っているチームを罵倒している。元バルサ指揮官は必ずしも魅力的な仕事を引き継ぐわけではないということだ。PSGがまず声をかけたユリアン・ナーゲルスマンが引き受けなかったのにも、理由がある。本来は引く手数多のはずのPSG指揮官の座は、誰もがやりたがる仕事ではない。

だが、ルイス・エンリケがPSGで何かをやり遂げてくれると信じられる理由もある。彼は、更衣室でスター選手たちとうまくやれる素晴らしい個性をもったベテラン監督だ。彼の戦術には柔軟性があり、若い選手たちを育てることにも定評がある。これらは、非常に難しい任務が課される仕事にうってつけの才能だ。

もちろん、だからといって簡単な仕事ではない。エンリケには直ちに取り掛からなければならない現実的な問題がある。PSGの新監督が今後数週間、数カ月間で対処すべき重大な問題を見てみよう。

  • Messi Mbappe NeymarGetty

    フォーメーション選び

    過去2シーズン、PSGの多くのフォーメーションはメッシやネイマール、エンバペが守備をしないためにやむを得ず敷いた布陣だった。あの3人は世界最高の攻撃の選手であり、無駄なエネルギーを使わせることは不合理であり、ある程度は意味のあるものだ。

    だが、そのために他の7人のフィールドプレーヤーたちは、被害を最小限に抑えるために無理なプレーを強いられてきた。そのため、クリストフ・ガルティエ前監督とマウリシオ・ポチェッティーノ元監督は、しばしば中央に3人のディフェンダーを配してその前にハードワークのできるミッドフィルダーを置いていた。

    だが、ルイス・エンリケ新監督がメッシの欠点を補う策を取る必要はなく、エンバペやネイマールのことを気にする必要もなくなるかもしれない。そのおかげで、PSGで柔軟な戦術を採用できる貴重なチャンスが訪れることだろう。

    新監督は、輝かしい才能ある若手を含む興味深い選手たちと出会うことができる。これまで指揮してきたチームでは、多様な作戦を実行させることができた。バルセロナでは「MSN」を率いて輝かしい戦績を収め、スペイン代表ではポゼッション率を高くして相手を抑えつけた。

    PSGは今こそ新しい時代、ルイス・エンリケの新たなスタイルに入ろうとしている。おそらく彼には、すべてを解決するための自由が与えられるだろう。

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  • Neymar Luis Enrique Sevilla Barcelona La Liga 11042015Getty Images

    ネイマールの復活

    31歳のネイマールが、足首のケガから復帰してからPSGに何をもたらすかはまだわからない。ネイマールは調子の良い時は依然としてワールドクラスの選手であり、ゴールにせよアシストにせよ活躍することは間違いない。リーグ・アンのような他に競合するチームのないリーグの試合では特にだ。

    だが、ネイマールをどう起用するかは、ルイス・エンリケの思案のしどころではある。ここ数年、ネイマールは攻撃的ミッドフィルダーのようなプレーをしている。ピッチ内を動き回ってドリブルやパス、シュートを繰り出し、大いに試合を面白くしていた。それが常にチームの勝利に導くわけではなかったが、観客を楽しませていたことは間違いない。

    だが、監督は勝つために試合をする。ルイス・エンリケは以前にもネイマールを指導していた。2人はエンリケが初めてバルセロナの監督だったときこそ良い関係を築いていたが、すぐに仲違いするようになった。ネイマールはバルサのスーパースターの座を独占するチャンスをつかむ前に、PSGに逃げこんだ。

    2人の関係を再構築し再定義する必要があることは間違いない。最近のPSGの体たらくをもたらした残念なビッグ・スリーのうち、ネイマールがPSGに残る唯一の選手となった場合は特に。その場合、おそらくは良い結果がもたらされるだろう。ネイマールは権力争いを好まないが、簡単にチームに馴染めるタイプでもない。手術明けのネイマールは、バルセロナでのエンリケ下でまったくそうでなかった紛れもないスターとなる準備ができているだろう。いずれにせよ、エンリケはネイマールの安心ならない足から最大の効果を引き出す必要があるだろう。

  • Luis Enrique SelecciónGetty Images

    ファンの再獲得

    PSGのウルトラスは抑制が効くことで有名というわけではない。オーナーに関する請願を繰り返し発表し、昨年は選手とスタッフに対しても攻撃するようになった。リーグ終盤にはメッシにまでブーイングを浴びせ、サッカー界全体から批判されたのだった。

    ウルトラスは、パリにルーツをもつ選手を進んで重用するフランス人指揮官を望んでいる。フランスの首都近郊で、才能ある選手を生みだすことで知られる地域出身の超一流の選手たちが、PSGのユニフォームを着るところを見たいのだ。

    リーグ・アンでプレーしたことも監督をしたことがなく、スペイン生まれで元スペイン代表であるルイス・エンリケにとって、難しい仕事となる。彼の経歴は申し分ないし、パリ市民の注目を浴びるようなことを必ず成し遂げるだろうが、ファンが欲するタイプの監督ではないのだ。

    おそらくこの問題を解決するには成功するしかないだろうが、パルク・デ・プランス界隈でブーイングの嵐が降りはじめる前に、エンリケが動ける余地はそう多くないだろう。

  • Vitinha et Marco Verratti lors de la rencontre face à Brest le 10 septembre.FRANCK FIFE/AFP via Getty Images

    中盤の有効活用

    PSGの中盤の構成はまったくナンセンスだ。興味深いオプションは色々とあるものの、トップクラスなのは衰えはじめていることを否定できないマルコ・ヴェッラッティのみである。将来性豊かなマヌエル・ウガルテと契約し、創造性あふれるイ・ガンインも獲得して、中盤を活性化させる努力はしているものの、2人ともルイス・エンリケのポゼッション重視のスタイルに合う選手には見えない。

    むしろエンリケは、中盤に合わない選手たちの間でバランスを取らざるを得ないだろう。ウガルテとヴェッラッティの先発は確実だろうが、システムのバランスを取るために誰を3番目、4番目に選ぶかは簡単なことではない。

    おそらくさらなる選手獲得がありそうだ。ベルナルド・シウヴァも移籍が取りざたされる選手の一人だ。ただつい数か月前、ルイス・エンリケが自在に操っていたのはガビ、ペドリ、チアゴ・アルカンタラ、ロドリといった選手だ。PSGの中盤にそれほどの才能をもった選手はおらず、手を打つ必要があるのは間違いないだろう。

  • Warren Zaire-Emery PSG 2022-23Getty Images

    若手の出場機会確保

    PSGには、エンリケが起用できる才能豊かな選手たちも確かにいる。ワレン・ザイール=エメリの出現は、陰気な2022-23年シーズンの中でPSGにとって本当に数少ない明るい話題のひとつだった。この17歳はリーグ・アンで26試合に出場したが、長距離を走れるチーム最高のミッドフィルダーであることは間違いない。プロとしてまだ1,000分強しかプレーしていない選手に全幅の信頼を置くのは明らかに危険だが、それでも彼の年齢で彼以上に活躍できる選手はサッカー界にいない。

    そして、エンリケが自由にできる将来性豊かな若手は他にもいる。エル・シャダイル・ビチャブはセンターバックとしてとてつもない可能性を秘めているし、イスマエル・ガルビはトップクラスの攻撃的ミッドフィルダーになれる素質をすべてもっている。さらに、21歳のユーゴ・エキティケは、正しく導いてくれる監督のもとで成長できるだろう。

    彼らは、PSGのファンがピッチでプレーするところを見たいと思っているタイプの選手たちだ。さらに、ルイス・エンリケはガビがバルサのトップチームで二桁得点をあげる前にスペイン代表でデビューさせたことがあり、PSGの若手の成長を手助けできる監督になれるだろう。

  • PSG Luis Campos Kylian MbappéGetty Images

    カンポスを巡る騒動

    PSGの誰がクラブ内でのスタッフの階層を理解しているのだろうか。フットボール・アドバイザーのルイス・カンポスは、リールで大成功を収めたときに一緒に仕事をしていたガルティエ前監督とセットでPSGでやってきたと思われていた。そのガルティエ前監督が出て行ったとき、当然カンポスも一緒に出ていくだろうと思われていたのだ。ところがカンポスはPSGにとどまり、どういう選手をリクルートすべきかわからないまま、PSGの夏の移籍活動の中核となる部分を引き継いだのだった。

    だが、これは始まりにすぎない。カンポスは一緒に仕事をするには難しい性格であることで有名で、このことはガルティエ前監督の任期終盤にしばしば見受けられていた。このフットボール・アドバイザーは記者会見で繰り返し監督を批判し、モナコにバツの悪い負け方をした試合のハーフタイムでは、何度も更衣室に乱入してチームを罵倒した。

    ルイス・エンリケは、カンポスを黙らせる方法を見つけなければならないだろう。少なくともしかるべき時以外は話さないようにする方法を。カンポスは選手を見分ける力に優れ、抜け目なく選手を獲得してくる。現在のPSGを再建するのに最も必要な人物であることは間違いない。だが、チームを指揮する監督と同じ見識をもつ必要がある。

  • Marco Asensio PSG 2023-24Getty Images

    新戦力との相性

    では、カンポスが公式な許可なく連れてきて、すでに加入した選手たちをどうすべきなのか。才能ある選手たちがいるのも事実だ。ウガルテは高く評価されている選手だし、マルコ・アセンシオをフリーで、リュカ・エルナンデスを比較的手ごろな5,000万ユーロ(約78億円)で獲得したのは、賢い取引だった。だが、ルイス・エンリケは第4候補の監督だった。トーマス・トゥヘルとユリアン・ナーゲルスマンも監督候補だったため、カンポスが初めからエンリケのためのチームを作ろうとしていたわけでないのは明確だ。

    とはいえ、新監督には新加入選手を管理する責任がある。これらの選手の加入には反対が起こりにくく、どちらかと言えばチームの役に立つ移籍だ。アセンシオは頼れるウイングで、ウガルテはハードワークのできるミッドフィルダー、エルナンデスとミラン・シュクリニアルも頼れるセンターバックだ。この4人に懸念はなく、ヨーロッパのトップチームにすんなりと適応できるだろう。

    それでも、ルイス・エンリケの頭の中では自分なりの選手の名前が数人、浮かんでいるかもしれない。どんな監督も新しい選手を受け入れなければならないものだが、通常そのほとんどが前任者の契約した選手だ。無制限の力をもったフットボール・ディレクターではなく。

  • 20230619_Mbappe(C)Getty images

    エンバペの扱い方(残留した場合)

    エンバペが決意を固めるまで、PSGの抱えるすべての問題を超越する事項がある。今後1年以内にフランス王者のもとを去るだろうことは、エンバペ自身が明言している。今エンバペを売るのか、今シーズン終了後にただで行かせるのか、クラブは決断を迫られている。

    PSGにとってはどちらも良い話ではない。この件に関する責任はエンリケにはないが、その後の無残な結果に対処しなければならないのは間違いなくエンリケだ。

    もしエンバペがもう1シーズンいるなら(その可能性はまだあるが…)、監督にはこのフランス代表キャプテンが気持ちよくプレーできるシステムを生みだすことが期待されるだろう。そして、それは簡単なことではない。

    エンバペはワールドクラスの選手で、どんな状況からでも多くのゴールを生むことができる。だが、贅沢な話ではあるが、エンバペがいるチームはシステム変更を余儀なくされ、勝つのが当たり前と思われることになる。

    そこはルイス・エンリケが得意とするところだが、必ず出ていく現役のスターをなだめながら、いなくなった後の準備もすることになるのかどうかは、まだわからない。