このページにはアフィリエイト リンクが含まれています。提供されたリンクを通じて購入すると、手数料が発生する場合があります。
Beckham Inter Miami GFXGOAL

デビッド・ベッカムのインテル・マイアミ革命。リオネル・メッシをMLSに呼んだ男

ここ3年の夢や希望や噂の果てに、ついにケリをつけたのはデビッド・ベッカムだった。メジャーリーグサッカーを現在の姿にしたベッカムが、今度はこのリーグを昇華させようとしている。そう、ベッカムはついに、リオネル・メッシをMLSに加入させたのだ。

真実を言えば、ベッカムはそのインテル・マイアミ計画でもって、それをやり遂げられる唯一の人物であった。他のアメリカのクラブでは成し遂げられなかっただろう。マイアミはスター性、文化、魅力、派手さ、立地条件、そしてもちろんお金をすべて完璧に提供できる。そうでなければ、この移籍が実現することはなかった。

この成功を確実にした人物としてまず名前があがるのはベッカムだろうが決して彼ひとりの手柄ではない。共同オーナーであるマス兄弟も奔走した。リーグとしてのMLSも、一線を越えて取引を成功させるためにしなければならないことをした。アップルとアディダスのアシストもあった。そして何より、マイアミと代理人によればアメリカサッカーが、挑戦に値する夢のある場所だと思わせたのはメッシの功績である。

だが、メッシの大飛躍はベッカムなしでは決して実現しなかった。アルゼンチンの天才が物事を進ませるのにかつてのベッカムよりは安全な賭けだったとしても、メッシが歩く道をならしたのはイングランドのヒーローであった。

この革命はベッカムから始まった。現役の最晩年にロサンゼルスから、自身がオーナーで今や世界の舞台の正当なプレーヤーとなったクラブに移籍した時に。

  • David Beckham LA GalaxyGet

    ベッカムの大飛躍

    今となっては昔のことに思えるが、スーパースターたちがMLSに来たのはすべてベッカム以降の数年間に集中している。ティエリ・アンリ、スティーブン・ジェラード、ダビド・ビジャ、ズラタン・イブラヒモヴィッチ、カカ。ここ最近スター選手たちが北アメリカ大陸にやってきていて、そこに今、メッシが加わったのだ。最もビッグで最新の加入である。

    2007年7月、ベッカムはLAギャラクシーと5年契約を交わし、NASLにいたペレ以来の北アメリカ大陸に渡った最もビッグな選手となった。この移籍はMLSへの興味を巻き起こし、国中のスタジアムのチケットが完売。アメリカの人々はレアル・マドリーやマンチェスター・ユナイテッドでスターだったベッカムを一目みようと躍起になった。

    ベッカムが加入しやすいように大幅にルールが変更され、特別指定選手制度が導入されてその後の有名選手たちとの契約につながった。だが、ベッカムは最初にして間違いなく最大のスターであり、ベッカムのおかげで1996年のリーグ創設以来初めてアメリカのサッカーが世界的に注目されたのであった。

    「私が合衆国に来たところでサッカーがアメリカで最大のスポーツになるとは思っていない」とかつてベッカムは言った。

    「そんなことを実現するのは難しいだろう。アメリカでは野球やバスケットボール、アメリカンフットボールが盛んだ。だけど、自分が何かを成し遂げられると思わなかったら、こんなことはしなかっただろう」

    アメリカ以外の世界は初めてMLSを知り、おそらく見るのも初めてだったろう。それ以降、ベッカムモデルがスタンダードとなり、いくつものチームが現役の最晩年を迎えたビッグなスターとの契約を争うようになった。その後、MLSはそのモデルを離れて、それまでよりも年齢の若い選手と契約するようになった。だが、すべてを始め、MLSをサッカー界の地図に載せることに大きく貢献したのがベッカムであることは間違いない。

  • 広告
  • David Beckham Miami MLS 29012018Getty Images

    大きな条項

    MLSがベッカムをロサンゼルスに呼んだことは天地を揺るがせ、この元イングランド代表のミッドフィルダーを受け入れられるよう、リーグの構造そのものが変わった。だが、MLSがベッカムに提供した最も重要なことは、契約の中にある条項を入れたことだった。それは最終的にインテル・マイアミの成立にかかわることだった。

    2007年にギャラクシーと契約を交わした際、ベッカムはたった2,500万ドル(約35億円)で将来リーグに新規加入するチーム(拡張チーム)を購入できるオプションを与えられた。そして2014年、ベッカムはこれを行使すると発表した。当時、インテル・マイアミとなったチームが大成功し、拡張チームで数10億ドル(数千億円)を稼げるようになっていた。悪い取引ではなかったと言ってよいだろう。

    だが、なぜマイアミなのか? リーグにとって、明らかに魅力的だった。かつてマイアミ・フュージョンで失敗して以来、もう一度フロリダ州南部のマイアミで、今度はうまくやりたいという希望があった。多種多様な文化のあるマイアミは大きく重要で、アメリカのサッカーの中心とならないはずがなかった。

    そして、ベッカムにとっても明らかに魅力的だった。マイアミはニューヨークやロサンゼルスと並ぶ、グローバルな舞台で競うことのできる都市だ。ずいぶん前から、ヨーロッパの多くのトップスターがバカンスを楽しむ街となっており、ベッカムのクラブは今や毎年夏に最も熱いチケット争奪戦が起こるチームとなっている。マイアミはベッカムのようにピッチを離れても常にピッチ上の技術に匹敵するステータスを持ち合わせている選手にとって完璧な街だったのだ。

    もともとベッカムは2017年にグループに参加した、マイアミを本拠に活躍するビジネスマンのマルセロ・クラウレや孫正義、ホルヘとホセのマス兄弟と一緒に仕事をしていた。クラブは2020年にMLSにデビューし、現在はDRV PNKスタジアムという名前で知られるスタジアムで試合を始めた。2025年には新設のマイアミ・フリーダム・パークのスタジアムに移行する予定になっている。

    2021年、ベッカムとマス兄弟はクラウレと孫がもつ株を買った。チームが現在そうであるように、ベッカムはまさにオーナーグループの顔でありつづけ、新型コロナウイルスの世界的流行で2020年のほとんどを棒に振った後、チームでの活動により積極的にかかわっている。だが、マス兄弟は日々さらに深くチームにかかわっており、今回のメッシの件でも主要人物であることは間違いない。

  • Gonzalo Higuain Lionel Messi Miami 2022Twitter

    何年もかけて築きあげられた関係

    インテル・マイアミの計画が2018年に具体的になったとき、MLSはベッカムの仕事がうまくいったことを祝う、世界最大のスターたちの動画制作を依頼した。その動画にはどんなスターたちが参加しただろうか? メッシは、短いが重要なメッセージを将来のボスに捧げている。

    「まず、おめでとうございます」と、メッシは動画で語った。

    「この新しいプロジェクト、あなたにとって新しい役割において、あなたが全力を尽くされることを望んでいました。ひょっとしたら、たぶん数年後、あなたは私にリングをくれることができるでしょう」

    このメッセージは、双方をつなぐ1年にわたる計画の始まりにすぎなかった。この短い動画から5年後、ベッカムとその仲間たちはスーパースターたち、とりわけクラブが常に最も欲しがっていたメッシについて次々と浴びせられる質問に答えつづけている。

    昨年、ホルヘ・マスはマイアミ・ヘラルドで確信をもってこう言った。

    「レオ・メッシは今でも世界最高の選手のひとりだ。彼の技術は衰えていない。デビッドは彼と親しいから、もし彼がパリ・サンジェルマンを去るなら、その時にはリオネル・メッシがインテル・マイアミでプレーして私たちの仲間となるところを見たいと思う。実現するかって? そうだね、私は推し進めるよ。私は根っからの楽天家だ。そんなことができるかって? 可能性はあるよ」

    一方のメッシは、いつかアメリカでプレーしたいという希望を隠したことはなかった。「いつも言っているけど、アメリカに住むという経験を楽しみたいと思っているよ。アメリカのリーグに参加して生活したい」と、2020年にラ・セクスタで語っている。

    PSGとの契約が終わりつつあり、ここ数年の噂がとうとう本物になった。マス兄弟とベッカムはこの契約の締結に関して重要な役割を果たしたのだった。

  •  David Beckham and Jorge Mas MiamiGetty

    マイアミの大きな後押し

    数年前から噂があった一方、事態が本格的に動きだしたのは2022年のカタールでのワールドカップからであった。メッシがアルゼンチンを栄光に導いている間に、ホルヘ・マスがこのスーパースターの関係者と日常的に会って移籍に向けての地盤を固めていたのである。

    マスがメッシの関係者と会ったのはその時が初めてではない。以前、メッシがバルセロナを去ったとき、契約を取り付けようとしたことがあった。だが、メッシの希望はヨーロッパでプレーすることであり、結局PSGに移籍した。マイアミは拒否されたのではなく後れを取ったのだ。だから関係はつづいていた。

    メッシとPSGの契約が終わりを迎えつつある中、メッシには選択肢があることが明らかになった。バルセロナもそのひとつで、自分が名を成したクラブに帰りたいというおとぎ話だ。もうひとつはサウジアラビア。経済的には間違いなく一番よい選択肢である。それからマイアミ。ピッチの外は快適で、ピッチ上では競争があるという独特なふたつの利点が混在しており、もちろん資金もたくさんある。

    4月、ベッカムはPSGの練習グラウンドを訪問して、メッシとパリにいるところを写真に撮られた。知ってのとおり、ベッカムの現役最後のクラブはPSGで、その写真は単なる偶然だと書いたものが多かった。だが後に判明したとおり、それは事が起こる前触れだったのだ。

    FOXスポーツによると、インテル・マイアミとMLSは最後にメッシの決断に振り回された。それが可能であることはわかっていたが、すべてを明かしたのはメッシ自身であり、契約が正式に同意される前に自身の意思を表明したのだ。

    だが、たとえメッシが正式にMLSとの契約にサインをしていない時点であったとしても関係者はみな、メッシの加入が約束されたことですでに利益を得ていた。もちろんベッカムもそのひとりである。

  • David Beckham 2022Getty Images

    資産額上昇

    2月、フォーブス誌はMLSの全チームの年次評価を発表した。初めてMLSカップを制したロサンゼルスFCが、アメリカのクラブで初めて10億ドル(約1400億円)を超える資産価値を有するクラブとなった。一方、インテル・マイアミは約6億ドル(約850億円)で、リーグ11位だった。

    メッシが来ることになった今、全関係者の価値が上がっている。MLSとその全クラブ、アップルTV。全部、1週間前より上がっている。インテル・マイアミ以上に利益を得た法人はなく、サッカー界最大のスター選手を獲得した今、10億ドル(約1400億円)近い額になったことは間違いない。

    インテル・マイアミのSNSのフォロワーは数百万人を超え、アメリカのスポーツクラブで最多を誇るクラブのひとつとなった。リーグのチケット代は2倍、3倍、4倍となっている。当の本人はまだ到着していないというのに、メッシ効果は本当に本当の現実なのだ。

    一方、誰よりも利益を得たのはベッカムだ。LAギャラクシーの移籍に賭けて、2,500万ドル(約35億円)の参加料を払ったが、今やその40倍以上の価値となっているようだ。ベッカムは大変な選手だったが、それ以上に優れたビジネスマンであり、今回のメッシの契約で投資対効果が急騰していることは間違いない。

  • David Beckham Inter MiamiGetty Images

    次に来るのは誰か

    インテル・マイアミが創設されたとき、MLSを新時代に導くのに役立つクラブだと期待された。最初の数年では、ピッチ内外でそう簡単に事は運ばなかった。クラブは結果を出すことに苦闘し、ピッチ外では選手の登録に関する違反で罰を受け、ピッチ上での成功はますます難しくさえなった。

    だが、今はメッシがいる。しかもこれは始まりに過ぎない。メッシ、ベッカム、マイアミという組み合わせは、たとえMLSのルールではクラブがやりたい放題やることを禁止していたとしても、世界中の選手たちにとって魅力的であることは間違いない。ルイス・スアレス、ネイマール、アントワーヌ・グリーズマン、セルヒオ・ブスケツ、ジョルディ・アルバ、アンヘル・ディ・マリア……多くのビッグネームがすでに取りざたされている。しかもこれは始まりでしかない。

    メッシの加入で世界的なクラブとしてのマイアミの立ち位置は盤石になった。MLSに真の国際的なクラブを作りたいというベッカムの夢にも役立つ。2007年にあの契約を交わしたときから思えば、今はまさにベッカムが夢見ていた瞬間である。これは確固たる目標であった。世界最高の選手たちを自分のクラブに誘い、イメージどおりに長くつづくものを作りあげるのだ。

    これが始まりでしかないことをベッカムは望んでいる。出発点としてメッシを利用するのは目的であって最終結果ではない。ベッカムのクラブは以前にまして妥当なものだが、メッシ後の数年後にこの挑戦は世界の景色を変えたものとして生きつづけているだろう。

    とにかく、ベッカムは少なくとも今のところ望むものを手に入れた。メッシは自身が出現する前のベッカム同様、試合の流れを変えることができる。ベッカムがアメリカサッカーを根底から揺さぶるのはこれが人生で2度目だ。