Pulisic Dortmund form GFXGOAL

クリスティアン・プリシッチ、ミランでポテンシャル開花へ

放蕩息子が帰ってきた。少なくとも放蕩息子のひとりが。ここ数年、ボルシア・ドルトムントにはおそらく他のクラブよりずっと多く、非常にたくさんの放蕩息子がいた。アーリング・ハーランド、ウスマン・デンベレ、ジュード・ベリンガム、ジェイドン・サンチョ……ざっと見ただけでもこれだけいる。

だが、今回はクリスティアン・プリシッチについて話そう。かつてはボルシア・ドルトムントの希望の星だったが、今はミランの中心選手だ。クラブを去ってから4年ぶりに、プリシッチはジグナル・イドゥナ・パルクのピッチに立つ。

4年前の移籍先はチェルシーだったが、そこでの生活はジェットコースターだった。チャンピオンズリーグのトロフィーを掲げたかと思えば、数えきれないほどプロとしてのキャリアが止まっては始まるを繰り返した。トロフィーは獲得しつつも、プリシッチのチェルシーでのキャリアは皆が期待していたようには決してうまくいかなかった。

そして、そこから今がつながっている。ミランのスターとなったプリシッチは、数年前ドルトムントを去った時に多くの人が予想していた選手のようになりつつある。

  • 2017-07-30 Pulisic DortmundGetty Images

    やってきた少年

    信じられないことに、プリシッチが初めてボルシア・ドルトムントと契約を交わしたのはほぼ9年前のことである。時間の経つのは本当に速いものだ。

    9年前とは多くのことが変わったが、それこそが16歳で初めてドイツに来たときのプリシッチの目標そのものであった。彼の目標はアメリカのサッカー界にいれば進んだであろう典型的な道を進むことではなく、新たな道を切り開き、アメリカ男子代表の新しい顔になることだったのだ。

    この道はドルトムントで始まり、ある意味多くの人が予想できたより速く進んだ。移籍して1年足らずでプリシッチはトップチームに昇格し、ブンデスリーガの冬の中断後にデビューを果たしたのである。それから決して後戻りすることなく、翌年からはドルトムントのレギュラーのようになっていった。

    その道筋はすべて知られている。127試合に出場して19得点と、後にはDFBポカールを制した。プリシッチは、ドイツ最大のクラブのひとつで自分の実力を証明したのだ。アメリカ代表のスターとしても活躍するようになり、2018年ワールドカップには出場できなかったが、不死鳥のようによみがえり、2022年には新世代のリーダーとしての地位を確立した。

    だが2019年1月、プリシッチの移籍が本決まりとなり、その夏には記録破りの5,800万ポンド(約104億円)の移籍金でチェルシーに加入することに同意した。

    これにより、彼は史上最高額のアメリカ出身選手となり、ドルトムントではデンベレに次ぐ歴代2位の金額だった。

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  • Christian Pulisic Chelsea 2022-23Getty Images

    チェルシーへの移籍

    プリシッチのチェルシーでの生活とブルーズのここ数年を総じて一言で言い表すならば、「続かない」ということになるだろう。

    もちろん、特に当初はうまくいっていた。エデン・アザールの代わりに加入したプリシッチは、特に2020-21シーズンのチャンピオンズリーグをチームが勝ち進む中で、代わりが務まる可能性を垣間見せていた。だが、ここであの言葉が出てくる。そう、「続かない」という言葉だ。

    プリシッチは決してレギュラーとしてピッチに立つことができず、結局、他の攻撃的選手との巨額の契約が立て続けに起こる中で埋没していった。実際にはケガや経営陣の変更、チェルシーの全体的なカオスなどのせいで、プリシッチが重要な試合に安定的に出られる時期はなかったのだった。

    結局のところ、関係者はすべて先に進むこととなった。チェルシーは新しいストライカー獲得に大金をつぎ込み、この傾向に終わりはないようだ。一方、プリシッチに新しいスタートが必要なことは明らかだった。

    そこで4シーズン後、26得点と3つのタイトルを手に、プリシッチはスタンフォード・ブリッジに別れを告げてミランにやって来たのであった。

  • Christian Pulisic AC Milan 2023-24Getty Images

    ミランでの生活

    ミランに加入したプリシッチは見たところ決して後戻りしなかった。横ばいだったことはあったが、それも見ようによっては前進だったかもしれない。

    結局のところミランはチャンピオンズリーグに出場している。昨シーズンは準決勝に進出し、その前の年はセリエAを制覇した。何年もの間イタリアの巨人は比較的静かだったが、ここ数シーズンは息を吹き返している。

    今年の夏、サンドロ・トナーリやブライム・ディアスといったスターが出ていく中で、クラブは外に目を向け、新たな選手を獲得していった。そのひとりがサムエル・チュクウェゼで、プリシッチとアメリカ代表でチームメイトのユヌス・ムサもそうだ。しかしながらプリシッチが最高で、報道によると2,000万ユーロ(約31億円)で契約した。

    このように、この移籍はミランとプリシッチ双方にとって天才的な発想のように思われる。

  • Pulisic Leao 2023 MilanGetty

    イタリアでの生活

    セリエAはプリシッチにとって居心地のいい落ち着き先だった。

    最初の2試合、ボローニャとトリノで得点し、チームは2連勝でシーズンをスタートした。インターナショナル・ブレイクの後ちょっとつまずいたが、土曜の試合ラツィオ戦では先制点を決め、チームは2対0で勝利した。

    どの得点も素晴らしく、とりわけチェルシーでは数年にわたりレギュラーに出入りしていて、自身を取り戻すためにあらゆるチャンスをつかもうとしてきた選手にとって素晴らしいものだった。だが、結果は成功の一部に過ぎない。どうやってそれを成し遂げたかが重要なのだ。

    久しぶりに、プリシッチはアメリカ代表での活躍をクラブでもできるようになってきた。目的をもって、恐れることなくプレーし、ミランのチャンスを生みだし続けている。すでにチェルシーから来たオリヴィエ・ジルーと良好な関係を築いており、反対サイドのラフェエウ・レオンとは数多くのアイコンタクトをしている。プリシッチは自由に全力を尽くしており、直近ではレオンからのクロスでゴールを決めている、チャンピオンズリーグに絶好調で戻ってきたことは間違いない

  • Pulisic MilanGetty

    厳しい試合での再会

    間違いなくプリシッチにとって、素晴らしい時間になるだろう。ドルトムントのファンからは控えめな拍手を受けるかもしれない。数年前ドルトムントに加入した時は少年だったプリシッチが久しぶりに帰ってきたのだ。

    だが、その後は真剣勝負の厳しい試合が待っている。

    報道によればプリシッチと、アメリカ代表のチームメイトであるムサは先発するようだ。両チームにとって何が何でも勝たなければならない試合ではないが、負けるわけにはいかない試合である。

    ミランは開幕戦で勝ち点1をあげたが、勝たなければならなかったニューカッスル相手の引き分けだった。一方ドルトムントは、開幕戦でパリ・サンジェルマンに負け、わずか1試合で劣勢に立つこととなった。

    どちらのチームも負ければグルーブステージ突破に向けて大きな打撃となるだろう。グループFは厳しい組で、「死の組」である。勝ち抜ける2チームがどこであれ、圧倒的に勝ったのではなく、生き残ったという形になるだろう。

    だから、感傷的になっている暇はない。プリシッチとミランにとって、勝ち点3をもってジグナル・イドゥナ・パルクを去ることができれば、大きな前進となるだろう。

  • Christian Pulisic USMNT 2023Getty Images

    正念場のアメリカ代表

    プリシッチの頭の片隅には――それしか考えていないわけではないにせよ――まもなく行われる大事な親善試合に向けて、アメリカ代表のチームメイトとともにギアをあげていくことがあるかもしれない。

    アメリカ代表は10月14日にドイツと、その3日後にはガーナと試合をする。第2次グレッグ・バーホルター監督の最初の真剣勝負である。ウズベキスタンとオマーンに勝ったことは素晴らしいが、今後の2試合はアメリカ代表にとって、来年夏のコパ・アメリカで対戦するチームによく似たチームとの対戦ということになるのだ。

    アメリカ代表でのプリシッチの地位は確立しているが、そうだとしてもこの2試合は重要だ。コンディション万全で自信をもって試合に臨む必要がある。まさに、これまでミランが彼にそうするよう促してきたことだ。

    今後の数日間、プリシッチはドルトムントと戦うために古巣に戻り、その後ジェノアとの試合を経てインターナショナル・ブレイクに入る。シーズンは始まったばかりだが、すでにプリシッチとミランにとって大事な瞬間が待ち構えており、彼が次の試合を楽しみにしていることは間違いない。おそらく、すべての始まりから思えば遠くに来たものだと振り返ることだろう。