チャンピオンズリーグ決勝前夜、ポチェッティーノはスパーズが勝利した場合に監督を退任すると表明した。自身の使命は果たしたと感じていたのだろう。結局敗れたものの、数カ月後には解任されることになっている。当時は大きな驚きだったかもしれないが、決断自体には十分な理由があった。トッテナムは2019-20シーズン序盤で深刻な不振に苦しみ、前シーズンに見せた特徴的なインテンシティとは程遠いプレーを続けていた。不可解だったのは、レヴィが彼の戦略を大きく捻じ曲げてしまったことである。
過去2年間でわずか4人の補強しか行わず、チームが明らかに疲弊しているにもかかわらず、レヴィは「最も重要なトロフィーに近づいている」と確信し、長年の念願だったジョゼ・モウリーニョの招聘を実行した。彼がすでに世界最高の指揮官ではなくなっていたのは、誰の目にも明らかだっただろう。「現時点で世界最高の監督2人のうちの1人」と称賛したレヴィの目は曇っていたに違いない。
「スペシャル・ワン」は巨額予算に慣れた指揮官であり、明確に補強を求めるタイプの指揮官でもある。だが、スタジアム移転を経た彼らには十分な予算を約束できなかった。モウリーニョ到着後の移籍市場で獲得したのは、マット・ドハーティ、ピエール=エミール・ホイビュア、セルヒオ・レギロン、ジョー・ロドン、ジョー・ハートのみ。ベイルもレンタルで復帰したが、レヴィ主導の補強であることは明らかである。誰もが予想した通り、モウリーニョ体制は早期に幕を閉じている。2020-21シーズン序盤に首位を走ったものの、2021年4月に解任。カラバオカップ決勝まであと6日、というタイミングでの決断だ。
しかし、レヴィはモウリーニョの過ちから何も学ばなかった。後任探しに2カ月以上を費やした後にヌーノを招聘したものの、本命だったアントニオ・コンテが前向きだったため、わずか17試合で解任。念願のコンテは直ぐに結果を出し、宿敵アーセナルを抑えて予想外の4位フィニッシュを飾ったものの、結末は同じである。指揮官の求める補強を実現せず、コンテはあの有名な記者会見でクラブのすべてを攻撃し、そのままクラブを去っている。その夏、ケインはバイエルン・ミュンヘンと移籍。スパーズの黄金期はここで終焉を迎えた。