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今季のチャンピオンズリーグ=「人を楽しませるサッカー」の勝利?走って“美しかった”PSGと、時代遅れの走らないレアル・マドリー【徹底分析】

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文=ハビ・シジェス/スペイン紙『as』副編集長

翻訳=江間慎一郎

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  • PSG Paris Saint-GermainGetty

    フットボールの勝利

    ミュンヘンで行われたチャンピオンズリーグ決勝(CL)は、多くのフットボールファンを喜ばせるものとなった。

    パリ・サンジェルマン(PSG)は、復活を遂げたバルセロナと並んで、間違いなく今季最高のチームだった。フットボールのここ最近の潮流は、このスポーツを「つまらなくする」方向に進んでいたように思えたが、彼らのプレーはそんな塞いだ雰囲気の突破口となった。勝利したのはPSGであり、フットボールだったのだ。

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    アイデンティティ

    ルイス・エンリケは、どんな逆境にあっても絶対にアイデンティティーを失わないチームをつくり上げた。彼の率いるPSGは、いつどんなときにも“自分たちのフットボール”を貫く。ボールを持つことを武器にして、インテルのように圧倒的な組織力を誇るチームすら攻略してしまうのだ。

    PSGのインテル攻略法は、至極シンプルなものだった。スピーディーなパス回しによってインテルの1-5-3-2(スペインのフォーメンションはGKから表記)を左右に揺さぶり、ヴィティーニャを司令塔としてファビアン・ルイス、ウスマン・デンベレ、デジレ・ドゥエが絶えず動き続け、必然的に生じる守備の穴を突いていった。加えてインテルのビルドアップは、今季を通して見せ続けてきた、ガツガツとした激しいハイプレスで阻止している。今季のPSGはコンセプト、テクニック、ダイナミズム、野心の集合体だった。そんなチームをつくり上げるのは容易ではないが、ルイス・エンリケは選手たちの頭と心にしっかりメッセージを届けて、その高い要求水準を満たしたのである。

    PSGはこれ以上ない形で、CLでの悲惨な歴史に終止符を打った。これまでの彼らの振る舞いは、典型的な金満クラブのそれであり、スター選手たちを意味なくかき集めるだけだった。しかし2023年夏にルイス・エンリケがやって来てから、そのナンセンスだったプロジェクトは見事に軌道修正がなされている。それ以降のPSGは本当に必要な選手だけを獲得するようになり、問題を解決すべき場所はクラブオフィスではなく、ピッチの上だけとなった。そしてテクニカルエリアに立つルイス・エンリケが、多くの人にとって魅力的なプレーアイデアを供し、ここ最近蔓延しつつあった保守的なフットボールに痛烈な一撃を加えたのだった。

  • psgGetty Images

    新たな期待

    PSGは新たな次元に突入した。現代フットボールで起こってきたことを思えば、それはそれはとても望ましい形で。

    スポーツの王様であるフットボールは現代社会の鏡であり、ここ最近は保守と恐怖心に支配されたようなプレースタイルが勢いを手にしていた。少なくとも、昨年のEURO2024まではそうだった。あの大会ではスペイン代表が優勝を果たし、美しきフットボールがまだ終わっていないことを証明している。

    その前の2022-23シーズンには、グアルディオラ率いるマンチェスター・シティが価値あるCL優勝を成し遂げていたが、しかしその頃から保守的な戦術が台頭しつつあるのは間違いなかった。その典型と言えたのが、カルロ・アンチェロッティが率いたレアル・マドリーだ。彼らはチームとしては何ら創造的でなく、選手の閃きに頼ったプレーで、人によっては“あまりに理不尽・不当・不公平”と感じる劇的勝利を重ねてきた。だからこそ、今回のCLをルイス・エンリケのPSGが制したことには、大きな意味があるのだ。

    今季のCLは新たな期待を生み出すものだった。というよりも、フットボールを本来あるべき場所に戻したとも言えるかもしれない。現代フットボールにおいても、フィジカルだけがすべてにはなり得ない。人々の目を引くスペクタクルなプレーを志しても、ちゃんと結果をつかむことができるのだ。今季のCLでそうしたプレーを見せたのはPSGだけではない。準決勝まで勝ち進んだバルセロナとアーセナル、さらにはリヴァプール、バイエルン・ミュンヘンも、大胆かつ勇敢なスタイルにこだわっていた。

  • Vitinha PSG 2024-25Getty Images

    過去と現在

    もちろん、現代の美しきフットボールが過去のそれと完全に一致するわけではない。EURO2008、2010年南アフリカ・ワールドカップ、EURO2012を制したスペイン代表や、グアルディオラのバルセロナが確立したパス重視のスタイル“ティキ・タカ”も、時代の流れとともにアップデートされている。たとえ“ティキ・タカ”を標榜して、ボールに触れることを大切にしても、現代では縦の速さ、トランジションもしっかり意識しなくてはならない。ボールポゼッション一辺倒にならず、そのほかのプレーもオールラウンドにこなしていかなければならないのだ。

    とはいえ、時代の求めるものがどれだけ変化しても、中盤がプレーリズムを生み出すことに変わりはない。創造性、判断力、責任感を備え、またフィジカル的にも劣っていない中盤なくして、魅力的なチームが成り立つことはないのだ。PSGにとってデンベレは不可欠な存在だが、ヴィティーニャ、ジョアン・ネヴィス、ファビアン・ルイスが構成する中盤も彼と同等か、それ以上に大切な役割を請け負っている。“ヤマルのバルセロナ”におけるぺドリ、フレンキー・デ・ヨングについても、まったく同じことが言えるだろう。

    彼らのような優れたMFがいることで、PSGとバルセロナは試合を支配し、“自分たちのフットボール”を相手に押し付けることができる。そして彼らのような優れたMFは、攻撃を創造するだけでなく、ボールを失うことを想定して“適切なポジショニング”を取ることも忘れない。ボールをすぐさま奪い返して、波状攻撃を仕掛けることにも長けているのだ。

  • FBL-EUR-C1-REAL MADRID-ARSENALAFP

    美しさ

    そう、美しきフットボールというものは、何も攻撃だけに限ったことではないのだ。すべては、コレクティブなプレーがあってこそである。今季CLでPSG、バルセロナ、リヴァプール、そしてインテルが見せた全員で仕掛けるハインテンシティーのプレスは、彼らが結果を手にする上で大きな鍵を握った。そして、その逆を行ったのがレアル・マドリーだった。

    マドリーはヴィニシウス・ジュニオール、キリアン・エンバペ、果てにはロドリゴまでもが前線からのプレスを怠った。今季の彼らはルーカス・バスケスの守備の緩慢さが指摘され続けたが、ファーストラインからちゃんとプレスを仕掛け、組織立った守備を実践していれば、本職ではない右サイドバックを務めざるを得なかった彼がここまで集中砲火を浴びることはなかっただろう。またマンチェスター・シティも以前のようなハイプレスを仕掛けられなくなり、ロドリの長期不在同様、チームにとって致命的な欠陥となっていた。

    少し前の時代であれば、守備が免除される攻撃の選手もいた。いたとしても許された。しかし今の時代は全員が守備に貢献しなくてはならない。あれだけ攻撃で違いを生み出しているデンベレが守備でも全力で走り抜くのだから、誰であっても言い訳は許されないはず。レアル・マドリー新指揮官シャビ・アロンソは、無論そのことを心得ているだろう。

  • FBL-EUR-C1-PSG-POLITICSAFP

    楽しませるフットボール

    EURO2024がそうだったように、人を楽しませるフットボールの成功は、未来に向けて大きな意味を持つことになる。果敢で、創造的で、それと同時に縦に速く、守備でもよく働くフットボールは、ただ守備的で退屈なフットボールに対して大きな声で「待った」をかけている。

    もちろん、フットボールにおいても多様性はポジティブなことだ。例えば、インテルはPSGやバルセロナとは少し質が異なるチームだった。ただ彼らにしても、いざというときに発揮する攻撃のポテンシャルには素晴らしいものがあり、決して堅固なだけのチームではなかった。

    いずれにしろ、勝利したのはPSGだ。ルイス・エンリケが指揮する彼らは、たとえ逆境に立たされようとも、反対勢力に阻まれようとも、“自分たちのフットボール”を貫いて、ゴールまで前進し続けたのだった。これこそまさに、美しきフットボールの勝利である。