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現役大学生がW杯へ…なでしこジャパン、"シンデレラガール"藤野あおばが世界へ挑む「目標はもちろん世界一」

準優勝に輝いた昨年のU-20W杯ではエース級の活躍を披露。勢いそのままにA代表に昇格した。12年ぶりの世界一を目指すなでしこジャパンの若きエース候補に、W杯への思いを聞いた。(インタビュー日:6月18日 聞き手:小津那/GOAL編集部)

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    「結果を重視して」

    ―― W杯メンバー選出おめでとうございます。選ばれての実感はいかがでしょうか?

    実感はもう全然わいていないですね。発表があって、選ばれた時はすごく嬉しかったです。今は発表から少し日にちが経って、やらなきゃいけないという覚悟がより芽生え始めた感じです。しっかり準備して戦えるようにというのは常に頭にあります。

    ―― 名前を呼ばれた時の率直な感想は? どのような感情が一番先に出てきましたか?

    周りの反響としても、なでしこの代表合宿や招集を重ねるにつれて、W杯へのメンバー入りというのは自分自身もかなり意識していました。周りからも少し、まだ発表はないけど「頑張れよ」みたいな感じもありました。思い描いてきた舞台に入れたというのは、どちらかと言うと安堵感と達成感のほうが大きかったと思います。

    ―― 藤野選手のサッカー人生の中で、2011年のW杯優勝の時の影響が大きかったと聞きました。

    サッカーを始めたのは幼稚園年長ぐらいでした。W杯があるまでは遊び程度ぐらいでした。兄がサッカーをやっていて。そして、2011年のW杯を見てから日本を代表する選手になりたいと、より具体的な目標を掲げてやり始めましたね。

    ―― その地に立つことが決まった今、自分の中でどのような部分が通用する自信がありますか?

    ボールを持ったらゴールに向かって仕掛ける、相手と相手の間に入って行くというのは自分の武器としてもやっているところです。シュートのインパクトっていうところも、より磨きをかけてきました。ゴールへの推進力、その積極性をより強く出していきたいです。年齢はあまり関係ないかもしれませんが、若くして入れた今だからこそ、深く何かを背負い過ぎずに、やりたいことと自分の良さを存分に発揮できるように頑張りたいです。

    ―― W杯を通じて、日本代表にとってどのような存在になって帰ってきたいという気持ちはありますか?

    帰って来る時には、結果でチームを後押しできる、チームを引っ張っていけるような存在になれたらいいなと思っています。チームの中で先頭を切って走って行くというのは、自分自身の性格上ちょっと足りていない部分だとも思っているので。結果を重視して、今大会をしっかり終えられたらいいなと思います。

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    大学生との"二刀流"

    ―― このインタビューやW杯で藤野選手を初めて知る人もいると思います。サッカーを始めたきっかけを教えてください。

    幼稚園のクラブで兄がやっていて。かっこいいなと思い、自分も始めました。

    ―― 今では大学に通いながらWEリーガーを両立させています。大変なところはどこでしょうか。

    時間の使い方が本当に大変です。課題はやらなきゃいけないところですけど、やっぱりスポーツ選手としてコンディションを整えるところはプレー以上に大事だと思っています。休息をいつ取るのかを考えることも、すごく大切だなと改めて思います。

    ―― 自分のプレーの特長と見て欲しいところを教えてください。

    ゴールへの推進力ですね。今はシュートのインパクトもレベルを上げられてきているんじゃないかなと思います。WEリーグでプレーしてる中でも、自分のシュートレンジを少し広げられつつあります。そういうところは注目して見てほしいところですし、W杯でそれがうまく結果に繋がればいいなと思います。

    ―― 周りから誰のプレースタイルに似ていると言われますか? 藤野選手が意識している選手もいれば教えてください。

    いろんな選手のいいところを自分に取り入れてやっていますね。何かが突出してできるよりは、すべてのレベルが高いほうがいいと思っています。よりたくさんの選手のいいところを見ることは意識してやっているところです。ベレーザの監督にはフランス代表の(キリアン・)エンバペに似ている、そのようになってほしいと言われていますので、ちょっと意識して見たりはしています。

    ―― WEリーグの22-23シーズンについておうかがいします。所属する日テレ・東京ベレーザは、優勝した三菱重工浦和レッズレディースと勝ち点10差の42で3位フィニッシュでした。

    個人としても、チームとしても、取りこぼしが多かったシーズンだったと思います。得点の部分で慌ててしまうところもたくさんあって、しっかり決め切れませんでした。チームとしても勝てる試合を引き分けたり落としてしまったりがかなり多くて。そういうところを突き詰める甘さが3位という結果になったのかなと。もちろん悔しいですけど、妥当だとも思っています。

    シーズン初めから終わりにかけて、ところどころそういう試合があった中で、それを立て直せなかった点も自分の弱さです。そこを改善していかないと、日々の積み重ねはそれこそW杯などの大舞台で出てしまうところでもあると思います。準備はしっかりやらなくてはいけないと改めて感じたシーズンでした。

    ―― とはいえ、個人ではベストイレブンに選出されました。個人賞への意識はありましたか?

    意識は特にしていなかったです。ベストイレブンは選手と監督が投票するものだと聞いていたので。選ばれるためにやるよりは、チームが優勝するためにプレーしているだけでした。そこに入りたいという特に目的意識があったわけではないです。でも、選出していただいてすごく嬉しいですし、自分以上の選手がたくさんいる中で、自分でいいのかな? という気持ちも多少あったりもしますね。それに見合うように、やっぱりもっと努力していかなきゃいけない。選出していただいたのは素直に受け止めて、さらに自分自身のレベルアップに繋がるようにやっていきたいと思っています。

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    感じた世界との差

    ―― 昨年、U-20の女子W杯に参加していました。惜しくも準優勝で終わりましたが、世界の場で戦うにあたって感じた差はありましたか?

    決勝は勝負への執着心の大切さをやっぱり肌で感じたところがあります。チームの組織力は日本の良さとして出していけた部分でもありますけど、窮地に立たされた時に、全員が自分の状況はさておき、チームにとって何がいいことなのかを考えられませんでした。まだまだ足りなかったところだとも思います。そういうところは世界との差として感じました。U-20W杯は、自分自身がしっかり目に見える結果でチームに貢献できず、後悔や力のなさを痛感した大会でした。次も同じW杯なのでU-20W杯で、出し尽くせなかったところも含めて、今回のW杯でやり残すことがなかったぐらいの積極性を出していきたいです。

    ―― U-20W杯を通じて感じた収穫と課題はありましたか?

    収穫は、押し込まれている時間帯や攻撃している時間帯も、スペースを埋められるようにピッチを俯瞰して周りの状況を見られたところです。フィジカルの差はかなり感じたので、始めの準備のポジショニングだったり、相手との間合いだったりでそういう差を少し縮められたことを実感しています。

    課題は結果です。チームは決勝に進んでいたものの、自分自身は得点やアシストで少しでも関わりたかった。そういうところは本当に課題だと思います。A代表でも未だに得点がゼロ(6月18日時点)というのも、少し焦りになりつつもありますね。

    ―― 日本は組織的に戦っていく中で、他の国の中には、個の力で解決できる選手がいたと思います。そういった相手と戦う難しさはありましたか?

    ありましたね。決勝のスペイン戦までは、だいたい一人でも状況を打開できる選手が多かったです。日本は数的優位な状況を多く作ることを考えながらやっていますけど、関係なく突っ込んでくる、前に仕掛けてくるところは、守備のしにくいところでもありました。日本は人数をかけなきゃいけないからこそ、逆の展開になった時に人数が足りなかったり、孤立してしまうシーンが多くありました。

    レベルが上がれば上がるほど、一人で状況を打開する選手がいた上で、なおかつ組織で人数をかけてやってきた相手には歯が立ちませんでした。決勝戦のスペインがそうでした。日本も一人ひとり、実力、フィジカルのスキルを上げていかなくてはいけないのは現時点で課題だとも思います。その中でも、しっかりと組織で補えるようにコミュニケーションを取って、繋がりを持って戦えるようになれたらいいですね。

    ―― 最後に改めて、W杯へ向けてチームと個人の目標を教えてください。

    目標はもちろん世界一。ただ、一つ一つの試合にこだわって、ベクトルを向けてやっていくことで、積み重ねた後に世界一という結果に繋がればいいと思っています。一試合、一試合、全力で戦います。

    個人としては、今の自分の実力を試してみたいという気持ちが強いです。持っているものをしっかり出し尽くせるように全力を出し切って、積極的にプレーしてきます。

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    Profile

    ■ MF 15 藤野あおば

    2004年1月27日生まれ。19歳。162cm/56kg。東京都出身。右利き

    南大沢FC-日テレ・メニーナ・セリアス-十文字高校-日テレ・東京ヴェルディベレーザ

    今季のWEリーグでは11得点を記録。昨年10月にA代表デビューを果たし12試合1得点。