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エンベウモは必要な選手だが、金額に疑問符…マンチェスター・Uの142億円投下は正しいか

過去4年の夏移籍を振り返っても、名の知れた前線の選手に高額を投じてきたマンチェスター・U。だが、どの選手も輝き切れなかった。

それはマンチェスター・U加入時に記録した移籍金7400万ポンドのジェイドン・サンチョしかり、8500万ポンドのアントニーしかりで、2023年加入のラスムス・ホイルンドと2024年加入のジョシュア・ザークツィーも同じような現状に陥りつつある。

そんなマンチェスター・Uもこれまでの名声高きアタッカーを獲る立ち回りでの失敗からようやく学んだか、ブレントフォードでインパクトを残したブライアン・エンベウモを狙い、獲得が決定的に。だが、この取引に1つだけ問題がある。金額だ。

  • Matheus Cunha Manchester United 2025-26Getty Images

    新たに加入の前線

    マンチェスター・Uは5月下旬にマテウス・クーニャの獲得を決めた後、次なる狙いをエンベウモに。そして、総額7100万ポンド(141億6000万円)にものぼる3度目のオファーにして獲得に漕ぎつけた。

    クーニャに関してはウォルヴァーハンプトンが獲得した当初こそアトレティコ・マドリー時代の燻り様から多少の賭け的な要素もあったが、プレミアリーグで活躍する上で求められるクオリティを証明。だからこそ、マンチェスター・Uは獲得に踏み切った。

    エンベウモに至ってはイングランドサッカーへの慣れで言えば、クーニャよりも1つ上か。2019年にブレントフォード入りとあって、チャンピオンシップも経験したが、シーズンを重ねるごとに良くなっている。

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  • bryan-mbeumo(C)Getty Images

    ファン・ペルシ級の活躍

    ブレントフォード移籍1年目から活躍したエンベウモにおいては昨季、プレミアリーグで20得点8アシストとインパクトを残して、得点ランキングでも5位に割って入るなど、新たなレベルに。その活躍ぶりをマンチェスター・Uに照らし合わせると、20ゴールを決めた選手はサー・アレックス・ファーガソン政権の最終年だった2012-13シーズンまで遡り、あのロビン・ファン・ペルシー以来だ。

    この夏にトッテナム新監督としての挑戦を決断したトーマス・フランクからも「アンビリーバブルな選手」と言わしめたエンベウモはラインブレイクにも優れ、スルーパスやフィニッシュもピカイチ。さらには昨季のリーグ戦全試合に出場するなど、タフさもあり、それもマンチェスター・Uにとって魅力に映る。

  • Everton FC v Manchester United FC - Premier LeagueGetty Images Sport

    インテンシティ強化

    トロワ時代に頭角を表し、ブレントフォードで6シーズンにわたってプレーしたエンベウモはマンチェスター・Uが獲得してきた選手と比べると、キャリアに華やかさが欠けるが、ルベン・アモリム監督は現有戦力のインテンシティに物足りなさを指摘しており、それこそが獲得に至った理由だ。

    アモリム監督はヨーロッパリーグで勝ち進む一方で、プレミアリーグで苦戦が続いた際に「戦術的な問題ではないと感じる。試合のスピードとフィジカルの強度が原因だと思っている。我々は世界最高峰のリーグを戦っているが、試合によっては激しくプレーできていないときがある。ヨーロッパリーグの試合と比べると、完全にレベルが異なる。データでも証明できるよ」との言葉を残す。

    その点で、エンベウモはマンチェスター・Uにとって理にかなった選手と言えるだろう。だが、この契約に首をかしげたい点を除けば、だ。

  • Sir Jim Ratcliffe Jason WilcoxGetty

    “ユナイテッド税”が再び

    エンベウモの移籍金額はブレントフォードでの活躍ぶりからしてクーニャの6250万ポンドと比べても、そう高く思えないかもしれないが、決定的な違いがある。

    クーニャに関してはウォルヴァーハンプトンとの契約が2029年まで残るため、マンチェスター・Uは契約解除条項の金額を支払っての獲得だったが、“ユナイテッド税”とも呼ばれるほど法外な移籍金を投じることなく、交渉成立に。ウォルヴァーハンプトンから釣り上げられることなく、契約解除条項の金額どおりに獲得したのはうまく駆け引きができたと言える。だが、エンベウモの場合は再び足もとを見られたのではないか。

    エンベウモは(1年延長オプションを除けば)そもそも残り契約が1年だったため、マンチェスター・Uの方が有利だったはず。レアル・マドリーのようにフリーとなる1年後に獲得する、あるいは移籍金額を引き下げる、その2つの選択肢があった。ブレントフォード側からすれば、移籍金なしで移籍されるのを恐れ、最終的にオファーを受け入れるとの見方があったが、マンチェスター・Uは粘れず、残り1年の契約しか残っていない選手に巨額を投じた。

  • Omar Berrada Man UtdGetty

    ベラダでも、か

    エンベウモの移籍金額を他と比べると、マンチェスター・シティはチェルシーから契約最終年のマテオ・コヴァチッチを獲得した際にわずか2500万ポンドで獲得。今夏のライアン・チェルキに関しても3040万ポンドで済ませている。

    そこで興味深いのはマンチェスター・Uを変えようとしているのがかつてのマンチェスター・Cで手腕を発揮したオマール・ベラダだということだ。ベラダは2024年1月にサー・ジム・ラトクリフ新体制のマンチェスター・Uからヘッドハンティングされるまでマンチェスター・Cの最高執行責任者(COO)を務め、移籍交渉に関与。その間、ハリー・マグワイア、アレクシス・サンチェス、クリスティアーノ・ロナウドらの獲得を見送った。

    マンチェスター・C時代に「ここ数シーズン、我々は適切な評価額だとジャッジした場合に限り、獲得に踏み切るという姿勢だ。選手の才能や年齢、経験、チームにもたらすメリットなどを見極め、適切な評価額で物事を決めている」との言葉を残しているベラダだが、マンチェスター・Uでは現時点でその流れを持ち込めていないようだ。

  • mbeumo(C)Getty Images

    プレッシャーの高まり

    ファーガソン政権の終幕からINEOSグループの参入までの10年で乱暴な支出が続いたマンチェスター・Uは以前と比べても財政的な余裕がなくなってきている。そのため、ラトクリフは徹底的な経費削減に乗り出し、従業員450人の解雇に動くなど、大鉈をふるってきた。

    ベラダもこの取り組みが選手補強につながるとのコメントを残しているが、現時点でそうはなっておらず、いまだに誰ひとり選手を売却できていないことで相殺されてしまってもいる。したがって、今後の補強に関しては選手の売却費を充てるという計画も停滞中だ。

    マーカス・ラッシュフォードにオファーがないばかりか、アモリムが放出を望むアレハンドロ・ガルナチョもマンチェスター・Uが求める7000万ポンドに近い金額で売却できそうない。補強がクーニャとエンベウモのみとなれば、2人には即戦力としてのプレッシャーがよりかかりそうだ。

    仮に2人がスタートで躓けば、ベラダとスポーツディレクターのジェイソン・ウィルコックスはただちに批判の的にされるかもしれない。だが、ここ数年とは異なり、クラブの経営陣は自分たちが何に投資をしているのかを理解している。世界一厳しいリーグで、すでにその実力を証明してきた選手だ。