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「選ばれし者」久保建英、ベンチの理由と克服すべき課題とは?地元記者の願い「どうかソシエダに残って」

■希望の火

シーズンが開幕するときには胸が躍っているはずなのだ。それなのにレアル・ソシエダのサポーターは、すでに打ちのめされてグロッキーになっている。現代フットボールの時流に逆らって帰属意識や絆を人一倍大切にするバスク人にとって、主力選手の流出はあまりに心が痛い。痛過ぎる。

今夏の市場ではロビン・ル・ノルマンがアトレティコ・マドリー、ミケル・メリーノがアーセナルに移籍した(契約完了間近との報道)。彼らのほかには、リヴァプールがマルティン・スビメンディ獲得を狙ったが、私たちと感覚をともにする地元出身選手はさすがに誘いに応じなかった(少なくともあと1シーズンの間は……)。

そして、久保建英である。この日本人にも一時期リヴァプールに移籍するという報道(こちらでは“飛ばし記事”と扱われている)があったが、彼は今現在もラ・レアルでプレーしているばかりか、第2節エスパニョール戦で傷心の私たちに希望の火を灯してくれた。まさかのスタメン落ちとなった久保だが、途中出場からゴラッソを決め、逆境を乗り越えるメンタリティーを示したのだった。

■選ばれし者のプレー

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エスパニョール戦、イマノル・アルグアシルが久保をベンチに置いた理由は複数あるのだろう。昨季後半戦から久保が不調を引きずっていること(チーム全体もそうだが)、中3日でアラベス戦が控えていること、新加入セルヒオ・ゴメスをこの昇格組との一戦で試してみたかったこと……。とはいえ、どんな理由があろうとも、選手にとってベンチスタートは簡単に受け入れられるものではない。だが久保が素晴らしかったのは、その簡単には飲み込むことのできない怒りを、チームのために使ってくれたことだ。

エスパニョールDF陣に疲労の色が見えた80分、久保はそのとびっきりの才能の火花を散らしている。右サイドでボールを持つと、切れ味鋭いドリブルでエスパニョールのDF2枚を抜き去りペナルティーエリア内右に侵入。左足で強烈なシュートを放ち、GKジョアン・ガルシアを破っている。

久保らしさが詰まったゴラッソだった。確かに、エスパニョールの守備が甘かったことは否定できない。彼の突破を防ぐためには、対面するDF1枚の後ろにもう1枚置いて、1枚抜かれてもすぐカバーする“いやらしい”守り方がラ・リーガで定石となっている(昨季前半戦でディエゴ・シメオネ率いるアトレティコ・マドリーが確立した方法だ)。今回のエスパニョールのように2枚が横並びになって守れば、久保はいとも簡単にぶち抜いて、その奥に空いたスペースを生かしてゴールをかっさらってしまう。

久保はオリバンの股にボールを通してペナルティーエリア内に入り込んだ……。しかし、もう何回彼の股抜きを目にしたのだろうか。股抜きはする時にすると考えず、考えてしようとしてもできないばかりか、ボールを奪われてしまうものだ。何十分の1秒の直感がなせる技であり、手段である。誰でもできるわけではないフットボールの芸術だ。そしてエリア内で見せた驚異的な振りの速さのシュートも、まさに選ばれし者のプレーである。

■チームリーダーの1人へ

「ビッグクラブでプレーしたいのは選手として当たり前」。久保はリヴァプール移籍報道の際、日本でそう話したことを耳にしている……分かっている。彼もまた、さらなる飛躍を求めているのだろう。しかし、それでも、ラ・レアルの人々は久保がサン・セバスティアンに留まってくれることを願っている。ル・ノルマンやミケル・メリーノがこの夏まで、何シーズンもそうしてくれたように。

私は久保が今季のラ・レアルにとって、とても大切な選手になると考えている。ル・ノルマン&ミケル・メリーノが去ったラ・レアルは、移籍市場が閉鎖するまでにセンターバックとストライカーを獲得し、その一方で機能しなかったストライカー(カルロス・フェルナンデス&ウマル・サディク)の放出を予定している。否応なく変化の時を迎えているわけだが、久保にはそんなチームを先導する一人になってほしいのだ。

■“その日”が来るまで

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昨季後半戦、確かに久保は調子を落としたが、それは彼とチームに克服すべき課題があることを意味する。昨季の彼は右サイドに張り付いて違いをつくることを求められ、シーズン前半戦は実際的に素晴らしい結果を残したものの、前述したDF2枚を前後に並べる“久保封じ”が定石となって壁にぶつかった。今季の久保は右サイド以外の場所にも頻繁に顔を出して、相手がどこで守備網を張るべきかを分からなくする必要がある。

右サイドでのプレーにしても、ここ最近はワンパターンに突破を狙うだけで“久保封じ”の格好の餌食となっていた。アマリ・トラオレが横を走り抜けても、久保がその動きをただの囮として、彼にパスを出さずドリブルを選択することは周知の事実となっている。彼の1対1での突破能力はフットボール界でも傑出しているが、本人もチームもイマノルも、その能力をもっとうまく生かすべきだろう。

久保はラ・レアルで、まだ成長する伸び代がある。誰にも文句を言われない結果を手にする余地がある。そしてそれは、ラ・レアルが久保に引っ張られることを意味している。

私は今なお、久保にとってはラ・レアルこそが理想的な居場所であり、ラ・レアルにとっては久保こそが理想的な選手なのだと信じ続けている。心がどんな痛もうとも、深く感謝しながら別れを告げる“その日”がいつかやって来ることを想像しつつ……それでも今はまだ、どうかラ・レアルに留まってほしい。

ラ・レアルの次戦は28日、本拠地アノエタでのアラベス戦。久保は再びスタメンに名を連ね、試合前の選手紹介アナウンスでその名を呼ばれれば、前試合の英雄として喝采を送られることになるだろう。エスパニョール戦のゴール後には笑顔を見せなかったが、アノエタで点を決める際にはまたいつものようにチームメート、サポーターと喜び合うタケの姿を目にできることを願っている。

文=ナシャリ・アルトゥナ(Naxari Altuna)/バスク出身ジャーナリスト

翻訳=江間慎一郎

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