三連覇を目指したAFC女子アジアカップ(1月20日〜2月6日)で、惜しくも準決勝敗退となったなでしこジャパン。悔しさが残るこの大会で、チーム最多の5得点を挙げ全試合に出場したFWがいる。日テレ・東京ヴェルディベレーザの植木理子だ。池田太監督就任後、初の国際大会で強烈なインパクトを残した植木。来年の女子ワールドカップ・オーストラリア&ニュージーランド大会に臨むなでしこジャパンのエースとして期待される存在でもある。
そんな植木は、「大学生」「WEリーガー」「日本代表」の三足の草鞋を履くプレーヤーでもある。来る3月末に早稲田大学の卒業を控えるが、その前の5日(土)にはWEリーグが後期シリーズとして再開する。
「ベレーザの選手に聞いてもらえれば分かると思うんですけど、試合前いつも、吐きそうになるくらいまで緊張しているんですよ(笑)」
常に試合前には極度なプレッシャーに苛まれ、追い詰められるタイプだという植木。そこで今回の取材では、オフ・ザ・ピッチの自身、そして再開を控えるWEリーグについて話を聞いた(プレーヤー編はこちら)。
■なでしこジャパンFW、オフは漫画とヲタ活
――現在、学業にサッカーにと忙しい日々かと思いますが、お休みの日は何をしていますか?
試合で張りつめているぶん、オフの日はサッカーから離れたいタイプです。サッカーと関係ないことをするほうが多いですね。
漫画がすごく好きで、家に1000冊くらいあります(笑)。性格も典型的なB型で、すごく熱しやすくて飽きやすいから、いろんなものに出会える漫画は自分に合っているんだと思います。
――そういえば漫画の繋がりで、以前TVドラマ『死役所』にゲスト出演されてましたよね?
そうなんです。「漫画『死役所』がドラマ化される!」ってツイートしたら、その次の日クラブから、「ドラマデビューです!」と連絡があって、驚きました。このTwitterでの発信がきっかけでオファーがあったんです。
誰が見てくれるか分からないし、自ら発信することは大事だという実体験になりました。私が出演したことで、この漫画ファンの方にベレーザも知ってもらえたと思います。
――それぞれのジャンルがクロスオーバーするような形での発信は、女子サッカーに身近な感覚を抱いてもらうきっかけになりそうですね。
それで言うと、私、NMB48が好きで、特に山本彩さんのファンなんです。
昔(2020年)、NHKサンデースポーツの「わたしのエール」という特集企画に出演したのですが、そこで自分の好きな歌を紹介する際に、山本彩さんの『イチリンソウ』を選んだんです。
その番組の後の反響がすごくて。ご本人からフォローバックしていただいたり、山本彩さんのファンの方からコメントがあったり、「女子サッカーと山本彩さんを応援します」という方までいたんです。自分でもすごい繋がりだな、と驚きました。
でも今は、山本彩さんが休養中なので…。それでどうしようか悩んでいたら、なでしこジャパン合宿中に、林穂之香選手(AIKフットボールクラブ)からAKB48を勧められました。熱しやすい私はすぐハマり、村山彩希ちゃんのファンになりました(笑)。そうしたら、村山彩希ちゃんからもフォローバックがあって、もう、穂之香さんと舞い上がって。
――かわいい。2人が盛り上がっているのを想像してしまいました(笑)。エンタメ業界で輝く女性たちからどんな影響を受けて、また、どんな魅力を感じていますか?
みんなプロだなって思います。魅せることに長けていますし、カッコいい。カッコいい女の人が大好きなので、自分もそうなりたいと刺激を受けています。
■選手目線で考え実施するWEリーグ集客
――今お話しいただいた、この一連の流れはWEリーグ集客の一つの方法のように感じたのですが。
そうですね。実は、先月提出した大学の卒論を『なでしこリーグとWEリーグの観客属性の違いからWEリーグの今後を考える』というテーマで書いたんです。
今は女子サッカー界の中だけで「プロリーグができた」と盛り上がっている傾向にあると感じるので、裾野をもっと女子サッカー界の外へ広げるべきだと思います。
一緒に戦い、根付いてくれているファン・サポーターを大切にするのはもちろんですが、同時に、娯楽としての観点も必要だと思うんです。例えば「家が近くて暇だったから来た」など、何か別のきっかけで来てくれる人たちを、もっともっと増やさなきゃいけないなとは思います。
簡単ではないと思いますが、この論文を通して再度考えをあらためることができました。
――卒論拝見したい!(笑)。WEリーグをいつもと違った視点で考えて、ほかに何か発見したことはありましたか?
自分の中で、「セカンドキャリアで女子サッカーを広める」という考えは元々持っていたのですが、最近は「選手であるうちにしかできないことのほうがたくさんある」ともすごく感じているんです。
もちろん、一番大切なのはピッチで結果を出すことです。それはリーグへの影響だったり、ファンを増やす上で、一番まっすぐなアプローチだという考えは変わっていません。
しかしそれ以外にも、選手としてさらに広い範囲へ興味と価値を与えていけるように、もっとできることをしたいと思っています。
――早速、何か実施したことはありますか?
先ほど話したように、私、漫画が好きなんです。そこで、自分のブランディングとして「漫画好き」ということを積極的に発信しようと思いました。インスタで漫画紹介アカウントを作って自分のおすすめの漫画を紹介しています。(@ricomic9)
「女子サッカー選手でこんな人がいるんだ」と漫画ファンの人たちに気づいてもらい、そこから何かのきっかけで、WEリーグを観にきてくれないかな。なんて思っています。
それは、AKB48も山本彩さんも同じで、同じ好きなものを介して私を同志と思ってもらえて、応援してもらえたら。なんて考えていたりしてます。
■植木の多彩な面
昨年9月にスタートした日本初の女子プロサッカーリーグであるWEリーグ。開幕から第10節までをこなしたが、1試合平均の観客数は目標の5000人に対し、1715人と伸び悩んでいる。
「1回来てくれさえすれば、選手たちは女子サッカーやWEリーグの魅力を伝えられる」。
そう話す植木は、その「1回」が高いハードルだということを理解した上で、新たなファン層へのタッチポイントを模索する。将来は女子サッカー普及に努め、「サードキャリアくらいには漫画喫茶をオープンしたい」とも話す。
柔らかな考えを持ち、思考を言語化する器用さも兼ね備える植木。それはプレーも同様だ。今回の女子アジアカップは、なでしこジャパンとして参加した自身初の国際大会だった。すんなりとチームに溶け込む姿や、得点のバリエーションが多いのもその柔軟性ゆえだろう。3月5日に再開するWEリーグ。現場で、そしてDAZNでぜひ彼女のプレーを見てほしい。

